寿綾乃という女 第4部 40
しかしながら、
漫才=穏やか
でもある。
この場を流れる空気が、この会話で、一気に、和やかになった…
この場を仕切る空気が、当初の緊張した雰囲気から、一気に、穏やかになった…
そして、それは、当事者のハルカのみならず、全員そう…
この場にいる、全員が、そうだった…
伸明を筆頭に、西家夫妻も、そうだった…
が、
例外が、いた…
いわずと知れた、マミさんだった…
伸明の妹のマミさんだった…
この伸明のやり取りで、笑っては、いたが、どこか、表情が、ぎこちないというか…
心の底から、笑っていないのは、明らかだった…
それは、やはり、この縁談が、成功したら、西家の力が、増すから…
五井一族の中で、西家の影響力が、増すから…
それが、理由だろう…
妹として、伸明の見合い=結婚が、成功するのは、嬉しいかも、しれないが、それと、これは、別…
ハルカの人柄も、別…
伸明が、これを機に、結婚するのは、嬉しいだろうが、その結果、五井家内で、西家が、力を持つことで、五井家内のパワーバランスが、崩れることを、恐れたのだろう…
当たり前のことだ…
だから、笑えない…
心の底から、笑えない…
そういうことだ…
そして、それと、真逆なのが、長谷川センセイ…
妹のハルカが、伸明に気に入られたのが、嬉しいのだろう…
終始、顔が、ほころんでいた…
いや、
ほころんでいたというより、嬉しそうだった…
誰の目にも、嬉しそうだった…
そして、仲人の西家夫妻はというと、
…上機嫌…
と、いう言葉が、正解だった…
…上機嫌…
なのは、わかる…
自分たちが、紹介したハルカを伸明が、気に入ってくれたのが、嬉しいからだ…
そして、もう一人の当時者のハルカはと言うと、これも、また、嬉しそうだった…
思ったよりも、伸明が、カッコよく、それでいて、偉ぶらないのが、気に入ったのだろう…
なにしろ、伸明は、五井家当主…
40歳の若さだが、五井家当主だからだ…
だから、十歳以上、年下のハルカから、見れば、偉ぶったオヤジが、やって来ると、思ったのかも、しれない…
なにしろ、伸明の顔は、写真では、わかるかも、しれないが、実際は、どんな人間か、わからないからだ…
伸明は、有名人だから、ネットで探せば、外見=写真やインタビューに応じた姿を、見られるかも、しれない…
だが、それだけでは、本当の人柄が、わからない…
本当の人柄が、わかるのは、いっしょにいる人間…
学校や、会社等で、近くで、接する人間だ…
さもないと、どういう人間か、わからない…
当たり前だ…
だから、それを、考えれば、今は、ただ単に、伸明は、ハルカに合わせたに過ぎないのかも、しれない…
が、
それとも、その考えは、うがち過ぎ…
考え過ぎかも、しれない…
考えれば、考えるほど、答えは、出ない…
だから、考え過ぎては、いけない…
何事も、考え過ぎては、いけない…
そして、そんなことを、考えていると、ふと、思った…
これは、まるで、合コン…
大人の合コンと、似ていると、思った…
もちろん、この中で、見合いのセッティングは、このハルカと、伸明だけだが、集団で、会うのは、合コンと似ている…
やはり、最初は、二人だけは、気まずい…
初めて会うのに、二人だけは、気まずい…
だから、集団で、会う…
例えば、男女が、三対三の六人で、会う…
それから、気が合えば、今度は、その中の気に入った者同士が、連絡先を交換して、会う…
そうすれば、今度は、二度目だし、相手のことが、少しは、わかったからだ…
だから、気まずくない…
最初、会ったときと、比べれば、気まずくない…
それと、同じだ…
それゆえ、今回は、出会い…
これから、交際に発展するのだろうか?
この伸明とハルカの交際に発展するのだろうか?
考えた…
が、
当然、答えは、出ない…
ただ、私は、その後、黙って、二人のやりとりを、聞いていた…
二人の傍らで、聞いていた…
なにしろ、私の立場がある…
私の立場は、ゲスト…
伸明と、ハルカが、気まずくならないように、するためのゲストだからだ…
だから、でしゃばらないように、聞いていた…
が、
そんな私に、突然、ハルカが、聞いてきた…
突然、
「…失礼ですが、ご結婚されているんですか?…」
と、聞いてきた…
これには、驚いた…
なぜなら、私は、今日の主賓ではない…
あくまで、数合わせの要員…
食事で、言えば、メインディッシュではない…
前菜程度の扱いだからだ…
だから、このハルカの突然の質問に、戸惑っていると、
「…こら、ハルカ!…」
と、長谷川センセイが、叱った…
「…寿さんに、失礼だぞ!…」
と、叱った…
私は、それを、見て、
「…別に、いいんですよ…」
と、私は、長谷川センセイに言った…
「…よく、聞かれることです…」
と、続けた…
「…で、ご結婚しているんですか?…」
と、ハルカ。
「…いえ、まだ…」
と、私。
その答えを、聞いた、ハルカが、
「…だったら、お兄ちゃんにも、チャンスがあるね…」
と、長谷川センセイに、笑いかけた…
それを、聞いた長谷川センセイが、慌てた…
慌てた表情で、
「…バカ、寿さんには、立派な相手が、いるよ!…」
と、ハルカに、言った…
「…ただ、まだ、ご結婚されてないだけだ…」
長谷川センセイの言葉を聞いたハルカが、
「…なーんだ…」
と、落胆した…
「…当たり前だろ!…」
と、長谷川センセイ。
が、
その意見にハルカは、与しなかった…
「…全然、当たり前じゃないよ、お兄ちゃん…」
と、言った…
「…なに? 当たり前じゃない?…どうしてだ?…」
「…美人って、案外、モテないんだよ…」
と、ハルカ。
「…なに、モテない?…どうしてだ?…」
「…高嶺の花というか…たしかに、キレイなんだけれども、話しかけづらい雰囲気を持っていたりするから…」
ハルカが、解説する…
私は、それを、聞いて、さもありなん、と、思った…
これは、私自身も、経験がある…
いくら、キレイでも、話しかけづらい、女性は、モテない(苦笑)…
これは、断言できる…
要するに、誘いづらいからだ…
だから、モテない…
だから、この私も、ホントは、それほど、モテない(苦笑)…
自分で、言うのも、なんだが、外見は、いいが、話しかけづらい(爆笑)…
だから、モテない…
そして、それを、思えば、このハルカも、そう…
そうだ!
私と同じだ…
そして、このハルカと、似ている、以前、一度だけ、会った、彼女も、そう…
高見ちづるも、そうだ…
同じだ…
美人だけれども、話しかけづらい…
それが、共通している(爆笑)…
だから、世間のひとが、思うほど、モテない…
そういうことだ…
そして、そんな私たちの会話を伸明は、面白そうに、見ていた…
実に、楽しそうに、見ていた…
一方、西家夫妻は、というと、この会話に入って、来れなかった…
自分たちの、息子や、娘の世代の会話に入って来れなかった…
だから、口を出せなかった…
そして、もう一人の出席者のマミさんは、というと、終始、憂鬱な表情だった…
私たちの会話を、聞いて、笑うことは、あったが、終始、憂鬱な表情をしていた…
それは、やはり、この長谷川センセイと、ハルカが、もし、うまくいったら、西家の勢力が、伸びるから…
それゆえ、五井内のパワーバランスが、崩れるから…
それを、恐れて、このマミさんは、憂鬱な表情をしている…
そう、思った…
そう、思ったのだ…
結局、それから、二時間ぐらいだろうか?
普通に、おしゃべりをして、食事をしてから、帰ることになった…
食事といっても、驚いたのは、寿司だったが、わざわざ、職人が、やって来て、目の前で、寿司を握ってくれたからだ…
これには、仰天した…
こんな贅沢は、あまり、なかった…
FK興産時代も、会社のパーティー等では、あった…
イタリア料理でも、フランス料理でも、専門の料理人が来て、料理を作ることは、あった…
が、
家庭では、ない…
プライベートでは、ない…
それが、当たり前だった…
そして、そんな光景に驚きながらも、一方で、こんな贅沢な生活に、馴染んじゃ、ダメ!…
という、声が、した…
心の声が、した…
もう一人の、私の声が、した…
あまり、裕福でない、子供時代を過ごした私に、してみれば、ありえない贅沢…
こんな大きな家に住み、職人を、自宅に、呼んで、寿司を振る舞うなど、ありえない贅沢…
そんな、ありえない贅沢を拒否する、私が、いた…
これは、やはり、私の生い立ちが、影響しているのだろう…
シングルマザーの母親といっしょに、過ごした、15歳までの、生活が、影響しているのだろう…
私自身は、FK興産の社長秘書として、過ごし、億ションに住んでいる…
世間から、見れば、成功者…
まぎれもない、成功者だ…
にもかかわらず、心の中で、
「…綾子…そんな生活に、慣れちゃ、ダメよ!…」
「…綾子…世の中は、厳しいの…生きることって、大変なの…それを、肝に銘じて、生きていきなさい!…」
と、そんな声が、聞こえてきた…
母の声が、聞こえてきた…
それゆえ、出された、お寿司は、美味しくて、文句のつけようもなかったが、私の心は沈んでいた…
見事なまでに、沈んでいた(涙)…




