寿綾乃という女 第4部 39
が、
これは、私の意見…
私、寿綾乃の意見だ…
真逆に、この西家当主は、嬉しそうだった…
「…伸明クンも、まんざらでも、ないようだな…」
と、言って、嬉しそうだった…
「…まあ、こんなことを、言っては、なんだが、女は、若いほうがいい…昔から、女房と畳は新しいほうがよいと、言われているからな…」
と、言って、豪快に笑った…
が、
さすがに、それは、言い過ぎたと、思ったようだ…
いや、言い過ぎたと思ったのは、この西家当主でなく、当主夫人…
さすがに、夫の発言が、まずいと、思ったのだろう…
「…アナタ、言い過ぎよ…」
と、言って、夫をたしなめた…
「…今は、そんな時代じゃないの!…」
と、言って、続ける…
「…でも、若いのが、好きというのは、男ばかりじゃない…女もよ…昨今は、姉さん女房というか…年上の女性と結婚する、男のひとも、大勢いるわ…」
この発言に、納得は、するけれども、同時に、似たもの夫婦だとも、思った…
さすがに、この場で、夫を擁護するのも、どうかと、思ったのだ…
が、
伸明を見ても、別に気分を害したようには、見えなかった…
そして、それは、マミさんに、しても、同じだった…
私は、一瞬、どうして? と、思ったが、たぶん、二人は、この夫婦を子供の頃から、知っているからだろう…
この二人が、こういう人間だと、知っているからだろう…
だから、驚きがない…
だから、怒りも、沸かない…
そういうことだと、思った…
そして、私が、そんなことを、考えている間に、二人は、再び、席に着いた…
伸明とハルカは、席に着いた…
席に着いて、お互いを見ていた…
ハルカは、少し、恥ずかしそうに、伸明を見ていた…
おそらく、伸明が、初対面で、自分を気に入ったのが、わかったのだろう…
それゆえ、伸明を意識した…
男として、意識した…
それゆえ、恥ずかしそうな態度に変わった…
そういうことだろう…
誰でも、仮に、相手が、初対面で、あっても、自分を好きな態度を取られれば、嬉しいが、当惑する…
その当惑が、恥ずかしそうな態度になった…
そういうことだろう…
が、
もう一方の伸明はというと、ただ楽しそうに、ハルカを見ていた…
実に楽しそうに、伸明を見ていた…
それは、さっきも、言ったが、ハルカを女性と見ているのでは、ない…
ただ、可愛いと、見ている…
そんな感じだった…
たしかに、このハルカは、美しい…
私の目から、見ても、美しい…
が、
さっきも、言ったが、いかにも、気が強そう…
それが、見て、わかる…
だから、おそらく、伸明は、それゆえ、このハルカを余計に、気に入ったのかも、しれない…
ただ、キレイなら、それほど、気にならないのでは、ないか?
伸明ほどの立場の人間なら、キレイな女性は、それほど、星の数ほど、多く見ているはずだ…
だから、ただ、キレイなだけなら、印象に、残らない…
伸明の印象に残らない…
つまりは、伸明は、気にならない…
そういうことだ…
キレイだが、いかにも、気が強そうだから、気に入った…
そういうことだろう…
そして、私は、そんなことを、考えながら、以前、この手のタイプの女性と会ったことを、思い出した…
このハルカと、同じタイプの女性と会ったことを、思い出した…
一体、どこで、会ったんだろ?
考え込んだ…
それから、まもなく、答えが、見つかった…
そうだ!
高見さんだ…
高見ちづる、だ…
その名前が、脳裏に浮かんだ…
彼女が、同じだった…
目の前の、このハルカと、同じだった…
このハルカと、ルックスが、似ていた…
身長が、このハルカと、同じ、155㎝ぐらい…
そして、同じように、美しい…
女優で、言えば、常盤貴子さんの、若い頃を彷彿させる…
常盤貴子さんを、一回り、小柄にした印象…
常盤貴子さん同様美しいが、彼女以上に、気が強そう…
一見して、気が、強そうなのが、わかる…
そして、それゆえ、伸明は、このハルカを気に入ったのだろう…
ちょうど、やんちゃな子供を見るように、気に入ったのだろう…
誰もが、同じだが、ただ、美しいだけでは、興味を引かない…
ただ、美しいだけなら、人形と変わらないからだ…
人間なのだから、個性がある…
その個性が、気に入るか、否か、だ…
いくら、美しくても、見るからに、性格の悪そうな態度を、取れば、誰もが、好きにならない…
そういうことだ…
つまりは、この伸明は、このハルカを美しく、気が、強そうだから、気に入った…
そう、思った…
そう、思ったのだ…
そんな伸明の反応を見て、西家当主夫妻は、もちろん、長谷川センセイも、満足そうだった…
自分の妹が、伸明に入られたのが、嬉しそうだった…
誰もが、態度を見れば、わかる…
伸明の態度を見れば、わかる…
このハルカを気に入ったのが、わかる…
私は、それを、見て、思った…
だったら、マミさんは、どういう反応をするのか、見た…
このマミさんの反応が、実に、気になったからだ…
なぜなら、このマミさんは、伸明の妹…
血は、繋がっていないが、妹だからだ…
なにより、この場にいる、唯一の伸明側の人間…
五井本家の人間だからだ…
そして、そのマミさんの態度は、言うと、実に、複雑そうな表情だった…
なんとも、いえない表情だった…
おそらくは、この伸明が、このハルカを気に入ったのが、嫌だったのだろう…
このハルカは、何度も、言うが、五井西家の紹介…
この本家の当主である伸明を、取り込もうとする、この西家当主夫妻の紹介で、やって来た…
それゆえ、その西家夫妻の紹介で、やって来たハルカを、伸明が、気に入ったのは、複雑…
実に、複雑な気分になったに違いない…
もし、このハルカが、伸明と結婚するようなことがあれば、西家の力が、増す…
五井一族内で、西家の力が、増すことに、他ならない…
今、五井一族は、事実上、本家と東家が、牛耳っている…
それは、この伸明の後ろ盾である、伸明の叔母の和子が、東家出身だから…
五井の女帝が、東家出身だからだ…
だから、本家と東家が、五井を支配している…
が、
よしんば、伸明が、このハルカと結婚でも、したら、そのパワーバランスが、崩れかねない…
本家と東家が、支配している五井一族に、西家が、入りかねないからだ…
それを、マミさんは、心配しているのだろう…
このハルカは、西家夫妻の娘ではないが、西家の紹介で、伸明と知り合った…
それゆえ、もし、この伸明が、ハルカと結婚するようなことにでも、なったら、当然、五井本家に近付いてくるだろう…
本家の運営に口を挟んでくるだろう…
おそらくは、マミさんは、それが、心配なのだろう…
私は、マミさんが、複雑な表情を浮かべる理由を、そう、見た…
そう、見たのだ…
そして、私が、そんなことを、考えていると、長谷川センセイが、
「…しかし、今日、この場に寿さんが、いらっしゃるとは、夢にも、思いませんでした…」
と、いきなり、言った…
いきなり、言ったのだ…
これは、言われてみれば、当たり前だが、これには、驚いた…
一瞬、どう答えていいか、わからなかった…
すると、それを、察したマミさんが、
「…いえ、今日は、私が、寿さんに、頼んだんです…」
と、口を挟んだ…
「…アナタが、寿さんに、ここに来るように、頼んだんですか?…」
と、長谷川センセイ。
「…ハイ、頼みました…」
と、マミさん。
「…どうして、そんなことを?…」
と、長谷川センセイ。
「…それは、すでに、言いましたが、最初から、この西家の叔父様や叔母様が、今日のこの伸明さんの縁談を堅苦しいものに、したくないから、私や、伸明さんの友達にも、やって来てくれと、おっしゃったので…」
と、マミさんが、説明する…
すると、それを、聞いた長谷川センセイが、
「…なるほど…」
と、頷いた…
「…たしかに、二人だけでは、気まずい…」
と、言って、長谷川センセイが、苦笑する…
「…それに、このハルカは、見た目通り、気が強い…諏訪野さんと、二人だけなら、諏訪野さんに、なにをするか、わからない…」
と、言って、苦笑した…
それを、聞いたハルカが、
「…もう、お兄ちゃんたら、なんてこと言うのよ…」
と、長谷川センセイに苦言を呈した…
「…私が、なにか、できるわけないでしょ? この諏訪野さんは、お兄ちゃん、同様、私より、はるかに、背が高いんだから…」
と、文句を言った…
それを、聞いた、伸明が、
「…いえ、こう見えても、ボクは、うどの大木で、ただ、背が高いだけです…」
と、笑って、答えた…
続けて、
「…それに、ケンカは、背の高さじゃない…カラダの大きさじゃない…」
と、伸明。
「…カラダの大きさじゃない? だったら、なんだと、言うんだ? 伸明クン?…」
と、西家当主。
「…気の強さですよ…叔父様…」
と、伸明。
「…気の強さ?…」
「…そうです…だから、ここにいる、マミさんにも、寿さんにも、ボクは、歯が立たない…」
伸明が、告白する…
それを、聞いた西家夫妻が、笑った…
「…伸明さん、そんなことは、ないでしょ?…」
と、西家夫人。
「…いえ、そんなことは、あります…」
と、伸明。
すると、それを、聞いた西家当主が、
「…なんだ? 伸明クン? 男として、だらしない…そんなことで、どうする? 五井を率いることが、できるのか?…」
と、劇を飛ばした…
それを、聞いた私は、案の定というか…
いかにも、この手の人間が、言いそうなことだと、内心、苦笑した…
が、
伸明も、負けてなかった…
「…そういう叔父様こそ、叔母様に、頭が、上がらないでしょ?…」
と、喝破した…
それを、聞いた、西家当主は、一瞬、ムッとした表情を浮かべたが、なにも、言わなかった…
隣に、夫人が、いたからだ…
そして、そのやり取りを、見ていた、ハルカが、プッと、吹き出した…
ハルカが、吹き出したことで、慌てたのは、長谷川センセイだった…
妹のハルカが、この席で、吹き出したのは、さすがにマズいと、思ったからだ…
「…こら、ハルカ!…」
と、長谷川センセイは、妹を叱った…
「…なにが、おかしいんだ?…」
長谷川センセイの質問に、
「…だって、お兄ちゃん、五井家の当主というから、もっと、凄く、威張ったオジサンだと、思っていたら、全然違うから…」
と、笑って、答えた…
「…だから、なんだか、おかしくて…」
と、ハルカが、笑った…
それを、聞いた、伸明が、
「…それは、スイマセン、威張ったオジサンじゃなくて…」
と、応じる…
なんだか、漫才のようになった…
漫才のように、コミカルな展開になった…




