寿綾乃という女 第4部 37
「…でも、叔父様…」
全員が、席に座ってから、マミさんが、切り出した…
「…なんだい? マミちゃん?…」
「…叔父様は、今、お兄様が、仕事で、遅れちゃって、と、おしゃいましたよね?…」
「…ああ、言ったよ…それが、どうか、したかい?…」
「…でも、なんで、お兄様なんですか? 伸明さんの見合い相手は、女性ですよ…」
マミさんが、当たり前のことを、言った…
至極、当然のことを、言った…
西家の当主も、マミさんの疑問に、気付いたようだ…
「…それは、マミちゃんの言う通りだ…」
と、破顔一笑した…
「…伸明クンの見合い相手は、当然、女のひとだからね…」
と、言った…
笑って、言った…
それから、
「…そのお兄さんが、さっき、言った五井記念病院に勤めているんだよ…その縁で、そのお嬢さんを紹介してくれてね…」
と、続けた…
それを、聞いた伸明が、
「…ということは、その五井記念病院に勤める方の親族か、なにか、ですか?…」
と、聞いた…
「…その通りだよ、伸明クン…」
と、西家当主。
「…正確には、その方の妹…」
「…妹?…」
伸明とマミさんが、同時に、声を上げた…
「…そうだよ…」
と、西家当主。
「…だから、今日、そのお兄様が、仕事で、遅れたので、私たちといっしょにやって来れなかったの…」
と、西家当主主人が、続ける…
「…まさか、お兄様が、やって来ないのに、そのお嬢様だけ、私たちといっしょに、ここに来るのは、やはり、嫌らしくて…」
西家夫人が、言うと、誰もが、納得した…
私たち三人とも、納得した…
たしかに、この西家夫人が、言うように、それでは、気まずい…
この西家夫妻と、いっしょに、この席にやって来るのは、気まずい…
すでに、この西家夫妻と、その女性は、面識があるだろうが、やはり、一人だけで、この席にやって来るのは、気まずい…
兄が、いっしょに、やって来なければ、気まずい…
そう、思った…
そう、思ったのだ…
しかしながら、それよりも、気にかかることがある…
この西家当主が、言った、五井記念病院に勤める医師…
それが、誰か、気になった…
たった今、この西家当主が、言った、条件に当てはまる、医師を私は、知っている…
以前から、知っている…
が、
まさか、彼ではあるまい…
同じ条件に当てはまる医師も、それなりに、いるかも、しれない…
なにしろ、五井記念病院は、大きい…
五井記念病院は、当たり前だが、五井グループ…
五井記念病院の理事長は、五井一族から、出す…
それが、慣例になっている…
つまりは、それほど、五井一族と関連が、深い…
すると、それを知った、五井の血を継ぐものたちが、五井記念病院に集う可能性がある…
あくまで、これは、私の勝手な想像だが、五井の血を継ぐもので、あれば、五井記念病院で、採用されやすいのでは、ないか?
もちろん、病院だ…
医師が、大半だろう…
そして、医師でも、もしかしたら、五井の血を継ぐもので、あれば、昇進が、早かったり、待遇が、良かったりする可能性がある…
待遇というのは、当然、給与のこと…
あくまで、私の勝手な想像だが、その可能性は、多いにあるのでは、ないか?
私は、そう、見た…
私は、そう、睨んだ…
と、
そのときだった…
お手伝いさんが、私たちのいる居間に、やって来て、
「…ただいま、お客様が、ご到着しました…」
と、私たちに告げた…
居間にいる私たち全員が、その声で、居間の入り口を見た…
どんなひとたちが、やって来るんだろうか?
と、期待しながら、見た…
まもなく、この居間に、やって来る音が、聞こえてきた…
廊下を歩く、足音が、聞こえてきた…
私たちは、固唾を飲んで、待った…
いや、
私たち全員ではない…
西家夫妻は、外す。
すでに、この二人は、これから、やって来る兄妹と、面識があるに、違いないからだ…
だから、今、固唾を飲んで、待っているのは、私たち三人…
五井の本家側の、私たち三人だけだ…
そして、まもなく、やって来た…
肝心の主役が、やって来た…
今回の伸明の見合い相手が、やって来た…
そして、やはり…
やはり、その見合い相手の兄は、長谷川センセイ…
五井総合病院で、以前、私の担当医だった、長谷川センセイだった…
「…遅れて、申し訳ありません…」
と、いう言葉とともに、この居間にやって来た…
もう一人の小柄な女性と共に、やって来た…
この小柄な女性が、長谷川センセイの妹なのだろう…
小柄だが、見るからに、芯の強そうな顔…
同時に、美人でも、ある…
これは、やはり、兄の長谷川センセイがイケメンだからだろう…
私は、思った…
やはり、血が繋がった兄妹だ…
兄がイケメンならば、妹が、美人なのが当たり前…
仮に、長谷川センセイが、この場に、兄なり、弟なりの、男の兄弟を連れてきても、イケメンだろう…
兄弟だから、血が繋がっているから、当たり前だ…
稀に、血が繋がっていても、一方は、ルックスがよく、もう一方は、ルックスが、平凡な兄弟姉妹がいるが、ホントに、これは、稀…
数が、少ない…
やはり、血が繋がっていれば、同じように、美形に生まれたり、平凡に、生まれたりする…
DNAが、同じだからだ…
だから、似ている…
当たり前のことだ…
しかし、
しかし、だ…
私は、この長谷川センセイの妹を見ながら、つくづく、自分が、女だと、思った…
なぜ、自分が、女だと、思ったのか?
それは、彼女の外見…
ルックスから、アレコレ、想像するからだ…
これが、男なら、そこまで、しない…
そこまで、想像しない…
だからだ…
私が、そう、思っていると、マミさんが、
「…さあ、お座り下さい…」
と、言った…
その一言で、長谷川センセイと、長谷川センセイの妹を除いた、全員が、この兄妹に、席に座るように、軽く、動作で、促した…
長谷川センセイは、
「…それでは、失礼します…」
と、言って、席に、座り、同時に、妹に、
「…さあ、オマエも…」
と、声をかけた…
妹は、軽く、会釈して、座った…
小柄だが、いかにも、しっかりとしたような、顔…
気の強さが、見て取れる顔だ…
率直に、言って、美人だが、これは、ちょっとと、引く男もいるに、違いない…
いくら、美人でも、気が、強い女が、苦手な、男は、いるものだ(苦笑)…
女の私から、見ても、いかにも、気が強そうなのは、一見して、わかる…
まして、男なら、なおさらだろう…
異性なら、なおさらだろう…
どうしても、同性よりも、異性の方が、評価が、辛辣だ…
厳しい評価をする…
それは、今回のように、結婚相手として、見るから、なおさら…
なおさらだ…
結婚相手として、見るからには、よけいに、辛口の厳しい評価を相手にするからだ…
私は、そんなことを、考えながら、この目の前の女性を凝視した…
つい、ジッと、見た…
すると、どうだ?
想定外のことが、起こった…
この女性が、まるで、私にケンカを売るように、私を、見返したのだ…
これには、驚いた…
実に、驚いた…
そして、それに、気付いた、長谷川センセイが、慌てた…
実に、慌てた…
「…こら、オマエ、寿さんを、そんなに、ジロジロ見るんじゃない!…」
と、叱った…
それから、慌てて、私に、
「…寿さん、すいません…きっと、妹も、寿さんが、美人だから、見たんだと、思います…」
と、詫びた…
が、
妹は、すぐに、兄の言葉を訂正した…
「…違う…お兄ちゃん、このひとが、私をジロジロ見ていたの…」
と、訂正した…
兄の長谷川センセイは、慌てて、
「…それは、今日、どんな女が、やって来たのかと、興味津々だったんだろ?…」
と、なだめた…
「…それに、オマエも、オマエだ…寿さんを、敵視して、どうする? オマエは、今日は、伸明さんの、見合い相手として、やって来たんだろ?…」
長谷川センセイが、妹に、忠告する…
すると、妹は、一転、
「…それは、そうだけれど…」
と、トーンが、低くなった…
それを、見た、長谷川センセイが、座っていた椅子から、立ち上がり、
「…妹のハルカです…今日は、よろしく、お願いします…」
と、伸明に、頭を、下げた…
次いで、西家夫妻、そして、私やマミさんにも、頭を下げた…
「…西家夫妻と、五井記念病院で、偶然、知り合い、伸明さんが、結婚相手を探していると、聞いて、社会勉強にも、なるんじゃないかと、思って、妹を連れてきました…」
と、長谷川センセイが、言った…
「…社会勉強…」
マミさんが、思わず、口走る…
「…ええ、社会勉強です…こうした機会は、滅多にあるものじゃない…おまけに、妹は、私と歳が、離れているせいか、両親が、溺愛して、育てたものだから、このように、我がままに、育った…だから、今回のように、自分たちとは、違う世界…それに、自分より、美しいひとを、見れば、妹も、おとなしくなるんじゃないかと…」
長谷川センセイが、あからさまに、私を見て、言った…
私、寿綾乃を見て、言った…
なにか、おかしな展開になってきた…
なぜなら、今、行うのは、伸明の見合い…
五井家当主の見合いだ…
それが、なぜか、私が、主役になったような…
まるで、この見合いの主役になったような展開だった…
正直、わけが、わからなかった…
まさに、まさか?
まさかの展開だった…




