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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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36/225

寿綾乃という女 第4部 36

 が、


 その笑いは、痛々しいというか…


 傍から見ていても、伸明が、緊張していることが、わかる笑いだった…


 伸明は、明らかに、緊張していた…


 それが、近くにいる、私にも、手に取るように、わかった…


 もちろん、マミさんにも、わかっただろう…


 それを、見て、あらためて、この伸明は、気が弱いと、思った…


 それを、見て、あらためて、このマミさんが、私を、この席に、呼んだことが、わかった…


 まったくの他人の私を、この席に、呼んだことが、わかった…


 きっと、マミさんは、心配だったのだろう…


 自分と、伸明だけでは、心配だったのだろう…


 二人だけでは、心配だったのだろう…


 この後、西家の人間が、何人やって来るか、わからないが、伸明とマミさんの二人だけでは、人数的に、西家に圧倒されるとでも、思ったのだろう…


 相手が、自分たち二人より、多いのは、わかる…


 西家の当主と、当主夫人、そして、伸明の見合い相手…


 最低でも、三人、この場にやって来るだろう…


 だから、少なくても、数の上では、負けたくない…


 マミさんは、そう思ったのかも、しれない…


 私を含めれば、本家は3人…


 数の上では、対抗できるからだ(苦笑)…


 だから、私を呼んだ…


 赤の他人の私を呼んだ…


 そう、思った…


 そう、思ったのだ…


 そして、そう、思っていると、足音が、聞こえてきた…


 この居間に、やって来る足音が、聞こえてきた…


 「…いよいよか…」


 伸明が、緊張した表情で、言う…


 「…一体、どんな女性が、やって来るか? 楽しみだ…」


 伸明が、言う…


 だが、その表情も、声も、明らかに、緊張していた…


 そして、それから、すぐに、やって来た…


 すぐに、居間に、やって来た…


 まず、姿を見せたのは、70歳ぐらいだろうか?


 「…よお、伸明クン…久しぶり…」


 と、愛想よく、伸明に話しかけた大柄な男だった…


 一言で言えば、エネルギッシュ…


 いかにも、強引に、この縁談をセッティングしたのが、わかるような相手…


 何事も、強引に、ごり押しするような、キャラクターだった…


 そして、次に、現れたのは、おそらくは、その夫人…


 やはり、夫同様エネルギッシュな感じの女性だった…


 「…伸明さん、久しぶり…」


 と、言いながら、居間に入って来た…


 伸明は、席から立ち上がり、


 「…叔父様、叔母様、お久しぶりです…」


 と、言いながら、頭を下げた…


 そして、それは、マミさんも、同じだった…


 伸明同様、マミさんも、席から、立ち上がり、


 「…叔父様、叔母様、ご無沙汰しています…」


 と、丁寧に、腰を折って、頭を下げた…


 それゆえ、二人を、見て、この私も立ち上がらざるを得なかった…


 私も、慌てて、立ち上がらざるを得なかった…


 だが、私に、言葉はない…


 なんと、言っていいか、わからなかった…


 だから、とりあえず、席から、立ち上がり、無言で、頭を下げた…


 こうして、おけば、礼を失しない…


 相手が、私を見て、不快に思わないからだ…


 が、


 当然のことながら、二人は、私を見て、怪訝に思ったようだ…


 「…伸明クン、その方は?…」


 と、西家の当主が、聞いた…


 私のことを、聞いた…


 伸明は、すぐに、


 「…マミさんの友人です…」


 と、答えた…


 「…叔父様も、おっしゃったじゃ、ないですか?…」


 と、伸明。


 「…言った? 一体、なにを、言ったかな? 伸明クン?…」


 「…今日は、格式張らずに、やろうと…その際に、少しでも、緊張しないように、ボクに、友人でも、連れてくれば、いいと、おっしゃったじゃ、ないですか?…」


 伸明が、指摘する…


 そう、言われると、この西家の当主は、なにも言えなかった…


 ただ、伸明の指摘に、苦笑した…


 それを、見て、その夫人が、


 「…でも、伸明さん…失礼だけれども、伸明さんの見合いの席に、女性を連れて来るのは、どうかと、思うけれど…」


 と、やんわりと、抗議した…


 が、


 伸明は、ひるまなかった…


 「…この女性は、マミさんの友人ですよ、叔母様…」


 と、反論した…


 「…それに、少しでも、今日の縁談を緊張しないように、友達でも、連れてくれば、いいと、おっしゃったのは、叔父様や、叔母様ですよ…」


 伸明が、再度、指摘すると、二人とも、バツが、悪そうに、お互いの顔を見合わせた…


 「…まあ、たしかに、言ったかも、しれないが…」


 と、西家の当主が、歯切れ悪く言う…


 「…でも、そんな美人の方が、伸明クンの見合いの席に、同席するとは、思わなかった…」


 すると、すかさず、マミさんが、


 「…このひとは、私の友人です…」


 と、主張した…


 「…だから、今日、来て、もらったんです…」


 マミさんが、力強く、言う…


 すると、西家の当主と、その夫人は、なにも、言えなくなった…


 まさに、ナイスフォロー


 今日、伸明の縁談に、伸明側の人間として、この席にやって来た甲斐があった…


 伸明が、マミさんを、呼んだ甲斐があった…


 まさに、マミさんの面目躍如だったからだ…


 そして、二人が、このマミさんや、伸明の反論に、なにも、言わないのは、案外、弱い?


 反論に弱いのかも?


 とも、思った…


 それは、なぜか?


 案外、押しの強いひとほど、反論に弱いものだからだ…


 ごり押しするひとは、大概、相手を見て、ごり押しする…


 つまりは、相手が、一見して、自分より、弱そうな人物だと、ごり押しを通そうとする…


 が、


 その一見、弱そうに見える相手が、強気に反論すると、慌てる…


 相手が、反論しないことを、予想して、ごり押ししたのが、外れるからだ…


 だから、突然の出来事に、対処できない…


 そういうことだ…


 そして、これは、今、起こったことも、同じ…


 同じだ…


 この西家の当主夫妻は、伸明が、反論しないと、思ったのだろう…


 どうせ、この西家夫妻は、伸明を幼いときから、知っているに違いない…


 それゆえ、伸明が、おとなしいことを、知っているのだろう…


 だから、反論しないと、思ったのだろう…


 また、これは、おそらく、マミさんも、同じ…


 同じだ…


 マミさんは、気が強いが、それでも、子供の頃から、見知っている自分たちに、歯向かうとは、思っても、みなかったのだろう…


 だから、困惑して、なにも、言わなかった…


 それが、真相だろう…


 なにより、この二人の今の反論で、この伸明とマミさんが、自分たち二人に、好意を持っていないことが、わかった…


 好意どころか、敵愾心を持っていることが、わかった…


 それが、衝撃だったのかも、しれない…


 自分たちは、強引に、伸明の見合いをセッティングしたが、それを、この二人が、そこまで、嫌がっているとは、夢にも、思っていないのだろう…


 だが、案外、強引な人間とは、そういうものだ…


 相手の気持ちを、考慮しない…


 自分の都合だけ、押し付ける…


 そういうタイプのひとたちだからだ…


 私が、この西家の夫妻を見て、そう考えていると、伸明が、


 「…叔父様、叔母様、さあ、席に座って下さい…」


 と、私たち3人が座るテーブルに招いた…


 西家の夫妻は、


 「…ありがとう、伸明クン…」


 と、夫の方が、礼を言ったが、すぐに、夫人の方が、


 「…それよりも、今日の伸明さんの縁談の相手…」


 と、切り出した…


 「…ちょっと、遅れちゃって…」


 この言葉には、私も驚いた…


 いや、私だけではない…


 伸明も、マミさんも、驚いたようだ…

 

 とっさに、マミさんが、


 「…叔母様、いっしょに、来るんじゃ、なかったんですか?…」


 と、聞いた…


 当たり前だった…


 「…それが、お兄様が、急に、お仕事で、遅れることになって…」


 と、西家夫人。


 「…仕事ですか?…」


 と、伸明が、聞いた…


 「…ええ…」


 と、西家夫人。


 それに、マミさんが、口を挟んだ…


 「…でも、それにしても、叔母様…西家に結婚適齢期のお嬢様は、いませんよね?…」


 と、言った…


 それに対して、夫人は、夫を見た…


 おそらく、自分ではなく、夫に、言わせようと、思ったのだろう…


 夫人の視線に気付いた夫が、


 「…そうだ…マミちゃんの言う通りだ…」


 と、答えた。


 「…だったら、今日の伸明さんの見合い相手は、一体?…」


 「…親戚のものだよ…」


 「…親戚?…」


 「…と言っても、五井一族で、知っているものはいない…」


 「…それは、どういうことですか?…」


 と、今度は、伸明が、聞いた…


 「…いわゆる、血だ…」


 「…血?…」


 と、伸明。


 「…要するに、西家と縁のあるもの…西家と、血が繋がっているが、今は、五井一族でも、なんでもない…」


 「…それは、一体?…」


 と、伸明。


 「…つまり、先祖は、西家だが、今は、なんの関係もない…ただ、数代前の先祖が、西家だっただけ…」


 「…叔父様…だったら、どうして、そんな女性を、今日、伸明さんの見合い相手に?…」


 と、マミさん。


 「…いや、病院で、知り合って…」


 「…病院?…」


 と、マミさん。


 「…オレも、この歳だ…いろいろ、カラダに悪いところがあって、それで、知り合って…」


 「…叔父様、どこの病院ですか?…」


 「…五井記念病院に決まっているだろ? 五井の一族は、皆、あそこが、かかりつけだ…」


 西家当主が、当然だというように、言う…


 私は、それを、聞いて、どこかで、聞いたような話だと、思った…


 たしかに、どこかで、聞いたような話だ…


 私が、思っていると、伸明が、


 「…叔父様も、叔母様も、席に座って下さい…」


 と、言った…


 私たち全員が、立ち上がったままだったからだ…


 伸明が、席を進めたおかげで、今度は、すぐに、西家夫妻は、席に座った…


 それを、見届けて、私たち3人も、座った…


 なんだか、予想外の展開になって来た…


 そう、思った…


 そう、思ったのだ…


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