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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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33/225

寿綾乃という女 第4部 33

 私は、まだ、ひょっとして、伸明を好きなんだろうか?


 五井の当主を好きなんだろうか?


 そう、気付いた…


 あらためて、気付いた…


 すでに、答えは出たはずだ…


 伸明と、ナオキなら、私は、間違いなく、ナオキを取る…


 そう、答えが出たはずだ…


 あの和子の前で、答えが出たはずだ…


 五井の女帝の前で、答えが出たはずだ…


 だったら、今、私のこの感情は、なに?


 自分自身に問うた…


 私自身に、問うた…


 それは、好奇心…


 伸明が、どんな女と見合いをするのか、知りたい好奇心…


 それに、他ならない…


 下世話な言葉で、言えば、野次馬根性…


 私の知り合った大金持ちのボンボンが、どんな女と見合いをするのか、知りたい…


 そんな野次馬根性だ…


 そして、それを、思えば、やはり、私は、庶民…


 骨の髄まで、庶民なんだと、思った…


 金持ちのボンボンに憧れる庶民だと、思った…


 なぜなら、庶民でなければ、こんな感情は、生まれないからだ…


 億ションに住み、平均よりも、はるかに、良い暮らしをしているように、見えても、庶民…


 金持ちではない…


 だから、こんな感情が、生まれる…


 そう、思ったのだ…


 だったら、金持ちなら、どうだ?


 伸明と同じ金持ちなら、どうだ?


 そう、思った…


 私と、同じ感情が、ないのか、思った…


 当然ながら、あるだろう…


 しかし、私が、抱いた、庶民が、金持ちの見合い相手に持つ感情とは、違う…


 そこに、羨望はない…


 憧れがない…


 その違い…

 

 それが、決定的な違い…


 そう、思った…


 そう、思ったのだ…



 そして、そんなことを、思いながら、マミさんと共に、エレベーターに、乗って、地下まで、降りた…


 地下には、駐車場がある…


 そこに、マミさんが、今日、クルマで、来たのだ…


 これは、珍しいが、普通に考えれば、この前、私の元にやって来たときは、マミさんは、徒歩だった…


 これは、きっと、私に気を遣ったんだろう…


 そう、気付いた…


 私が、脳梗塞で、倒れ、入院して、退院したばかりなのだから、クルマで、来るのを、遠慮したのだろう…


 なぜなら、マミさんのクルマは、派手だからだ…


 それは、今、この地下駐車場で、マミさんの愛車、真っ赤なフェラーリを見て、気付いた…


 そして、それを、見たときに、かつての記憶が、蘇った…


 この真っ赤なフェラーリを見たときに、かつて、このマミさんが、乗る、真っ赤なフェラーリと、あのユリコが、乗る、黒いフェラーリが、まるで、対抗するように、走った光景を、思い出したのだ…


 あれは、たしか、まだ、伸明の弟の秀樹が、存命していたとき…


 まだ、秀樹が、生きていたときだ…


 ユリコの乗る、黒いフェラーリの助手席に、座っていた…


 思えば、秀樹は、不幸な男だった…


 伸明の血の繋がらない弟だったが、秀樹は、そんなことは、知らなかった…


 秀樹は、五井家前当主、建造の実子…


 建造の血が繋がった実の息子だった…


 にもかかわらず、建造は、自身の後継者に、伸明を指名した…


 血の繋がった実の息子の秀樹ではなく、血の繋がらない伸明を指名した…


 私は、当時、どうしてだか、わからなかった…


 普通は、誰もが、自分の血が繋がった息子を自身の後継者に推すものだからだ…


 しかし、建造は、そうしなかった…


 血の繋がらない、伸明を選んだ…


 伸明は、私の事実上の夫の藤原ナオキ同様、長身のイケメンだが、秀樹は違った…


 背も高くなく、顔も平凡だった…


 そして、それは、思い起こせば、建造が、そうだった…


 五井家前当主の建造が、同じだった…


 背も決して、高くなく、容姿も平凡だった…


 失礼ながら、五井家当主にもかかわらず、威厳もなにもなかった…


 まったくの、普通のひとだった…


 そして、それは、今、振り返れば、建造と秀樹は、似ていた…


 顔は、違うが、全体の雰囲気は、似ていた…


 が、


 中身が、違った…


 父の建造と、息子の秀樹では、中身が、真逆だった…


 建造は、おおげさに言えば、無私のひとだった…


 欲望のないひとだった…


 真逆に、秀樹は、欲望の塊…


 それゆえ、同じく、欲望の塊だったユリコと気があったのだろう…


 そして、父の建造は、そんな秀樹の欲望を嫌った…


 なぜなら、欲望が、前面に出ては、五井をまとめることが、できないからだ…


 五井十三家をまとめることが、できないからだ…


 それゆえ、建造は、自分の欲望を抑えた…


 自分の徳望を抑えることで、五井をまとめようとした…


 が、


 息子の秀樹は、そんな建造とは、真逆…


 自分の欲望を優先した…


 それゆえ、建造は、秀樹を認めなかった…


 自身の後継者に認めなかった…


 それは、今、振り返れば、建造は、秀樹を見て、自分の姿を見ているようだったのかも、しれない…


 自分の欲望に忠実な秀樹は、一歩間違えば、建造の姿…


 ありのままの建造の姿だったのかも、しれない…


 しかしながら、父の建造は、その立場ゆえに、自分の欲望を抑え、一族の結束を望んだ…


 が、


 息子の秀樹には、それができない…


 それゆえ、建造は、秀樹を見限った…


 血の繋がった実の息子にも、かかわらず、見限った…


 しかし、それでも、秀樹は、五井家当主の座を、諦めなかった…


 建造が突然、亡くなり、秀樹にも、当主就任のチャンスが、あるかと、思われたが、それは、なかった…


 伸明が、当主になった…


 落胆した秀樹は、自ら、命を絶った…


 私は、今、それを、思い出した…


 マミさんの真っ赤なフェラーリを見て、思い出した…


 

 マミさんは、真っ赤なフェラーリに近付き、キーで、フェラーリのドアを開けて、中に入ると、助手席のドアを開けた…


 「…寿さん、乗って…」


 「…ハイ…わかりました…」


 私は、マミさんの言葉に従って、真っ赤なフェラーリの助手席に乗った…


 フェラーリに乗るのは、生まれて、初めて…


 私は、女だが、ワクワクした…


 まるで、男のように、ワクワクした…


 なんといっても、この真っ赤なフェラーリが、私を興奮させたのかも、しれない…


 やはり、スポーツカーは、赤が似合う…


 真っ赤が似合う…


 そう、思った…


 そう、思ったのだ…


 すると、マミさんが、私を見て、


 「…どうしたの? 寿さん?…」


 と、声をかけた…


 「…どうしたって? 私が、なにか、しましたか?…」


 と、私。


 「…いえ、なんだか、寿さん、興奮しているみたいで…」


 と、マミさんが、遠慮がちに、言う…


 私は、それを、聞いて、すぐに、


 「…それは、興奮しますよ…」


 と、即答した…


 「…なんてったって、フェラーリですよ…真っ赤なフェラーリですよ…こんなクルマに乗れば、誰でも、興奮しますよ…」


 と、即答した…


 それを、聞いたマミさんが、


 「…意外…」


 と、一言…


 「…意外ですか?…」


 「…ええ、意外…寿さんって、もっと、落ち着いて見えた…」


 「…そう、見えるだけですよ…」


 「…そう、見えるだけって?…」


 「…中身は、違います…」


 と、キッパリ、言った…


 断言した…


 「…中身が、違うって?…」


 「…誰でも、見た目と、性格は、別物でしょ? 私も同じです…」


 「…ウソ?…」


 「…ホントです…」


 私は、断言した…


 そして、それを、聞くと、マミさんは、黙った…


 なにも、言わなかった…


 なにも、言わず、フェラーリのエンジンをかけて、しばらく、無言だった…


 私は、その無言が、怖かった…


 おおげさでなく、怖かった…


 なぜ、マミさんが、沈黙するのか?


 それが、わからなかったからだ…


 だから、怖かった…


 それゆえ、


 「…どうしました? マミさん?…」


 と、聞いた…


 聞かざるを得なかった…


 それでも、マミさんは、無言だった…


 難しい顔をしたままだった…


 沈黙が、あたりを、支配した…


 フェラーリのエンジン音だけが、した…


 それから、何分経ったのだろうか?


 マミさんが、口を開いた…


 ゆっくりと、口を開いた…


 「…たしかに、寿さんは、私が、思っていたひとと、違った…」


 と、ゆっくりと、言った…


 「…違った? なにが、違ったんですか?…」


 「…今日の伸明さんの見合い…」


 「…見合い…それが、どうかしたんですか?…」


 「…寿さんが、やって来るとは、思わなかった…」


 「…えっ?…」


 思わず、言った…


 だって、伸明さんの見合いに、いっしょに、出席して欲しいと、言ったのは、このマミさんだ…


 ほかならぬ、このマミさんだ…


 それが、一体、なぜ?


 一体、なぜ、そんなことを、言うのか?


 さっぱり、わからなかった…


 私が、驚いていると、運転席に座るマミさんが、助手席の私を見た…


 「…ごめん、寿さん…自分でも、こんなこと、言うの、少し変だって、ことは、わかる…なんてったって、今日、伸明さんの見合いに、私と出席してもらいたいって、頼んだのは、私なんだから…」


 「…」


 「…でも、正直、言うと、寿さんが、受けるとは、思わなかった…」


 「…思わなかった? どうして、思わなかったんですか?…」


 「…それは、藤原さん…」


 「…ナオキ…ナオキが、どうかしたんですか?…」


 「…藤原さんに、遠慮して、受けないんじゃ、ないかと、思った…」


 「…どうして、私が、ナオキに遠慮しなくちゃ、ならないんですか?…」


 「…それは…」


 「…それは、なんですか?…」


 「…いえ、別に…もしかしたら、私が、思う、寿さんと、藤原さんの関係と、寿さんと、藤原さんの関係が、違うんじゃないかと、思って…」


 「…どう違うんですか?…」


 私が、食い気味に、聞くと、マミさんは、それには、答えず、いきなり、アクセルを、踏んで、フェラーリを走らせた…


 私は、驚いた…


 まさか、いきなり、フェラーリを発信させるとは、思わなかったからだ…


 マミさんは、いきなり、フェラーリを発信させた後、


 「…たぶん、これは、私も、同じ…」


 と、続けた…


 「…なにが、同じなんですか?…」


 「…寿さんから、見た私と、私から見た私…」


 「…」


 「…つまり、誰もが、自分が、思う、自分と、他人が、思う自分は、違うってことよ…」


 マミさんは、言った…


 実に、意味深に、言った…


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