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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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30/225

寿綾乃という女 第4部 30

 これまで、抑えていた感情…


 目の前の天敵のユリコを前にして、必死に抑えていた感情…


 それが、一気に吹き飛んだ!…


 今のユリコの言葉で、一気に吹き飛んだ!…


 私は、つい、


 「…病気の方は、おかげさまで、だいぶ良くなっています…」


 と、言った…


 わざと、言った…


 すると、すかさず、ユリコが、


 「…でも、完治は、していないんでしょ?…」


 と、言った…


 わざと、言った…


 わざと、私にあてつけるように、言った…


 「…たしか、寿さんは、癌…癌が、完治すするのは、医学用語で、寛解(かんかい)とか、いうんだっけ…」


 と、隣の長谷川センセイに、聞く…


 「…いや、寛解(かんかい)というのは、癌の症状が、一時的に消えたり、軽くなったりしたときに、使う、言葉です…完治と、同義語では、ありません…」


 長谷川センセイが、真面目に答える…


 「…あら、そう…」


 ユリコが、面白そうに、答える…


 「…だったら、寿さんも、大変ね…」


 と、言った…


 わざと、言った…


 皮肉…


 私に対する皮肉だ…


 言葉だけ、取れば、私の病気を心配しているようだが、実態は、まるで、違う…


 私の病気を面白がっているのだ…


 そして、当然のことながら、長谷川センセイも、その様子に、気付いた…


 それゆえ、長谷川センセイは、慌てて、


 「…寿さん、今日は、これぐらいで…また、今度、お会いしましょう…」


 と、言って、軽く、ユリコのカラダを掴んで、その場から、離れようとした…


 だから、私は、


 「…センセイ、それでは、失礼します…」


 と、腰を折って、長谷川センセイに言った…


 「…じゃ、寿さん、今日は、これで…」


 長谷川センセイは、ユリコを、無理やり、おおげさに言えば、引きずるように、連れて行った…


 今の私とユリコの会話から、私たち二人が、犬猿の仲だと、気付いたのだろう…


 さすがに、これ以上、ここにいると、マズいと、判断したのだろう…


 まさか、私たち二人が、このスーパーの中で、怒鳴り合いのケンカをするとは、思えないが、その可能性もなきにしも、あらず…


 互いに二人の言葉のラリーが、エスカレートして、それが、怒鳴り合いに発展することだってありえる…


 それを、長谷川センセイは、恐れたのだろう…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 しかし、


 それに、しても、だ…


 まさか、私の自宅近所のスーパーで、長谷川センセイと、ユリコに会うとは、思わなかった…


 夢にも、思わなかった…


 まさに、まさか、だ…


 まったく、想定していなかった…


 まったく、想像していなかった…


 これは、偶然?


 それとも、必然?


 わざと?


 考えた…


 私が、自宅近くのこのスーパーを利用することは、ユリコは、知っている…


 間違いなく、知っている…


 それは、以前、同じことが、あったから…


 以前、やはり、このスーパーで、ユリコと鉢合わせしたことがあるからだ…


 おそらく、偶然を装って、私に鉢合わせた…


 そう思った過去があるからだ…


 だが、あのときは、たしか、ユリコは、一人だった…


 連れは、いなかった…


 今回のように、連れは、いなかった…


 それが、違う…


 それが、今回とは、違う…


 それに、たしか、前回、このスーパーで、ユリコと会ったときは、まだ、ジュン君の裁判の最中か、裁判が、終わって、まもなく…


 だから、私に遠慮した…


 だから、私に牙を剥かなかった…


 そう、気付いた…


 それが、前に戻った…


 ジュン君が、事故を起こす前に戻った…


 私に遠慮なく、敵対できる状態に、戻ったということだ…


 私は、それを、考えると、いつのまにか、カラダの調子が、良くなった気がした…


 カラダの中のアドレナリンが、急に活発化した気がした…


 いわゆる、闘争本能…


 ユリコを前にして、カラダの中のアドレナリンが、活発化することで、アドレナリンが身体中を駆け巡った気がした…


 それゆえ、カラダが、火照るというか…


 その影響で、一時的ではあるが、カラダの調子が、良くなった気がした…


 これは、ユリコと、会った効用…


 私の天敵と会った効用だった…


 まるで、温泉に入ったような、効用だった(笑)…



 私は、その後、当たり前だが。買い物を済ませ、自宅に戻った…


 途中、歩きながら、あのとき、スーパーの中で、怒鳴り合いにならならなくて、つくづく良かったと、実感した…


 さすがに、スーパーの中で、怒鳴り合いは、恥ずかしい…


 それは、わかっているが、止められないときがある…


 自分でも、わかっているが、止められないときがある…


 たぶん、それは、ユリコも同じ…


 私の天敵のユリコも、同じに違いない…


 私は、そんなことを、考えながら、自宅に戻った…


 ナオキの待つ、自宅に、戻った…


 「…ただいま…」


 と、言って、自宅の玄関を開ける…


 これは、一人暮らしのときも、いっしょ…


 私以外、誰もいない、一人暮らしのときも、いっしょだった…


 当然、返事は、ない…


 誰も、いないからだ…


 しかし、それが、わかっていても、私は、必ず、外から、帰って来ると、


 「…ただいま…」


 と、言った…


 一人暮らしにも、かかわらず、言った…


 もしかしたら、それは、心のどこかで、自分が、一人暮らしだと、いうことを、認めたくないのかも、しれない…


 自分が、ひとりぼっちだと、いうことを、認めたくないのかも、しれない…


 ふと、気付いた…


 私にも、以前、家族が、いた…


 ナオキという夫と、ジュン君という息子の疑似家族がいた…


 もしかしたら、その名残…


 無意識に、私が、ひとりぼっちだということを、認めたくない名残…


 そうかも、しれない…


 ふと、思った…


 が、


 今は、違う…


 ナオキが、いる…


 私の事実上の夫の藤原ナオキが、いる…


 そう、思った…


 そう、思ったのだ…


 が、


 当然、私が、今、


 「…ただいま…」


 と、言っても、返事がない…


 ナオキが、寝ているからだ…


 伊豆にある、五井の別荘から、帰って来て、寝ているからだ…


 だから、返事がない…


 が、


 やはり、気になる…


 ホントに、このマンションにナオキが、帰ってきたのか、気になる…


 だから、自宅のマンションに、入ると、真っ先に、ナオキの姿を、確認した…


 ソファに横たわる、ナオキの姿を確認した…


 ナオキは、いびきをかきながら、寝ていた…


 よほど、疲れていたのだろう…


 深く、寝入っている様子だった…


 私は、そんなナオキの姿を見て、安心した…


 実に、ホッとした…


 ナオキが、戻って来た…


 ナオキが、近くにいる…


 その安心感…


 それが、大きい…


 それは、やはり、この前、入院したから…


 自宅で、軽い脳梗塞で、倒れ、入院したからだろう…


 なぜか、わからないが、癌のときは、それほど、思わなかった…


 これは、自分でも、どうしてだか、わからない…


 自分でも、謎…


 どうして、自分が、以前は、ひとりぼっちでも、それほど、心細くなかったのか?


 謎だった…


 自分でも、解けぬ謎だった…


 が、


 しかし、今は、違う…


 一人が、寂しいわけではないが、隣にナオキが、いることで、得られる安心感が嬉しい…


 言葉にできないほど、嬉しい…


 そんな気分だった…


 これは、まるで、少女のよう…


 初めて、男を好きになった少女のような、気分だった…


 これには、驚いた…


 自分で、自分に、驚いた…


 なぜなら、私は、生まれつき、誰かに頼ったりするキャラではない…


 自分のことは、すべて、自分でやるタイプ…


 人任せにしない…


 だから、そんな自分が、誰かに頼る気分になったことに、自分でも、驚いた…


 これは、やはり、この前、軽い脳梗塞で、五井記念病院に運ばれたせい?…


 軽い脳梗塞だから、もしかしたら、人格が、変わった?


 やはり、脳が、ダメージを受けたから、人格が、変わった?…


 そう、思った…


 そう、思ったのだ…


 しかし、答えは、出ない…


 だから、そんなバカなことは、考えるのは、やめにした…


 いくら、考えても、答えが出ないことを、考えることを、やめにした…


 私は、両手に持っていたスーパーの袋をテーブルに置いて、中身を次々に、冷蔵庫に入れた…


 買ってきたものは、生鮮食品が、大半だったからだ…


 肉や魚が、大半だったからだ…


 家に置いてあったものは、大半が、保存食が、中心だった…


 体調が、優れない私が、一週間も、二週間も、自宅に、閉じこもるため…


 ずばり、籠城するためだ…


 そのためには、カップラーメンや冷食など、保存のきくものがいい…


 それゆえ、保存食が、中心だった…


 しかし、私は、それでいいが、ナオキが、いるとなると、別…


 やはり、保存食ではない、ものを、食べさせたい…


 新鮮なものを、食べさせたい…


 そんな気持ちだった…


 それゆえ、わざわざ、スーパーに行ったのだ…


 私一人なら、行かないスーパーに行ったのだ…


 私は、そんなことを、考えながら、買ってきた、肉や魚を次々と、冷蔵庫の中に、入れた…


 そして、入れながら、今夜は、ナオキのために、なにを作るか、考えた…


 正直、自分以外の誰かのために、料理を作るのは、久しぶり…


 実に、久しぶりだった…


 一体、いつ以来だろう?…


 そうだ…


 ジュン君が、逮捕される前、以来だ!…


 それまでは、ジュン君と暮らしていた…


 ナオキが、出て行った、このマンションで、ジュン君と、二人きりで、暮らしていた…


 それを、思い出した…


 そして、それを、思い出すと、つくづく、運命は、わからない…


 ひとの運命は、わからない…


 今、ジュン君の代わりに、ナオキが、いる…


 一度は、このマンションから、出て行ったナオキが、いる…


 つまりは、ジュン君とナオキが、入れ替わった…


 そうも、思った…


 そう、思いながら、黙って、スーパーで、買ってきたものを、次々と、冷蔵庫の中に、入れ続けた…


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