寿綾乃という女 第4部 29
このユリコは、天敵…
私、寿綾乃の天敵だった…
ずっと、天敵だった…
出会ったときから、天敵だった…
初めて、出会ったのは、私が、まだ、高校生だったとき…
ナオキが、まだ会社を作って、まもなくの頃…
ナオキの妻として、出会ったのが、最初だった…
当時、私が、まだ、高校生だったにも、かかわらず、結果的に、ナオキを寝取ったことになるのだが、それを抜きにしても、最初、出会ったときから、このユリコは、天敵…
この寿綾乃…矢代綾子の天敵だった…
この私を必ず、目の敵にした…
なにか、私に仕掛けてくるわけではない…
だが、その態度から、私を気に入らないのは、明らかだった…
誰の目にも、明らかだった…
私は、それが、なぜだか、わからなかった…
最初、なぜ、初めて会ったばかりの私を、憎むのか、わからなかった…
が、
やがて、わかった…
高校生の私にも、わかった…
それは、嫉妬だった…
美人に生まれた私に対する嫉妬だった…
後で、わかったことだが、このユリコは、異常なまでの、面食い…
ルックス重視の女だった(爆笑)…
おそらくは、コンプレックス…
自分の顔に対するコンプレックスなのだろう…
ブスとまでは、言わないが、まったくの平凡な容姿…
とりたてて、目立つものは、なにもない…
しかしながら、頭脳は、明晰…
一流大学卒で、学歴に瑕疵はない…
瑕疵=キズはない…
おそらく、それゆえに、余計に、自分のルックスが、平凡なことが、許せないのだろう…
自分は、優れている…
頭脳は、優れている…
ただ、ルックスは、優れていない…
まったくの平凡なルックス…
それゆえ、美人が許せない…
私が、許せない…
自分より、ルックスが優れた私が許せない…
そういうことだ…
また、それゆえ、イケメンに憧れる…
自分のルックスが、平凡ゆえに、イケメンに憧れる…
自分が、持っていないものを、相手が持っているからだ…
それゆえ、イケメンのナオキと結婚した…
が、
実は、それ以前に、他のイケメンと関係して、子供ができていた(苦笑)…
それが、ジュン君だった…
ナオキの子供と信じて、疑わなかったジュン君だった…
ユリコは、ジュン君の父親に捨てられ、その父親と似たルックスのナオキと結婚した…
ユリコを捨てた男が、ナオキと似ていたからだ…
だから、もし、その男と、似た子供が生まれても、ナオキの子供と、言い張ることができると、考えた…
後に、それが、わかった…
実に、したたかな女だった…
実に、自分勝手な女だった…
私が、それを、FK興産の社長室で、ナオキの前で、暴露して以来、対立が、決定的になった…
もはや、修復は、不可能…
対立が決定的になった…
また、たしかに、対立は、していたが、一時的に休戦していたときも、ある…
一度だけ、ある…
それは、ジュン君の裁判…
私をクルマで、轢き殺そうとしたジュン君は、当然、逮捕され、裁判にかけられた…
が、
そのときに、私に一言、言って、もらいたい…
ジュン君を宥恕すると、言って、もらいたい…
宥恕は、裁判用語…
一般人が、日常生活では、使わない…
宥恕する=許すといって、もらいたい…
被害者が、加害者に宥恕すると、言えば、当然、刑が減刑される…
減刑=軽くなる…
ユリコは、それを、狙ったのだ…
それゆえ、ジュン君の裁判が、終わるまでは、決して、私に牙を剥かなかった…
私に対して、信じられないくらい、低姿勢でいた…
私に対して、信じられないぐらい、腰が、低かった…
が、
今は、そのジュン君の裁判も、終わった…
だから、このユリコが、私に対して、頭を下げる必要は、なくなった…
元に戻った…
が、
それが、嫌ではない…
むしろ、その方がいい…
ユリコが、私に対して、激しく敵対するのが、いい…
それこそ、ユリコ…
ユリコだからだ…
これが、いつものユリコだからだ…
つまりは、ユリコが、平常運転に戻ったとうことだ…
私は、思った…
私は、考えた…
が、
いくら、考えても、このユリコが、なぜ、長谷川センセイと、いっしょにいるのかが、わからない…
いや、
そもそも、このユリコは、長谷川センセイを以前から、知っていたのだろうか?
考えた…
すると、たしか、以前、私が、ジュン君にクルマで、轢かれて、五井記念病院に入院していたときに、ユリコが、見舞いに来た…
そのとき、知り合ったのでは、ないか?
ふと、気付いた…
息子のジュン君が、私をクルマで、轢き殺そうとしたことで、このユリコは、私の見舞いにやって来た…
さすがに、見舞いにやって来なければ、ジュン君の減刑はできない…
私の口から、
「…ジュン君を許します…」
と、いう言葉を言って、もらわなければ、ならない…
だから、見舞いに来た…
私が、入院している、五井記念病院に、見舞いに来た…
そして、五井記念病院で、この長谷川センセイに会った…
そこまでは、わかる…
そこまでは、容易に想像できる…
が、
なぜ、今、ここで、ユリコが、長谷川センセイといっしょにいるのかが、わからない…
たしかに、長谷川センセイは、イケメン…
長身のイケメンだ…
白衣の似合う、長身のイケメンだ…
しかしながら、だからといって、ユリコが、長谷川センセイに安易に手を出したとも、考えにくい…
なにより、長谷川センセイが、ユリコを相手にするだろうか?
それが、疑問…
おおいに、疑問だ(爆笑)…
何度も言うように、長谷川センセイは、長身のイケメン…
おまけに、外科医だ…
付き合う女など、星の数ほど、いるに違いない…
女の私から、見ても、間違いなく、モテ男…
そんな長谷川センセイが、ユリコを相手にするだろうか?
甚だ、疑問だ…
おおいに、疑問だ…
が、
はたと、気付いた…
長谷川センセイの趣味嗜好…
長谷川センセイが、どんな女が好みか、わからない…
男なら、誰もが、美人が、好きだと、思うが、さにあらず…
学歴が、高い、頭のいい女が、好きだったり、あるいは、お金がある女が、好きだったりする場合もある…
そして、そう、考えれば、当てはまる…
ユリコは、当てはまる…
何度も言うように、ユリコは、高学歴…
頭脳明晰だ…
仕事もできる…
以前は、投資ファンドの代表を務めていた…
そして、たぶん、今も投資ファンドの代表をしているはずだ…
だから、当然、お金もあるだろう…
長谷川センセイが、ユリコのその点に惹かれた可能性も十分ある…
なにより、長谷川センセイは、野心家…
長谷川センセイは、五井西家の血を引いている…
が、
あくまで、西家の血を引いているだけ…
現在は、五井とは、なんの関係もないらしい…
これは、以前、本人から、聞いた…
長谷川センセイ本人から、聞いた…
しかしながら、長谷川センセイは、それが、気に入らないらしい…
というのは、長谷川センセイの悲願は、五井西家に認められたい…
せっかく、五井西家の血を引いているのだから、西家に認められたい…
それゆえ、私は、この長谷川センセイが、野心家だと、思った…
思ったのだ…
なぜなら、この長谷川センセイは、私の目から見ても、十分恵まれている…
長身で、イケメン…
おまけに、外科医…
ルックスも、職業も、他人様よりも、上…
にもかかわらず、そこで、満足することなく、上を目指す…
名門の五井西家の血を引いていることを、五井家の人間に、認めてもらいたい…
つまりは、自分の出自を認めてもらうことで、さらに、上を目指す…
豊臣秀吉ではないが、地位も権力も欲しい…
そんな気がした…
そんな気がしたのだ…
そこまで、考えると、もしかしたら、この二人は、気が合うのかも?
とも、気付いた…
二人とも、上昇志向が、強い…
二人とも、上昇志向の塊…
それゆえ、二人は、気が合う…
そうも、思った…
思ったのだ…
そして、私が、そんなことを、考えていると、長谷川センセイが、
「…そんなことより、寿さん…体調は、どうなんですか?…」
と、聞いた…
実に、医者らしい…
医者らしい質問だった…
やはり、真っ先に、私の体調が、気になるらしい…
「…ハイ…おかげさまで、この通り、大丈夫です…」
と、答えた…
本当は、決して、大丈夫ではない…
大丈夫では、ないから、自宅に籠城していたのだ…
マミさんと、いっしょに、大量の食糧を買い込み、自宅から、一歩も出ない生活を、送っていたのだ…
しかしながら、それを、伝えることは、できない…
なぜなら、隣に、ユリコが、いるからだ…
だから、できない…
天敵のユリコの前で、弱みを見せることは、できない…
そして、私が、そう言うと、
「…それは、良かった…」
と、長谷川センセイが、すぐに、答えた…
「…寿さん、他にも、病気を抱えているから…これ以上、悪化したら…」
長谷川センセイが、言いかけて、途中で、止めた…
しまったと、いう顔をして、止めた…
きっと、それは、隣にユリコがいるから…
隣に、他人のユリコがいるから…
だから、私の個人情報を他人の前で、伝えるのは、マズい…
そう、判断したに、違いなかった…
が、
そんな長谷川センセイの気遣いは、不要だった…
すぐに、ユリコは、その後、
「…寿さん…そんなに、お美しいのに、まるで、病気のデパートね…」
と、言ったからだ…
私の感情を逆なでることを、言った…
まるで、私は、アナタのすべてを、知っているとでも、言うようだった…
思わず、私の中で、なにかが、はじけた…
これまで、抑えていた感情のボルテージが上がった…




