寿綾乃という女 第4部 25
いつのまにか、私の心の中は、伸明が、どんな女と、見合いをするのか?
それで、いっぱいになった…
すっかり、ナオキのことは、忘れていた…
きれい、さっぱり、忘れていた…
ナオキが、今、どこで、なにをしているのか?
考えることを、忘れていた(苦笑)…
私は、もしかしたら、冷たい女?
あるいは、
もしかしたら、自分勝手な女?
そう、思った…
そう、気付いた…
まだ、一度も、寝たことも、ない、伸明のことばかり、考え、すでに、事実上の夫だった藤原ナオキのことを、すっかり、忘れている…
今、どうしているか、すっかり、忘れている…
それを、思うと、実に、自分勝手…
自分勝手な女だと、つくづく、自分を思う…
自分ながら、そう、思う…
ナオキは、五井一族の女性と結婚した…
そんな報道が、一度あったが、その後、すぐに、撤回した…
おそらく、裏が取れなかったのだろう…
裏=確信が、持てなかったのだろう…
だから、一度、テレビで、その報道を流して、すぐに、撤回した…
そういうことだろう…
しかし、それは、それで、置いておいても、なぜ、伸明と連絡が、取れないのか?
それが、わからない…
まさか、どこかに、監禁されているわけでも、あるまい…
それならば、事件になる…
警察が、介入する刑事事件になる…
が、
まさか、そんなことは、あるまい…
まさか、あるまい…
私は、思った…
私は、考えた…
が、
そんなバカなことを、いつまでも、考えていても、仕方がない…
刑事事件なら、いずれ、わかるだろう…
私に限らず、会社でも、大騒ぎになり、警察に、失踪届け出を、提出するだろう…
だから、今、私が、騒いでも、仕方がない…
仕方がないのだ…
そう、自分に、言い聞かせた…
そう、自分に、強く、言い聞かせた…
そうでなければ、考えてしまう…
嫌でも、考え続けてしまう…
だから、そう、思った…
強く、そう、思うことにした…
伸明の縁談の日は、それから、数日後、マミさんから、連絡がきた…
三週間後だった…
私は、随分、遅いなと、思った…
マミさんが、やって来てから、日が経ち過ぎていると、思った…
あのときの、マミさんの様子では、すぐにでも、伸明の縁談が、行われる様子だった…
早ければ、二、三日後にも、行われる様子だった…
そして、そんなことを、思っていると、つくづく、自分が、仕事から、離れたから、そんなふうに、思うのかも、と、思った…
遅まきながら、そう、気付いた…
普通に、会社員をしていれば、そうは、考えない…
何事も、まずは、自分の予定があり、相手の予定もある…
いくら、自分が、今日、明日、会いたいとか、なにか、イベントをやりたいと、思っていても、できない…
当たり前のことだ…
そして、もし、そんな自分勝手に、物事を考えるとしたら、それは、お子ちゃま…
幼稚園や小学生のお子ちゃまだ…
お子ちゃまの考えることだ…
社会人の考えることではない…
あらためて、思った…
あらためて、気付いた…
つまりは、自分が、今、ブランクがある…
社会人としてのブランクがある…
そう、気付いた…
そう、実感した…
なにしろ、この一年間、まともに、仕事をしていない(苦笑)…
ジュン君の運転するクルマに轢かれて、五井記念病院に入院…
そして、次には、オーストラリアに、癌の治療に行った…
まだ、日本では、認可されていない、癌の治療方法が、すでに、オーストラリアでは、実施されているためだ…
それを、行うために、オーストラリアに行った…
費用は、すべて、五井が出してくれた…
五井の女帝、諏訪野和子が出してくれた…
だから、私のこの一年は、仕事をしていない…
仕事をしてない=事実上、無職…
無職だ…
それゆえ、自分勝手に、考える…
何事も、自分優先で、考える…
そんなふうに、なってしまったのでは?
そう、思った…
そう、思ったのだ…
が、
それでも、無職でいても、学べたことは、ある…
FK興産で、ナオキの社長秘書を務めていたときは、学べなかったことが、学べた…
学べた=経験した…
FK興産で、秘書を務めていたときは、毎日が、ルーティン…
ルーティン=繰り返しだ…
どんな仕事も、そう…
大抵の仕事は、ルーティン…
繰り返しに過ぎない…
だから、退屈…
ある意味、退屈だ…
それが、この一年、退屈しなかった…
まさに、波乱万丈…
映画やテレビドラマのように、波乱万丈だった…
ゆえに、退屈しなかった…
まったく、退屈しなかった…
思えば、それが、楽しみ…
唯一の楽しみだった…
おおげさでなく、自分の命を賭しての、楽しみだった…
まさに、生きるか、死ぬかを、体験した上での、楽しみだった…
まるで、ドラマや映画の中に登場人物になったかのよう…
これが、普通なら、自分は、観客だったり、視聴者だったり、するわけで、自分が、体験するわけではない…
あくまで、見るだけ…
テレビやドラマの中の登場人物になるわけではない…
当たり前だ…
それゆえ、退屈しない…
まさに、退屈しない、一年だった…
まさに、自分の命を賭けて、スリリングな体験をした…
そんな一年だった…
そんな一年だったのだ…
伸明の見合いは、三週間後…
それまでに、なにか、することは、ないか?
考えた…
が、
思いつかない…
いや、
思いついた…
たった一つ、思いついた…
それは、私の体力を回復すること…
それだけだ…
率直に言って、今日、マミさんが、来てくれて、おおいに、助かった…
食料を買い出しに行かなければ、ならないのだが、やはり、一人では、限界がある…
限界=つまりは、一人では、大量の食料品を、家に持って帰れない…
私は、大食漢でも、なんでもないが、体調が、良くないので、あまり、外出は、したくない…
それゆえ、一回で、多くの食料品を買いだめしたい…
それは、一人では、ムリだ…
一人では、できない…
それを、考えれば、つくづく、今日、マミさんが、やって来てくれて、良かったと、実感した…
これで、おおげさでなく、一週間は、自宅に籠城できる(苦笑)…
自宅に、籠ることが、できる…
それで、ゆっくりと、体力を回復すれば、いい…
女、32歳…
まあまだ、若い…
まだまだ、老け込む年齢じゃない…
これから、結婚する年齢だ(爆笑)…
それが、まるで、六十代は、おろか、七十代、八十代のような言い草…
実に、ババア臭い(笑)…
我ながら、実に、ババア臭い(苦笑)…
そう、思った…
そう、思ったのだ…
きっと、これは、環境…
おそらく、私が、生まれ育った環境のせいかも、しれない…
私は、母と二人暮らし…
ずっと、二人暮らしだった…
それゆえ、お世辞にも、経済的に恵まれていなかった…
だから、大人になる…
金銭的に、恵まれていないゆえに、大人になる…
金銭的に、しっかりするようになる…
もちろん、そうでないものも、いるだろう…
生まれ育った環境が、貧乏だったから、必要以上に、周囲の人間を妬んだり、悪口を言ったり、陥れたりする人間もいるだろう…
が、
私は、そうでは、なかった…
私は、そう、ならなかった…
それは、なぜか?
たぶん、それは、私が、母に溺愛されていたからだろう…
私が、母に溺愛されることで、十分、満たされていたからだろう…
今になって、振り返れば、そう、思う…
実に、そう、思う…
そして、私のルックス…
これが、幸いしたのだろう…
私は、取り立てて、勉強が、できた方では、なく、スポーツも、決して、得意と言えるほどでは、なかった…
だから、取り柄がない…
ただ、ルックスだけは、良かった…
良かったのだ…
これが、幸いした…
なぜなら、家は、貧乏…
それに加え、勉強も、スポーツもダメ!
それでは、なに一つ、取り柄がない…
取り柄=ウリがない…
そして、そんな人間は、性格が、歪んでいる人間が、多い…
他人に言われるまでもなく、自分に取り柄がないことが、わかっているからだ…
それゆえ、頭が、良かったり、スポーツができたり、ルックスが、良かったりするものを、妬む…
嫉妬する…
これは、子供だけではなく、大人になっても、変わらない…
会社に入って、最初、まだ同期と差がつかないときは、いいが、明確に差が付きだすと、嫉妬する人間が、必ずいる…
そして、そんな人間は、大抵、なにか、劣っている人間が、多い…
学歴が、低かったり、ルックスが、悪かったりして、誰が、見ても、性格に難のある人間が、多い…
つまり、コンプレックスが、誰の目にも、明らかな場合が、多い…
本人が、意識する、意識しないに、関わらず、それが、丸出しになる…
周囲の誰の目にも、明らかになる…
私が、家が、決して、家が豊かではなく、勉強もスポーツも、得意ではなかったが、ルックスが、良かったのと、母の愛情に、恵まれたから、そんな人間にならなかったのかも、しれない…
そして、もう一つ…
これは、大人になって、つくづく実感したが、血の伝承…
要するに、そのひとの性格が、悪いのは、親の性格が、悪いから…
その子供の性格が、悪いのは、親の性格が悪いから…
そう、思うようになった…
そう、考えるようになった…
これは、私が、歳を取ったから…
私の周囲に、子供ができた、友人、知人が、それなりに、できたせいだろう…
さすがに、そんなことは、子供の頃は、考えもしなかった…
そんなことは、思いもしなかった…
そして、つまるところ、人間の性格は、血と環境が、関係すると、思う…
大いに、思う…
家が、貧乏であれば、必ずしも、性格が、歪むわけでは、ないし、性格が、歪むのは、少数派…
大半が良くも悪くもない普通の人間だ…
ただ、やはり、生まれが、良い、人間の方が、性格が、良い人間が、多い…
これは、ナオキに従って、さまざまな仕事関係のひとたちと出会って、実感した…
生まれが、良い人間ほど、性格が、のびのびとして、明るく、誠実な人間が、多い…
そう、実感した…
そして、それは、体験…
あくまで、私の個人的体験から、得た、感覚だ…
あるいは、感想だ…
これに、異論を唱えるものも、またいるだろう…
それは、きっと、私と違う体験をしているからだ…
それゆえ、私の意見に、同意できない…
当然のことだ…
そして、私の意見に同意できないのは、おそらく、良い人生…
大した苦労のない、人生を、送っている証拠だと、思う…
私の人生は、苦労の連続ではないが、それなりに、苦労をしてきた…
が、
ホントは、そんな苦労をする必要は、これっぽっちもない…
苦労など、なにもしない人生を送れるほうが、ずっと良い…
ただし、もし、苦労をするなら、若いときの方が、良い…
中年、老年になると、体力的にも、きつくなる…
若いときにできたことが、体力が落ちて、できなくなるからだ…
それが、わかるのは、私の年齢では、ミニスカを履くこと(笑)…
あんなに、短いスカートを、もし冬にでも、履いたら、寒くて仕方がない(涙)…
だが、これが、女子高生なら、寒くない…
いや、
寒くないわけではないが、寒さを我慢できる…
が、
私の歳では、ムリ…
我慢できない(涙)…
そういうことだ…
そして、それが、歳を取るということだ…
歳を取るということを、実感することだ…
私は、なぜか、そんなことを、考えた…
考え続けた…




