寿綾乃という女 第4部 24
私が、そんなことを、考えていると、
「…ありがとう、寿さん、恩に着るわ…」
と、マミさんが、言って、私の手を握った…
「…そんな、マミさん…おおげさですよ…」
「…いえ、おおげさじゃない!…」
マミさんが、力を、込める…
「…全然、大げさなんかじゃない!…」
マミさんが、真顔で、言った…
真剣な表情で、言った…
このマミさんは、小柄だが、エネルギッシュ…
実に、エネルギッシュで、パワフルだ…
それゆえ、目力が、凄い…
目の力が、凄い…
実に、強そうな目をしている…
そのマミさんが、たかだか、私が、伸明さんのお見合いに、参加するだけで、こんなに、感謝してくれるなんて…
私は、驚いたが、内心、もしや、なにか、裏があるのでは?
とも、考えた…
女、32歳…
さすがに、世の中に、そんなうまい話は、ゴロゴロ転がってない(苦笑)…
そう、気付いたのだ…
マミさんは、悪いひとではない…
いいひとだ…
が、
それでも、そんなに、強引に、私を伸明の縁談に誘うには、なにか、裏があるのでは?
と、思った…
思ったのだ…
結局、その日は、マミさんは、伸明の縁談の話を終えると、時間を置かずに、帰った…
「…私が、長居をしていると、寿さんは、私に気を遣うから…退院したばかりの、寿さんに、これ以上、負担をかけるわけには、いかないから…」
と、言って、帰った…
実に、正論…
反論できない…
マミさんは、そう言ってから、すぐに、帰った…
あっさりと、帰った…
マミさんが、帰ると、途端に、寂しくなった…
マミさんは、台風というと、失礼だが、キャラクターが、濃い(爆笑)…
カラダは、小さいが、目立つ…
別に、なにか、しているわけでないが、目立つ…
目立つのだ…
だから、そのマミさんが、いなくなると、喪失感に、見舞われた…
無性に、寂しくなった…
マミさんは、芸能人では、ないが、異様に、存在感がある…
これは、芸能人や政治家には、必須…
必須な条件だ…
どちらも、とにかく、目立たなければ、ならないからだ…
一度、会って、二度目に会ったとき、
「…お久しぶりです…」
とか、
「…ご無沙汰しています…」
と、こちらが、言っても、相手が、
「…失礼ですが、どちら様ですか?…」
と、返されたら、堪らない(爆笑)…
意地悪でもなく、すでに、相手が、以前、会ったことを、まったく、覚えていないからだ…
つまりは、それほど、印象が薄いからだ…
それでは、ダメ…
芸能人や、政治家としては、ダメだ…
失格だ…
私は、マミさんを、見て、そんなことを、考えた…
考えたのだ…
そして、そんなバカなことを、考えながら、やはり、つくづく、一人は、寂しいと、思った…
ずっと、以前、FK興産を立ち上げた頃だろうか?
ナオキの友人が、ナオキと話しているのを、思い出した…
ナオキの友人が、自分の友人の結婚式に、招かれたときの話を、ナオキに話していることを、思い出した…
そのナオキの友人の友人は、こう言ったそうだ…
「…オマエたちのように、実家住まいで、会社に通っていれば、オレは、まだ、この歳で、結婚しないよ…」
と、言っていたそうだ…
その友人は、二十代半ばで、結婚した…
しかしながら、結婚式に、わざわざ、遠方からやって来た、地元の友人たちは、誰も、まだ結婚していない…
つまりは、なぜ、結婚したのか?
それは、寂しかったから…
それが、一番の理由だったそうだ…
地元にいれば、休みの日に、昔ながらの友人と、会って、遊ぶことが、できる…
が、
地元を離れて、暮らしていては、それは、できない…
会社で、気の合う同僚に恵まれれば、いいが、それよりも、恋人が、できて、プライベートで、四六時中いっしょにいれば、その方が、楽しい…
ナオキの友人の友人は、そのパターンだったそうだ…
そして、それを、横で、聞いていた私は、
…それは、そうだ…
と、内心、納得した…
それは、なぜか?
それは、その友人の友人は、私自身でも、あったからだ…
私自身が、その友人と、同じパターンだったからだ…
私は、田舎から、ひとりで、都会にやって来た…
頼れるひとは、誰もいない…
偶然、高校時代、アルバイトをしようと、思って、ナオキと知り合い、いつのまにか、ナオキと男女の関係になった…
その前提に、私が、寂しいからと、いうことがある…
間違いなく、ある…
私は、ひとりぼっち…
ひとりぼっちだった…
だから、出会って、まもないナオキと男女の仲になった…
まだ、高校生にも、かかわらず、なった(苦笑)…
それも、これも、ナオキには、悪いが、自分が寂しいため…
ひとりぼっちでは、自分が寂しいためと、言うのが、大きい…
当時は、そこまで、思わなかったが、今は、そう、思う…
心の底から、そう、思う…
そして、そう、思うように、なったのは、なぜか?
それは、やはり、私が、歳をとったせいだろう…
32歳と歳を取ったせいだろう…
高校生だった当時の私は、そんなこと、考えもしなかった…
田舎で、母と二人暮らしだった、私なら、そんなこと、考えも、しなかった…
今、振り返ってみれば、つくづく、そう思う…
つくづく、そう実感する…
当時、自分は、寂しかったんだと、実感する…
そして、たまたま、私は、運が、よかった…
相手が、ナオキで、よかったと、実感する…
私は、ひとを見る目が、ないとは、思わないが、当時、まだ高校生…
32歳の今の私の目から見れば、お子ちゃま…
まちがいなく、お子ちゃまだ…
だから、どうしても、今の32歳の私から、見れば、ひとを見る目が、甘い…
ハッキリ言えば、騙されやすい(苦笑)…
私は、相手が、たまたまナオキだったから、いいが、これが、他の男だったら、どうだろう?
考えただけで、身の毛がよだつ(爆笑)…
くじで言えば、たまたま、当たりを引いただけ…
それだけだ…
運が、良かっただけだ…
ずっと以前、仕事関係で、知り合った女性と、会話したときに、彼女が、言ったことを、思い出す…
「…自分で、言うのも、なんだけれど、私の夫は、イケメンで稼ぐ…でも、今だったら、絶対、結婚しない…」
彼女は、そう呟いた…
たしか、当時、四十代後半の彼女は、そう断言した…
「…どうして、結婚しないんですか?…」
私が、尋ねると、
「…夫は、イケメンで稼ぐけれど、性格が、ダメ…家で、しょっちゅう、他人の悪口ばかり、言っている…私も、若いから、結婚したけれども、今は、絶対、ムリ…絶対、結婚しない…」
と、答えた…
私は、彼女の言葉に、唖然としていると、
「…寿さんは、まだ、結婚して、いないんでしょ?…」
と、聞かれ、
「…ハイ、していません…」
と、答えると、
「…だったら、気をつけることよ…」
と、彼女にアドバイスされた…
「…気をつける? なにに、気をつけるんですか?…」
「…寿さんが、歳を取るということ…」
「…それが、一体、なんなんですか?…」
「…歳を取れば、どんな人間も、若いときに比べ、ひとを見る目が、できてくる…」
「…それは、そうでしょうけれど…」
「…うちの会社にも、四十代で、独身の美人が、何人もいるけれども、誰も、結婚していない…」
「…えっ? していない?…」
「…そうよ…していない…」
「…どうして、していないんですか?…」
「…それは、彼女たちが、歳を取ったから…」
「…それが、一体、結婚と、どういう関係が?…」
「…歳を取れば、若い頃に比べ、誰でも、ひとを見る目が、少しは、出てくる…だから、余計に、結婚できなくなる…男を選べなくなる…」
「…」
「…だから、寿さんも、気をつけることよ…」
「…なんに、気をつけるんですか?…」
「…寿さん、美人だから、普段から、男選びのハードルが高いでしょ?…」
「…そんな…」
「…それが、歳を取れば、余計にハードルが高くなって、結局、結婚できなくなる…会社の美人が、そのパターン…」
「…そのパターン?…」
「…だから、結婚は、勢い…」
「…勢い?…」
「…清水の舞台から飛び降りるんじゃ、ないけれども、エイヤーと、覚悟を決めて、飛び降りるしかない…」
「…」
「…歳を取れば、若いときと違って、余計にアレコレ、考えるから、エイヤーと、覚悟を決めて、飛び降りるしかない…」
「…」
「…そして、たぶん、会社の同僚の美人たちは、その覚悟が、ないんだと、思う…」
「…覚悟がない…」
「…だって、結婚は、博打…一か八か、結婚してみなければ、わからない…男も女もわからない…」
「…」
「…だったら、そんな博打、最初から、しない方が、いい…会社の四十代の美人たちは、歳を取って、きっと、そんな考えになったんだと、思う…」
「…」
私は、なぜか、彼女の話をふと、思い出した…
名前も忘れた、彼女の話を思い出した…
そして、今は、そんな彼女の話を実感する…
つくづく、実感する…
その彼女と話したのは、ずっと以前…
5年どころじゃない、以前だ…
だから、実感する…
当時と、比べ、私が、歳を取ったから、余計に実感する…
結婚のハードルの高さを実感する…
そして、そんなことを、考えたとき、それは、きっと、伸明もいっしょだろうと、思った…
五井の若き当主も、同じだろうと、思った…
私と、同じだろうと、思った…
そして、そう、気付くと、余計に、伸明の縁談の相手が、気になった…
伸明が、どんな女と縁談をするのか、気になった…
もちろん、そのときの伸明の反応も、気になる…
が、
それ以上に、やはり、伸明の縁談の相手が、気になった(苦笑)…




