寿綾乃という女 第4部 224
今、昭子が、告白した、裏で、五井をまとめること…
五井家をまとめること…
それが、昭子が、亡き、両親から、託された使命だと、言うこと…
それは、なんとなく、わかっていた…
私には、わかっていた…
この昭子は、あの和子にも、負けず劣らずの女傑…
容易にひとを、まとめることが、できる…
そして、それは、才能…
持って生まれた才能だ…
私も、子供の頃は、わからなかったが、いくら、頭が良くても、ひとをまとめられない人間は、ひとを、まとめられない…
たとえ、東大や京大を、出ても、他人をまとめられない…
これは、頭の良さとは、違う、才能だからだ…
そして、この昭子には、妹の和子同様、ひとをまとめる才能がある…
だから、おそらく、この昭子は、両親から、その才能を見抜かれ、その才能を生かす術を託されたのだろう…
この昭子は、奔放…
若い頃には、異性関係に、奔放だった…
男関係に、奔放だった…
それゆえ、表舞台に立つことが、できない…
五井家の人間として、世間様の前に立てない…
五井家の当主夫人の立場であるにも、かかわらず、立てない…
立てば、過去の奔放な男関係を、世間に知られるからだ…
マスコミを通じて、世間に、知られる可能性が、高いからだ…
それゆえ、和子が、立った…
当主の建造といっしょに立った…
本当は、建造の義理の妹にも、かかわらず、立った…
それゆえ、事情を知らない人間は、建造と、和子は、夫婦だと、思っていた人間も、いるかも、しれない…
この昭子の両親は、昭子が、表舞台に立つことで、五井の名にキズがつくのと、同時に、昭子が、傷付くことを案じたのだろう…
表に出ることで、昭子の過去の奔放な行動が、マスコミの餌食にされることを、恐れたのだろう…
その結果、この昭子は、表舞台に出なかった…
そして、裏方に専念した…
裏で、五井十三家を束ねることに尽力した…
そういうことだろう…
この昭子の発言を聞いて、あらためて、思った…
そして、それは、このマミさんも、同じ…
同じだ…
この目の前の昭子や、昭子の妹の和子同様、ひとをまとめる力がある…
ひとの上に立てる才能がある…
それは、見ていれば、わかる…
そして、それは、残念ながら、伸明には、感じない…
そして、それを、言えば、ナオキも同じ…
伸明と、同じだ…
二人に、共通するのは、環境…
伸明は、五井家の人間として、生まれた…
それゆえ、生まれながら、容易に、ひとの上に立つことが、できた…
ナオキの場合は、やはり、ユリコの功績が、大きいだろう…
ナオキと夫婦だったときに、二人を中心に、会社を立ち上げた…
つまり、助走期間ではないが、最初の段階で、ユリコの力が、なければ、ナオキは、成功しなかったのでは、ないか?
ユリコが、ナオキの傍らに、いたからこそ、成功した…
そういうことだろう…
そして、飛行機ではないが、一度、大空に飛び立てば、助走の必要は、なくなる…
会社の立ち上げである、助走期間を過ぎて、規模もある程度大きくなったことで、ユリコの力は、必要なくなった…
そういうことだろう…
つまりは、ユリコは、きちんとナオキを社長として、会社の中心に据え、会社を安定させる環境を整えたということだろう…
要するに、この伸明も、ナオキも、誰かが、作り出した環境の中で、生きているということだ…
それゆえ、脆い…
それゆえ、弱い…
この二人には、頭の良いエリート特有の弱さを感じる…
要は、頭の中で、考えて、それを実行する…
現場の経験は、あまりない…
だから、現場のことが、あまりわからない…
そんなエリート特有の弱さを感じる…
それを、見抜いた、この昭子が、マミさんを、正式に、伸明の補佐役として、五井家に入らせようとしたのだろう…
マミさんは、強い…
外見は、元AKBの高橋みなみさんと似ているが、性格も、そう…
高橋みなみさん同様、ひとをまとまることが、できるからだ…
だからこそ、補佐役にピッタリ…
伸明を補佐するのに、ピッタリだ…
これまでも、このマミさんは、伸明を補佐してきたと、思うが、それは、正式な形ではない…
正式な形というのは、マミさんは、前の当主だった建造の愛人の娘…
それゆえ、正式に五井の人間とは、認められない…
しかしながら、この昭子の娘になれば、話は、変わる…
要するに肩書を得る…
この昭子と、養子縁組をすることで、正式に、五井家の人間と周囲に認められるからだ…
それゆえ、堂々と世間に出られる…
堂々と、マミさんは、公の場でも、伸明を補佐できる…
それを、狙ったのだろう…
この昭子は、狙ったのだろう…
私は、今さらながら、思った…
私は、今さらながら、考えた…
そして、それを、言われたマミさんは、戸惑った…
明らかに、戸惑って、動揺した…
「…そんな、叔母様…」
と、言って、動揺した…
「…いきなり、そんなことを、言われても…」
マミさんが、言う…
それを、聞いた伸明も、また、
「…そうだよ、母さん…」
と、マミさんに、助け舟を出した…
「…いきなりじゃ、ないわ…」
昭子が、言った…
「…すでに、マミさんの実母には、話をつけてある…」
仰天の事実を言った…
「…母に…」
マミさんが、驚いた…
「…マミさんのお母様は、もろ手を挙げて、喜んでくれたわ…」
「…母が?…」
「…マミさんには、失礼な言い方だけれども、マミさんのお母様は、マミさんの立場が、心苦しかったと、おっしゃっていたわ…」
「…母が…」
「…五井家の血は混じっているけれども、正式に五井家の人間だとは、認められない…それを、お母様は、気にしていた…」
「…」
「…だから、今回、マミさんを正式に、私の養女にしたいと、言ったら、もろ手を挙げて、喜んでくれた…」
昭子が、説明する…
それを、聞いた、マミさんは、なんとも、言えない表情をしていた…
なんと言って、いいか、わからない表情をしていた…
それから、控えめに、
「…いいの?…」
と、呟いた…
「…ホントに、いいんですか?…」
と、マミさんは、昭子に聞いた…
それから、次は、伸明にも、
「…いいんですか?…」
と、聞いた…
昭子は、
「…マミさんに、正式に、伸明を補佐してもらえたら、ありがたい…」
と、答えた…
一方、伸明はと言うと、これも、なんともいえない表情をしていた…
突然の昭子の提案に、明らかに、戸惑っていた…
「…いきなり、そんなことを、言われても…」
と、戸惑っていた…
「…第一、和子叔母様に、相談したんですか? 母さん?…」
「…当然、したわ…和子は、もろ手を挙げて、賛成したわ…」
「…」
次に、昭子は、マミさんを振り返り、
「…ホントはマミさん、アナタに、伸明のお嫁さんになって欲しかった…」
と、これも、仰天の言葉を言った…
マミさんは、それを、聞いて、固まった…
固まって、なにも、言えなくなった…
そして、それは、伸明も、同じだった…
唖然として、言葉を失った…
それを見て、昭子は、
「…アナタたち、二人は、兄妹といっても、血は繋がっていない…だから、ホントは、結婚してもらいたいのだけれども、そこまでは、望まないし、マミさんは、建造さんが、娘として、認知しているから、法律上も、結婚はできないと、思う…」
「…」
「…でも、マミさんを、正式に私の養女とすることで、堂々と、マミさんは、世間に出られる…伸明の妹として、世間に顔を見せることができる…」
昭子が、言う…
が、
伸明は、不満だった…
「…いきなり、そんなことを、言われても…」
と、不満だった…
それを、見た、マミさんは、なにも、言えなかった…
「…」
と、黙ったままだった…
私には、マミさんの気持ちがわかった…
痛いほど、わかった…
私とて、影の存在…
私は、本物の寿綾乃ではない…
それと、同じで、マミさんの立場は、微妙…
簿妙だからだ…
そして、そんな空気を察して、話を変えようとしたのか、どうかは、わからないが、ナオキが、突然、
「…ユリコは、どうなりましたか?…」
と、聞いた…
昭子に、聞いた…
これには、驚いた…
さっぱり、忘れていたからだ…
ユリコのことは、さっぱり、忘れていたからだ…
それを、聞いて、昭子は、笑った…
実に、楽しそうに、笑った…
「…今後、国内での、活動は、難しいでしょう…」
と、言って、笑った…
「…でも、それは、彼女の行動の報い…これまでの、彼女の行動の報い…」
と、昭子が、意味深に言う…
これを、聞いて、ナオキが、
「…どういう意味ですか?…」
と、昭子に、食ってかかった…
穏やかな言い方だが、食ってかかった…
それを、受けて、昭子は、言った…
穏やかに、言った…
「…藤原さんは、御存知かどうかは、わかりませんが、彼女は、投資業界では、鼻つまみものなんですよ…」
と、穏やかに、言った…
「…鼻つまみもの?…」
と、ナオキ。
「…だって、考えてみれば、わかるでしょ? 寿さん?…」
と、昭子が、いきなり、私に話を振った…
「…なにを、考えてみれば、わかるんですか?…」
と、私。
「…以前、彼女が、五井の分家から、五井ホールディングスの株を買い、和子に、買い取りを迫ったでしょ?…」
と、昭子。
「…ハイ…」
「…そのとき、あのユリコは、ヤクザから、購入資金を借りていた…おかしいとは、思わなかった?…」
昭子が、意外なことを、言った…
たしかに、言われてみれば、おかしい…
ユリコは、投資会社の代表だから、誰かから、資金を借りて、どこかの株を買い占めるのは、わかる…
それが、仕事だからだ…
しかしながら、ヤクザから、借りるのは、おかしい…
普通は、出資者を募って、資金を得るものだ…
いわゆるヤクザのやっている闇金ではないのだから、おかしい。
たしかに、おかしい。
私が、そう、思っていると、昭子が、
「…彼女、評判が、悪いのよ…」
と、再び、言った…
「…村上ファンドでは、ないのだけれども、出資者から、お金を集めて、株に投資するのは、いいのだけれども、失敗して、身をくらませたことが、何度も、あったの…だから、彼女の名前では、お金を集めることが、できない…それで、ヤクザから、借りるしか、なかったの…」
と、昭子が、言った…
仰天の事実を言った…




