↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
220/225

寿綾乃という女 第4部 220

 病室の扉が、ゆっくりと、開いた…


 そして、その人物の姿を見て、驚愕した…


 それは、長谷川センセイ…


 五井記念病院での、私の主治医だった…


 …なぜ?…


 …どうして、ここに、長谷川センセイが、いるんだろ?…


 私は、パニクった…


 一瞬、パニクった…


 が、


 すぐに、わかった…


 すぐに、思い出した…


 この長谷川センセイは、五井記念病院を退職して、この北東病院に勤務している…


 それを、思い出した…


 思い出したのだ…


 私が、


 「…ご無沙汰しています…」


 と、丁寧に腰を折って、長谷川センセイに、挨拶をしようと、したところに、私を無視して、長谷川センセイは、まっすぐに、昭子の元へ、行った…


 迷うことなく、昭子の前に行った…


 そして、


 「…ご無沙汰しています…長谷川です…この度、五井一族と名乗ってよいと、許可を得た、五井西家の血を引く長谷川です…」


 と、挨拶した…


 それから、


 「…諏訪野和子さん…」


 と、続けた…


 それを、見て、私は、この長谷川センセイが、誤解している…


 目の前の昭子と、和子を、誤解していると、思った…


 今さら、言うまでもなく、目の前の昭子と、あの五井の女帝の和子は、双子…


 双子だ…


 一卵性双生児の双子だ…


 それゆえ、外見が、そっくり…


 外見が、瓜二つだ…


 だから、ちょっと見には、わからない…


 どっちが、昭子で、どっちが、和子か、わからない…


 だから、誤解した…


 この長谷川センセイが、誤解したと、思った…


 ナオキは、どう思うか、わからないが、私や、マミさんや、伸明、そして、当の昭子本人は、誤解したと、思った…


 が、


 誰もなにも、言わなかった…


 長谷川センセイの間違いを指摘しなかった…


 それどころか、昭子は、ただ、


 「…伸明が、お世話になっています…」


 と、私が、本来、しようとしたように、丁寧に腰を折って、長谷川センセイに、接した…


 これでは、長谷川センセイは、誤解したまま…


 この昭子を、和子と誤解したままだ…


 私は、一瞬、躊躇ったが、その間違いを指摘しようと、思った…


 長谷川センセイに指摘しようと、思った…


 が、


 止めた…


 偶然、伸明を見ると、伸明が、私に向かって、無言で、首を横に振ったからだ…


 それを、見て、伸明は、


「…真実を告げるな!…」


と、私に、言っていると、思った…


「…誤解させたままでいろ!…」


と、言っていると、思った…


それゆえ、私は、黙った…


なにも、言わなかった…


それから、急いで、マミさんを、見た…


マミさんが、私同様、真実を告げるかもと、思ったからだ…


が、


マミさんも、私同様、なにも、言わなかった…


硬い表情のままだった…


それゆえ、


…なぜ?…


と、思った…


…どうして?…


と、思った…


が、


やはり、なにか、理由があるのだろうと、察した…


あるいは、


…このまま、誤解させていたほうがいい…


のかも、しれない…


残りは、当の昭子本人と、ナオキだったが、二人とも、なにも、言わなかった…


当の昭子本人も、そうだが、ナオキも、また、なにも、言わなかった…


まあ、ナオキの場合は、こんなときに、余計なことは、言わない…


それが、わかっている…


この十五年の付き合いで、わかっている…


そして、そんなことを、考えていると、この長谷川センセイ…


長谷川センセイ自身も、かつて、この昭子と面識があることに、気付いた…


かつて、私が、五井記念病院に、入院したときに、この昭子が、私を見舞ったからだ…


だが、正確には、そのときに、この長谷川センセイが、同席したかどうかは、忘れてしまった…


覚えていなかった…


当たり前のことだ…


 そのときは、長谷川センセイは、主役ではなかった…


 脇役だった…


 今が、主役かと、言えば、怪しいが、それでも、長谷川センセイは、キーパーソンになっている…


 今回の件のキーパーソンになっている…


 なにしろ、あのハルカは、この長谷川センセイの妹…


 血の繋がっていない、義理の妹だ…


 つまりは、伸明の見合い相手だったハルカの義理の兄だ…


 自殺した、ハルカの義理の兄だ…


 この長谷川センセイが、五井西家の当主と知り合い、ハルカを伸明に紹介した…


 五井家の血を継ぐものとして、紹介した…


 それが、すべての始まり…


 今回のすべての始まりだ…


 が、


 考えてみれば、あのハルカは、この長谷川センセイと、血が繋がっていない…


 つまりは、あのハルカは、五井一族の血が、流れていない…


 ということは、どうだ?


 そもそも、あのハルカは、伸明の見合い相手の資格がない…


 五井一族の血が、流れていないのだから、伸明と見合いをする、資格がない…


 五井一族は、同じ五井一族の人間と、結婚するのが、原則…


 さもなければ、血が薄まるからだ…


 五井の歴史は、四百年…


 そして、五井には、十三家がある…


 分家が十三家もある…


 つまりは、それほど、血が薄まっていると、いうこと…


 四百年の歴史の中で、同じ五井一族といっても、他人並みに、血が薄まっているということだ…


 が、


 それでは、団結ができない…


 いざというときに、一族の団結ができない…


 それゆえ、一族同士の結婚を奨励した…


 もはや、他人並みに薄くなった、一族では、いざとなったら、団結は、難しい…


 だから、一族内で、結婚する…


 簡単に言えば、再び、一族となるということ…


 血が繋がった一族となるということ…


 そうなれば、団結が、容易だからだ…


 それゆえ、一族内で、結婚を奨励する…


 が、


 そもそも、あのハルカは、一族では、なかった…


 五井の血は、一滴も、ハルカのカラダに流れていなかった…


 つまりは、騙した…


 この長谷川センセイは、騙した…


 あの西家夫妻を騙したということになる…


 私は、今さらながら、それに、気付いた…


 気付いたのだ…


 そして、そんな事実に、ようやく、気付いた私の眼前で、長谷川センセイが、お調子をとっていた…


 昭子のお調子をとっていた…


 昭子を和子と誤解したまま、調子をとっていた…


 長谷川センセイは、昭子の手を握り、


 「…今日は、本当に、お会いできて、嬉しいです…」


 と、これでもかと、昭子を持ち上げていた…


 が、


 昭子は、冷ややかだった…


 それが、態度に現れていた…


 昭子は、真っ先に、


 「…あら、長谷川センセイ…」


 と、長谷川センセイの名前を読んでから、


 「…この度は、ホントに、ご愁傷さまです…」


 と、言った…


 いきなり、言った…


 途端に、長谷川センセイの動きが、止まった…


 それまで、熱心に、昭子の手を掴んで、昭子の手を上下に揺すっていた手が、止まった…


 ピタリと、止まった…


 昭子は、続けて、


 「…お兄様としては、妹さんが、亡くなったことで、胸が張り裂ける思いだったでしょう…」


 と、言った…


 もちろん、皮肉だ…


 長谷川センセイの顔色が、変わった…


 明らかに、変わった…


 青白くなったとまでは、言えないが、明らかに、硬くなった…


 表情が、硬くなった…


 自分にとって、マズい展開になった…


 自分にとって、不利な展開になった…


 そう、長谷川センセイが、思ったのは、傍から、見ていても、わかった…


 十分、過ぎるほど、わかった…


 長谷川センセイは、硬い表情のまま、


 「…ありがとうございます…」


 と、頭を下げた…


 その頃には、それまで、握っていた昭子の手も、離していた…


 昭子は、次いで、


 「…まして、血が繋がった妹さんならば…」


 と、告げた…


 その言葉に、長谷川センセイの顔色が、またも、変わった…


 それまでの硬い表情を超えて、明らかに、顔色が、青くなった…


 青白くなった…


 つまりは、この昭子は、長谷川センセイのウソに気付いている…


 そう、思ったに、違いなかった…


 この長谷川センセイは、この昭子を、和子と、誤解したままだが、長谷川センセイのついたウソに、気付いていると思ったに違いなかった…


 だから、絶句した…


 長谷川センセイは、絶句して、なにも、言えなかった…


 昭子の前で、なにも、言えなかった…


 長谷川センセイは、緊張した表情で、ポツリと、


 「…実は…」


 と、切り出した…


 が、


 その後が、続かなかった…


 しばらく間があった…


 それゆえ、昭子が、


 「…実は、なんですか?…」


 と、言った…


 追い打ちをかけた…


 その昭子の言葉に抗うことは、できずに、

長谷川センセイは、


 「…実は、ハルカとは、血が繋がってないんです…」


 と、告白した…


 青ざめた顔で、告白した…


 「…えっ? 血が繋がってない?…」


 と、昭子は、さも、驚いたフリをした…


 いかにも、今、知ったかのフリをした…


 昭子の言葉に、


 「…ハイ…そうです…」


 と、長谷川センセイは、頭(こうべ)を垂れたまま、言うしかなかった…


 が、


 昭子は、それを、狙っていた…


 即座に、


 「…だったら、そもそも、アナタの妹さんに、伸明の見合い相手の資格は、ないんじゃないんですか?…」


 と、言ったからだ…


 「…伸明の結婚相手は、五井一族の血が流れているのが、前提…五井一族は、同じ五井一族から、結婚相手を、選ぶ…それが、原則…まして、伸明は、今、五井の当主…五井本家の当主…それを、曲げるわけには、いかない…」


 昭子が、熱弁する…


 それを、聞いた長谷川センセイは、以前にも、まして、頭(こうべ)を、下げた…


 そして、


 「…すいません…」


 と、詫びた…


 蚊の鳴くような、小さな声で、詫びた…


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。