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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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219/225

寿綾乃という女 第4部 219

 伸明は、続ける…


 「…それで、納得した…彼女が、どうして、あの見合いにやって来たのか、わかった…」


 伸明が、淡々と説明する…


 あの見合いの内側を説明する…


 私は、驚いたが、驚いたのは、私だけではない…


 皆、驚いた…


 マミさんも、ナオキも、昭子さんも、驚いた…


 「…それで、伸明…アンタは、どうしたの?…」


 と、昭子が、聞いた…


 「…放っておくことにした…」


 「…放っておく? どうして、放っておくんだい?…」


 と、昭子。


 「…下手に動けば、こちらの揚げ足を取られかねないからね…」


 「…」


 「…だから、あえて、なにも、しなかった…彼らが、どう、攻めて来るのか、見極めたかった…」


 伸明が、語る…


 自らの胸中を語る…


 「…それで、あのハルカさんが、伸明の子供を妊娠したと、言ってきたのかい?…」


 「…そう…」


 伸明が、ぶっきらぼうに、答えた…


 なぜ、ぶっきらぼうに、答えたのか?


 それは、やはり、嫌だから…


 自分の触れられたくないことだからだろう…


 当たり前のことだ…


 しかも、質問したのが、実母…


 伸明の産みの母だから、余計、嫌なのだろう…


 当たり前だった…


 「…で、オマエは、それを、信じなかった…」


 昭子の質問に、伸明は、無言で、頷いた…


 それを、見た、マミさんが、


 「…どうして、信じなかったの?…」


 と、直球で、聞いた…


 伸明は、間髪入れずに、


 「…金目当てだと、思ったから…」


 と、答えた…


 ぶっきらぼうに、答えた…


 それは、わかる…


 実に、わかる…


 伸明の立場なら、実に、わかる…


 が、


 それを、聞いた、昭子は、


 「…でも、それが、真実だった…」


 と、こちらも、ぶっきらぼうに、言った…


 「…しかも、それが、わかったのは、ハルカさんが、自殺してから…」


 昭子の言葉に、一同が、沈黙した…


 さすがに、なにか、言える状況では、なかった…


 が、


 それを、考えても、そもそも、どうして、この伸明が、ここにいるのか、わからない…


 なぜ、今、五井北東家の団郁馬の経営する北東病院にいるのか、わからない…


 それが、謎…


 謎だった…


 それを、思いついたので、私は、話を変えることにした…


 さすがに、ハルカさんの死の話題は、重い…


 だから、話を変えることにした…


 「…失礼ですが、伸明さんは、なぜ、この北東病院にいるのですか?…」


 と、言って、変えることにした…


 私の質問に、伸明は、絶句した…


 顔色が、変わった…


 が、


 その答えを言ったのは、伸明ではない…


 昭子だった…


 伸明の実母の昭子だった…


 「…逃げ出したのよ…」


 と、あっさりと、言った…


 「…逃げ出した? 誰からですか?…」


 「…和子に決まっているでしょ?…」


 「…和子さん?…」


 私は、仰天した…


 まさか、この場で、和子の名前が出て来るとは、思わなかったからだ…


 あの五井の女帝の話題が、出て来るとは、思わなかった…


 「…和子のいる、五井記念病院に入院するのは、嫌だったんでしょ? 和子にハルカさんのことを、根掘り葉掘りされるのは、嫌だったんでしょ?…」


 昭子が、告げる…


 そうだったのか?


 それで、納得が、いった…


 ただ、単純に、この伸明は、和子の傍に、いたくなかったのだ…


 たとえ、和子が、入院中で、伸明の病室を訪れる体力が、あるかどうかは、わからないが、それでも、同じ病院に入院したくは、なかったのだろう…


 ハルカの件に、対して、いずれ、根掘り葉掘り、詮索されるのは、わかっている…


 それゆえ、それを、避けた…


 裏を返せば、それほど、和子を恐れていると、言える…


 自らが、当主の座についているにも、かかわらず、実質的な五井のリーダーの和子を恐れているのが、わかる…


 それを、ずばりと、突いた…


 昭子が、突いた…


 血の繋がった実の母ゆえに、あっさりと、それを、見抜いたのだろう…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 が、


 マミさんは、納得しなかった…


 昭子の言葉に、納得しなかった…


 「…そんな…叔母様…伸明さんが、和子叔母様をそんなに、恐れていたなんて…」


 と、昭子に反論したからだ…


 が、


 昭子は、即座に、


 「…マミさんには、わからないだけ…」


 と、マミさんの言葉を却下した…


 「…私には、わからないだけ?…」


 と、マミさん。


 「…この伸明は、和子が、苦手…それは、子供の頃から、変わらない…」


 「…どうして、苦手なんですか?…」


 と、マミさん。


 「…それは、和子が、厳しいからよ…」


 と、昭子。


 「…厳しいからって?…」


 「…和子は、ずっと前から、建造さんから、自分の後継者は、伸明だと、知らされていた…だから、伸樹が、幼いときから、和子は、伸明に、厳しかった…将来の五井の当主になる人間だから、和子は、伸明に、厳しく接した…それが、伸明のトラウマになっているの…」


 昭子の説明に、マミさんは、


 「…知らなかった…」


 と、感嘆した…


 「…でも、どうして、叔母様は、そんなことが、わかるんですか?…」


 「…それは、自分の子供だから、わかるのよ…」


 と、昭子が、あっさりという…


 「…マミさんは、早く、結婚して、自分の子供を産みなさい…そうすれば、わかる…手に取るように、わかる…」


 昭子の言葉に、マミさんは、なにも、言えなかった…


 マミさんは、独身…


 私と、同じく、独身だ…


 しかしながら、私には、ナオキがいる…


 事実上の夫に近い存在の藤原ナオキがいる…


 が、


 マミさんには、いない…


 たぶん、いない…


 直接、聞いたわけでは、ないが、たぶん、いない…


 それゆえ、マミさんは、なにも、言わなかった…


 昭子の言葉に、なにも、言わなかった…


 いや、


 言えなかった…


 が、


 それでも、どうして、伸明が、ここにいるのか、わからない…


 なぜ、敵対していた、五井北東家の団郁馬の支配する、北東病院に入院しているのか、わからない…


 いくら、和子の入院する五井記念病院が、嫌だからと、言っても、わからない…


 なぜ、北東病院に伸明が、入院しているのか、わからない…


 その疑問をぶつけたのが、マミさんだった…


 やはり、私と同じように、疑問だったらしい。


 「…でも、どうして、伸明さんは、この北東病院に入院したの? いくら、和子叔母様が、嫌でも、ほかの病院も、あっただろうに、一体、なぜ?…」


 その答えは、伸明ではなく、昭子が、言った…


 「…団郁馬が、本家に屈服したからよ…」


 と、マミさんに、告げた…


 「…屈服?…」


 と、マミさん。


 「…マミさんも、さっき、見たように、団郁馬は、本家に、屈服した…伸明に屈服した…だから、わざと、伸明は、この北東病院に、入院した…本当に、団郁馬は、伸明に屈服したのか、知りたい…そのためにも、わざと、この北東病院に入院した…この北東病院に入院することで、団郁馬が、どう、伸明を扱うか、わかる…本当に、本家に、屈服したのか、わかると、思ったのでしょ?…」


 昭子が、笑って、言う…


 伸明の胸中を笑って、言う…


 そして、それを、聞いたマミさんが、


 「…伸明さん、ホント? 叔母様の言っている通り?…」


 と、聞いた…


 伸明に、聞いた…


 伸明は、笑った…


 照れ臭そうに、笑った…


 その笑いで、昭子の言うことが、真実だと、わかった…


 それを、見た、マミさんが、


 「…叔母様…さすが…よく、伸明さんの考えていることが、おわかりになりましたね…」


 と、昭子を褒めた…


 昭子は、


 「…それは、親子だから…」


 と、笑った…


 「…さっきも、言ったように、親子だから、伸明が、なにを、考えているか、わかる…」


 昭子が、告げる…


 それから、続けて、


 「…でも、たぶん、それだけじゃないでしょ?…」


 と、昭子が、言った…


 「…それだけじゃないって…」


 と、マミさんが、聞く。


 「…それは、一体?…」


 と、マミさんが、呟く。


 伸明は、それには、答えず、沈黙を守ったまま…


 ただ、不敵に、笑っていた…


 無言で、笑っていた…


 が、


 それでは、マズいと、思ったのか、


 「…今に、わかります…」


 と、意味深に、言った…


 実に、意味深に言った…


 ちょうど、そのときだった…


 伸明の言葉が、終わったと、ほぼ、同時に、まるで、それに、合わせるかのように、ドタドタと、廊下を歩いている音がした…


 その音が、全員に、聞こえた…


 この病室にいる、全員に聞こえた…


 それを、聞いた昭子が、


 「…随分、うるさいわね…患者さん、急病かしら?…」


 と、呟いた…


 誰かに、尋ねるわけでは、ない…


 誰かに、同意を得たいわけでは、ない…


 ただの独り言…


 私には、そう、聞こえた…


 私、寿綾乃には、そう、聞こえた…


 が、


 その足音は、私たちのいる、病室の前で、ピタリと、止まった…


 私は、内心、


 …えっ?…


 と、思った…


 それは、私だけでは、ない…


 ここにいる全員が、思わず、顔を見合わせた…


 …まさか、この病室に、用事がある?…


 誰もが、そう、思ったからだ…


 だから、全員が、顔を見合わせた…


 …誰?…


 …一体、誰が、入って来るの?…


 私たち全員が、病室の扉を見た…


 そして、私たち全員の視線を、集める中、病室の扉が、開いた…


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