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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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218/225

寿綾乃という女 第4部 218

 ナオキの言葉に、伸明が、反応した…


 これまで、能面のように、無表情だった、伸明が、反応した…


 「…ウソだろ?…」


 と、言って、反応した…


 「…ウソじゃないですよ…」


 と、ナオキが、穏やかに、言った…


 「…彼女は、ボクに、言いました…」


 「…なんて、言ったんですか?…」


 「…藤原さんも、お金持ちで、イケメンだけれども、私は、藤原さん以上のお金持ちを知っているってね…」


 「…」


 「…もちろん、この世の中には、ボク以上のお金持ちは、ごまんといる…でも、彼女が、言うには、そのお金持ちは、ボクに負けないぐらいの長身のイケメンだと、言った…そう言われると、選択肢が、限られてくる…」


 「…で、それが、伸明さんだと、わかったの?…」


 と、私は、ナオキに、聞いた…


 「…まさか?…」


 ナオキが笑う…


 「…そんな都合よく、諏訪野さんと、結び付けないよ…」


 「…だったら、どうして?…」


 「…綾乃さんだよ…」


 「…私?…」


 「…そう、綾乃さんが、諏訪野さんの見合いの話をボクに、しただろ? それと、さっきも言ったネットニュース…それで、ピンと来たんだ…」


 ナオキが、説明する…


 「…彼女は、ひとあしらいがうまかった…ボクも、短い間だけれども、彼女と接して、それを、感じた…たぶん、水商売が慣れているんだと、感じた…」


 「…」


 「…でも、それだけ…まさか、その彼女が、諏訪野さんの見合い相手で、しかも、諏訪野さんの子供を身籠っていたなんて、考えも、しないよ…」


 ナオキが、言った…


 実に、納得することを、言った…


 それを、聞いて、ポツリと、伸明が、聞いた…


 「…失礼ですが、藤原さんは、ハルカさんを抱いたんですか?…」


 と、聞いた…


 この質問には、仰天した…


 あまりの直球な質問に仰天した…


 が、


 ナオキは、驚かなかった…


 冷静に、首を横に振った…


 「…いいえ…」


 と、言って、首を横に振った…


 「…どうして、ですか?…」


 と、今度は、伸明が、ナオキとは、真逆に、熱を帯びた感じで、聞いた…


 「…どうして、ハルカさんを、抱かなかったんですか? 彼女は、美人ですよ…」


 伸明の問いかけに、ナオキは、笑った…


 不敵に、笑った…


 「…ボクも、諏訪野さんと、同じですよ…」


 と、言って、不敵に笑った…


 「…同じ? なにが、同じなんですか?…」


 「…相手選び…口の軽い女と、そういう関係には、ならない…」


 「…」


 「…ボクは、綾乃さんが、思っているほど、女関係に奔放な男じゃないですよ…」


 ナオキが、笑って言う…


 私に対して、言うというより、伸明に対して、言う…


 それゆえ、私ではなく、伸明が、


 「…それは、どういう意味ですか? 藤原さん?…」


 と、聞いた…


 「…今も言ったように、ボクも、諏訪野さんと、同じです…」


 「…同じ? なにが、同じなんですか?…」


 「…諏訪野さんほどじゃないですけれども、守るべきものが、ある…」


 「…守るべきもの?…」


 「…諏訪野さんが、五井家を守ろうとしているように、ボクは、ボクの経営する会社やボクのブランドイメージを、守ろうとしている…」


 「…藤原さんのブランドイメージ?…」


 「…これでも、少しは、世間に名前が知られているものですから…」


 ナオキが、笑う…


 たしかに、ナオキは、週一で、テレビで、キャスターをしている…


 しかしながら、著名な芸能人ほどの知名度はない…


 言わば、知る人ぞ、知るという感じ…


 圧倒的な知名度はないが、そこそこに、世間に知られている…


 そして、それが、目的…


 ナオキが、テレビのキャスターを受けた目的だ…


 イケメンな自分のルックスを武器にして、テレビに出演して、自分の経営する会社の知名度を上げる…


 それが、目的だ…


 つまりは、自分自身が、広告塔になる…


 FK興産の広告塔になる…


 それが、目的…


 だから、今、ナオキが、言ったように、どこでも、誰とでも、美人なら、寝るわけはない…


 その美人が、マスコミに垂れ込んだり、ネットで、暴露されては、困る…


 藤原ナオキのブランドイメージに、傷がつくからだ…


 だから、慎重になる…


 たとえ、女遊びをするにしても、慎重になる…


 が、


 おそらくは、このナオキと伸明の差…


 この差がなにかと、問われれば、生まれの差…


 平凡な家庭に生まれたのか? 


 お金持ちの家庭に生まれたか?


 その差だ…


 そして、その差が、おそらく、二人の女選びに出る…


 平凡な家庭に生まれたナオキの方が、女を見る目がある…


 ひとを、見る目がある…


 片や、お金持ちのボンボンに生まれた伸明の方が、女を選ぶ目がない…


 それは、環境による…


 育った環境による…


 一般人の中で、育ったナオキの方が、色々な人間に属性がある…


 免疫がある…


 それが、伸明には、ない…


 その差だ…


 だから、伸明は、ハルカに騙され、ナオキは、騙されなかった…


 それが、大きい…


 もちろん、伸明だって、ナオキ、同様、警戒する…


 いや、


 ナオキ以上に、警戒する…


 五井の当主だからだ…


 五井の看板を背負っているからだ…


 伝統ある五井の看板を背負っているからだ…


 だが、甘い…


 ナオキに比べて、甘い…


 しかしながら、それを、責めることは、できない…


 伸明は、全力でやっているが、甘い…


 ひとを見る目が甘い…


 それが、答えだからだ…


 それが、現実だからだ…


 そして、私が、そんなことを、考えていると、マミさんが、


 「…でも、意外だった…」


 と、ポツリと、漏らした…


 「…意外? なにが、意外なんですか?…」


 と、ナオキ。


 「…伸明さんの女関係…これまで、一度も、聞いたことがないから、意外だった…驚いた…」


 マミさんが、実感を込める…


 私は、それに、同意した…


 激しく、同意した…


 たしかに、これまで、伸明の女関係は、聞いたことが、なかった…


 それが、こんな形で…


 こんな形で、明るみになるなんて、夢にも、思わなかった…


 まさに、夢にも、思わなかったのだ…


 そして、マミさんの発言を聞いた昭子が、一言、


 「…脇が甘いのよ…」


 と、吐き捨てた…


 「…脇が甘いって、そんな叔母様…」


 と、マミさん。

 

 「…今、藤原さんが、言ったように、女を見る目…他人を見る目が、欠けている…圧倒的に、欠けている…だから、あんな女に騙される…」


 昭子が、辛辣に、言った…


 が、


 それに、伸明が、反論した…


 それまで、ほぼ、沈黙を守ってきた、伸明が、反論した…


 「…わからなかったわけじゃない…」


 と、反論した…


 これには、驚いた…


 いや、


 驚いたのは、私だけじゃない…


 マミさんも、ナオキも、驚いた…


 そして、マミさんが、


 「…どういうこと?…」


 と、伸明に、聞いた…


 直球で、聞いた…


 「…彼女が、あのハルカさんが、誰かの差し金で、動いていたのは、わかった…」


 と、伸明が答える…


 「…誰かの差し金って、どういうこと?…」


 と、マミさん。


 「…ボクに近寄って来る女は、皆、疑ってかかる…」


 「…えっ?…」


 と、マミさん。


 「…背後に、誰かいないかとか、ボクの地位を知って、近寄ってくるのか、考える…」


 「…」


 「…彼女の場合は、それを、感じさせなかった…だから、付き合えた…」


 「…それって、もしかして、それほど、彼女が、自分の素性を隠すのに、長けていたと、いうことですか?…」


 と、ナオキが、聞く。


 「…たぶん、そうかも、しれない…」


 伸明が、答える…


 「…でも、ボクには、わからなかった…ただ、いっしょに、酒を飲んで、騒ぐには、楽しい相手だったと、いうほかは、ない…」


 伸明が、弁明する…


 「…だから、見合いの席に、彼女が、やって来たことは、仰天したし、彼女の態度にも、仰天した…」


 「…仰天したって、どう仰天したの?…」


 と、マミさん。


 「…ボクを、まったく、知らない人間のように、接したことに、まずは、驚いた…」


 「…えっ?…」


 「…それまで、見知った相手…男女の関係にあった相手だ…それが、さも、初めて、会ったような感じで、ボクに接した…これで、戸惑わなければ、どうかしている…」


 「…」


 「…でも、しばらく、彼女の態度を見ていると、彼女も、緊張していることが、わかった…緊張しながらも、ボクと、知り合いだと、いうことが、周囲に、わからないように、わざと、高飛車な態度で、ボクに対して、演技をしていることが、わかった…」


 「…」


 「…だから、それに、ボクも、乗っかることにした…彼女の態度に、合わせることにした…あんなことは、人生、初めてだった…」


 「…」


 「…それで、あの場は、収まった…」


 「…」


 「…でも、当然、後で、連絡はする…なぜ、あのとき、やって来たのか? どうして、あんな態度を取ったのか、問い詰めた…」


 「…」


 「…でも、彼女は、知らなかったらしい…」


 「…知らなかったって、ウソ!…」


 と、マミさん。


 「…いや、ホント…」


 と、伸明。


 「…どうして、知らなかったんですか?…」


 と、ナオキが、聞く。


 「…事前に、彼女に教えなかった…見合い相手が、ボクだってことを…写真も、見せなかったらしい…」


 「…そんな…」


 と、マミさん。


 「…でも、彼女は、見合いを依頼した兄に、恩義があり、そんな条件でも、見合いを断れなかったらしい…」


 「…恩義って、なに?…」


 昭子が、聞いた…


 「…ずばり、お金…学生時代の学費…」


 「…えっ? 学費ですか?…」


 と、私。


 まさか、学費の話が、ここで、出て来るとは思わなかった…


 「…彼女が、言うには、親と、うまくいっていなかったらしい…それで、歳の離れた兄に、援助してもらって…それが、あるから、見合いの件を断れないし、条件もなにもない…自分は、ただ、従うだけだと、言っていた…」


 伸明が、告白する…


 あの日の見合いの内側を告白する…


 私は、仰天した…


 いや、


 私だけではない…


 その場にいる全員が、仰天した…


 伸明以外の全員が、仰天した…


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