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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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寿綾乃という女 第4部 22

 私は、マミさんが、なにを言うか、待った…


 飲んでいたペットボトルのお茶を、マミさん同様、テーブルに置いて、待った…


 マミさんの言葉を待った…


 すると、そんな私を見て、マミさんが、


 「…寿さん、そんな身構えないで…」


 と、笑って、言った…


 たぶん、私の緊張を和らげるため…


 それゆえ、わざと、言ったと、思う…


 が、


 それとも、もしかしたら、本当に、私が、それほど、緊張して、見えたのかも、しれない…


 しかし、それは、私には、わからない…


 自分では、自分のことは、わからない…


 そして、そんなふうに、自分のことを、思っていると、


 「…藤原さんのことだけれど…」


 と、マミさんが、切り出した…


 マミさんの兄の伸明ではなく、ナオキのことを、真っ先に、切り出した…


 これは、おそらく、私にとって、大切なのは、伸明ではなく、ナオキ…


 私の事実上のパートナーである、藤原ナオキが、私にとって、大切だと、マミさんが、思っている証拠だった…


 そして、それは、私にとっても、同じ…


 同じだった…


 言うなれば、ナオキは、現実…


 伸明は、憧れだからだ…


 ナオキは、長年の私の事実上のパートナー…


 公私ともに、私の長年のパートナーだった…


 もう、十年超、付き合っている…


 対する、伸明は、知り合って、まだ、一年も経っていない…


 おまけに、まだ、寝たことも、ない(爆笑)…


 そんな関係だ…


 なにしろ、伸明は、五井家当主…


 400年の歴史を持つ、大財閥の当主だ…


 私自身、おおげさでなく、知り合えたのが、奇跡…


 奇跡に他ならない…


 それゆえ、正直、伸明との結婚に憧れるが、現実的では、ない…


 現実は、ナオキ…


 私にとっての現実は、ナオキ…


 藤原ナオキだ…


 あらためて、思った…


 そして、それを、このマミさんは、見抜いている…


 だから、伸明よりも、先に、ナオキのことを、話題にした…


 そういうことだろう…


 そして、私が、そんなことを、考えていると、


 「…まだ、わからないの…」


 と、マミさんが、申し訳なさそうに、告げた…


 「…わからない? …どうして、わからないんですか?…」


 「…叔母様が、倒れて、五井の本家の力が、なくなっているの…」


 「…えっ? なくなっている?…」


 「…五井の本家は、おおげさじゃなく、和子おばさまが、一人で、支えていた…伸明さんは、まだ四十ちょっと…だから、分家の、伸明さんの親世代のひとたちに、伸明さんは、頭が上がらない…」


 「…」


 「…はっきり言えば、今、叔母様が、入院したことで、本家の求心力が、急速に失われているの…」


 マミさんに、そう言われると、納得するしか、なかった…


 私が、入院していたときに、伸明が、見舞いに来てくれたが、そのときに、伸明が、今、五井西家の女性と、結婚させられそうに、なっていると、嘆いていた…


 後ろ盾の和子が、入院したことで、これ幸いと、半ば、強引に、五井西家が、伸明の結婚を画策したわけだ…


 しかし、


 しかし、だ…


 本家が、分家に頭が上がらないとは?


 普通に、考えて、ありえない…


 いや、


 ありえる…


 ずっと、以前、すでに、亡くなった坂東三津五郎さんという歌舞伎役者の方が、週刊誌のインタビューで、語っていたが、その方が、生前、フリーアナウンサーの近能サトさんと、結婚していたときに、弟子の方たちから、苦言を呈されると、言い返せないと、嘆いていた…


 形の上では、弟子だが、自分より、はるかに、高齢の方たちだからだ…


 自分の父親と、同じ世代の方たちだからだ…


 歌舞伎は、家柄…


 どこの家に生まれたかが、重要…


 今は、歌舞伎出身でない、一般の家庭の出身のひとでも、歌舞伎役者になれるが、それでは、主役など、重要な役柄には、抜擢されない…


 血が重要だからだ…


 それゆえ、若くても、自分の父親世代の方たちより、地位が上になる…


 が、


 さすがに、父親世代の方たちに、自分が、逆らうことは、できない…


 あくまで、自分の方が、地位が上でも、それは、形の上だけだからだ…


 だから、できない…


 たぶん、それは、五井も同じなのだろう…


 伸明は、五井家の当主だが、まだ四十ちょっと…


 それが、伸明の父親世代の分家の方たちに、言われると、反論できない…


 たぶん、そういうことだろう…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 すると、マミさんが、


 「…分家にとっては、今が、チャンスなの…」


 と、続けた…


 「…チャンス…ですか?…」


 「…そうよ…チャンス…おばさまが、倒れた今が、チャンス…伸明さんの後ろ盾がいなくなかった今が、チャンス…」


 「…」


 「…正直、おばさまも、まさか、今、自分が、倒れるとは、思ってもみなかったと、思う…叔母さまは、まだ70歳になっていない…人生百年時代の今の時代では、まだ、十分、若い…だから、まさか、今、自分が、倒れるなんて、想定していなかったと、思う…」


 「…」


 「…でも、まあ、それは、たぶん、分家のひとたちも、いっしょ…おばさまが、倒れることは、想定していなかったと、思う…」


 「…」


 「…でも、その中で、唯一、西家が動いた…」


 「…動いた…」


 「…そう、動いた…」


 「…」


 「…伸明さんの結婚相手を、西家から、出すと、突然、言い出した…」


 「…」


 「…でも、今は、西家には、伸明さんと、結婚できる相手は、いない…」


 「…どういうことですか?…」


 「…年齢よ…年齢…」


 「…年齢…ですか?…」


 「…そうよ…伸明さんは、四十ちょっと…その伸明さんと、釣り合う年齢の女が、いない…まさか、四十ちょっとで、二十歳や十八歳の女のコと、結婚させるわけには、いかないでしょ?…」


 「…それは、そうですが…」


 言いながら、以前のことを、思い出した…


 伸明と知り合った当時のことを、思い出した…


 ここで、何度も、書いたが、伸明は、前当主、建造の実子ではない…


 伸明は、建造とは、血が繋がっていない…


 それは、伸明の母の昭子が、建造と結婚する以前に、付き合っていた男との間に、生まれた子供だからだ…


 伸明の母の昭子は、和子おばさまの双子の姉…


 奔放な姉の昭子を身近で、監視するために、和子は。前当主、建造の弟の義春と、結婚した…


 つまりは、姉妹で、同じ兄弟と、結婚したわけだ…


 そして、建造には、実子がいた…


 伸明の弟の秀樹がいた…


 秀樹は、野心家だった…


 それを、警戒した建造が、自分の実子にもかかわらず、実子の秀樹を差し置いて、伸明を後継者に指名した…


 伸明には、欲がない…


 変な上昇志向がない…


 それを、建造が、見抜いていたのだ…


 それに、比べ、秀樹は、上昇志向の塊だった…


 おそらく、コンプレックスもあったのかも、しれない…


 伸明は、長身のイケメン…


 対する秀樹は、小柄で、容姿も平凡だった…


 それが、コンプレックスだったのかも、しれない…


 そして、それを、建造が、嫌った…


 当主にふさわしくないと、思ったに違いない…


 が、


 その秀樹にも、チャンスが、転がり込んできた…


 実父の建造が、突然、亡くなったからだ…


 伸明が、当主になるのは、規定路線だったが、秀樹は、和子の孫の菊池リンを狙った…


 菊池リンと結婚することで、和子の出身母体、五井東家を味方にできると、踏んだからだ…


 が、


 真逆に、言えば、そのとき、五井一族の中で、伸明と、結婚できる相手は、菊池リン以外、いないと、言われていた…


 その菊池リンだって、大学を卒業したばかり…


 だったら、今、このマミさんが、言ったように、五井西家に、伸明と結婚できるような年齢の女性がいるのだろうか?


 謎だった…


 それが、謎だった…


 だから、聞いた…


 マミさんに、聞いた…


 「…マミさん、一つ、聞いて、いいですか?…」


 と、聞いた…


 「…なに、寿さん?…」


 「…たしか、以前、伸明さんの弟の秀樹さんが、菊池リンさんと、結婚したいと、言っていたのを、覚えていますか?…」


 「…もちろん、覚えているわ…」


 「…あのとき、秀樹さんは、当主になるためには、五井家の有力分家の女性と結婚するのが、一番と、考えたと、言っていました…そして、そのとき、秀樹さんや、兄の伸明さんに釣り合う女性は、五井家の中に、いないと、おっしゃってました…」


 「…それよ、それ…」


 「…それって?…」


 「…実は、私にも、謎なのよ…」


 「…謎って?…」


 「…さっきも言ったように、五井西家には、今、伸明さんと、結婚できるような女性は、いないはずなのよ…」


 「…えっ?…」


 「…一族だから、家族構成は、わかっている…それなのに、いきなり、西家から、伸明さんの結婚相手を出すと、言い出したから、驚いちゃって…」


 「…それは、一体、どういうことなんでしょうか?…」


 「…それは、わからない…」


 「…わからない?…」


 「…そう、わからない…」


 「…」


 「…でも、たぶん、それは、まもなく、わかる…」


 「…まもなく、わかるって?…」


 「…本家で、西家のひとたちが、伸明さんの見合い相手を連れてくるの…」


 「…えっ? 連れてくる?…」


 「…そう、だから、わかる…」


 思わず、

 

 …ウソ!…


 と、叫び出すところだった…


 まさか、いきなり、本家に、西家の人間が、伸明の結婚相手を連れてくるなんて…


 ありえない…


 ありえない事態だった…


 そして、なにより、たしかに、このマミさんが、言ったように、あの和子が、いれば、そんなことは、できなかったろう…


 あの和子は、五井の女帝と呼ばれ、五井家のみならず、世間で、五井家を代表している…


 和子が、倒れなければ、たしかに、そんな真似は、できなかっただろう…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 なにより、和子が倒れたことで、五井家のパワーバランスが、急速に、崩れてきている…


 その現実を目の当たりにした…


 そんな気分だった…


 そんな気分だったのだ…


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