寿綾乃という女 第4部 21
結局、私は、マミさんに、半ば、強引に、自宅マンションから、出ていかされた(苦笑)…
こう言えば、マミさんを、非難しているように、聞こえるが、まったくもって、そうではない…
マミさんは、たしかに、強引だが、相手の嫌がることは、しない…
私によかれと、思って、している…
だから、嫌われない…
おそらく、周囲の人間に嫌われない…
強引と言っても、それは、相手のことを、思って行動しているから…
ただ、自分勝手に、強引に、行動しているのでは、ない…
なにより、自分勝手に、行動していれば、他人に嫌われる…
が、
私は、マミさんと、いっしょにいて、嫌な気持ちになったことは、一度もない…
つまり、マミさんは、決して、自分勝手ではないと、いうことだ…
まして、マミさんは、会社の社長…
亡くなった前五井家当主、建造の娘であり、建造が、外に作った愛人との間に、できたマミさんは、会社勤めが、苦手…
自分で、会社を作りたいクチだ…
それゆえ、建造から、金を借りて、小さいながらも、自分の会社を立ち上げた…
そんな会社の社長が、自分勝手で、他人の気持ちを思いやれないようでは、社員も、ついていかないだろう…
それゆえ、マミさんは、自分勝手ではない…
他人の気持ちを思いやることが、できる…
私は、思った…
私は、あらためて、思った…
すると、今も、
「…寿さん、ごめんね…」
と、マミさんが、言ってきた…
私は、なにが、
「…ごめん…」
なのか、わからなかった…
だから、
「…なにが、ごめんなんですか?…」
と、聞いた…
「…寿さんを、強引に連れ出したこと…」
「…それは…」
「…でも、寿さん、私が、いっしょに、いれば、買い物も楽でしょ?…
…なるほど…
…そういうことか?…
マミさんは、自分が、私といっしょに、いれば、私が、買い物をするのが、楽だと、思ったんだと、気付いた…
なにしろ、昨日、退院したばかりだ…
まさかとは、思うが、スーパーやコンビニに行って、倒れでも、したら、目も当てられない…
マミさんは、それを、予想して、だったら、自分が、傍にいれば、安心と、思ったのだ…
私は、つくづく、このマミさんは、優しいと、思った…
心の底から、思った…
私は、マミさんのサポートを得て、近くのスーパーに行き、アレコレ、買ってきた…
自分の腕だけでは、持てないほど、たくさんのものを、買ってきた…
いや、
自分だけではない…
マミさんにも、持って、もらった…
スーパーの袋をいくつか、持って、もらった…
ホントは、こんなに、たくさん、ものを、買ったので、どこかで、お茶していこうと、思って、それを、マミさんに伝えたんだが、マミさんは、首を横に振った…
「…どうしてですか?…」
訝しがる私に、マミさんが、
「…寿さん、休憩しちゃうと、気が緩んじゃうよ…きついけれど、このまま、自宅に戻った方がいい…」
と、言った…
私は、なるほど、一理あると、思った…
たしかに、休憩は、体力を回復するには、よいが、それでは、張り詰めていた糸が、緩んでしまいかねない…
途中で、休むことは、そんな危険がある…
それゆえ、休みを取らず、家に帰る方が、いい…
マミさんは、そう、思ったのだ…
そして、そんなことを、言われると、いかにも、その考えは、マミさんらしいと、思った…
例えれば、山に登るとき、一目散に山に登るひとと、小さな休憩を、何度もするひとが、いる…
これは、どちらが、いいか、悪いか、言っているわけではない…
そのひとの体力や、性格に、基づいて、そういう行動を取るのだろう…
体力がなければ、頻繁に休憩を取るのは、当たり前だが、体力があっても、頻繁に休憩をとるものも、多い…
それは、たぶん、性格…
のんびりと、歩むのが、好きなのだろう…
が、
当然、そんなことは、嫌なものを、いる…
体力があるのだから、一気に頂上に行きたいものも、いる…
マミさんは、そのタイプ…
体力があるのだから、一気に、頂上を目指すタイプ…
ちなみに、それは、私も同じ…
マミさんと、同じタイプ…
体力があるのに、休憩ばかりして、グズグズしているのは、嫌…
まどろっこしいのは、嫌…
だから、気が合う…
マミさんと、気が合う…
私は、思った…
私は、今さらながら、思った…
家に着き、買ったスーパーの袋を、玄関の中に、置くと、さすがに、グッタリした…
それは、マミさんも、同じだった…
が、
これで、寝室に行き、バタンキューと、ベッドで、寝ているわけには、いかない(苦笑)…
マミさんの相手をしなければ、ならない…
買い物を手伝ってくれた、マミさんの接待をしなければ、ならない…
そして、それ以上に、大事なこと…
マミさんに、五井家の内情を聞かなければ、ならない…
五井家当主、諏訪野伸明の結婚相手を聞かなければ、ならない…
伸明の結婚相手である、五井西家のお嬢様が、どんな女性か、聞かなければ、ならない…
そして、なにより、ナオキの結婚相手…
ナオキの結婚報道が、誤報か、どうかは、わからないが、ナオキの結婚相手とされる女性が、五井家の誰か、知りたい…
これは、切実な願い…
この寿綾乃の切実な願いだった…
そして、それは、おそらく、マミさんも、わかっているはず…
いや、
マミさんが、わからないわけはない…
間違いなく、わかっている…
いや、
わかっているどころか、もしかしたら、それを告げに、今日、私の元に、やって来たかも、しれないのだ…
そして、それを、思えば、余計に、マミさんをこのまま、帰らせるわけには、いかなかった…
いくら、自分が、体力的に、きつくても、このまま、マミさんを、帰らせるわけには、いかなかった…
いかなかったのだ…
それゆえ、私は、マミさんに、
「…なにか、飲みものでも…」
と、言った…
いくら、疲れているからと、言って、マミさんを、このまま、帰すわけには、いかなかったからだ…
マミさんは、すぐに、
「…お気遣いなく…」
と、返した…
いかにも、マミさんらしい…
明らかに、私に気を使っている…
それゆえ、私は、
「…別に、そんなに、気を遣ってませんよ…」
と、言って、笑った…
マミさんは、それを、聞いて、苦笑した…
「…だったら、なにか、冷たいものを…」
と、言った。
それから、
「…冷蔵庫の中にあるもで、いいわ…」
と、続けた…
私は、それを、聞き、
…やはり、私に気を遣っている…
と、内心、思った…
なぜ、思ったのか?
冷蔵庫の中にあるものと、言えば、缶や、ペットボトルに入った飲み物を、すぐ、思いつく…
まさか、真っ昼間から、ビールやチューハイは、連想しない…
まして、私は、昨日、五井記念病院を退院したばかり…
いくら、飲みたくても、ビールやチューハイは飲めない…
なにより、缶や、ペットボトルの飲料を用意するのは、楽…
楽だ…
冷蔵庫から、取り出して、マミさんに、渡すだけ…
それゆえ、マミさんは、私に、
「…冷蔵庫の中にあるもので、いいわ…」
と、頼んだのだろう…
私は、そう、見た…
私は、そう、睨んだ…
私は、それゆえ、
「…だったら、コーヒーにしますか? それとも、お茶にしますか?…」
と、聞いた…
真っ昼間のペットボトルで、休憩するには、お茶か、コーヒーのどちらかが、普通だからだ…
「…だったら、お茶がいい…今、疲れて、喉が渇いているから、そんなときは、やっぱり、お茶…コーヒーだと、甘すぎて…」
マミさんが、言う…
…たしかに、その通り…
単純に、喉が渇いたときは、甘いものより、すっきりとしたものが、いい…
私も、マミさんと、同じ意見だった…
だから、冷蔵庫から、2本、お茶のペットボトルを取り出した…
もちろん、私とマミさんの分だ…
私は、1本を、マミさんに、渡した…
そして、もう、一本を自分の手で持った…
そして、手で持ったまま、マミさんより、先に、私が、飲み始めるべきか、悩んだ…
私が、先に、飲み始めた方が、マミさんが、私に遠慮せずに、飲みやすいと、考えたからだ…
が、
その心配は、杞憂だった…
私が、マミさんに、ペットボトルのお茶を手渡すと、すぐに、マミさんが、ペットボトルの蓋を開けて、ゴクゴクと、飲み始めたからだ…
やはり、マミさんは、遠慮しない…
それが、嬉しかった…
このマミさんは、私に遠慮しない…
それが、嬉しかった…
遠慮しないのは、親しさの証でも、あるからだ…
だから、嬉しかった…
私は、ソファに座って、マミさんが、ゴクゴク、ペットボトルのお茶を飲む姿を見ていた…
マミさんは、小柄…
身長が、150㎝ちょっと…
それゆえ、マミさんが、ペットボトルのお茶を飲む姿は、失礼ながら、子供が、飲む姿を思わせる…
私は、それを見ながら、私のペットボトルの蓋を開けて、お茶を飲んだ…
実に、おいしかった…
やはり、こんなふうに、疲れたときは、冷たい飲み物が合う…
つくづく、思った…
それから、二人して、真っ昼間で、私の家で、ペットボトルのお茶を飲むことを、思うと、つくづく、自分は、平和だなと、思った…
自分は、恵まれているとも、思った…
騒動とは、無縁…
平凡そのものの人生の一場面とも、思った…
おおげさに、言えば、思った…
が、
その思いが、すぐに、打ち消された…
マミさんが、目の前のテーブルに、自分の飲んだペットボトルのお茶を置いて、真顔で、
「…今日、私が、ここへ来た目的は、寿さんも、わかっていると思うけれど…」
と、いきなり、切り出したからだ…
その一言で、今、感じた平和の思いが、拭き飛んだ…
木っ端みじんに拭き飛んだ…




