寿綾乃という女 第4部 20
が、
やはり、見つからなかった…
ナオキの結婚の話題は、見つからなかった…
昨日の夜と、同じだった…
つまりは、一晩経っても、なにも変わらなかったということだ…
私は、それを、見て、正直、微妙だった…
ナオキが、五井家の令嬢と、結婚していないことへの安心感と、そして、正式に、ナオキが、結婚したのか、否かが、わからない、もどかしさと…
そんな気持ちが、私の中で、同居して、微妙だった…
そして、ネットで、十分か、十五分か、検索して、それ以上は、ネットで、ナオキの結婚の話題を検索するのは、止めた…
いつまでも、検索を続けても、仕方がないからだ…
ナオキが、本当に、結婚したか、否かは、わからないからだ…
それゆえ、パソコンから、離れ、今度は、朝食を取ることにした…
冷蔵庫の中を、引っ搔き回して、なにか、食べるものは、ないかと、探した…
なにしろ、この家に帰ってきたのは、ほぼ一か月ぶり…
いくら、冷蔵庫の中を探しても、まともに、食べられるものは、なかった…
当たり前だった…
いや、
あった…
冷凍庫にあった…
冷食があった…
冷食のチャーハンや、ラーメンがあった…
私は、それを、見て、安心すると、同時に、つくづく、自分のバカさ加減に腹が立った…
なぜなら、そんなことは、昨日、病院から、退院して、家に帰ってくるときに、わかっていたことだからだ…
自宅に、まともに、食料品がないことは、わかっていることだからだ…
だから、自宅に帰る前に、途中で、コンビニにでも、立ち寄って、なにか、買ってくれば、良かった…
当たり前のことを、思った…
が、
そんなことを、今、言っても、後の祭りだ…
だから、冷蔵庫以外に、なにか、食べるものは、ないか、探した…
そして、見つけたのは、サトーのごはんや、ポテトチップスや、カップラーメンだった…
これには、笑っていいのか、怒っていいのか?
あらためて、自分の普段の食生活が、わかった(爆笑)…
自分の貧しい食生活が、わかった…
が、
これで、今、外出することなく、朝食を取れる(苦笑)…
実は、昨日、タクシーで、自宅に、戻ったときも、体調は、万全では、なかった…
それゆえ、コンビニにも立ち寄らず、まっすぐに、自宅に戻った…
それを、思い出した…
それから、私は、そのどれかを、食べようとした…
やはり、起きたての朝っぱらから、カップラーメンを食べるのは、嫌だ…
冷食のラーメンも、そう…
すると、残るは、サトーのごはんか、冷食のチャーハンになるが、やはり、朝っぱらから、チャーハンも、少し重い気がする…
それゆえ、サトーのごはんを選択…
自宅に、のり茶漬けでも、ないかと、探した…
やはり、朝は、軽いものが、いい…
必死になって、探すと、のり茶漬けが、出てきた(笑)…
それで、のり茶漬けで、ご飯を食べることにした…
味噌汁も、インスタントなら、冷蔵庫の中に、ある…
我ながら、驚くほど、質素な食事だが、ある意味、これが、普通…
病気でなくても、これが、私の普通の食事…
驚くほど、質素で、金がかからない…
そして、これこそが、寿綾乃の日常…
矢代綾子の日常だった…
世間で、美人と呼ばれた女の日常だった(爆笑)…
これを、会社の男たちが、見れば、どう思うか?
きっと、すぐに、幻想が、なくなるだろう…
私に、幻滅するだろう(爆笑)…
FK興産の美人秘書、寿綾乃…
それが、こんな食事を取っている…
一目見て、幻想がなくなるだろう…
幻滅するだろう…
が、
これは、同じ…
どんなイケメンや、美人も、同じだ…
遠くから、見ていたりするのと、現実は、違う…
いっしょに、生活をしてみれば、違う…
いわゆる、幻想や、ロマンが、あっさりと、なくなる…
あっさりと、消滅する…
これまで、知らなかった素顔が、見えてくる…
だから、違う…
当たり前のことだ…
どんな色っぽい女や、カッコイイ男でも、私生活で、色っぽかったり、カッコイイはずは、ない…
例えば、洗濯機で、パンツを洗っている姿を、見れば、色っぽいも、カッコイイもないからだ…
ただ、そこにあるのは、生活…
その男や女の生活に他ならない…
私は、そんなことを、考えた…
そんなことを、考えながら、朝っぱらから、お茶漬けを食べていた…
そして、食べ終わってから、今日は、これから、どうしようと、考えた…
やはり、近くのスーパーか、コンビニに、行くかと、考えた…
このままでは、まともに、食べるものが、ない…
あるのは、冷蔵庫の中の冷凍庫にある、冷食のチャーハンや、ラーメン、それに、サトーのごはんや、カップラーメンだけ…
これでは、暮らせない…
何日も、この部屋で、こもって、暮らせない…
私は、思った…
私は、今さらながら、思ったのだ…
それゆえ、朝食を終え、食器を洗って、片づけてから、外出することに、した…
近くのコンビニで、いいから、出かけることに、した…
ハッキリ言って、コンビニに、行くのなら、スーパーに行く方が、いい…
食料品が、揃っている…
が、
体力が、持つか、どうか?
なにしろ、昨日、五井記念病院を退院したばかりだ…
率直に言って、コンビニに行くのも、しんどい…
ホントなら、自宅に、こもったままでいたい…
外出は、したくない…
それが、本音…
だったら、ウーバーイーツでも、利用するか?
それとも、出前館を利用するか?
考えた…
が、
考えた結果が、お金が、もったいないだった(爆笑)…
我ながら、笑えた…
我ながら、貧乏性だと、あらためて、気付いた…
いや、
気付かされた…
こんなに、体調が、あまり良くないときでも、少しのお金をケチる…
まさに、貧乏性…
骨の髄からの貧乏性だと、自分自身をあらためて、思った…
そして、それから、つくづく、一人暮らしは、不便だと、気付いた…
結婚していれば、夫になにか、買ってきて、もらえば、いいし、子供がいれば、その子供に頼めば、いい…
が、
一人暮らしでは、それが、できない…
そう言えば、昔、誰かが、言っていた…
一人暮らしは、いいが、体調を崩したときが、大変だと…
自分が、具合が悪いのに、助けてくれる相手は、誰もいない…
そんなとき、つくづく、一人暮らしの不便さを痛感する…
心の底から、痛感する…
と。
が、
いつまでも、そんなバカなことを、言っていても、仕方がない…
私は、食器の片づけが終わると、着替えて、外に出ることにした…
そして、今、まさに、外に出ようと、思った瞬間、ドアのベルが鳴った…
誰かが、やって来るベルが、鳴った…
私は、急いで、モニターを見た…
誰が、やって来たか、知りたかったからだ…
そこに、映っているのは、小柄な女…
見覚えのある、小柄な女だった…
諏訪野マミさんだった…
伸明の妹のマミさんが、映っていた…
「…寿さん、退院おめでとう…」
と、マイクを通じて、私のモニターから、声が、届いた…
私は、マミさんの声を、聞いて、なにも、考えずに、反射的に、
「…ありがとうございます…」
と、答えた…
これは、自分でも、笑えた…
おそらく、会社で、長らく、ナオキの社長秘書を務めてきたので、それが、身に着いているからだ…
だから、なにか、あれば、すぐに、丁寧に腰を折って、
「…ありがとうございます…」
と、反射的に、答えてしまう…
もしかしたら、これも、職業病の一種かも?
私は、あらためて、考えた…
そして、そんなバカなことを、考えていると、マミさんが、
「…寿さん…自宅に上がっていい? 快気祝いの品物も、持ってきたから…」
と、言って、片腕を挙げて、荷物をかざした…
私は、それを、見て、
「…もちろん、いいですよ…」
と、言って、スイッチを押した…
マミさんが、マンションの中に、入って来られるように、した…
これで、マミさんが、入って来れる…
まもなく、マミさんの目の前のドアが開いて
「…寿さん…ありがとう…」
と、言って、マンションの中に入った…
私は、それを、見届けて、マミさんが、やって来るのを、玄関の中で、待った…
間もなく、玄関のチャイムが鳴ったので、私は、ドアを開けた…
マミさんは、
「…寿さん、退院、おめでとう…」
と、言ってから、
「…これ、快気祝い…」
と、言って、私に、手にした品物を渡した…
「…マミさん、そんな、お気遣い、しなくていいのに…」
「…別に、たいしたものじゃないわ…」
マミさんは、あっさり言う…
私は、それを、聞いて、
…これが、マミさんだ…
…これこそが、諏訪野マミさんだ…
と、思って、内心、苦笑した…
おおざっぱというか…
小さなことは、気にしない…
実に、あっけらかんとしている…
だから、私は、このマミさんが、好きなんだと、あらためて、思った…
小さなことには、こだわらない…
また、女々しい発言も、一切ない…
豪放磊落とまでは、いわないが、いっしょにいて、気持ちがいい…
よく、女は、いっしょに、いると、他人の悪口や、噂話ばかりするヤカラが、いるが、マミさんは、そんな女たちとは、一線を画している…
いや、
他人の悪口や噂話に、興じるのは、女ばかりではない…
男も、そうだ…
一部の男も、そうだ…
私が、そんなことを、思っていると、
「…アレ、寿さん、どこかに、行くの?…」
と、目の前のマミさんが、聞いてきた…
私は、反射的に、
「…ええ…実は、昨日、ほぼ一か月振りに、この自宅に戻ったら、食べるものが、あまりなかったから、これから、近くのスーパーか、コンビニに、買い出しに行こうかと、思って…」
と、答えた…
すると、マミさんが、
「…だったら、行こう…今すぐ、買い出しに行こう…」
と、言った…
私は、思わず、
「…ええ? 今ですか?…」
と、答えた…
当たり前だ…
今、マミさんが、家にやって来たばかりなのに、出かけるなんて…
そう、思ったからだ…
「…そうよ…今よ…寿さん、ここで、私の相手をしていたら、買い物に行けなくなっちゃうでしょ?…」
「…それは…でも、後で、買い物に行けば…」
「…善は、急げよ…寿さんだって、昨日、退院したばかりだから、体調だって、そんなに、良くないでしょ?…」
「…それは、そうですけど…」
「…だったら、今すぐ、行こう…この快気祝い…ここに、置くね…」
マミさんは、言って、半ば、強引に、私を自宅から、誘い出した…
私は、驚いたが、これが、マミさんだ…
これこそが、諏訪野マミさんだと、あらためて、思った…
強引だが、嫌な感じは、まったくしない…
あらためて、マミさんと、今、いっしょにいることに、気付いた…
なにより、マミさんと、いっしょにいる、幸せに、気付いた…




