寿綾乃という女 第4部 19
そして、私は、どうするか?
悩み続けた…
今すぐ、マミさんに、電話をするか、悩み続けた…
が、
決断ができない…
マミさんに、電話をする、決断が、できない…
…やはり、マミさんに、電話をするのは、今日は、止めておくか?…
そう、自分自身の中で、結論づけた…
今、マミさんに、電話をする勇気が、どうしても、出ない…
なにより、今、ここで、マミさんに、電話をするのは、自分が、必要なときだけ、マミさんに、電話をする…
つまりは、マミさんを利用するだけの人間と思われるかも、しれないからだ…
なにより、マミさんに、そう思われるのは、嫌だった…
私は、嫌だった…
あのマミさんに、そう思われるのが、嫌だった…
あのマミさんは、私にとって、同士というか…
私にとって、数少ない、気の許せる相手だった…
なにより、対等だった…
私が、上でも、マミさんが、上でも、下でもない…
まったくの、対等な相手だった…
私は、ナオキとは、仲がいいし、気も合う…
それでも、やはり、私の中で、線は引いている…
社長と社長秘書という線は、引いている…
だから、会社の方針や、人事に、基本、口は出さない…
私が、ナオキの内縁の妻だと、考えるものは、社内に多いかも、しれないが、その私の立場でも、基本、口は出さない…
めんどり、歌えば、国亡ぶの例えではないが、社長のナオキを差し置いて、私が、口を挟むことは、できないからだ…
つまり、私とナオキは、対等ではない…
私が、ナオキといっしょにいると、私が、ナオキより、威張っていると思うかも、しれないが、それは、違う…
ただ、世間では、そう見ているひとが、多いだけだ(笑)…
私の中では、きちんと、距離を置いているつもりだ…
きちんと、線を引いているつもりだ…
また、当たり前だが、私と伸明も、また対等ではない…
なにしろ、伸明は、五井家当主…
私と対等なわけは、ないからだ…
と、なぜか、いつのまにか、マミさんに電話をするか、どうかの話にも、かかわらず、誰が、私と対等か、否かの話になった…
いつのまにか、なった(爆笑)…
これでは、論点が、ずれたと言われても、おかしくはない…
そんなことを、考えると、笑えてきた…
自分自身に笑えてきた…
一体、どうして、こんな話になるんだろう?
そう、思えて、笑えてきた…
そして、そう、思ってから、今日、マミさんに、電話をするのは、止めた…
いや、
マミさんだけではない…
他の誰にも、電話をするのは、止めた…
ナオキが、本当に、五井家のご令嬢と結婚したのか、否か?
時間が経てば、わかることだからだ…
だから、誰かに、電話をするのは、止めた…
あえて、誰にも、電話をしないことにした…
いずれにしても、ナオキが、結婚したか、否かは、時間が経てば、わかることだからだ…
早ければ、二、三日中…
どんなに遅くても、一週間も、すれば、わかることだからだ…
だから、止めた…
電話を、かけるのは、止めた…
それに、なにより、電話をかけたところで、回答を得られるか、どうか、怪しい…
伸明も、マミさんも、ナオキの結婚を知らないことだって、あり得るからだ…
なにより、伸明自身が、五井西家との、縁談の話が、やって来て、それを、断れないと、嘆いていた…
だから、伸明自身が、大変だ…
ナオキどころではないだろう…
いかに、伸明とナオキが、仲が良くても、ナオキどころではないだろう…
私は、思った…
私は、考えた…
結局、その日は、なにも、しなかった…
なにも、しないで、夜になると、寝た…
そして、朝になって、起きた…
私は、今、無職…
働いていない…
だから、余計に、ゆっくりと、寝た…
朝、遅くまで、寝ていた…
なにしろ、昨日まで、入院していた身だ…
体調も、万全には、ほど遠い…
だから、寝られた…
ぐっすりと、寝られた…
普通なら、もっと、朝早く、目覚める…
仕事もなにもしていないのだから、それほど、疲れないからだ…
だから、もっと、朝、早く目覚める…
しかしながら、私は、昨日、退院したばかり…
だから、退院できたとは、いえ、体調は、決して、よくない…
それゆえ、朝、遅くまで、寝ていられた…
朝、起きると、十時を過ぎていた…
これには、驚いた…
自分でも、驚いた…
まさか、こんな朝遅くまで、寝ているとは、自分でも、思わなかったからだ…
やはり、自分でも、気付かないが、体調が、良くないのだろう…
真っ先に、そう、思った…
そう、思ったのだ…
自分でも、気付かないが、よほど、カラダが、疲れているのだろう…
昨日、何時に寝たか、忘れたが、さすがに、体調が、良ければ、この時間まで、寝ていることは、ありえないからだ…
だから、何度も言うように、驚いたが、同時に、納得できた…
自分の体調の悪さを納得できた…
そして、そんなことを、考えていると、突然、和子のことを、思い出した…
今、体調を崩しているという、伸明の叔母の和子のことを、思い出した…
あの和子…
五井の女帝は、年齢は、六十代後半から、七十歳ぐらいに、見える…
32歳の私より、当然ながら、はるか年上…
32歳の私が、こんなに、体調を崩しているのだから、六十代後半なら、当たり前かも…
ふと、思った…
六十代後半の、あの和子が、体調を崩したのは、当たり前かも、と、思った…
それから、和子は、入院していると、いうが、一体、どこに、入院しているんだろ、とも、思った…
いや、
どこに、入院しているか、じゃない…
五井家の人間だ…
五井の女帝だ…
五井記念病院に、入院しているに、決まっている…
私が、昨日まで、入院していた五井記念病院に入院しているに、決まっている…
今さら、ながら、気付いた…
そして、そこまで、気付いてから、
…だったら、昨日、私が、退院する前に、和子の病室を聞いて、見舞いに行ったほうが、良かったのかも…
と、思った…
知らぬ仲でもない…
一言、挨拶に、行っても、良かったのでは?
と、今さらながら、気付いた…
と、同時に、気付いたことが、他にも、ある…
なぜ、伸明が、私の見舞いにやって来たか?
それは、おそらく、あの和子の見舞いのついでに、私の病室にやって来たのでは、ないか?
今さらながら、そう、気付いた…
なにより、そう、そう、思ったのは、五井家の当主が、私風情の見舞いにやって来たことだ…
五井家の当主だ…
当然、周囲の目もある…
だが、同じ病院に、叔母の和子が、入院していれば、気兼ねなく、私の病室にも、やって来ることが、可能だ…
おそらく、身近にいるであろう、秘書の方に、
「…今日は、どうして、五井記念病院に行かれるのですか?…」
と、聞かれた場合、
「…知人が、入院しているので、その見舞いに…」
と、答えるより、都合がいいからだ…
まさか、その秘書の方が、
「…知人とおっしゃると、どのようなご関係ですか?…」
と、伸明に訊ねることは、さすがにないだろうが、それでも、やはりというか…
誰かの見舞いにかこつけて、やって来る方が、いい…
その方が、自分の行動を咎められないからだ…
伸明が、誰の見舞いに行くのか? と、しつこく、秘書を含め、周囲のものに、聞かれることは、ありえないだろうが、それでも、誰かの見舞いにかこつけて、私の元にやって来る方が、いい…
そして、それを、思えば、おそらく、私の見舞いにやって来たのは、ついで…
和子の見舞いにやって来た、ついで、なのだろう…
まさか、私の方が、メインで、和子の方が、ついで、というわけは、あるまい…
そして、そこまで、考えると、落胆した…
せっかく、伸明が、わざわざ、私の見舞いにやって来て、くれたのに、と、思って、喜んでいたのに、それが、ついでとは?
さすがに、落ち込んだ…
が、
落ち込んでばかりは、いられない…
それは、それ…
これは、これ…
今、伸明のことを、考えても、仕方がない…
今、考えるのは、ナオキのこと…
藤原ナオキのことだ…
FK興産社長であり、私の事実上のパートナーの藤原ナオキのことだ…
ナオキが、本当に、結婚したのか、否かだ…
ナオキが、本当に、五井家の人間と、結婚したのか、否かだ…
それが、重要だ…
それに、あらためて、気付いた私は、ベッドから、降りて、トイレに行き、顔を洗ってから、机の上に置いたパソコンを立ち上げて、ネットを見た…
ネットに、ナオキの結婚の情報が、載っているのかを、見た…
スマホで、調べることも、できるが、やはり、こういうときは、パソコンの方が、いい…
なぜ、いいのか?
それは、やはり、画面が広いから…
スマホと違い、画面が大きいから、見やすい…
だから、私は、パソコン派…
外出時以外、自宅にいるときは、ネットを使うときは、いつも、パソコンを使う…
しかも、デスクトップのパソコンを使う…
その方が、ノートパソコンよりも、画面が、広いからだ…
それゆえ、貴重…
イマドキ、三十代前半の女で、デスクトップパソコンを使うのは、かなり、希少だ…
きっと、これは、ナオキの影響…
FK興産社長のナオキの影響だ…
FK興産は、基本は、IT企業…
だから、社内では、当たり前だが、パソコンを使って、仕事をするのが、メイン…
そして、なにより、社員が、プログラム等を作るには、ノートパソコンより、デスクトップパソコンの方が、使いやすい…
だから、その影響を受けて、私も、プライベートで、自宅で、使うのは、デスクトップパソコンだ…
これは、会社の影響だ…
なにより、ナオキ自身が、会社の創業時から、いつも、デスクトップパソコンを使っていた…
それを、間近で、見ていた影響が、大きい…
そして、余談だが、なぜ、会社の名前をFK興産と名付けたのか?
以前にも、書いたが、FK興産は、藤原ナオキのF…
FK興産のKは、寿綾乃のKだ…
が、
今、言いたいのは、FK興産のFKではなく、なぜ、興産と名付けたのか?
IT企業にも、かかわらず、なぜ、興産と名付けたのか、だ…
それは、将来的に、IT以外の事業を拡大したかったから…
それゆえ、興産と名付けた…
それを、今、ネットで、ナオキの名前を検索しながら、思い出した…
そんな、どうでもいい、話題を思い出した…
そして、そんな、どうでもいいことを、考えながら、ネットで、藤原ナオキの結婚を検索し続けた…




