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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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216/225

寿綾乃という女 第4部 216

 その瞬間、時が、止まった…


 この病室の時が止まった…


 そんな気がした…


 誰もが、絶句して、カラダが、固まったからだ…


 数十秒だが、カラダが、固まったからだ…


 それを、破ったのが、マミさんだった…


 またも、マミさんだった…


 静寂を破ったのが、マミさんだった…


 「…まさか?…」


 と、笑った…


 硬い表情で、笑った…


 が、

 

 それを、団郁馬が、否定した…


 「…ウソじゃない!…」


 と、否定した…


 「…それで、精神的に、参った、伸明クンの姿を他人様に、見せるわけには、いかないと、思って、この病院に隔離したんだ…」


 と、団郁馬が、仰天の事実を語った…


 これまで、考えたことのないことを、語った…


 それゆえ、誰もが、今まで以上に、固まった…


 あまりの想定外の事実に、固まった…


 言葉も、出なかった…


 が、


 その沈黙を破ったのは、またも、マミさんだった…


 やはり、同じ五井の一族ゆえに、発言しやすいからだ…


 「…叔父様、伸明さんに頼まれて…ですか?…」


 と、遠慮しがちに、言った…


 が、


 団郁馬は、無言で、首を横に振った…


 それを、見た、マミさんが、


 「…だったら、誰に?…」


 と、聞いた…


 目に涙を浮かべて、聞いた…


 「…それは、私が、頼んだのよ…」


 と、言いながら、誰かが、やって来た…


 この病室にやって来た…


 聞き覚えのある、声…


 一体、誰だったろうか?

 

 慌てて、声のした方を見た…


そこには、昭子が、いた…


 伸明の母の昭子がいた…


 私たちは、全員が、仰天した…


 まさか、この場に、昭子が現れるとは、夢にも、思わなかったからだ…


 伸明の産みの親である、昭子が現れるとは、夢にも、思わなかったからだ…


 そして、昭子を見た瞬間、思い出した…


 以前、昭子が、私に会った際に、


 「…寿さんは、まだ、伸明と、寝ていないんでしょ?…」


 と、私に直球で、聞いたことを、思い出した…


 あのときは、あまりにも、直球な質問で、驚いたが、今、考えれば、あの時点で、この昭子は、伸明が、あのハルカと、いい関係であることを、知っていたのでは、ないか?


 あのときは、まだ、ハルカのお腹の子供が、伸明の子供であることを、知らずとも、伸明が、ハルカと、男女の関係であることを、知っていたのではないか?


 それゆえ、わざと、あんな質問を私にしたのでは、ないか?


 私は、そう、気付いた…


 今さらながら、気付いた…


 そして、私が、そんなことを、考えていると、


 「…寿さん、お久しぶり…」


 と、昭子が、真っ先に、私に挨拶をした…


 私より先に、同じ五井の一族である、マミさんや、団郁馬に挨拶をするのが、普通だと、思うが、なぜか、真っ先に、私に挨拶をした…


 が、


 そんなことは、どうでもよく、私は、機械的に、


 「…こちらこそ、お久しぶりです…」


 と、丁寧に、腰を折って、挨拶をした…


 これも、機械的…


 反射的に、だ…


 ツーと言えば、カー…


 そんな具合だ…


 昭子の姿を見た、マミさんは、目に涙をためて、


 「…叔母様…」


 と、昭子に、話しかけた…


 その姿を見た、昭子は、


 「…マミさん、どうしたの? その涙?…」


 と、不思議そうに、聞いた…


 それを、聞いたマミさんは、戸惑った…


 「…これは…」


 と、指で、涙を拭きながら、戸惑ったように、答えた…


 が、

 

 昭子は、遠慮がなかった…


 「…泣くようなこと?…」


 と、言って、遠慮がなかった…


 「…マミさん、アナタは、五井一族…とりわけ、建造さんの血を継ぐ、唯一の娘…アナタには、今後とも、伸明の妹として、本家を支えてもらいたい…伸明を支えてもらいたい…それが、こんなことで、泣いちゃダメ!

こんな些細なことで、涙を流しちゃ、ダメ!…」


 と、マミさんを叱った…


 強く、叱った…


 叱られたマミさんは、


 「…叔母様…」


 と、言って、余計に、涙を流した…


 「…だから、泣いちゃ、ダメだって…」


 と、昭子が、重ねて、言う…


 「…マミさん、アナタは、経営者…そして、五井一族…五井一族は、他人様の上に立つのが、使命…生まれながらの宿命…そんな他人様の上に立つ人間が、簡単に、泣いちゃダメ! 他人様に弱い姿を見せちゃ、ダメ…それでは、誰も、ひとが、マミさんに、ついていかなくなる…マミさんを頼りなく思って、しまう…」


 昭子が、強い口調で、言った…


 それを、聞いたマミさんが、余計に、


 「…叔母様…」


 と、それまで以上に、涙を流した…


 それを見た、昭子が、


 「…だから、泣いちゃ、ダメだって…」


 と、言って、苦笑した…


 それから、昭子は、団郁馬に、向き直った…


 「…相変わらず、やんちゃね…」


 と、言って、向き直った…


 「…本気で、本家を敵に回すつもりだったの?…」


 と、笑いながら、団郁馬に聞いた…


 「…五井本家に歯向かうつもりだったの?…」


 と、笑いながら、聞いた…


 が、


 その目は、怒っていた…


 明らかに、怒っていた…


 それを、見た、団郁馬は、たじろいだ…


 明らかに、昭子の迫力に、圧倒された…


 それゆえ、


 「…そんなことは…」


 と、否定した…


 ためらいがちに、否定した…


 「…建造さんが、生きていれば、この程度じゃ、すまなかったわよ…」


 と、昭子が、笑いながら、警告した…


 「…建造さんが、生きていれば、躊躇なく、五井から、追放した…五井北東家を追放した…」


 昭子が、笑いながら、断言した…


 口元は、笑っていたが、目は、笑って、いなかった…


 目は、怒っていた…


 昭子は、さらに、続けた…


 「…今回のことは、伸明のこともあるから、大目に見てあげる…伸明の面倒を見てくれたから、許してあげる…」


 私は、昭子の言葉を聞いて、ピンとした…


 おそらくは、この団郁馬を、誅したのは、伸明ではなく、昭子だと、気付いた…


 本家に弓を引く、この団郁馬を、制圧したのは、伸明ではなく、昭子だと、気付いた…


 おそらくは、伸明の面子を考えて、対外的には、伸明が、団郁馬に頭を下げさせたことに、したのだろう…


 それを、マミさんは、同じ五井一族から、聞いて、伸明が、この団郁馬に直接、頭を下げさせたと、思ったのだろう…


 だが、現実は、この通り…


 この昭子が、動いた…


 脳梗塞で、倒れた、妹の和子の代役で、動いた…


 双子の妹である、五井の女帝の和子の代わりに、動いた…


 つまりは、代役…


 和子の代役だ…


 五井の女帝の代役だ…

 

 昭子に、指摘された、団郁馬は、


 「…昭子さんは、相変わらずだな…」


 と、薄ら笑いを浮かべて、言った…


 「…なにが、相変わらずなの?…」


 と、昭子。


 「…相変わらず、手厳しい…」


 と、団郁馬が、薄ら笑いを浮かべて、答える…


 が、


 それを見た、昭子が、


 「…なんなら、北東家を正式に、五井から。追放しましょうか?…」


 と、提案した…


 「…五井グループは、グループを挙げて、西都新聞を応援する…その際に、東都新聞を管理する、五井北東家は、正式に、五井グループから、独立しましたとでも、宣伝するわ…それで、世間からは、東都グループは、五井から、外れたと、わかる…」


 昭子が、笑いながら、団郁馬に迫った…


 団郁馬の顔色が変わった…


 真っ青になった…


 「…まさか、そこまで…」


 と、言って、真っ青になった…


 しかし、昭子は、


 「…本気よ…」


 と、一言。


 「…冗談なんかじゃない!…」


 昭子が、断言した…


 それを、見た、団郁馬が、


 「…昭子さん、そんな…ボクと、キミの仲じゃないか?…」


 と、突然、泣きを入れた…


 「…私とアナタが、どんな仲なの?…」


 と、昭子。


 「…あんなに、親しかったじゃないか?…」


 と、団郁馬。


 それを、聞いて、この昭子が、かつて、この団郁馬と、親しかったことを、思い出した…


 そう、このマミさんから、聞いたことを、思い出した…


 が、


 団郁馬の発言を聞いた、昭子は、せせら笑った…


 「…アレは、建造さんに頼まれたから…」


 と、せせら笑いながら、言った…


 「…建造さんに…頼まれた?…」


 団郁馬が、驚愕する…


 「…親しくなければ、情報は、得られないから…」


 と、続けた…


 さらに、昭子は、追い打ちをかけた…


 「…さもなければ、アナタのように、コンプレックスの塊(かたまり)で、上昇志向の強いだけの男と、仲良くなんて、なるもんですか!…」


 と、断言した…


 「…コンプレックスの塊(かたまり)…」


 と、言って、団郁馬が、絶句した…


 「…もっと、身の丈にあった生き方をしなさい…生まれだけは、いいのだから…」


 昭子が、追い打ちをかけると、団郁馬は、いたたまれないようだった…


 慌てて、この病室から、逃げるように、出ていった…


 二度と、戻って、来なかった…


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