寿綾乃という女 第4部 213
私は、内心、仰天したが、さまありなん…
こういうことかと、思った…
こういうことと、いうのは、今、マミさんの隣に、団郁馬がいると、いう事実…
つまりは、マミさんは、団郁馬の都合に合わせたわけだ…
団郁馬の都合が、おそらく、今日、明日、空いていたのだろう…
それに、合わせた…
そういうことだろうと、思った…
なにより、おそらくは、団郁馬の側に立ったということ…
私ではなく、団郁馬の側に立ったということだ…
私、寿綾乃ではなく、団郁馬を選んだと、いうことだ…
しかしながら、私が、今、マミさんが、この団郁馬と並んで、私を出迎えても、驚かないのは、ナオキのおかげ…
仮に、マミさんが、団郁馬の側に立ったとしても、驚かないのは、藤原ナオキのおかげ…
私の事実上のパートナーである、藤原ナオキのおかげだ…
昨日、このナオキが、マミさんを、あんまり、信用し過ぎない方が、いいと、私に忠告してくれたおかげだ…
仮に、私と、五井のどっちを取るかと、マミさんは、聞かれれば、間違いなく、五井を取るからだ…
選択の余地はないからだ…
だから、私は、驚かなかった…
マミさんが、団郁馬と、並んで、私を出迎えても、驚かなかった…
二人は、同じ五井一族…
たぶん、血の濃さは、他人並みに、薄いと、思うが、五井一族であることに、変わりは、ないからだ…
つまりは、マミさんは、私ではなく、五井一族に、寄り添っていた…
そうとも、言える…
そして、おそらく、それは、私を騙していたとも言えるだろう…
その証拠に、マミさんは、気まずそうな顔をしていた…
私に対して、実に、気まずそうな顔をしていた…
対照的に、団郁馬は、晴れやかだった…
私が、近付くと、
「…また、お会いしましたね…」
と、晴れやかな表情で、言った…
私は、そう言われて、思い出した…
かつて、一度だけ、この団郁馬に会ったことを、思い出した…
コンビニの外で、ただ、一度だけ、遭ったことを、思い出していた…
普通ならば、覚えていることもない…
失礼ながら、それほど、影の薄い人物だ…
影の薄い=印象に残らない人物だ…
それが、私の記憶に残ったのは、コンビニで、出会った直後に、この団郁馬の顔を知ったから…
だから、覚えていた…
忘れずに、覚えていた…
普通なら、忘れてしまう…
一度会っただけなら、忘れてしまう…
それほど、平凡…
記憶に残らない平凡な容姿の人物だからだ…
私は、そう、考えながら、
「…団郁馬さんですね?…いつぞやは、コンビニで、失礼しました…」
と、団郁馬に、返した…
それを、聞くと、団郁馬は、少し、驚いた様子で、
「…こんな美人に、覚えていてもらって、光栄です…」
と、わざと、大げさに、驚いたフリをして、笑みを浮かべた…
対照的に、マミさんの顔は、強張ったままだった…
きっと、私に対して、気まずいのだろう…
私は、団郁馬に、挨拶した後、マミさんに、
「…こんにちは…」
と、声をかけた…
マミさんは、
「…ええ、こんにちは…」
と、返したが、表情は、硬いままだった…
正直、見ていられなかった…
いつもの、マミさんでは、なかったからだ…
だが、よかったのは、私の隣に、ナオキが、いたこと…
ナオキが、クッション代わりになった…
仮に、私とマミさんだけなら、滅茶苦茶、気まずくなるところだが、ナオキが、この場にいることで、クッション代わりになった…
第三者のナオキが、いることで、場が、少しは、穏やかに、なった…
私は、そう、思った…
一方、その当人のナオキは、内心、どう思っているか、わからないが、マミさんに、対しては、
「…お久しぶりです…」
と、声をかけ、初対面の団郁馬に対しては、
「…初めまして…」
と、声をかけた…
「…藤原ナオキと言います…」
と、続けた…
マミさんは、ナオキに対して、
「…お久しぶりです…」
と、声をかけたが、隣の団郁馬は、
「…FK興産社長の藤原ナオキさんですよね…」
と、返した…
ナオキは、一瞬、驚いたようだが、すぐに、
「…ハイ…その通りです…よくご存じですね…」
と、答えた…
団郁馬は、すかさず、
「…それは、知っていますよ…一応、東都新聞のオーナーですから…」
と、答えたので、ナオキが、絶句した…
「…東都新聞のオーナー?…ですか?…」
「…そうです……東都新聞と東都テレビ、東都ラジオの実質的なオーナーでも、あります…もちろん、この病院も…」
団郁馬が、答える…
ナオキは、驚いて、
「…それは、それは…」
と、だけ、言った…
どう、返答していいか、わからなかったのだろう…
その様子を隣で、見ていたマミさんが、
「…この方は、団郁馬さん…私と同じ五井一族…五井一族の分家の五井北東家の当主…」
と、簡単に、ナオキに紹介した…
「…五井北東家の当主? アナタが?…」
ナオキが、驚いた顔で、聞く…
が、
団郁馬は、笑みを浮かべ、
「…そんな顔をしないで下さい…ボクだって、嫌なんです…」
と、答えた…
「…いや? どうして、嫌なんですか?…」
「…だって、名家の子孫と言えば、眉目秀麗とまでは、言いませんが、誰しも、ルックスのよい人間を期待するじゃないですか? 藤原さんのように…」
団郁馬が、そう言うと、ナオキは、困った顔をした…
が、
すぐに、
「…ありがとうございます…」
と、言って、頭を下げた…
「…ボクなんか、見た目だけです…」
と、ナオキが、謙遜して、言った…
が、
団郁馬は、
「…いえ、見た目がいいのが、一番です…」
と、返した…
「…どんなに、お金を、持っていても、権力を持っていても、外見は、変えられません…」
と、力を入れた…
「…ボクは、アナタが、羨ましい…」
と、さらに、ナオキを褒める…
同時に、それは、自分のコンプレックスを吐露することに、他ならなかった…
この団郁馬が、藤原ナオキ同様、長身のイケメンならば、いい…
しかしながら、この団郁馬の外見は、貧相とまでは、言わないものの、目立たない…
一言で言えば、目立たない、箸にも棒にも掛からぬ男…
それゆえ、本家に対抗しようとした…
それを、思った…
いわゆる、ないものねだり…
しかしながら、それを、子供が、望むのは、いい…
まだ、右も左もわからない、子供が、望むのは、いい…
だが、それを、望むのが、大人…
しかも、名家のはしくれなのだから、余計に、たちが悪い…
つまりは、名家のはしくれではなく、名家の中央にいたい…
センターで、一番、目立ちたい(苦笑)…
それが、願望…
それゆえ、たちが悪い…
言葉は、悪いが、アイドルグループの中で、ルックスも歌唱力もイマイチなのに、自分は、センターになりたい…
そんな願望と似ているからだ…
私が、そう、思っていると、ナオキが、
「…団さんは、綾乃さんを、知っているんですね?…」
と、聞いた…
さっきの会話で、わかったのだろう…
「…ええ、一度、お会いして…」
「…一度だけ…ですか? それでも、綾乃さんを覚えていたんですか?…」
と、驚いて、聞く…
団郁馬は、動ぜずに、
「…美人ですから、覚えていますよ…」
と、返した…
私は、それを聞いて、
「…ありがとうございます…」
と、慌てて、頭を下げた…
私のことを、褒めてくれたからだ…
その真意は、さておき、褒めてくれたからだ…
でも、その続きがあった…
団郁馬には、その続きがあった…
「…ですが、失礼ですが、寿さんは、美人ですが、仕事柄、一般のひとより、ひとに多く会うので、寿さんと、似たタイプの美人は、何人も会ったことがありますよ…」
と、続けた…
私は、そう、言った、団郁馬の真意がわからなかった…
なぜ、今、美人と私を持ち上げていて、それから、一転して、私を下げるような言葉を言うのか、わからなかった…
そして、それは、マミさんにも、伝わった…
「…ちょっと、失礼よ、叔父様…」
と、マミさんが、団郁馬に、言った…
「…いくらなんでも、寿さんに、失礼よ…」
と、マミさんが、続けた…
が、
等の団郁馬は、どこ吹く風だった…
「…たしかに、失礼ですが、事実ですよ…」
と、悪びれることなく、言った…
続けて、
「…それは、伸明クンも、言っています…」
と、仰天の言葉を言った…
私は、つい、
「…伸明さんも…ですか?…」
と、言って、しまった…
恥ずかしながら、言ってしまった…
言ってしまってから、これは、まずかったと、思った…
が、
言ってしまったものは、仕方がない…
事実、世の中には、私と同じような、タイプの美人は、それなりにいる…
私が、この世の中で、一番の美人なわけはない(爆笑)…
もっと、言えば、私以上の美人だって、この世の中には、たくさんいる…
ただ、普通のひとは、滅多に、そんな美人に会わないだけだ…
しかしながら、今、この団郁馬が言ったように、大勢のひとに会う仕事でも、していれば、美人と会う確率も高いだろう…
当たり前のことだ…
だが、なぜ、それを、わざわざ、言ったのか、わからない…
なぜ、わざと、口にしたのか、わからない…
単なる、皮肉だろうか?
それとも、なにか、意味があるのだろうか?
考えた…
が、
その直後だった…
この団郁馬が、仰天の言葉を、口にした…
「…伸明クンの羨望と嫉妬の対象である、寿綾乃さん…」
と、言ったからだ…
正直、意味がわからなかった…
僭越ながら、羨望の対象というのは、わかる…
自分で、言うのも、なんだが、私は、美人だからだ…
だが、嫉妬の対象というのは、わからない…
さっぱり、わからない…
意味がわからない…
これは、ウソ?
それとも、わざと、私を騙すため?
さまざまな思いが、浮かんだ…
一瞬にして、脳裏に、浮かんだ…




