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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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211/225

寿綾乃という女 第4部 211

 「…ビジネス友達って?…」


 と、ナオキが、呆気に取られた表情で、聞いた…


 まさか、いきなり、そんなことを、聞かれるとは、夢にも、思っていなかったのだろう…


 「…つまりは、メリットがあるから、付き合うということ…」


 私が、断言すると、ナオキが、ちょっと、考えてから、


 「…それも、あるかも…」


 と、否定をしなかった…


 私は、それが、意外だった…


 「…ナオキ、否定は、しないの?…」


 「…できないね…」


 あっさりと、言った…


 「…男が、美人と付き合うのと、いっしょさ…」


 「…どういう意味?…」


 「…会社の同僚や、大学の友人でも、美人と、接していれば、どっかで、下心があると、いうか…完全に、頭の中から、消すのが、難しい…」


 「…つまり、ナオキと伸明さんの関係も、それだと…」


 「…その通り…」


 「…その通りって?…」


 「…諏訪野さんとは、気が合うし、会社抜きで、付き合っても、いいひとだと、思う…でも…」


 「…でも、なに?…」


 「…会社があるから、付き合える…それが、本音…」


 「…それは、なければ、付き合わないってこと?…」


 「…たぶん…」


 「…たぶんって?…」


 「…きっと、それは、諏訪野さんも、同じだと思う…」


 「…」


 「…率直に言って、利害関係のある人間と、付き合うのは、利害関係があるから…それが、なくなれば、付き合わない…」


 「…そんなもの?…」


 「…そんなものさ…」


 「…」


 「…だから、学生時代の友人が、一番いい…」


 「…どうして、いいの?…」


 「…利害関係がない…純粋に気が合うから、付き合う…」


 「…」


 「…綾乃さんの言う、ビジネス友達と言うと、嫌な言い方だが、大抵は、そういうものさ…現に、綾乃さんだって、会社で、付き合いのあった社員と、今は、全然、付き合いがないだろ?…」


 「…ええ…」


 「…誰もが、いっしょさ…会社を辞めて、付き合いを続けるひとは、稀…めったにいない…それと、同じさ…」


 「…同じ?…」


 「…ビジネス友達と言うと、嫌な言い方になるけれども、会社でも、学校でも、その中で、気が合うひとと、付き合う…でも、その会社とか、学校とかの、共通の土台がなくなれば、付き合わなくなる…それが、大半じゃないかな…」


 「…だったら、ナオキと、伸明さんの関係も、そうなるの?…」


 「…それは、わからないけれども、たぶん、なる…今のように、利害関係がなくなれば、付き合わなくなる…」


 「…」


 「…諏訪野さんも、それが、わかっていると、思う…だからこそ、孤独なんじゃないかな…」


 「…どういう意味?…」


 「…自分の立場…自分の立ち位置…それに憧れて、ひとが、寄って来る…それが、辛いんじゃないかな…」


 「…」


 「…でも、それを言えば、綾乃さんだって、一緒だよ…」


 「…一緒? 私が?…」


 「…美人の綾乃さんだから、男が寄って来る…美人でなければ、男は、寄って来ない…」


 「…」


 「…だから、美人は、すべからく、言う…外見でなく、もっと、私の中身を好きになってって…」


 ナオキが、笑った…


 …たしかに…


 たしかに、そういう気持ちになったときは、あった…


 若いときは、あった…


 もっと、外見ではなく、私の中身を見て!


 と、言いたい気持ちはあった…


 そして、それは、たぶん、伸明も、同じ…


 同じかも、しれない…


 金持ちの自分ではない、自分を見て欲しい…


 それを、欲したのではないか?


 私が、美人の私ではなく、私の中身を見て欲しいと、欲したのと、同じように、欲したのではないか?


 いや、


 たしかに、欲した…


 ずっと、以前、この話をした…


 伸明と出会って、まもなく、深夜に、伸明から、クルマで、デートを誘われ、そんな話をした…


 金持ちゆえの、苦労を、私に語った…


 私は、今、それを、思い出した…


 それを、思い出したのだ…


 私が、それを、思い出していると、


 「…でも、ボクは、モテなかった…」


 と、ナオキが、笑って、告白した…


 「…ウソ!…」


 と、思わず、口にした…


 藤原ナオキは、長身で、イケメン…


 モテないはずは、ないからだ…


 「…ホント…」


 と、ナオキが、笑って言う…


 「…どうして、モテなかったの?…」


 「…オタクだったから…コンピュータおたくだったから…」


 あっさりと、笑って、告白した…


 「…だから、このルックスでも、女のひとは、ボクを相手にしてくれなかったし、ボクも、女どころじゃ、なかった…」


 「…どうして、女どころじゃ、なかったの?…」


 「…コンピュータに夢中になれば、女どころじゃない…」


 ナオキが、笑う…


 「…ほら、学生時代に、一生懸命、勉強をして、東大に入る…その学生たちは、学生時代、勉強がすべて…付き合っている男も女もいないと、思う…」


 「…ウソ?…」


 「…ホント…若ければ、若いほど、ひとつのことに、夢中になる…夢中になりすぎる…だから、結果が出せる…わき目も振らずに、夢中になるからね…」


 「…」


 「…だから、男でも、女でも、誰かと付き合っている暇は、ない…そういうこと…」


 「…そういうことって?…」


 「…綾乃さんは、学生時代、男と付き合わなかったの?…」


 「…付き合わなかったわ…」


 「…どうして、付き合わなかったの?…」


 「…田舎だから…」


 「…えっ? 田舎だからって、どうして、田舎だからなの?…」


 「…田舎は、うるさいのよ…」


 「…うるさいって?…」


 「…あそこの子と、あそこの子が付き合っているって、すぐ噂になるの…それが、嫌で…」


 まさか、母に、念を押されたからなんて、言えない…


 32歳にも、なっても、言えない…


 母が、


 「…綾子…アンタは、美人だから、男に、気をつけるんだよ!…」


 と、しょっちゅう念を押されていたから、なんて、言えない(涙)…


 私は、美人の叔母とそっくり…


 外見が、よく似ている…


 それゆえ、母は、妹の苦悩が、よくわかっていた…


 美人に生まれた、叔母の状況が、よくわかっていた…


 それゆえ、私を心配した…


 変な男に、引っかからないように、心配した…


 だから、私は、母の言いつけを守った…


 と、同時に、今も言ったように、田舎だからと、言うのが、ある…


 誰それの息子は、誰それの娘と付き合っている…


 それが、瞬く間に、近所に知れ渡ることに、なりかねない…


 まさに、田舎、あるあるだ(爆笑)…


 人間関係が、濃密というか、距離が、近いというか…


 隠し事が、できない…


 私が、そんなことを、思っていると、ナオキが、


 「…ボクは、そんなことなかった…」


 と、言った…


 「…そんなことなかったって、どういうこと?…」


 「…そこまで、人間関係が、濃密じゃなかったと、言っていいのかな…そこまで、うるさくなかった…」


 「…どうして、うるさくなかったの?…」


 「…たぶん、そこまで、田舎じゃなかったからかな…」


 「…えっ? でも、ナオキ、地方出身でしょ?…」


 「…でも、県庁所在地だったから…」


 ナオキが、あっさりと、言った…


 だから、違う…


 私とは、違う…


 納得した…


 実に、納得した…


 でも、ナオキが、学生時代、モテなかったのは、意外だった…


 長身で、イケメン…


 周囲の女が、放っておくとは、思えなかったからだ…


 それゆえ、


 「…ナオキ、アナタ、ホントに、モテなかったの?…」


 と、聞いた…


 わざと、意地悪く、聞いた…


 ナオキは、あっさりと、


 「…ホントに、モテなかった…」


 と、言った…


 「…なにしろ、学生時代は、コンピュータ一筋…プログラミング一筋…なにより、大学の理系に、女は、少ない…びっくりするほど、少ない…それに、男も女も真面目…付き合うなんて、もってのほか…」


 そうだったんだ…


 ナオキの告白で、初めて、聞いた…


 ナオキは、学生時代のことを、私に話したがらない…


 それは、高卒の私に気を遣っているから…


 大学に行っていない、私に気を遣っているからだ…


 「…でも、その後、ユリコと、出会った…」


 と、ナオキが、突然、言った…


 「…それから、結婚した…」


 と、続ける…


 要するに、周囲に女が、いなかった…


 だから、ユリコと結婚した…


 そういうことだろう…


 ユリコのルックスは、平凡…


 普通なら、イケメンのナオキは、落とせない…


 ユリコでは、落とせない…


 それが、落とせたのは、ナオキの周囲に女がいなかったから…


 それに、尽きる…


 が、


 ユリコは、ルックスは、平凡だが、頭脳は、明晰…

 

 頭が、いい…


 そして、このナオキは、ユリコの頭の良さに惹かれた…


 そういうことだろう…


 難関大出身のナオキは、頭のいいひとが、好き…


 まあ、ナオキに限らす、頭のいいひとは、頭のいいひとが好き…


 これが、基本というか、標準…


 稀に、そうでないひともいるが、それは、希少…


 実に、希少だ…


 なにしろ、頭が、違えば、話が合わない…


 だから、頭のいいひとと、頭の悪いひとの結婚は、無理…


 私が、頭が、良くなくても、ナオキといっしょに、いられるのは、私が、高校生時代に、ナオキと知り合ったから…


 だから、ナオキは、私を子供と見た…


 私を対等の人間と見なかった…


 それが、大きい…


 普通なら、ナオキは、私を選ばないだろう…


 大人になった今でも、選ばないだろう…


 いや、


 選ぶかもしれない…


 なぜなら、大人になれば、考えも変わる…


 また、余裕が出て来る…


 それが、現れるのが、歳を取った会社のお偉いさんが、若い女に夢中になること…


 学生時代、真面目だった男が、豹変する…


 女好きに豹変する(爆笑)…


 それが、いい例…


 実に、わかりやすい、例だ…


 そんなことを、考えながら、私は、ユリコを思った…


 まだ、負けてないと、言ったユリコを思った…


 アレは、ユリコのブラフ?


 ユリコのはったりに、過ぎないのか?


 考えた…


 それとも、あの発言に根拠が、あるのか?


 考えた…


 考え続けた…


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