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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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210/225

寿綾乃という女 第4部 210

 が、


 これは、推測…


 あくまで、マミさんの推測に過ぎない…


 実に、納得のできる話ではあるが、推測に過ぎない…


 証拠は、なにも、ないからだ…


 私が、そう、考えていると、


 「…伸明さんに、会って、それを、聞きたいの…」


 と、マミさんが、言った…


 断固とした、強い口調で、言った…


 私は、驚いて、


 「…それを、明日か、明後日に、聞くんですか?…」


 と、思わず、言ってしまった…


 思わず、口に出して、しまった…


 「…まさか…」


 電話の向こう側のマミさんが、笑った…


 「…まさか、入院中の伸明さんに、そんなこと、聞けるわけ、ないじゃない…」


 マミさんが、笑って、答える…


 「…ですよね…」


 と、私は、相槌を打ちながら、もしかしたら、これも、脳梗塞の影響かも、と、考えた…


 まさか、いくらなんでも、伸明の入院のお見舞いに行くのに、そんなバカな、真似は、しない…


 そんなバカな質問は、しない…


 そんな質問をするのは、伸明が、病院を退院してから…


 退院して、元気になってからだ…


 さもなければ、聞けない…


 当たり前のことだ…


 私が、そう、思っていると、マミさんが、


 「…じゃ、寿さん、今日は、このへんで…」


 と、言った…


 「…えっ? このへんって?…」


 「…伸明さんの見舞いの件、明日にするか、明後日にするか、後で、あらためて、電話する…病院の都合も、聞かなきゃ、いけないし…」


 「…病院の都合…ですか?…」


 「…そう…明日か、明後日が、いいのは、私の都合…」


 「…えっ? マミさんの都合…ですか?…」


 「…これでも、会社を経営しているのよ…暇なわけ、ないじゃない…」


 「…」


 「…だから、とりあえず、寿さんと、藤原さんの都合を聞いたわけ…」


 「…そうだったんですか?…」


 「…そうだったのよ…」


 マミさんが、笑った…


 「…じゃ、そういうことで…また、後で、電話するわ…」


 そう、言って、マミさんは、電話を切った…


 私が、答える間もなく、電話を切った…


 そして、ちょうど、電話が切れた直後に、ナオキが、顔を出した…


 「…綾乃さん、誰かと、電話している?…」


 と、言って、顔を出した…


 「…ちょうど、今、マミさんから、電話があったの?…」


 「…マミさんから?…」


 「…ナオキは、どうして、この部屋にやって来たの?…」


 「…綾乃さんが、誰かと、電話しているみたいだから、気になって…」


 「…そう…」


 「…聞いて、いいか、どうか、わからないけれども、マミさんの電話の内容って…」


 「…伸明さんのことよ…」


 「…諏訪野さんのこと?…」


 「…いっしょに、お見舞いに行かないかって…」


 「…それで、いつ?…」


 「…明日か、明後日…」


 「…えっ? 随分、急だね…」


 「…それが、マミさんなの…」


 私は、笑って言った…


 「…だから、最初、ナオキが、どこにいるか、私に聞いたの?…」


 「…えっ? 聞いた? どうして?…」


 「…伸明さんのお見舞い…ナオキも、連れて行きたかったみたい…ナオキが、マスコミの目を恐れて、どこかのホテルにでも、隠れていると、思っていたみたい…」


 「…なるほどね…」


 ナオキが、納得する…


 「…で、そのボクが、綾乃さんの家に、いたものだから、マミさん、ビックリしたでしょ?…」


 「…それは、ビックリしたわ…」


 と、言ってから、


 「…ナオキ…もしかして、今の電話、聞いていたの?…」


 と、尋ねた…


 ナオキが、ここにいると、電話で、私が言ったのを、聞いたと、思ったからだ…


 「…まさか?…」


 と、ナオキが、笑って、否定した…


 「…聞かずとも、話の具合から、そうなるでしょ?…」


 と、ナオキが、指摘する…


 たしかに、その通り…


 「…ナオキの居場所は…」


 と、いう話になれば、


 「…うちにいます…」


 と、いう答えになるに、決まっている…


 考えることもなく、決まっている…


 それが、わざわざ、ナオキに尋ねるのも、どうかしている…


 これも、もしや、脳梗塞の影響?


 脳梗塞の影響で、トロくなっている?


 あらためて、思った…


 あたらためて、思ったのだ…


 …そんなことも、わからないなんて…


 あらためて、自分のバカさ加減に、気付いた…


 「…どうしたの? 綾乃さん?…」


 と、絶句している私に、ナオキが、尋ねたが、それには、答えず、


 「…マミさん、また、後で、電話するって…」


 と、答えて、話を変えた…


 「…後で、電話するって、だって、今の電話、諏訪野さんの見舞いに行く日を決める電話じゃ、なかったの?…」


 「…だと、私も思ったけれども、違った…」


 「…どう、違ったの?…」


 「…マミさんの都合…」


 「…えっ? マミさんの都合って?…」


 「…マミさんも、普段忙しいから…でも、明日と、明後日は、空いているらしい…都合がつくらしい…それで、私とナオキの都合を聞いて、都合があえば、いっしょに、伸明さんの見舞いに行こうと思って、電話をくれたんだけれども、肝心の病院には、見舞いに行っていいのか、どうか、確認は、とっていなかったみたい…」


 「…なるほどね…マミさんらしい…」


 ナオキが、苦笑した…


 私もそれを、見て、たしかに、マミさんらしいと、思った…


 せっかちゆえに、思いたったら、すぐに、動く…


 それゆえ、詰めが甘い…


 前後の見境なくとまでは、いわないが、猪突猛進という言葉が、ふさわしい…


 実に、ふさわしい…


 が、


 マミさんは、小柄…


 ちょうど、芸能人で言えば、元AKBの高橋みなみさんのように、小柄だ…


 それゆえ、ホントは、猪突猛進という言葉は、似合わない…


 猪突猛進の言葉は、猪(イノシシ)が、突き進むイメージ…


 マミさんは、小柄だから、猪(イノシシ)は、似合わない…


 悪口ではないが、似合わない…


 私が、そう、思って、クスリと、笑っていると、ナオキが、


 「…どうしたの? 綾乃さん、なにを笑っているの?…」


 と、聞いてきた…


 「…マミさんのことよ…」


 「…マミさんのことって?…」


 「…マミさんの性格…猪突猛進という言葉が、ふさわしいけれども、マミさんには、申し訳ないけれども、マミさんに、イノシシは、似合わない…マミさんは、小柄だから、もっと、イノシシより、小さな、動物が、似合うと、思って…」


 「…なるほどね…綾乃さんの言うことは、わかる…」


 私の言葉に、同意した…


 「…でしょ?…」


 「…でも、マミさんの行動に、裏表は、ないよ…」


 「…それは、わかっているわ…だからこそ、信頼できる…信用できる…でしょ?…」


 「…たしかに…彼女は、信用できる…でも…」


 と、なぜか、ナオキは、付け足した…


 「…でも、なに?…」


 「…彼女は、五井家の人間…なにか、あれば、五井の側に立つ…綾乃さんと、五井のどちらかを選べと言われたら、五井を取る…迷いなく、取る…」


 「…それは、わかっているわ…」


 「…いや、わかっちゃいない…」


 「…えっ? どうして、わかってないと、思うの?…」


 「…綾乃さんを見ると、マミさんを信用し過ぎている…」


 「…えっ?…」


 「…マミさんの言葉を信じすぎている…」


 「…でも、マミさんは、信用できないひとじゃ…」


 「…それでも、どこかに、マミさんは、決して、綾乃さんに、ウソは、つかない…綾乃さんを、騙さないと、思っている…」


 「…それのどこが、悪いの?…」


 「…何事も、全面的に信じちゃダメだよ…」


 「…どうして、ダメなの?…」


 「…その前提が、崩れたとき、どうしていいか、わからなくなる…」


 「…どういう意味?…」


 「…ボクは、綾乃さんも、知っているように、経営者だ…会社を経営している…だから、常に、リスク回避が頭の中に、ある…この仕事を請け負って、ダメになっても、会社が、倒産しないとかね…だから、何事も、疑ってかかることが、習慣になっている…習性になっている…」


 「…」


 「…それだからか、綾乃さんを、見ていて、危うさを感じていてね…」


 「…危うさ?…」


 「…マミさんに、限らず、諏訪野さんのことも、信用し過ぎると、思ってね…」


 …そんなことを、言われるとは、思わなかった…


 …意外…


 …実に、意外だった…


 「…だったら、ナオキは、伸明さんを信用していないの?…」


 つい、聞いてしまった…


 ケンカ腰で、聞いてしまった…


 「…信用は、しているよ…ただし、全面的には、信用は、していない…」


 「…えっ? どうして?…」


 「…ボクは、FK興産の社長…諏訪野さんは、五井グループの総帥…立場が、違う…だから、各々の立場から、発言するし、各々の立場を、守ろうとする…それが、ボクたちのスタンス…」


 「…」


 「…綾乃さんは、諏訪野さんを男として、見ている…ひとりの人間として、見ている…それに対して、ボクは、会社の代表としてみている…それが、違う…」


 「…」


 「…だから、ボクは、どんな人間も、信用し過ぎない…全面的に。信用して、会社がポシャったら、目も当てられないからね…」


 ナオキが、言った…


 これまで、考えたことのないことを、言った…


 伸明を内心、どう思っているか、本音を言った…


 これは、驚き…


 驚きだった…


 ナオキと、伸明は、親しい…


 それは、傍から、見ていれば、わかる…


 二人の会話を、聞けば、わかる…


 気が合うのが、わかる…


 にもかかわらず、そんなことを、言うのは…


 ちょっと、信じられなかった…


 もしかして、ビジネス友達…


 今、流行りのビジネス友達なのだろうか?


 考えた…


 自分に都合が、いいから、関係を続ける…

 

 親しく、関係を続ける…


 ビジネスの役に立つからだ…


 それが、なくなれば、付き合わない…


 互いに、メリットが、なにも、ないからだ…


 それが、ナオキと、伸明の関係なのだろうか?


 考えた…


 が、


 それを、聞くべきか、否か、迷った…


 が、


 やはり、聞きたい…


 このナオキが、伸明を、どう思っているか、聞きたい…


 本音が、聞きたい…


 それゆえ、ナオキに、


 「…もしかして、ナオキにとって、伸明さんは、ビジネス友達?…」


 と、聞いた…


 直球で、聞いた…


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