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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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209/225

寿綾乃という女 第4部 209

 マミさんから、やって来た…


 これは、もはや年中行事…


 年中行事、いつものことだ…


 いつも、伸明のことは、マミさんから、やって来る…


 いや、


 伸明のことだけではない…


 五井のことは、マミさんから、やって来る…


 「…寿さん、お久しぶり…」


 と、突然、マミさんから、電話があった…


 「…こちらこそ、ご無沙汰しています…」


 と、返す。


 「…伸明さんのことだけれども…」


 と、マミさんは、すぐに、本題に入った…


 これが、マミさん。


 社交辞令も、ほどほどに、すぐに、本題に入る…


 要するに、無駄な話は、しない…


 時間は、有限だからだ…


 時間は、限られているからだ…


 これは、マミさんが、ナオキ同様経営者であるから、時間を有用に使うことも、もちろんだが、やはり、性格…


 性格の問題だろう(笑)…


 マミさんは、江戸っ子ではないが、ちゃきちゃきしている…


 要するに、せっかち…


 せっかちだ…


 だから、挨拶も、ほどほどに、本題に入った…


 「…伸明さんのことだけれども…」


 と、本題に入った…


 「…明日か、明後日、どう?…」


 と、言った…


 いきなり、言った…


 これには、驚いた…


 いくらなんでも、直近すぎる…


 普通なら、来週の日曜日だとか、言うものだ…


 一週間ぐらい先のことを、言うものだ…


 それが、いきなり、明日か、明後日なんて…


 が、


 それが、マミさん…


 マミさんだ…


 ビックリも、したが、それが、マミさん…


 いかにも、マミさんらしい…


 思わず、笑ってしまうほど、マミさんらしい…


 私は、思わず、笑い出したい気持ちを抑えて、


 「…いいですよ…」


 と、答えていた…


 自分でも、驚くほど、呆気なく、答えていた…


 もはや、反射的に、答えていた…


 それが、マミさんも、意外だったらしい…


 「…ええっ? いいの?…」


 と、ちょっと、驚いた感じで、電話の向こう側から、言ってきた…


 私は、冷静に、


 「…いいですよ…」


 と、返した…


 それから、


 「…大丈夫ですよ…」


 と、続けた…


 「…ホントに、いいの?…」


 マミさんが、遠慮した感じで、聞く…


 「…大丈夫ですよ…マミさんも、知っているように、私は、今、家で、療養中です…仕事も、していません…だから、フリー…なんの予定も、ありません…」


 「…だったら、藤原さんは?…」


 「…えっ? ナオキですか?…」


 「…できれば、藤原さんにも、来てもらいたんだけれども、連絡は取れる?…」


 「…連絡も、なにも、ナオキは、今、私といっしょに、暮らしています…」


 「…えっ? いっしょに、暮らしている? ウソ?…」


 「…ホントです…」


 「…でも、今、藤原さんは、ハルカさんのことが、あるから、身を隠していて、会社にも、出社していないって、聞いたけれども…」


 「…ここに、いますよ…」


 「…えっ? いる?…」


 「…近くに、います…今、私の目の前には、いませんが、呼んできましょうか?…」


 「…いえ、そこまでは…でも、意外だった…」


 「…意外? どうして、意外だったんですか?…」


 「…藤原さん、どこかのホテルに、身を隠しているのかと、思った…」


 「…」


 「…だって、マスコミの目もあるし…それが、まさか、寿さんの自宅にいるなんて…」


 「…意外すぎました?…」


 「…ええ…」


 「…灯台下暗しですよ…」


 「…灯台下暗しって?…」


 「…あまりにも、身近すぎて、気がつかなかっただけです…」


 「…でも、それじゃ、マスコミに見つかるんじゃ…」


 「…そのときは、そのときですよ…」


 「…そのときって?…」


 「…急いで、どこかのホテルに、身を隠します…」


 「…身を隠すって?…」


 「…だって、それ意外、ないじゃないですか?…」


 私が、言うと、マミさんが、黙った…


 しばし、黙って、なにも、言って来なかった…


 それから、一転して、


 「…寿さん、らしい…」


 と、言って、爆笑した…


 電話の向こう側で、ケラケラと、楽しそうに、笑っていた…


 私は、戸惑った…


 さすがに、戸惑った…


 「…そんなに、笑うところですか?…」


 と、言って、戸惑った…


 マミさんは、すぐには、答えず、笑いながら、


 「…笑うところよ…」


 と、答えた…


 笑いながら、答えた…


 「…豪胆というか、寿さんらしい…」


 「…私らしい? どうして、私らしいんですか?…」


 「…だって、寿さん…寿さんが、会社を辞めても、会社員時代に、藤原さんと、親しかったのは、FK興産の多くの社員が、知っているだろうし、それを、マスコミに話すひとも、いるでしょ?…だから、たぶん、マスコミが、真っ先に、目をつけているかも、しれないし…」


 そこまでは、考えなかった…


 そこまで、用心深く、考えなかった…


 これも、やはり、脳梗塞のせい…


 脳梗塞の影響だろうか?

 

 考えた…


 真剣に考えた…


 考えざるを得なかった…


 「…でも、それで、いいかも…」


 と、突然、マミさんが、言った…


 「…えっ? いい? …どうして、いいんですか?…」


 「…だって、たとえ、マスコミに、藤原さんが、見つかっても、命まで、取られるわけじゃないだろうし…」


 「…命ですか?…」


 「…ただ、藤原さん、ハルカさんと、結婚会見までしたのに、別の女のところに、いることが、わかれば、イメージダウンになる…そんな男なんだって、世間に、わかって、イメージダウンになる…」


 「…そんな男ですよ…」


 「…そんな男って?…」


 「…普通に、女好き…ナオキ、長身で、ルックスもいいし、お金も持っている…それで、女に、モテなきゃ、おかしいですよ…女が、好きじゃなきゃ、おかしいですよ…」


 私が、冷たく、断言すると、マミさんが、爆笑した…


 「…寿さんたら…」


 と、言って、爆笑した…


 「…たしかに、女にモテれば、自然と、女好きになる…当たり前よね…」


 と、言って、笑った…


 「…ですよね…」


 と、私も相槌を打った…


 「…まあ、それが、普通の人間…普通の男…伸明さんは、これまで、我慢していただけ…」


 そう、言われると、納得した…


 簡単に、納得した…


 が、


 返す言葉が、見つからない…


 まさか、相槌を打つわけには、いかないからだ…


 だから、困った…


 どう、返答して、いいか、わからず、困った…


 すると、そんな私の窮状を察したわけでも、あるまいに、マミさんが、


 「…私も今度の件は、驚いた…」


 と、いきなり、言った…


 「…今度の件って?…」


 「…あのハルカさんが、妊娠していたこと…」


 「…」


 「…しかも、そのハルカさんのお腹の中の子供の父親が、伸明さんから、知れないって、こと…」


 「…」


 「…伸明さんの女関係は、これまで、一度も、聞こえて来ないから、驚いた…」


 「…マミさんも、知らなかったですか?…」


 「…知らなかった…伸明さんが、遊んでいる話は、聞いたことが、なかったし、あの歳で、女を知らないわけじゃないだろうけれども、実際、伸明さんの女関係の話を聞いたことが、なかった…」


 「…」


 「…きっと、我慢していたんだと、思う…」


 「…我慢…」


 「…五井の当主としての立場…」


 「…立場…」


 「…五井グループ総帥としての立場…それゆえに、我慢していたんだと、思う…」


 「…」


 「…ただ、その我慢が、弾けた…今回、弾けた…たぶん、和子叔母様が、病気で、倒れたのが、原因…」


 「…どうして、ですか? 和子さんが、倒れたことで、伸明さんが、どうして?…」


 「…やはり、プレッシャーでしょう…私も、詳しくは、知らないけれども、私生活では、寿さんも、知っているように、和子叔母様が、倒れて、ほどなくして、西家の叔父様が、紹介した、ハルカさんと、見合いをすることになった…会社でも、同じく、なにか、それまでとは、違うプレッシャーを、感じる場面が、あったのかも、しれない…」


 「…」


 「…だから…」


 そう、言われると、どう言って、いいか、わからなかった…


 マミさんの言うことは、わかる…


 実に、わかる…


 が、


 どう、返して、いいか、わからない…


 どう、答えて、いいか、わからない…


 私が、そう、思っていると、


 「…要するに、不満のはけ口ね…」


 と、マミさんが、断言した…


 「…不満の…はけ口ですか?…」


 「…そう…でも…」


 「…でも、なんですか?…」


 「…それで、抱かれちゃ、迷惑よ…」


 「…迷惑?…」


 「…そして、その結果、ハルカさんが、妊娠したとしたら?…」


 「…」


 「…だから、案外、伸明さん、ハルカさんに、会ったのは、それを、伝えるためじゃ…」


 「…伝えるため? どういうことですか?…」


 「…ぶっちゃけ、アレは、遊びだった…おろしてくれと、言ったのかも…」


 「…あるいは、仮に、産んで、ボクの子供だと、わかっても、結婚はできないし、子供の面倒を見る費用も出せないと、言ったのかも…」


 「…」


 「…それが、原因で、ハルカさんが、伸明さんと、別れた直後に、窓から身を投げて、投身自殺を図ったとしたら、納得できる…」


 マミさんが、言った…


 実に、納得できることを、言った…


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