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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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207/225

寿綾乃という女 第4部 207

 まあ、それも、仕方がないかも、しれない…


 ハルカさんは、偽りの結婚会見をした仲だが、ナオキと親しかったわけでも、なんでもない…


 ただ、伸明に頼まれて、偽りの結婚会見をしたさけ…


 それは、あの長谷川センセイを、仲間にするため…


 ユリコや、団郁馬と組んでいた、長谷川センセイを、こちらの陣営に誘い込むために、長谷川センセイの妹のハルカと、ナオキを結婚すると、世間に、公表したに、過ぎないからだ…


 が、


 もしかしたら?


 もしかしたら、あの伸明は、本気で、このナオキとハルカを結婚させたかったのかも?


 そう、気付いた…


 なぜなら、あの伸明は、あのハルカと、関係があった…


 男女の関係があった…


 普通に、考えれば、嫌いな人間とは、男女の関係には、ならない…


 たとえ、好きでは、なくても、嫌いではない…


 そういう間柄だから、男女の関係になる…


 セックスをする関係になるからだ…


 嫌いな人間とセックスをする人間は、いない…


 普通は、いない…


 そういうことだ…


 そして、もし、それが、真実ならば、納得するが、同時に、伸明のずるさも、感じる…


 言葉は、悪いが、自分の女を、友人のナオキに押し付けたことになるからだ…


 あくまで、私の妄想だが、それが、伸明の狙いだとしたら、私の伸明に対する印象が、変わる…


 大きく、変わる…


 そんな人間だったんだと、思って、伸明の印象が、だだ下がりに、なる…


 そう、思った…


 そう、思ったのだ…


 そして、私が、そう、思っていると、ナオキが、


 「…どうしたの? 綾乃さん…なにを、考えているの?…」


 と、聞いてきた…


 私は、ちょっとばかり、考え込んだ…


 こんな話を、ナオキに言っていいものか、どうか、考えたからだ…


 だから、躊躇った…


 ナオキに、言うことを、躊躇った…


 「…どうしたの?…綾乃さん?…」


 当然のことながら、ナオキが、再度、聞く。


 私は、


 「…もしかして…もしかしてよ…」


 と、ナオキに、念を押してから、


 「…もしかして、伸明さん、本気で、ナオキと、ハルカさんを、結婚させるつもりだったのかも…」


 と、言った…


 迷わず、言った…


 それを、聞いたナオキは、


 「…ウソ!…」


 と、発した…


 即座に、発した…


 「…あくまで、可能性よ…」


 と、再び、念を押した…


 「…でも、どうして、綾乃さんは、そう、思ったの?…」


 「…それは…」


 「…それは、なに?…」


 「…だって、伸明さん、ハルカさんと、関係していたでしょ? 男女の関係だったでしょ?…」


 「…それが、どうしたの?…」


 「…誰だって、嫌いな女とセックスは、しないでしょ?…」


 「…それは、そうだけれど…」


 「…それを、考えれば、少なくとも、伸明さんは、ハルカさんを、嫌いじゃない…」


 「…それが、どうして、諏訪野さんが、ボクとハルカさんを、本気で、結婚させたかったと、思うの?…」


 「…だって、少なくとも、嫌いでなければ、その相手に、幸せになってもらいたいと、思うでしょ? ナオキと、結婚すれば、ハルカさんは、玉の輿に乗れる…そう、思ったんじゃないかな?…」


 私は、言った…


 あくまで、私の推測だが、言った…


 ナオキは、私の考えを聞いて、考え込んだ…


 目を閉じて、ゆっくりと、考え込んでいた…


 それから、少しして、


 「…なるほどね…」


 と、呟いた…


 「…あり得るかも…」


 と、続けた…


 「…自分の好きだった女には、幸せになって、もらいたい…だから、いいひとが、いれば、紹介したい…それが、諏訪野さんの気持ちだったのかも…」


 と、ナオキが、伸明の気持ちを語る…


 伸明になりきって、語る…


 そして、そこまで、考えると、


 「…もし、それが、事実だったとしたら?…」


 と、ナオキが、続けた…


 「…もしかしたら、ハルカさんの自殺は、それが、原因かも…」


 と、続けた…


 「…それが、原因って?…」


 と、私。


 「…もし、それが、本当なら、それを、諏訪野さんが、ハルカさんに、言ったとしたら?…」


 「…えっ?…」


 「…いや、そもそも、諏訪野さんが、ハルカさんに、襲われて、怪我をしたのも、案外、それを、諏訪野さんに、言われて、逆上、したんじゃ…」


 あり得る…


 実に、あり得る…


 あり得る話だ…


 しかしながら、それは、まだ、想像…


 まだ、想像の段階だ…


 まだ、伸明に確認が取れていない…


 伸明の言葉を聞いていない…


 伸明から、なにひとつ、伸明が、ハルカに襲われた理由を聞いていない…


 しかしながら、その可能性が高い…


 実に、高い…


 私は、思った…


 私は、実に、そう、思った…


 そして、そう、思っていると、ナオキが、


 「…いずれにしろ、時間は、たっぷりある…なにしろ、今日は、会社は、休み…出社しない…ずっと、この家に閉じ籠っているだけだから…」


 と、言って、笑った…


 私は、それを、聞いて、


 「…いつまで、いるつもり?…」


 と、聞いた…


 あまり、考えることなく、聞いた…


 「…わからない…」


 ナオキが、即答する…


 「…マスコミが、ボクを追わないと、わかれば、すぐにでも、出社するつもりだよ…」


 と、当たり前のことを、言う…


 それから、ふと、思いついた様子で、


 「…そう言えば、あのハルカさん、お通夜は、どうするんだろ?…」


 と、呟いた…


 私は、それを、聞いて、すぐに、


 「…やらないんじゃない…」


 と、返した…


 「…だって、葬式も、やらないと、言っているんだから、お通夜なんて、するはずも、ないでしょ?…」


 私が、言うと、ナオキが、


 「…なるほどね…」


 と、言って、肩をすくめた…


 「…綾乃さんの、言う通り…葬式も、しないのに、お通夜をするはずもない…当たり前だな…」


 ナオキが、納得したように、言う…


 「…まあ、これが、イマドキってやつかな…」


 「…イマドキって?…」


 「…お通夜も、葬式も、しない、イマドキの事情…」


 「…えっ? どういうこと?…」


 「…直葬って、いって、遺体を直接、火葬場に、送る…それで、お骨にしてもらう…」


 私は、ナオキが、言ったことを、黙って聞いていた…


 絶句して、聞いていた…


 「…どうして、そんな…」


 かろうじて、声に出した…


 「…友達から、聞いたんだ…」


 と、ナオキ。


 「…友達?…」


 「…もちろん、友達だけじゃなく、会社の部下も、そう…ボクも、四十を超えている…だから、ボクと、同世代のひとたちも、早ければ、親が亡くなる…それで…」


 「…それで?…」


 「…要するに、お金だよ…お金…」


 「…お金?…」


 「…葬儀も、通夜も、金がかかる…おまけに、今は、人間関係が希薄…昔みたいに、会社の同僚や、上司が、葬式に出席するわけでも、ない…だから、こじんまりとした家族葬が、主流…」


 「…」


 「…その家族葬も、もちろん、ただじゃないから、それもしない…だから、直葬…火葬場で、遺体を焼いて、もらうだけ…せちがらい、世の中だよ…」


 ナオキが、しんみりと、言った…


 そして、それを、聞くと、母を思い出した…


 母の葬儀を思い出した…


 私も、同じ…


 似たようなものだった…


 ひとりぼっちだった…


 母が、死んだときに、すでに、叔母も、従姉も、亡くなっていた…


 従姉の寿綾乃も、亡くなっていた…


 それゆえ、私は、上京して、寿綾乃と名乗った…


 矢代綾子の名前を捨て、寿綾乃と名乗った…


 それが、きっかけで、五井の前当主、諏訪野建造が、私に気付いた…


 私に、興味を持った…


 私のルックスが、叔母そっくりだったから、建造は、私に、興味を持った…


 私の叔母は、かつて、建造が、愛した女性だったから、私に、興味を持った…


 それが、始まり…


 私が、五井家と、縁を持った始まり…


 そして、それが、わかったのは、建造が、亡くなってから…


 今、思い出せば、私を実の娘のように、大切に、扱った…


 当時は、その理由が、わからなかった…


 なぜ、建造が、私に優しく接するのか、わからなかった…


 それが、わかったのは、建造が亡くなってから…


 建造が、亡くなって、だいぶ、経ってからだった…


 つまりは、叔母のおかげ…


 叔母のおかげで、今がある…


 今の私が、ある…


 今、私が、五井と繋がれた関係がある…


 だから、それを、思えば、複雑…


 ちょっぴり複雑だった…


 なぜなら、今の私があるのは、母のおかげではなく、叔母のおかげなんて…


 大好きな母のおかげじゃないなんて…


 複雑…


 実に、複雑だった…


 そして、そんなことを、私が、考えていると、ナオキが、


 「…綾乃さん…」


 と、私に声をかけてきた…


 「…なに? ナオキ?…」


 我に返った私が、聞く…


 「…諏訪野さん…」


 と、いきなり、ナオキが、言った…


 「…伸明さんが、どうしたの?…」


 「…見舞いに、行こう…」


 「…えっ? 見舞い?…」


 「…だって、諏訪野さんは、元気だろ? なにしろ、ハルカさんと、会ったぐらいだから…」


 そう、言われると、納得した…


 納得せざるを得なかった…


 元気だから、あのハルカと会った…


 元気だから、自分を襲ったハルカと、会った…


 そういうことだからだ…


 元気でなければ、会おうとするわけがない…


 当たり前だった…


 当たり前だったのだ…


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