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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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206/225

寿綾乃という女 第4部 206

 朝食を終え、一息、着いた後、マミさんに、電話をかけるか、どうか、悩んだ…


 まさか、朝っぱらから、マミさんに、電話をかけるわけには、いかないからだ…


 さりとて、長谷川センセイに、電話をかけるわけにも、いかない…


 なにより、長谷川センセイの電話番号を知らない…


 五井記念病院での、私の担当医だったが、プライベートで、付き合いはない…


 だから、知らない…


 長谷川センセイのケータイの電話番号は、知らない…


 さて、どうしたものか、悩んでいると、家の電話が、鳴った…


 家の固定電話が鳴った…


 私は、驚いて、電話を、見た…


 近くにいた、ナオキも、また、同じように、電話を見た…


 二人とも、朝食を終え、くつろいでいたところだ…


 「…誰からだろ?…こんな朝早くから?…」


 私が、口走ると、ナオキが、


 「…誰だかは、わからないけれども、綾乃さんの知り合いからだろ? ボクが、このマンションに住んでいたのは、ずっと前だから…」


 ナオキが、言う…


 たしかに、その通り…


 このナオキが、私とジュン君といっしょに、このマンションに住んでいたのは、五年前どころか、それより、はるか昔…


 だから、ナオキに用事があって、このマンションの固定電話に、電話をかけてくるものは、いない…


 すると、消去法で、電話の目当ては、私となる…


 私、寿綾乃となる…


 私は、ナオキの視線を感じながら、電話に出た…


 「…もしもし、寿です…」


 と、言って、電話に出た…


 すると、相手が、名前を、名乗ったのだが、その相手は、意外や意外…


 ユリコだった…


 今、目の前にいる、ナオキの前妻だった、藤原ユリコだった…


 「…あら、寿さん、おはよう…久しぶりね…」


 ユリコが、言う…


 その声が、ナオキに、聞こえたか、どうかは、わからないが、私は、手で、受話器を抑えて、


 「…ユリコさん…」


 と、ナオキに、言った…


 「…えっ? ユリコ? なんで、ユリコが?…」


 と、ナオキが、絶句する…


 が、


 それが、聞こえたか、否かは、わからないが、ユリコが、電話の向こう側から、


 「…今朝は、寿さんに、有益な情報を教えてあげようと、思って、電話したの…」


 と、言ってきた…


 「…有益な情報?…」


 「…今、テレビやネットで、話題になっている、ハルカさん…長谷川センセイの妹さんの…」


 「…ハルカさんが、どうかしたんですか?…」


 「…自殺したでしょ?…」


 「…」


 「…その件で、電話をしたの…」


 「…その件で…」


 「…葬儀は、やらない…火葬場で、お骨にするだけ…」


 「…えっ?…」


 「…葬儀をすれば、マスコミに、アレコレ、騒がれるし…第一、地方出身のハルカが、この都会で、葬式をしても、友達も、ひとりも、来れないでしょ?…」


 「…でも、それは、わかりますが、それを、どうして、ユリコさんが?…」


 「…長谷川よ…長谷川…」


 「…長谷川センセイ…」


 「…私が、口を出すことじゃないでしょ?…」


 「…でも、どうして、私に、そんなことを?…」


 「…ナオキよ…私の元の夫よ…ナオキは、あのハルカと結婚会見をしたぐらいだから、ハルカの葬儀に行くと、思って、それで、伝えてあげたの?…」


 「…だったら、ユリコさんが、直接、伝えれば…」


 「…それは、ごめん…」


 「…どうして、ですか?…」


 「…やはり、それは、ジュンのことがある…ナオキに負い目がある…」


 やはり、いくら、ユリコでも、ナオキの子供でないにも、かかわらず、ずっと、ナオキの子供とナオキに、言っていたのが、嫌だったのだろう…


 ずっと、ナオキを、騙していたのが、嫌だったのだろう…


 それゆえ、負い目がある…


 だから、今も、わざわざ、朝っぱらから、あのハルカの葬儀は、行わないと、私に、電話をかけて、来たのだろう…


 私に、電話をすれば、ナオキに伝わるからだ…


 私は、それを、思うと、


 …このユリコでも、案外、人間臭さが、残っているんだな…


 と、思った…


 …わずかだが、残っているんだな…


 と、思った…


 それから、考えた…


 今回の五井の騒動の黒幕…


 それは、このユリコだと、いうことを、思い出した…


 このユリコが、あの五井北東家の団郁馬と組んで、五井に攻撃を仕掛けた…


 五井本家に、攻撃を仕掛けたことを、思い出した…


 あの和子が、教えてくれた…


 あの五井の女帝が、教えてくれた…


 かつて、このユリコは、五井の女帝に敗北した…


 完膚なきまでに、敗北した…


 そして、プライドの高いユリコが、その敗北を忘れるはずがない…


 当然、その屈辱を拭う日を来るのを、今か今かと、待っていたに、違いない…


 それが、今回の件の始まり…


あの五井の女帝、諏訪野和子が、倒れたことを、知った、ユリコが、動き出した…


 千載一遇の機会だと、知って、動き出した…


 が、


 和子の方が、上手だった…


 ユリコより、上手だった…


 和子は、あらかじめ、ひとを介して、ユリコの動きを把握していた…


 気位の高い、ユリコが、和子に恥をかかされて、そのままで、いるはずがない…


 いずれ、復讐の機会を窺って、動き出す…


 そう、読んでいた…


 それゆえ、ユリコの動きは、筒抜けだった…


 和子に筒抜けだった…


 もちろん、運もある…


 和子の病気が、たいしたことが、なかったことも、大きい…


 だから、すぐに、ユリコに対して、対策を立てることが、できた…


 それが、大きい…


 が、


 運も、実力の内…


 要するに、これが、和子と、ユリコの差…


 埋めがたい差だ…


 と、


 そこまで、考えて、気付いた…


 和子の病状だ…


 もしかしたら、言うほど、良くはないのかも、しれない…


 そう、気付いた…


 それゆえ、和子は、双子の姉の昭子を、呼び寄せたのでは、ないか?


 かつて、自分の手で、五井家から、追放した、昭子を呼び寄せたのではないか?


 そう、思った…


 あの昭子は、和子と、似ている…


 双子だから、当たり前かも、しれないが、外見だけでなく、性格も似ている…


 なにより、ひとを束ねる能力がある…


 これが、似ている…


 ひとを束ねる能力は、天性のもの…


 天性の才能だ…


 いくら、頭が良くても、ひとを束ねることが、できないものは、できない…


 頭の良さと、ひとを、束ねるのは、別の才能だからだ…


 それゆえ、和子は、昭子を、身近に、呼び寄せたのでは、ないか?


 自分に万が一のことがあったら、困るから、姉の昭子を呼び寄せたのでは、ないか?


 そして、昭子にしてみれば、伸明のことがある…


 五井の当主となった、実の息子の伸明のことがある…


 もし、なにか、あれば、妹の和子に代わって、伸明を補佐しなければ、ならない…


 そのために、一度は、追放された、身にも、かかわらず、妹の和子の元に、やって来たのでは、ないか?


 そう、気付いた…


 遅まきながら、気付いた…


 そして、私が、そう、考えていると、ユリコが、


 「…まあ、寿さん、とにかく、頼んだわよ…ナオキに、伝えておいて…」


 と、言って来た…


 「…ハイ…わかりました…」


 私は、反射的に、答えた…


 すると、ユリコが、


 「…私は、まだ、負けちゃいない…」


 と、突然、言ってきた…


 「…えっ? 負けちゃいない…」


 思わず、繰り返した…


 「…まだ、勝負は、ついちゃいない…」


 ユリコが、続ける…


 どういうことだろ?


 負けちゃないないって?


 すでに、勝負は、決したはずだ…


 勝負は、ついたはずだ…


 それが、今さら…


 負け惜しみ?


 いや、


 そんなはずはない…


 このユリコは、虚勢を張る女ではない…


 根拠もなく、虚勢を張る女ではない…


 だとしたら、なにか、ある?


 まだ、なにか、あるのだろうか?


 考え込んだ…


 そして、考え込んでいる間に、プツンと電話が、切れた…


 私が、なにか、言う前に、電話が、切れた…


 私は、手に持った受話器を恨めしそうに、見たが、すぐに、近くに、ナオキがいるのを、思い出した…


 それゆえ、ナオキを見た…


 ナオキを見て、つい、


 「…ユリコさん、まだ、負けてないって…」


 と、呟いた…


 「…負けてない?…」


 ナオキが、繰り返す…


 「…なんに、負けてないんだ?…」


 と、ナオキ。


 「…たぶん、五井との闘い…諏訪野和子さんとの闘い…」


 私が、呟くと、ナオキが、ポカンとした顔になった…


 意味が、わからないようだった…


 私は、ナオキに、それを説明するより先に、


 「…ハルカさんの葬儀、やらないらしいわ…」


 と、告げた…


 その方が、大切だと、思ったからだ…


 「…ハルカさんの葬儀をやらないって、どうして、ユリコが、それを?…」


 「…ハルカさんの兄の長谷川センセイに、聞いたみたい…ナオキに、伝えてくれって…」


 「…ボクに?…」


 「…ユリコさん、ナオキが、ハルカさんの葬儀に行くつもりだと、見抜いていたみたい…」


 「…でも、どうして、ユリコが、それを?…」


 「…ユリコさん、長谷川センセイと付き合っているみたい…だから、長谷川センセイに聞いて…」


 私が、告げると、ナオキが、絶句した…


 あまりにも、想定外だったのだろう…


 絶句した…


 それから、


 「…そうか…」


 と、だけ、言った…


 すでに、別れて、十年以上、経っている…


 今さら、ユリコが、誰と付き合っていおうが、関係ない…


 ナオキには、関係ない…


 が、


 それでも、やはり、ショックだったのかも、しれない…


 明らかに、ナオキは、衝撃を受けた様子だった…


 ひょっとしたら、ハルカの死以上に、衝撃を受けた様子だった…


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