寿綾乃という女 第4部 205
翌朝、朝、早く、起きて、テレビをつけると、ハルカのことを、ニュースで、取り上げていた…
ハルカの自殺をニュースで、流していた…
が、
ハルカの自殺した場所が、違った…
伸明のいる、北東病院のはずが、警察署に代わっていた…
さすがに、北東病院で、自殺したと、報じるわけには、いかなかったのだろう…
正直に、報じれば、なぜ、ハルカを、北東病院に連れて行ったのか、マスコミに、聞かれるからだ…
私が、そんなことを、考えながら、食い入るように、テレビを見ていると、ナオキが、起きて来た…
「…おはよう、綾乃さん…」
と、言って、起きて来た…
私は、すぐに、
「…ハルカさんのことを、やっているわよ…」
と、言って、テレビを指差した…
それで、ナオキもまた、私同様、食い入るように、テレビを見た…
が、
長くは、なかった…
ハルカのニュースが、すぐに、終わったからだ…
ハルカは、有名人でも、なんでもない…
ただのひと…
今、私の眼前にいる、FK興産社長の藤原ナオキと結婚会見をしたから、少しばかり、有名になったかも、しれないが、ただのひと…
基本、ただのひとだからだ…
だから、ニュースも、すぐに、終わった…
ハルカの死を告げるだけで、淡々と、終わった…
正直、実感がない…
まるで、ない…
しかしながら、ハルカの死は、真実…
そして、なぜ、ハルカが、伸明と、会った後に、投身自殺をしたのか、謎が、残る…
昨夜も、考えたが、今朝になって、ハルカの死を、再び、ニュースで、見たから、余計に、考えざるを得なかった…
そして、私が、そんなことを、考えていると、ナオキが、
「…変わらないね…昨日、テロップで、流れたニュースと…」
と、呟いた…
「…変わったのは、亡くなった場所…綾乃さんが、諏訪野マミさんから、聞いた、北東病院ではなく、それが、警察署に、変わっただけ…」
と、私が、思ったことと、同じことを、言った…
私は、それを、聞いて、
「…たぶん、五井の力で、亡くなった場所を隠したのよ…」
と、言った…
「…五井の力?…」
「…まさか、マミさんが、ウソを言わないでしょ? マミさんは、伸明さんか、あるいは、伸明さんに、近い関係者から、聞いたに、違いないでしょうから…」
「…」
「…あの長谷川センセイが、五井に憧れるのは、わかるわ…」
と、付け加えた…
すると、それを、聞いた、ナオキが、
「…あの長谷川センセイ…血は、繋がってないけれど、ハルカさんのお兄さんだったよね…」
「…ええ、そうよ…」
「…だったら、長谷川センセイも、ショックだろうね…」
「…いえ、それは、わからないわ…」
「…どうして、わからないの?…」
「…あの長谷川センセイ…あのハルカさんと、いっしょに、暮らしたことも、ないみたい…」
「…えっ? ない? どうして、ないの?…」
「…親同士が再婚した関係だから、互いに、親が再婚したときに、年齢が、高かったんだと、思う…長谷川センセイは、あの歳だから、十分、わかるけれども、ハルカさんも、大学生か、なんかじゃ、なかったんじゃないのかな…高校生だったら、親といっしょに、暮らすと思うし…」
「…なるほどね…」
ナオキが、私の説明に納得した…
「…たしかに、それじゃ、愛情は、沸かないかも、しれないね…いっしょに、暮らしたことも、ないんじゃ…」
「…でしょ…」
そい、言いながら、私は、それは、あの伸明もいっしょだと、言いたかった…
あの伸明と、マミさんの関係も、いっしょだと、言いたかった…
兄妹だけれども、血が繋がっていない…
いっしょに、暮らしたこともない…
だから、普通に考えれば、愛情もなにも、ないだろう…
ハッキリ言えば、赤の他人だ…
ただ、兄妹であるのは、形だけ…
形だけに、過ぎない…
ただ、あの長谷川センセイと、ハルカの兄妹の関係と、違うのは、伸明とマミさんの関係には、五井がある…
四百年の歴史がある、五井がある…
五井の金がある…
そこが、違う…
伸明とマミさんのバックボーンには、五井がある…
五井の莫大な金がある…
その違いだ…
おそらく、それが、なければ、付き合わない…
二人は、今のように、付き合わないだろう…
言葉は、悪いが、二人とも、五井に乗っかっている…
五井という、お金持ちの家に、乗っかっている…
私は、思った…
私は、考えた…
そして、私が、そんなことを、考えていると、ナオキが、
「…ハルカさんの葬式は、どうするんだろ?…」
と、言った…
私が、思いもかけないことを、言った…
「…長谷川センセイのご両親が、仕切るんじゃ…」
「…それは、そうかも、しれないけれども、そのご両親は、地方在住かも、しれないし、その場合は、長谷川センセイが、やるんじゃ…」
ナオキが、言った…
たしかに、そう言われれば、わかる…
地方在住の両親が、都会にやって来ても、右も左も、わからない…
もちろん、長谷川センセイとて、葬儀を仕切った経験など、ないだろう…
それでも、都内在住ならば、近くの葬儀場を予約するなり、それなりのことができる…
少なくとも、長谷川センセイのご両親よりは、有利…
地の利があるから、有利だ…
と、そこまで、考えて、気付いた…
このナオキは、ハルカの葬儀に、行きたいのでは?
と、気付いた…
だから、それを、聞いた…
「…ナオキ…もしかして、ハルカさんの葬式に、出たいわけ?…」
と、直球で聞いた…
「…それは、結婚相手だったから…」
と、真顔で、即徒した…
「…世間の目もあるしね…」
「…世間の目?…」
「…決婚会見までした、ボクが、ハルカさんの葬式に行かなかったら、なにを言われるか、わからない…」
「…」
「…それに、世間の目だけでなく、ハルカさんの死を悼む気持ちも、もちろん、ある…形だけとは、いえ、結婚の約束をしたのだから…」
そう、言われると、なにも、言えなかった…
なにも、言い返せなかった…
ただ、
「…だったら、伸明さんは、その葬儀にやって来るのかしら?…」
と、言った…
つい、思ったからだ…
たしかに、自分を傷付けた相手でも、自分と関係があった女だ…
伸明も、少しは、相手の死を悼む気持ちがあるはずだ…
が、
私が、そんなことを、考えていると、ナオキが、
「…それは、難しいだろう…」
と、即答した…
「…どうして、難しいの?…」
「…諏訪野さんの立場がある…」
「…立場?…」
「…まさか、自分を、傷付けた相手の葬式に、堂々と、顔を、出すわけには、いかないだろ? たとえ、過去に、男女の関係があったとしても…」
「…」
「…それに、諏訪野さんは、今、入院している…病状は、どんなだかは、わからない…ただ、ハルカさんと、会いたいと言って、会ったぐらいだから、たぶん、病状は、それほど、深刻じゃ、ないんだろう…でも、葬式は、すぐ…延期することは、普通は、できない…たぶん、明後日か、その次あたりだろう…それもあるから、諏訪野さんは、ハルカさんの葬儀に出席できないんじゃ…」
ナオキの説明に、言葉もなかった…
たしかに、その通り…
その通りかも、しれない…
普通、葬儀は、延期できない…
だから、葬儀の日は、目の前…
ナオキの言う通り、明後日か、その翌日か…
そのあたりだろう…
それでは、伸明も、出席するのが、難しいだろう…
仮に、葬儀に出席したくても、難しいだろう…
伸明の体調のことが、ある…
だから、難しいだろう…
そこまで、考えて、ハタと、気付いた…
だったら、このナオキ…
目の前の藤原ナオキは、葬儀に出席するのだろうか?
いや、
葬儀に、出席したいと、さっきは、言ったが、仕事の関係もある…
果たして、出席できるのか?
それが、気になった…
だから、
「…ナオキ…アナタ…ハルカさんの葬儀に出席すると、言っていたけれど、仕事は、どうするの?…」
と、聞いた…
「…仕事?…」
「…そう、仕事…」
「…忘れたの? 綾乃さん?…」
「…なにを、忘れたの?…」
「…ほら、ボクは、今日は、仕事は、休みだよ…ハルカさんの死で、マスコミに、追い回されるかも、しれないから、会社に、出社しない…昨日、言ったでしょ?…」
そう、言えば、昨日、言った…
ナオキは、言った…
すっかり、忘れていた…
私としたことが…
やはり、ハルカの死が、ショックなのだろうか?
そして、そんな私をナオキは、見て、
「…なんて、顔をしているの? 綾乃さん…会社が、休みだから…こうして、朝っぱらから、寝起きで、綾乃さんと、長話をしているんでしょ…」
そうだ…
すっかり、忘れていた…
相変わらず、トロい…
大トロ…
自分自身を呪いたくなるほど、大トロ…
大トロだ…
「…とにかく、この後、マミさんや、長谷川センセイに電話して、ハルカさんの葬儀について、綾乃さん、聞いてくれ…まだ、なにも、決まってないかも、しれないけれど、葬儀場所が、決まったら、ボクも出席するから…」
そこまで、言って、
「…それが、綾乃さんの仕事だよ…社長秘書の仕事だよ…」
と、ナオキに、言われた…
ナオキに、念を押された…
まったく、情けない…
自宅で、ナオキに、叱られるなんて…
思っても、見なかった…
考えても、見なかった…
ここは、職場では、ない…
仕事場でも、ないのに、ナオキに、叱られた…
不覚…
実に、不覚だった…
それ以上に、自分の感覚が、不思議だった…
いつもなら、ありえない失態を晒した…
そんな自分の失敗に、首をひねった…




