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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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204/225

寿綾乃という女 第4部 204

 「…寝てないわ…」


 私は、即答した…


 「…ずっと、考え事をしていたの…」


 私は、言った…


 それを、聞いて、


 「…ボクと同じだ…」


 と、ナオキが、笑った…


 「…綾乃さん、ちょっと、この部屋に入っていい…」


 「…入っていいけれど、なにをしに来たの?…」


 「…それは。こんな深夜に、男が、女の部屋に入るんだ…目的は、わかっているだろ?…」


 「…もしかして、セックスをするため?…」


 「…その通り…」


 「…だったら、帰って…そんな気分じゃないの… 今すぐ、部屋を出て行って…」


 私が、言うと、ナオキが、爆笑した…


 「…やっぱり、綾乃さんだ…」


 と、言って、爆笑した…


 「…昼間、あんなことがあったから、心配して、やって来たんだけれど、全然、変わらない…いつもの綾乃さんだ…」


 と、言って、爆笑した…


 私は、頭に来た…


 ナオキのその言葉に、頭に来た…


 「…ちょっと、ナオキ…用事がないのなら、さっさと、帰って!…」


 と、怒鳴った…


 つい、怒鳴った…


 それを、聞いて、さらに、ナオキは、爆笑した…


 「…やっぱり、綾乃さんだ…いつもの綾乃さんだ…」


 と、笑って言った…


 そして、笑いながら、


 「…じゃ、これで、失礼するよ…」


 と、言って、ドアを閉めて、出て行こうとした…


 私は、これにも、カチンと、頭に来た…


 「…ちょっと、ナオキ…女の部屋に入って来て、このまま、なにもしないで、出て行くつもり?…」


 と、怒鳴った…


 「…だって、綾乃さん、今夜は、そんな気分じゃないって…」


 と、ナオキが、戸惑ったように、言う…


 「…女の言うことを、真に受けちゃ、ダメ!…」


 と、私は、力強く言った…


 前言を翻して言った…


 「…それって、今夜、ボクとセックスをするってこと?…」


 と、ナオキは、戸窓ったように、言う…


 「…自分で、考えなさい!…」


 私が、言うと、ナオキが、黙った…


 「…」


 と、黙った…


 それから、言った…


 「…綾乃さん、もしかして、寂しいの?…」


 と、言った…


 私が、思っても、いないことを、言った…


 私が、考えてもないことを、言った…


 まさに、想定外…


 想定外の言葉だった…


 だから、


 「…ナオキ…どうして、そんなことを、言うの?…」


 と、聞いた…


 当たり前だった…


 「…だって、綾乃さん、ボクを引き留めようとしているだろ?…」


 「…」


 「…だから、わざと、天邪鬼なことを、言っている…わざと、支離滅裂なことを、言っている…いつもの綾乃さん、らしくないことを、言っている…」


 ナオキが、思っても、みないことを、言った…


 私が、考えても、みないことを、言った…


 部屋は、真っ暗…


 夜だから、真っ暗…


 しかも、ナオキは、まだ部屋の明かりをつけていない…


 私に気を遣っているのだろう…


 だから、有利…


 というか、安心した…


 私が、驚いた表情をしたかも、しれないのに、それを見られないことに、安心した…


 私とナオキは、もう、十五年の付き合い…


 すでに、出会った当初から、男女の関係になった…


 が、


 当たり前だが、ここ数年は、ご無沙汰…


 ほとんど、セックスを、していない…


 それもこれも、家族になったから…


 それが、原因だ…


 いっしょに、暮らして、家族になったから…


 だから、燃えない…


 相手に、欲情しない…


 知らない相手だから、欲情する…


 まだ、見ぬ相手だから、欲情する…


 かつて、雑誌か、なにかで、


 「…ボクは、家庭にセックスは、持ち込まない…」


 と、言った男がいたが、さもありなん…


 いっしょに、暮らしている男や女に欲情する男も女もいない…


 そんなことは、最初だけ…


 すぐに、飽きる…


 私が、長々とそんなことを語ったのは、私も、ナオキも、それが、わかり過ぎているほど、わかっているからこそ、プライバシーを重視している…


 馴れ合いの関係には、ならない…


 相手のプライバシーに、必要以上に、立ち入らない…


 相手を尊重する…


 だから、今も、ナオキは、私の寝ている部屋に来ても、勝手に、部屋の明かりをつけることはない…


 決してない…


 私のプライバシーを尊重しているためだ…


 つまりは、互いのプライバシーを侵さない…


 それが、暗黙の了解…


 それゆえ、男と女で、いられる…


 家族にも、かかわらず、男と女でいられる…


 つまりは、長々と、いつもながら、口説く説明したが、本音は、ただ、私の顔を見せたくない…


 私の驚いた顔を見せたくない…


 それだけだ(苦笑)…


 そして、あと数年、あるいは、十年後には、しわが増えた私の顔を見せたくない…


 スッピンの私の顔を見せたくないに、変わる…


 女は、常に、わがまま…


 常に、自分優先で、わがままだからだ…


 まして、私は、美人…


 周囲から、美人と呼ばれている…


 それゆえ、余計に、わがままになる…


 当たり前だった…


 が、


 ホントは、そんなことは、関係ない…


 同居する男から、見れば、関係ない…


 まったく、関係がない…


 なぜなら、さっきも、言ったように、家族だから…


 いっしょに、暮らしている家族だから、相手に、ときめかなくなるからだ…


 いっしょに、暮らし出せば、生まれながらの家族と、同じになる…


 いくら、自分の兄や姉といった兄弟姉妹が、美人やイケメンでも、ときめかない…


 なにも、感じない…


 それと、同じになるからだ…


 私が、そんなバカなことを、延々と、考えていると、ナオキが、


 「…やっぱり、今夜は、遠慮するよ…綾乃さん、すまない…」


 と、言った…


 「…どうして、遠慮するの?…」


 と、私。


 「…ハルカさんの死…」


 ナオキが、短く、言う…


 「…ハルカさんの死?…」


 「…そう、綾乃さん、忘れた? ボクは、曲がりなりにも、ハルカさんの結婚相手だよ…」


 「…」


 「…その結婚相手が、死んだのに、その日に、他の女を抱くなんて、さすがに、それは、ハルカさんに、失礼だろ? 申し訳ないだろ?…」


 「…」


 「…だから、パス…今夜は、パス…」


 ナオキが、しんみりと、言う…


 そう、言われると、なにも、言えなくなった…


 私も、ナオキも、正直、あのハルカさんとは、縁が薄い…


 繰り返すが、私は、二度しか、会ったことがない…


 しかしながら、いくら二度しか、会ったことがない人間でも、縁があった…


 偽りとは、いえ、ナオキの結婚相手として、世間に発表した…

 

 また、伸明の見合い相手として、私は、会った…


 だから、普通の相手では、ない…


 普通の関係ではない…


 だから、彼女の喪に服すほどの仲ではないが、それでも、彼女が、亡くなった、その日に、ナオキとセックスをする気は、起きなくなった…


 まったく、起きなくなった…


 そして、そう、考えると、自然に、


 「…伸明さんは。今、どういう気持ちかしら…」


 と、呟いていた…


 つい、口走っていた…


 それを、聞いたナオキが、

 

 「…えっ?…」


 と、反応した…


 「…だって、自分と会った後、あのハルカさん、すぐに、自殺したわけでしょ?…」


 「…そうだね…」


 「…だから、伸明さんは、今、どういう気持ちかしら?…」


 私が、言うと、ナオキが、考え込んだ…


 もちろん、暗闇だから、見えない…


 ナオキの顔は、見えない…


 だが、ナオキが、なにも、言わないことで、考え込んでいることが、わかった…


 そして、しばらく、経った後、


 「…難しいよね…」


 と、呟いた…


 「…難しい? どうして、難しいの?…」


 「…だって、諏訪野さんが、あのハルカさんと、男女の関係だったとしても、頻繁に、そういう関係じゃなかったと、思うよ…たぶん、ときどき、してたとか?…」


 「…どうして、そう思うの?…」


 「…そう、言われると、根拠はない…だけど…」


 「…だけど、なに?…」


 「…諏訪野さん、忙しいだろ?…」


 「…忙しい…」


 「…なにより、地位がある…ボクのような成り上がりとは、違う…」


 「…それが、どうしたの?…」


 「…それなりの地位にいるひとは、セックスひとつとっても、慎重になるんじゃないかな?…」


 「…どういうこと?…」


 「…やる相手…」


 「…やる相手?…」


 「…ぶっちゃけ、相手が妊娠しても、困るし、口が堅い女じゃなくちゃ、困る…自分としたことを、外でペラペラと、喋られたら、困るからね…」


 「…」


 「…だから、たぶん、慎重に相手を選ぶ…」


 「…だったら、伸明さんは、何度も、あのハルカさんと、してるんじゃ?…」


 「…どうして、そう、思うの?…」


 「…だって、相手選びに慎重だったら、その選んだ相手って、少ないでしょ? だから…」


 「…それは、わかるけれども、あの諏訪野さんは、忙しいよ…そう、何度もあって、そんなことを、する時間は、ないんじゃ…」


 そこまで、聞いて、気付いた…


 閃いた…


 「…ちょっと、ナオキ…アナタ、自分のことを、言っているんじゃないでしょうね…」


 と、怒った…


 「…えっ? 自分のこと? どうして、ボクのことになるの?…」


 「…だって、ナオキ…アナタだって、テレビに出てるし、会社だって、経営している…つまり、有名人…」


 「…有名人…」


 「…だから、遊ぶ女、選びにも、慎重になるでしょ? 伸明さんと、いっしょ…」


 私が、そう言うと、ナオキは、


 「…」


 と、沈黙した…


 それから、少しして、


 「…バレた?…」


 と、ナオキが笑って言った…


 「…バレているに、決まっているでしょ? 一体、何年、ナオキといっしょに、いると、思っているの!…」


 「…だよね…」


 と、ナオキが、応じる…


 「…バレバレよ…」


 私が、断言した…


 ナオキは、それには、答えず、無言で、部屋のドアを閉めた…


 おそらくは、この漫才に納得したのだろう…


 話が、いつのまにか、伸明の話から、ナオキの話に代わり、漫才のオチに変わった…


 それゆえ、最後は、爆笑になった…


 コントになった…


 コントになることで、ハルカの死という悲劇から、喜劇に変わった…


 そのおかげで、精神的に楽になった…


 いつのまにか、深刻な話が、笑いに変わった…


 ナオキが、わざと、話を笑いに持っていった…


 いや、意識せずとも、私が指摘することで、笑いに変化させた…


 そして、そういうふうに、深刻な話を笑いに代えてくれる相手がいて、幸せ…


 つくづく、幸せだと思った…


 相手に恵まれたと、思った…


 心の底から、思った…


 そう、思いながらも、一方で、伸明のことを、考えた…


 自分は、つくづく、パートナーに恵まれていると、感謝しながらも、別の男のことを、考えた…


 これは、女の性(さが)…


 それとも、私が、ただ、欲張りなだけ…


 私が、ただ、自分勝手なだけ?


 そう、思った…


 そう、思いながら、眠りについた…


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