↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
203/225

寿綾乃という女 第4部 203

 が、


 もしかしたら、伸明なら、わかるかも、しれない…


 なぜ、ハルカが、伸明を襲ったのか、わかるかも、しれない…


 なにしろ、当事者…


 襲われた当事者だ…


 通り魔殺人でも、なんでもないのだから、襲われた理由がある…


 伸明が、あのハルカに、襲われた理由があるに、違いないからだ…


 そう、思った…


 そう、気付いた…


 そして、そう、気付くと、思わず、


 「…伸明さんに、会いたい…」


 と、言っていた…


 自分でも、気付かぬ間に、言っていた…


 つい、口にしてしまった…


 「…諏訪野さんに、会いたい? どうして?…」


 ナオキが、聞く。


 「…それは、伸明さんが、どうして、ハルカさんに、襲われたのか、聞きたいでしょ?…」


 「…それは、聞きたいよ…」


 ナオキが、同意する…


 「…でも、それは、プライベートの問題だから…」


 「…プライベートの問題って?…」


 「…だって、それは、諏訪野さん、個人の問題でしょ? 他人が、口を挟むことじゃ…」


 そう、言われると、納得した…


 実に、納得した…


 たしかに、他人が、口を挟むことじゃない…


 まして、私が、口を挟むことじゃない…


 それは、わかるが、モヤモヤする…


 実に、モヤモヤする…


 「…それにしても、諏訪野さんは、踏んだり蹴ったりだな…」


 「…えっ?…」


 「…だって、そうだろ? あのハルカさんに、襲われて、入院して、それでも、ハルカさんが、妊娠したって聞いて、ハルカさんに、会いたいと思って、いざ、ハルカさんに、会って、その直後に、自殺したわけだろ?…」


 「…ええ…」


 「…まさに、踏んだり蹴ったりだよ…諏訪野さん、ハルカさんとの見合いのときから、言っちゃ、悪いが、呪われているみたいだ…」


 「…呪われている?…」


 「…まあ、こんなことを、言っちゃ、不謹慎だが、そうも、言いたくなる…」


 「…」


 「…でも、これで、余計に、FK興産の五井グループ入りも、怪しくなった…」


 「…どういうこと?…」


 「…だって、FK興産の五井入りは、諏訪野さんの判断次第だろ?…」


 「…それは、そうかも、しれないけれども…」


 「…その判断する責任者が、入院して、さらには、今度のハルカさんの自殺だ…率直に、言って、仕事どころじゃないだろ? FK興産を、どうのこうの考えている余裕は、ないだろ?…」


 ナオキが、激白する…


 私は、そんなナオキを見て、思った…


 「…それって、ナオキ…安心した?…」


 と、聞いた…


 わざと、聞いた…


 「…えっ? 安心? なんで?…」


 「…なんでって? FK興産が、五井入りするとしても、その時期が遅れるでしょ?…」


 「…それは、遅れるだろうな…」


 「…だから、安心した?…」


 私が、聞くと、ナオキは、黙った…


 真剣な表情で、黙った…


 それから、少しして、


 「…わからない…」


 と、口を、開いた…


 「…わからない…どうして、わからないの?…」


 「…自分でも、よくわからない…正直、諏訪野さんが、入院して、さらに、ハルカさんの自殺だ…そんなこんなで、諏訪野さんも、FK興産どころじゃないだろう…だから、FK興産の五井入りも、遅れる…でも、それが、いいのか、どうかは、わからない…」


 「…どうして、わからないの?…」


 「…蛇の生殺しじゃないけれども、決めるなら、早く決めてくれと、言う気持ちがある…その一方で、やっぱり、このまま、五井に株を買われて、正式に、五井の傘下に下るのは、嫌と、言う気持ちもある…」


 「…」


 「…だから、わからない…自分でも、自分の気持ちがわからない…」


 ナオキが、吐露する…


 正直な自分の気持ちを吐露する…


 たしかに、わかる…


 ナオキの気持ちがわかる…


 痛いほど、わかる…


 ナオキの立場になってみれば、わかる…


 私も、同じ…


 ナオキの立場なら、同じ…


 同じ気持ちだろう…


 完全に、五井の傘下に入るなら、入れ…


 入らないなら、入らない…


 どっちかに、決めて、もらいたい…


 そんな気持ちだ…


 それゆえ、今、ナオキが、口にした、蛇の生殺しという言葉が、当てはまる…


 まさに、当てはまる…


 当てはまるのだ…


 しかし、


 しかし、だ…


 今日は、伸明の見舞いに、五井記念病院に行ったら、そこにいたのは、伸明ではなく、和子…


 五井の女帝だった…


 さらには、そこには、和子の姉の昭子もいた…


 和子の手で、五井を追放されたはずの昭子もいた…


 そこで、驚いたのに、家に帰ってきたら、ハルカの自殺…


 しかも、伸明に会った後、付き添いの警察官の手を逃れての、窓からの投身自殺だった…


 もう、なにが、なんだか、わからない…


 この先、なにが、起こるか、わからない…


 そんな気持ちだった…


 それゆえ、FK興産のことも、考える気持ちがなくなっていた…


 このナオキには、悪いが、なくなっていた…


 それが、正直な気持ちだった…


 ウソ偽りのない、私の正直な気持ちだった…


 

 その日は、家に帰ってきてから、夜まで、ずっと、そんな調子だった…


 ずっと、落ち込んでいた…


 二人とも、落ち込んでいた…


 さすがに、この状況で、落ち込まない人間は、いない…


 私も、ナオキも、落ち込んでいた…


 終始、二人とも、あまり、話さなかった…


 やはり、あのハルカの死が、大きい…


 あのハルカとの付き合いは、たいしてない…


 ほんの二度ほどしか、会ったことがない…


 しかしながら、最初は、伸明の見合い相手として、会った…


 だから、印象は、強烈…


 強烈だった…


 しかも、


 しかも、だ…


 二度目にあったときは、別人…


 誰が、見ても。別人だった…


 それが、最初は、実は、ハルカは、伸明と知り合いだった…


 だから、その知り合いだった関係を隠すために、わざと、高飛車な態度を取った…


 二人の関係を、自分たち以外の人間に、知られないために、わざと、高飛車な態度を取ることで、隠した…


 ある意味、照れ隠し…


 わざと、高飛車な態度を取ることで、二人の関係を隠した…


 そして、それが、ただの、ハルカが、働いていた、店の、客と従業員という関係ではなく、実は、二人は、男女の関係だったと、聞いて、余計に、納得した…


 あのハルカが、あの見合いの席で、高飛車な態度を取ったことに、余計に、納得した…


 しかしながら、あのハルカは、自殺…


 伸明を、襲って、警察に、捕まった後で、再び、伸明に会って、自殺…


 一体、二人の間に、なにが、あったのだろう…


 知りたくなる…


 そして、やはり、そのキーポイントは、ハルカの妊娠だろう…


 父親が、誰だか、わからないが、ハルカの妊娠と見て、まずは、間違いはないだろう…


 なにより、あの伸明は、ハルカが、妊娠したと聞いて、ハルカに、会いたくなった…


 つまりは、伸明は、もしかしたら、自分が、ハルカの妊娠した子供の父親かも、しれないと、考えた…


 少なくとも、その可能性があると、考えて、ハルカに、会いたくなった…


 それは、まず、間違いないだろう…


 それゆえ、警察に、無理を言って、ハルカと、会った…


 五井の力を使って、会った…


 そういうことだろう…


 普通なら、そんなことは、できない…


 自分を襲った容疑者に、裁判前に、会うことなど、できない…


 しかしながら、それが、できるのが、五井の力…


 お金持ちの力だ…


 しかも、成り上がりではない…


 四百年も、続く、名家…


 伝統ある、五井の力だ…


 きっと、五井は、その四百年の歴史の中で、様々な分野の人間と交わっているのだろう…


 交わっているというのは、ずばり、結婚…


 血の繋がりだ…


 政財界を、中心とした血の繋がりだ…


 それが、あるから、あのハルカを伸明に、会わせることが、できた…


 そう、考えるのが、普通…


 普通だ…


 そして、そこまで、考えると、あらためて、あの長谷川センセイが、なぜ、五井の一族と認められたいのか、わかる…


 実に、わかる…


 五井が、これまで、作り上げた血縁関係を、中心にしたネットワーク…


 おそらくは、それに、乗っかりたいのだろう…


 言葉は、悪いが、ただ乗りしたいのだろう…


 五井一族と名乗ることで、メリットがある…


 計り知れないメリットがある…


 おそらく、五井のネットワークは、政財界に限らないだろう…


 学問の分野など、血の繋がりが、あるのかも、しれない…


 当然、それは、長谷川センセイが、所属する、医学界にも、あるかも、しれない…


 そう言えば、以前、マミさんが、言っていた…


 五井の名字の秘密を言っていた…


 なぜ、五井は、本家が、諏訪野で、他家も、また、名字が、五井と名乗らないものが、大半…


 その理由を語っていた…


 それは、単純…


 実に、単純な答えだった…


 それは、五井に生まれた女性が、他家に嫁いで、有能な男と結婚する…


 それゆえ、苗字が、変わる…


 そんな当たり前のことを、言った…


 そして、同時に、こうも、言った…


 五井の歴史は、女の歴史…


 五井の血を継ぐ、女たちが、有能な男と、結婚して、家を繁栄させてきた…


 それゆえ、五井は、伝統的に、女が、強い…


 女の地位が、強い…


 そして、それを、言われれば、それは、今も、そう…


 今も、同じだ…


 あの和子が、五井の女帝と呼ばれ、五井を仕切っている…


 五井の陣頭指揮を執っている…


 前当主の建造亡きあと、五井の陣頭指揮を執っている…


 普通に考えれば、難しい…


 女が、陣頭指揮を執るのは、難しい…


 しかしながら、それが、すんなり、できたのは、やはり、五井の伝統だろう…


 女が、五井を支えた…


 五井の強い女たちが、陰で、五井を支えた…


 そういうことだろう…


 つまりは、女が、活躍する下地ができていたということだ…


 だから、和子は、前に出れた…


 五井を束ねる女帝として、前に出れた…


 世間に出れた…


 そういうことだろう…


 あらためて、思った…


 あらためて、考えた…


 夜に、ベッドで、寝ながら、眠りも、せず、そんなことを、考えた…


 考え続けた…


 そして、そんなことを、考え続けていると、部屋のドアが、開く音が、した…


 ナオキが、


 「…綾乃さん、もう寝た?…」


 と、聞きながら、私の部屋に入って来た…


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。