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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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202/225

寿綾乃という女 第4部 202

 「 …ウソ!…」


 とっさに、言った…


 とっさに、声に出した…


 「…ウソでしょ?…」


 言葉に出した…


 言葉を続けた…


 「…ウソじゃない!…」


 マミさんが、続ける…


 「…と言っても、可能性…」


 「…えっ? 可能性?…」


 「…あのハルカさん、逮捕されて、拘置所に、入れられて、そこで、妊娠が、判明したの…」


 「…えっ?…」


 「…本人も、気付いていなかったみたい…」


 「…だったら、どうして、伸明さんが?…」


 「…伸明さんも、あのハルカさんと、何度か、関係したことが、あったみたい…それで、伸明さん、ハルカさんが、妊娠したと、聞いて、ハルカさんに、会いたくなって…」


 …そういうことか?…


 …納得した…


 なにより、そういうことなら、伸明の態度にも、納得がいく…


 初めて会ったはずの、伸明とハルカの見合い…


 ハルカは、終始、高圧的な態度だった…


 後で、会ったときとは、違う、高飛車な態度だった…


 それを、実は、顔見知りだったと、後で、聞いて、わかった…


 それゆえ、照れ臭い…


 それを、隠すために、わざと、高飛車な態度を取ったと聞いて、その場は、納得したが、

今、さらに、実は、二人が男女の関係があったと、聞けば、余計に納得する…


 二人が、気まずかった理由に、余計に納得する…


 納得するのだ…


 しかし、まさか、あの伸明が…


 まさか、あの伸明が、あのハルカと関係していたなんて…


 まさか、男女の関係だったなんて…


 夢にも、思わなかった…


 まったく、想像も、しなかった…


 あの伸明は、四十歳ぐらい…


 まさか、その歳で、女を知らないわけでは、あるまい…


 まさか、あの歳で、童貞なんて、ことは、あるまい…


 が、


 伸明は、爽やか…


 実に、爽やかだ…


 だから、女の影を感じさせないというか…


 ちょうど、俳優で言えば、若き日の三浦友和のような印象がある…


 それゆえ、女の影を感じさせない…


 爽やかな印象が強いうえに、感じさせない…


 そういうことだ…


 まあ、それを、言えば、今、私の目の前にいる、この藤原ナオキも、また、爽やかな印象で、女がいることを感じさせない…


 しかしながら、成功して、有名になり、周囲から、チヤホヤされて、女に夢中になった過去を知っている…


 十分、過ぎるほど、知っている(苦笑)…


 だからだろう…


 あの伸明とは、違う…


 違って、見ている…


 しかしながら、このナオキと、あの伸明は、似ている…


 人間のタイプが、似ている…


 外見は、二人とも、長身で、イケメンだが、中身は、真面目…


 基本的に、超がつく、真面目だ…


 だから、気が合う…


 二人の気が合うのだ…


 同じタイプの人間だから、気が合う…


 やはり、誰もが、同じだが、ひとは、誰でも、似たようなタイプの人間と、群れる…


 友達になる…


 類は友を呼ぶ…


 まさに、それだ…


 私が、そんなことを、考えていると、ナオキも、


 「…まさか、諏訪野さんが…」


 と、驚いていた…


 「…あの諏訪野さんが、あのハルカさんと…」


 と、言って、驚いていた…


 私は、それを、見て、


 …やはり、ナオキも、同じか!…


 私と同じことを、言っている…


 いや、


 私と同じことを、思っていると、思った…


 そして、私が、ナオキの反応を見ていると、

電話の向こう側から、マミさんが、


 「…寿さん、とりあえず、これで、電話を切るね…」


 と、言って来た…


 「…えっ? ハイ…」


 「…今、電話をかけたのは、ハルカさんが、亡くなったことを、伝えたかったから…」


 マミさんが、言う…


 電話をしてきた意図を言う…


 私は、


 「…わかりました…ありがとうございます…」


 と、言った…


その言葉を聞いて、すぐに、マミさんは、電話を切った…


 普通なら、マミさんは、いきなり、電話を切ることはない…


 そんな失礼なことは、しない…


 にもかかわらず、電話を切ったのは、よほど、焦っていたのだろう…


 それは、そうだ…


 あのハルカが、妊娠していて、その子供の父親が、伸明かも、しれなかったなんて…


 普通に考えれば、動揺しないわけはない…


 当たり前だった…


 だから、私との電話をいきなり切ったのは、いかに、マミさんが、動揺しているかの証拠だった…


 私は、マミさんとの電話が、終わると、ナオキに、向き直った…


 ナオキに、聞きたいことができたからだ…


 それゆえ、ナオキに、


 「…ナオキ…アナタ、伸明さんと、友人だけれども、二人で、飲んでいて、女の話になったことは、なかったの?…」


 と、聞いた…


 ナオキは、


 「…ならなかった…」


 と、即答した…


 「…だって、ナオキ…アナタ、当然、伸明さんと、女のひとがいるお店で、飲んでいるんでしょ?…」


 「…それは、そうだけれども…諏訪野さんのお酒の飲み方は、きれいだったよ…」


 「…きれいって? どういうこと?…」


 「…隣に、女のひとがいても、口説くことは、ないし、なにか、女のひとを、困らせるようなことも、しないってこと…」


 「…それが、どうして、きれいなの?…」


 「…ひとは、誰でも、お酒を飲むと、気が大きくなるでしょ? だから、隣の女のひとに、酒を飲めと無理強いしたり、相手に、その気がないのが、見え見えなのに、口説いたりする男が、多い…実に、多い…」


 「…」


 「…でも、諏訪野さんは、そんなことは、一切しなかった…ボクと飲んでいても、軽い世間話をするぐらいで、突っ込んだ話も、しなかった…」


 「…」


 「…だから、今、振り返って考えてみると、常に、自分を守っていたというか…」


 「…自分を守っていた?…どういうこと?…」


 「…要するに、自分の欲望を見せない…まるで、鎧を被っているように、自分の欲望を、見せない…素の自分を見せない…」


 「…」


 「…つまりは、いつも、五井家の当主を、おおげさに言えば、演じていたというか…五井家の当初のイメージから、一歩も外に出なかった…」


 「…」


 「…たぶん、それが、原因かも、しれない…」


 「…原因って?…」


 「…今度の一件…ハルカさんのお腹の子供の父親かも、しれないってこと…」


 「…それが、どうしたの?…」


 「…誰も、自分を知らない店で、共も連れずに、一人きりで、飲む…だから、その店では、仮面を脱げると言えば、おおげさだけれども、羽目を外せる…そういうことじゃないかな…」


 ナオキが、言った…


 伸明の行動を、喝破した…


 明確に、説明した…


 たしかに、そう言われれば、わかる…


 そう、言われれば、納得する…


 たしかに、あの伸明は、演じなければ、ならない…


 どんなときも、五井家当主を演じなければ、ならない…


 それゆえ、どこかで、爆発するというか…


 どこかで、その不満を爆発させる必要があるのかも、しれない…


 それが、本名を名乗らず、自分を知らない店で、女のコたちと飲む、行動に、現れるのだろう…


 いわば、不満の爆発…


 日常で、溜めた不満を爆発させる…


 そういうことだろう…


 そして、それを、聞いて、私は、安心した…


 なぜか、安心した…


 それは、あの伸明が、聖人君子でないことが、わかったから…


 だから、安心した…


 変な話、生まれも良く、性格も、良く、常に品行方正、善人でいる…


 それは、わかるが、ホントに、それだけ?


 と、思ってしまう…


 どんな人間にも、陰の部分はある…


 他人に隠れて、他人の悪口を言うのなど、その典型だろう…


 しかしながら、他人の悪口を一度も言ったことがない人間が、いれば、それこそ、お目にかかってみたい…


 普通は、そんな人間は、この世にいるはずがないからだ…


 だから、安心した…


 伸明に負の部分があって、安心した…


 そういうことだ…


 私が、そんなことを、考えていると、ナオキが、


 「…だったら、諏訪野さんは、今、なにを考えているんだろうな?…」


 と、言った…


 「…なにを、考えているって?…」


 「…だって、ほぼ、目の前で、あのハルカさんが、投身自殺をしたも、同然だろ? しかも、ハルカさんは、妊娠していたって、言うし、もしかしたら、諏訪野さんは、その子供の父親だったという可能性だってある…」


 「…」


 「…一体、どういう、精神状態なのかな?…」


 「…精神状態って?…」


 「…こう言っては、悪いけれども、ハルカさんが、死んで、安心したのか? それとも、お腹の子供が、自分の子供だったら、どうなのか? だって、その子供だって、死んでしまっただろ?…」


 「…それは、たぶん、そうでしょうね…」


 「…だったら、一体、どういう気持ちになるのかな…ちょっと、想像がつかないな…」


 ナオキが、言った…


 しんみりと、言った…


 私は、それを、見て、


 「…ナオキ…アナタだったら、どうするの?…」


 と、聞いた…


 「…ボクだったら?…」


 「…もし、ナオキが、伸明さんの立場だったら、どうするの?…」


 「…それは、わからないよ…」


 ナオキが、即答した…


 「…変な話、この手の話にシュミレーションは、効かないよ…」


 「…えっ? どういうこと?…」


 「…ほら、昔、一刻、流行ったろ? 証券会社が、例えば、仮に、一千万円を顧客に上げて、それを、顧客が、運用するゲーム…」


 「…それが、どうかしたの?…」


 「…たしか、高校生相手の株式運用のゲームだったと、思う…それで、ボクが言いたいのは、ゲームと現実の株式運用は、違うと言うこと…」


 「…どういう意味?…」


 「…ゲームでは、手元に一千万円あれば、それを、運用するのに、ためらいは、ない…現実に、自分のお金を使っているわけじゃないからね…」


 「…」


 「…でも、実際に、自分のお金なら、運用も、変わって来る…ゲームなら、この会社の株を五百万円で買ってとなるが、現実では、二の足を踏む…この会社の株に、そんな投資をしていいのかなと、二の足を踏む…それと、同じさ…」


 「…同じ?…」


 「…綾乃さんが、もし、ボクが、諏訪野さんの立場なら、どうするって、聞くのは、わかるけれども、実際になってみなければ、わからない…」


 「…わからない?…」


 「…綾乃さんだって、ハルカさんの立場なら、どうするって、考えるけれども、実際は、ハルカさんと、同じ立場になってみなければ、わからない…そういうこと…」


 「…そういうこと?…」


 「…でも、どうして、あのハルカさんは、諏訪野さんを、襲ったんだろ? まさか、ハルカさんは、妊娠が、わかる前に、自分では、諏訪野さんの子供が、お腹にいるって、わかっていたわけじゃ、ないだろうに…」


 ナオキが、率直な疑問を口にする…


 そう言えば、そう…


 あのハルカが、どうして、伸明を襲ったのかも、わからない…


 まだ、なにも、わからない…


 しかも、当事者のハルカは、自殺した…


 だから、わからない…


 あのハルカが、どうして、伸明を襲ったのは、わからない…


 そう、思った…


 そう、思ったのだ…


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