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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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201/225

寿綾乃という女 第4部 201

 私は、思わず、


 「…ウソ!…」


 と、呟いた…


 小さく、呟いた…


 ナオキを見ると、ナオキもまた、絶句していた…


 テレビの画面に流れたテロップを、見て、絶句していた…


 絶句して、顔色が、変わっていた…


 それは、そうだろう…


 なんと言っても、ナオキは、公式には、これから、あのハルカと結婚することになっていた…


 公式というのは、以前、テレビで、ハルカと、共に、ナオキは、結婚すると、宣言したこと…


 これは、伸明に頼まれたから、そうしたと、ナオキは、言っていた…


 伸明は、ハルカの兄である、長谷川センセイを、味方につけたかった…


 長谷川センセイは、あの五井北東家の団郁馬と、繋がっていたからだ…


 さらには、ユリコとも、繋がっていたからだ…


 ナオキに頼んで、あのハルカと、結婚宣言をすることで、長谷川センセイを味方に、つけられると、踏んだのだ…


 団郁馬やユリコとタッグを組んでいた、長谷川センセイを、こちら側に、寝返らせると、踏んだのだ…


 それゆえ、ナオキは、ハルカと結婚することになっていた…


 実際は、することは、ありえないが、そう、なっていた…


 そのハルカが、自殺するとは?


 ありえない!


 まずは、ありえないと、思った…


 が、


 テロップが、流れている以上、事実…


 事実なのだろう…


 なにより、驚いたのが、ハルカの自殺が、テレビのテロップに流れたこと…


 これは、私が、思っていたより、大事…


 はるかに、大事になっている事実だった…


 五井ホールディングスの社長、諏訪野伸明を、襲った、容疑者の長谷川ハルカが、自殺したことが、テレビのテロップに流れるほどの大事だとは、思わなかった…


 まったく、思わなかった…


 やはり、これは、身近だからだろう…


 あまりにも、身近だからだろう…


 だから、その凄さが、わからない…


 諏訪野伸明の凄さが、わからない…


 諏訪野伸明の置かれた地位の凄さがわからない…


 そう、思った…


 あらためて、そう、思った…


 そして、そう、考えると、さきほど、ナオキが、クルマの中で言ったこと…


 長谷川センセイを、このまま、五井一族とは、認められないということ…


 そう、言ったナオキの言葉が、あらためて、わかった…


 たしかに、これほどの肩書の有名人の諏訪野伸明を傷付けたと、なれば、いかなる理由があっても、その傷付けた当人の兄を、五井一族と、公式に、認めることは、できない…


 伸明本人が、それを、認めたくても、周囲の目があるから、できない…


 そう、思った…


 が、


 真逆に言えば、このハルカが、自殺したことで、もしかしたら、あの長谷川センセイは、五井の一族と、認められるかも、しれない…


 そうも、思った…


 ハルカは、たしかに、伸明を、傷付けたが、その当人のハルカが、自殺した…


 それゆえ、言葉は、悪いが、障害がなくなった…


 ハルカ当人が、いなくなったことで、障害が、なくなった…


 また、日本は、当人が、亡くなれば、許す文化がある…


 すでに、亡くなった以上、当人が、生前、犯した罪を許す文化がある…


 だから、もしかしたら、有利…


 長谷川センセイに有利になるかも、しれない…


 ハルカが、亡くなったことで、長谷川センセイが、五井一族と公式に名乗ることが、できるかも、しれない…


 不謹慎ながら、そう、思った…


 そう、思ったのだ…


 そして、そう、思いながら、ナオキを見ると、ナオキは、ナオキで、考え込んでいた…


 難しい顔で、考え込んでいた…


 だから、ナオキに、


 「…どうしたの? ナオキ、そんな難しい顔をして?…」


 と、聞いた…


 当たり前だった…


 ナオキの答えは、


 「…ボクの周辺が、うるさくなる…」


 と、難しい顔をしたまま、呟いた…


 「…ナオキの周辺って?…」


 「…忘れたの? 綾乃さん?…ボクが、あのハルカさんと、結婚会見をしたこと…」


 「…それは、もちろん、覚えているわよ…」


 「…だったら、この後、マスコミが、ボクの元に、殺到することは、綾乃さんにも、わかるでしょ?…」


 言われてみれば、その通り…


 その通りだった…


 「…これで、会社にも、当面、行けなくなるな…」


 ナオキが、呟く…


 「…マスコミが、会社に殺到する…だから、その前に、手を打たなきゃ…」


 「…手を打つって?…」


 「…会社に電話をかけて、社長不在でも、いいように、連絡する…あと、ホテル…」


 「…ホテル?…」


 「…どこかに、身を隠さなければ、ならない…自宅は、当然、突き止められていると、思って、間違いないから…」


 「…だったら、当面、ここにいれば?…」


 「…ここに?…」


 「…だって、ここなら、すぐには、突き止められないでしょ?…」


 私が、言うと、ナオキが、考え込んだ…


 それから、


 「…たしかに、綾乃さんの言う通りだ…」


 と、言って笑った…


 「…でしょ?…」


 私も、ナオキに相槌を、打ったが、すぐに、


 「…でも、こんなことを、言うのは、不謹慎かもしれない…」


 と、告げた…


 「…不謹慎?…」


 「…だって、ハルカさんが、亡くなったのよ…それが、私たち、自分のことばかり、言って…」


 私が、言うと、ナオキも、


 「…それは、そうだった…」


 と、言った…


 「…ちょっと、自分勝手過ぎた…」


 「…でしょ?…」


 「…でも、こんなことを、言っては、なんだけれども、ボクも綾乃さんも、ハルカさんのことを、知らなすぎる…だから、共感が、沸かないんじゃないかな…」


 言われてみれば、その通り…


 その通りだった…


 私も、ナオキも、ハルカさんのことを、知らな過ぎた…


 何度か、会っただけ…


 それでは、彼女が、いくら亡くなっても、その死に、涙を流すことは、できない…


 あまりにも、知らなすぎるから、共感を呼べないからだ…


 だから、ハルカさんには、悪いが、共感できない…


 あまりにも、知らないから、共感できない…


 そういうことだ…


 そして、私が、そう、思っていると、ケータイの電話が鳴った…


 私のケータイの電話が鳴った…


 …一体、誰からだろう?…


 私は、急いで、ケータイを取った…


 そこにあったのは、マミさんの名前だった…


 さっき、五井記念病院で、別れたばかりのマミさんからだった…


 私は、急いで、ケータイに出た…


 すでに、なんで、電話が、来たのか、用件は、わかっている…


 私が、


 「…寿です…」


 と、名乗ると、すぐに、


 「…諏訪野です…諏訪野マミです…」


 と、電話の向こう側から、マミさんが、自分の名前を名乗った…


 それから、慌てた様子で、


 「…あの、長谷川ハルカさんのことだけれど…」


 と、続けた…


 私は、すぐに、


 「…今、自宅で、テレビの電源をつけたら、すぐに、テロップに流れていました…」


 と、言った…


 「…テロップに流れていた?…」


 マミさんが、私の言った言葉を繰り返す…


 「…ハイ、そうです…」


 私が、答えると、マミさんは、小さな声で、


 「…そんな大事になっているんだ…」


 と、呟いた…


 まるで、独り言を言うように、呟いた…


 私は、すぐに、


 「…なっていますよ…」


 と、返した…


 「…だって、ひとが、一人、死んでいるんですよ…」


 私の言葉に、やはり、マミさんは、小さく、


 「…その通り…寿さんの言う通り…」


 と、返した…


 相変わらず、小さな声で、返した…


 私は、


 「…マミさんは、事件をどうして、知ったんですか?…」


 と、聞いた…


 当たり前だった…


 「…私は、警察からの連絡で…」


 「…えっ? 警察からの連絡?…」


 「…伸明さんに、会った後、ハルカさんが、付き添いの刑事さんが、目を離したすきに、窓から、身を投げて、投身自殺を図ったと、連絡があって…」


 「…投身自殺?…」


 私は、思わず、大声を出した…


 そして、近くにいる、ナオキと顔を見合わせた…


 思わず、顔を見合わせた…


 「…そうよ…投身自殺…突発的に窓から、身を投げたらしい…伸明さんと、会った後…」


 「…伸明さんと、会った後…ですか?…」


 「…そうよ…」


 マミさんが、力を込める…


 伸明と会った後に、自殺するなんて…


 そんな…


 一体、なにが、あったんだろ?


 伸明と、一体、なにが、あったんだろ?


 考えた…


 当たり前だった…


 いや、


 そもそも、どうして、警察は、あのハルカさんを、伸明に会わせたのか?


 それが、謎だった…


 意味が、わからなかった…


 それゆえ、私は、


 「…あの…マミさん、どうして、警察は、あのハルカさんを、伸明さんの元へ行かせたんですか?…」


 と、聞いた…


 「…それは、事情聴取よ…」


 「…事情聴取?…」


 「…ほら…伸明さんは、病院に入院しているでしょ? だから、警察は、伸明さんに、警察に来てくれとは、言えない…それに…」


 「…それに、なんですか?…」


 「…言いづらいけれども、伸明さんは、五井家の当主…五井ホールディングスの社長…有名人だし、実力者だから、警察も、気を遣ったみたい…」


 「…気を遣った?…」


 「…だって、普通なら、逮捕された、あのハルカさんを、連れて、病院に入院中の伸明さんに会わせようと、しないでしょ?…」


 …それは、そうだ…


 言われて、見て、気付いた…


 たしかに、普通なら、あり得ないかも、しれない…


 しかし、相手が、伸明だから、できた…


 五井家の当主だからできた…


 そういうことかも、しれない…


 が、


 そこまで、考えて、気付いた…


 これは、もしかしたら、伸明の要望かも、しれないと、気付いた…


 もしかしたら、伸明が、ハルカに、会いたいと、言ったのでは、ないか?


 そう、気付いた…


 それゆえ、


 「…マミさん、ひとつ、いいですか?…」


 と、聞いた…


 「…なに、寿さん?…」


 「…ひょっとして、ハルカさんに会いたいと言ったのは、伸明さんですか?…」


 私の質問に、少し、置いてから、


 「…よくわかったわね…寿さん…」


 と、マミさんの驚きの声が上がった…


 感嘆の声が上がった…


 「…たしかに、伸明さんが、警察に、頼んだらしい…」


 「…どうして、ですか?…」


 「…あのハルカさん、妊娠してたみたい…」


 「…妊娠?…」


 「…父親は、伸明さん…」


 衝撃的な言葉だった…


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