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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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198/225

寿綾乃という女 第4部 198

 そして、その言葉を最後に、和子が、


 「…今日は、皆さん、わざわざ、私の見舞いにやってきてくれて、ありがとう…」


 と、言った…


 「…申し訳ないけれども、私も、少し、休みたい…だから、今日は、このへんで…」


 と、口にする…


 私は、思わず、ナオキと顔を見合わせた…


 次いで、マミさんと、顔を見合わせた…


 が、


 さすがに、昭子とは、顔を見合わせなかった…


 いくらなんでも、自分の母親以上の年齢の昭子と、顔を見合わすことは、できないからだ…


 私が、そう、思っていると、マミさんが、


 「…だったら、今日は、これで…叔母様、カラダに気をつけて…」


 と、言って、別れの挨拶をした。


 私も、それに倣って、


 「…でしたら、私も、これで、失礼します…」


 と、短い、挨拶をすると、隣のナオキも、


 「…それでは、ボクも、失礼します…」


 と、別れの挨拶をした…

 

 それを、見た、昭子が、


 「…では、私も…」


 と、言いかけたが、それを、和子が、止めた…


 「…姉さんは、いいじゃない…」


 と、止めた…


 さすがに、昭子までは、帰ってもらいたく、なかったらしい…


 なにしろ、姉妹だ…


 双子の姉妹だ…


 私たちとは、違う…


 関係の深さが、違う…


 「…では、失礼します…」


 と、再び、マミさんが、言い、私とナオキも。それに倣って、再び、


 「…失礼します…」


 と、言って、部屋を出た…


 マミさんと、いっしょに、出た…


 部屋を出て、廊下に出た私は、マミさんに、なんと言っていいか、わからなかった…


 騙された、というのが、率直な気持ちだが、まさか、それを、口に出すわけには、いかないからだ…


 まさか、伸明の見舞いに、来たのに、そこにいたのは、伸明ではなく、和子だとは、思わなかった…


 五井の女帝だとは、思わなかった…


 私を騙したマミさんも、気まずかったのだろう…


 なにも、言わなかった…


 正直、表情が、硬かった…


 そのまま、無言で、病院を出た…


 別れ際に、


 「…寿さん、今日は、ごめんなさい…」


 と、小さく、呟いた…


 マミさんに、悪気はない…


 おそらく、和子に、言われたのだろう…


 伸明が、ここに、入院していると、言えと、言われたのだろう…


 それゆえ、私も、小さく、


 「…いえ、そんなことは…」


 と、返した…


 マミさんは、それには、答えず、


 「…じゃ、藤原さんも、今日は、これで…」


 と、言って、別れた…


 私とナオキを置いて、別の方角に、向かって、歩き出した…


 私とナオキは、それを、見ていた…


 無言で、見ていた…


 が、


 ナオキが、ポツリと、


 「…彼女も大変だな…」


 と、呟いた…


 「…大変? どうして、大変なの?…」


 と、私は、ナオキに、聞く。


 「…だって、今日、あの和子さんは、引退宣言をしただろ?…」


 「…引退宣言?…」


 「…これからは、諏訪野さんに、徐々に権限を委譲すると、言っただろ?…」


 「…」


 「…あれは、引退宣言だ…」


 「…引退宣言?…」


 「…そうだ…」


 「…でも、それで、どうして、マミさんが、大変になるの?…」


 「…諏訪野さんには、頼れるのは、あのマミさんしか、いない…」


 「…えっ?…」


 「…血が繋がっていないとはいえ、兄妹…お互いに、たったひとりの、兄妹だ…他に、信頼できる人間は、いない…」


 そういうことか!


 このナオキの言わんとすることが、わかった…


 ようやく、わかった…


 さすが、経営者…


 視点が、違う…


 私とは、違う…


 やはり、ナオキは、経営者視点で、物事を見る…


 そこが、違う…


 私とは、違う…


 あらためて、思った…


 それゆえ、私は、ナオキに、


 「…やはり、社長ね…」


 と、言ってやった…


 「…社長? なにを今さら?…」


 「…よく、和子さんの発言の裏を読んだってこと…」


 「…裏? そんなたいした話じゃないよ…」


 「…でも、気付かないひとも、大勢いるわよ…」


 「…それは、人それぞれ…」


 「…人それぞれって?…」


 「…気付いても、気付かなくても、いい…人それぞれ…」


 「…まさか、もしかして、私に気を使っているの?…」


 「…そんなことは、ないよ…」


 「…ただ…」


 「…ただ、なに?…」


 「…綾乃さんも、女だなと…」


 「…どういう意味?…」


 「…だって、さっき、諏訪野さんが、あの場にいなかったから、綾乃さん、ガッカリしただろ?…」


 「…ガッカリ? ウソ、私、そんなふうに、見えた?…」


 「…見えた…」


 「…ウソ!…」


 「…ウソだよ…」


 ナオキは、あっけらかんと、笑った…


 これには、頭に来た…


 実に、頭に来た…


 「…だったら、ナオキは、マミさんと結婚すればいい…」


 「…どうして、いいの?…」


 「…そうなれば、ナオキも、五井一族…FK興産が、五井グループに組み込まれても、生涯、安心…五井で、なんらかの役職を与えてくれる…」


 「…それは、考えなかった…さすが、綾乃さん…」


 と、ナオキが、私を褒める…


 私とナオキは、こんなバカな話をしながら、病院の駐車場まで、歩いた…


 傍から、見れば、バカなカップル…


 バカップル確定だった(爆笑)…


 

 それから、二人で、BMWに乗り込み、自宅に、帰った…


 私のマンションに、帰った…


 帰る最中に、BMWの中で、ナオキに、言った…


 静かに、言った…


 あの病院の中での和子の言葉を言った…


 「…あの和子さん、もうすぐ、幕が、下りると言っていたけれども、それは、決着が、着くということでしょ?…」


 と、言った…


 「…だろうね…」


 ナオキは、運転しながら、答える…


 「…ということは、ユリコさんに、引導を渡すということね…」


 私が、言うと、ナオキは、答えなかった…


 「…」


 と、答えなかった…


 それゆえ、


 「…どうしたの? ナオキ?…」


 と、聞いた…


 「…まさか、聞こえなかったわけじゃ、ないでしょ?…」


 と、聞いた…


 ナオキは、それでも、すぐには、答えなかった…


 ハンドルを握ったまま、答えなかった…


 だから、


 「…どうしたの? ナオキ? なんで、なにも、言わないの?…」


 と、聞いた…


 しつこく、聞いた…


 「…ユリコの持っている爆弾…」


 と、ようやく、ナオキが、口を開いた…


 「…爆弾? なにそれ?…」


 「…FK興産のユリコの持ち株…」


 ナオキが、言う…


 それを、聞いて、思い出した…


 ユリコが、まだFK興産の株を持っていることを、あらためて、思い出した…


 「…ユリコは、たぶん、追い込まれれば、その爆弾を使う…」


 「…使うって、どう使うの?…」


 「…諏訪野さんに、対して、それを、使う…」


 「…どういうこと?…」


 「…つまり、ユリコが、その気になれば、FK興産は、完全には、五井の支配下には、入らない…そういうこと…」


 思っても、みないことを、言った…


 これまで、まったく、考えたこともないことを、言った…


 同時に、なんとなく、ナオキの顔を見た…


 その顔は、なんとなく、ホッとしているように、見えた…


 これは、意外だった…


 やはり、奥の手というか…


 これで、FK興産が、完全に、五井の支配下に入らないことが、嬉しいのだろうか?


 FK興産が、五井の支配下に、入らないことが、わかって、ホッとしたのだろうか?


 考えた…


 が、


 当然、答えは、出ない…


 だから、直球で聞いた…


 ナオキに、聞いた…


 「…ナオキ…アナタ、なんだか、ホッとした顔をしているわよ…」


 と、言って聞いた…


 「…ホッとした顔? ボクが?…」


 ナオキが、驚いた…


 ハンドルを握ったままだから、私を見ないまま、言った…


 「…そうよ…」


 私は、答えた…


 「…それって、やっぱり、FK興産が、完全に五井の支配下に入らないことが、わかったから、ホッとしているの?…」


 私は、直球で、聞いた…


 が、


 その答えは、意外だった…


 私の想定外だった…


 「…いや、ユリコの持つ、株がなくても、事実上、会社が、五井の支配下に、下ることは、変わらないよ…」


 「…えっ? どうして、変わらないの?…」


 「…ユリコの持つ、株の配分…それが、あっても、それ以外が、すべて、五井の手に渡れば、会社は、事実上、五井の下になる…完全に株は、支配できなくても、結果は、同じ…変わらない…」


 「…だったら、どうして、ホッとした顔をしたの?…」


 「…それは、自分でも、わからない…ただ…」


 「…ただ、なに?…」


 「…ボクも、まだ、ユリコを好きなんだな、と思って…」


 「…好き? ユリコさんが?…」


 ナオキが、意外なことを、言った…


 実に、意外なことを、言った…


 私は、驚いて、


 「…なんで、そんなこと、いきなり…」


 と、言った…


 なにしろ、そんなこと、聞いたことが、なかった…


 このナオキが、まだ、ユリコを好きだなんて、聞いたことが、なかったからだ…


 そして、私が、尋ねるまでもなく、ナオキは、自分から、口を開いた…


 「…自分でも、驚いたよ…」


 と、口を開いた…


 チラッと、私の顔を、見ながら、言った…


 「…さっき、あの和子さん…五井の女帝が、ユリコにとどめを刺すようなことを、言った…あのとき、思ったんだ…」


 「…なにを、思ったの?…」


 「…ユリコをまだ、好きだってこと…」


 「…えっ? ウソ?…」


 「…いや、正確には、好きとまでは、言えないけれども、憐憫というか…そこまで、しなくて、いいんじゃないかと、思ってね…」


 ナオキが、言う…


 これまで、私が、考えても、みなかったことを、言う…


 これには、驚き…


 驚き以外、なにもなかった…


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