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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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197/225

寿綾乃という女 第4部 197

 「…北東病院で、面白いことって、叔母様?…」


 マミさんが、聞く…


 和子は、それを、聞いて、


 「…」


 と、黙った…


 たぶん、わざと、黙った…


 が、


 昭子は、和子の言わんとすることが、わかったらしい…


 「…和子…アンタ…」


 と、昭子が、言った…


 「…あら、姉さん、わかった?…」


 と、和子が意味深に笑う…


 「…伸明の力の見せどころ…」


 と、和子が、言う…


 「…五井に牙を剥くものに、対する、報い…」


 と、さらに、和子が、言う…


 笑いながら、言う…


 私は、それを、聞いて、思った…


 たぶん、伸明は、わざと、今、北東病院に入院しているのでは、ないか?


 わざと、北東病院に入院して、待っているのでは、ないか?


 ユリコを待っているのでは、ないか?


 そう、思った…


 すでに、五井北東家は、屈服した…


 本家に、屈服した…


 つまりは、五井北東家は、本家に逆らうことはない…


 その事実が、重い…


 実に、重い…


 さらには、そこに、長谷川センセイが、いる…


 五井記念病院で、私の担当医だった、長谷川センセイも、いる…


 長谷川センセイも、五井北東家の側に立っていたが、寝返った…


 すでに、本家側に寝返った…


 そこに、ユリコが、のこのこ、出向いていけば、敵…


 すべて、敵になっている…


 自分の仲間だと、思っていた相手が、すでに、敵になっている…


 それを、この和子が、言いたいのでは、ないか?


 私は、そう、見た…


 私は、そう、睨んだ…


 そして、私が、そう、思っていると、マミさんが、


 「…叔母様…和子叔母様…」


 と、和子に声をかけた…


 「…なに? マミさん?…」


 と、和子。


 「…私、さっきから、ずっと、疑問に思っていたんですけれども、お聞きしていいですか?…」


 と、マミさん。


 「…あら、マミさん、なにを、聞きたいの?…」


 と、和子。


 「…さっき、この寿さんの、この五井記念病院での、担当医だった、長谷川センセイ…北東家の団郁馬と組んでいた、長谷川センセイを味方につけたと、和子叔母様は、おっしゃって、いたけれども、どうやって、センセイを味方につけたんですか?…」


 と、マミさんが、聞いた…


 私が、思っても、みなかったことを、聞いた…


 たしかに、マミさんに、言われれば、わかる…


 一体、どうやって、この和子は、あの長谷川センセイは、味方に、つけたのだろうか?


 お金でも、あげたのだろうか?


 いや、


 それは、あるまい…


 長谷川センセイは、お金を持っているか、どうか、わからないが、それは、あるまい…


 それでは、まるで、恐喝だ…


 言葉は、悪いが、恐喝だ…


 長谷川センセイが、


 「…そっちにつくから、金をよこせ!…」


 と、言っているようなものだからだ…


 まさか、そんな真似は、すまい…


 あの長谷川センセイは、そんな真似は、すまい…


 私が、そう、思っていると、和子が、


 「…姉さん、どうやって、味方につけたか、わかる?…」


 と、昭子に聞いた…


 昭子は、率直に、


 「…わからない…」


 と、即答した…


 「…だったら、藤原さんは?…」


 と、和子は、今度は、ナオキに、聞く…


 「…わかりません…」


 と、これも、即答。


 考える間もなく、白旗を上げた…


 それを、見た、和子は、


 「…あの長谷川センセイの願いは、五井一族と認められること…違う? 寿さん?…」


 と、今度は、私に向かって、言った…


 私は、ただ、


 「…ハイ…それは、承知してます…」


 と、答えた…


 呆気なく、答えた…


 「…だから、私は、それを、認めてあげた…それだけ…」


 と、和子。


 「…それだけと、言うのは、どういうことだい? 和子?…」


 と、昭子。


 「…要するに、あの長谷川センセイは、五井のブランドが、欲しかったということ…」


 と、和子。


 「…ブランド?…」


 と、昭子が、呟く。


 「…そう、ブランド…」


 と、和子。


 「…そんなものが、なんの役に立つんだい?…」


 と、昭子が、呟く。


 それを、聞いた和子が、


 「…姉さんは、最初から、五井一族だから、ブランドの価値に気付かないのよ…五井というブランドの価値に…これは、マミさんも、同じ…」


 と、和子。


 「…ブランドの価値ですか? 叔母様?…」


 と、マミさん。


 不思議そうに、呟く。


 「…あら、マミさん、そんなものに、価値はあるのかという顔をしているわね?…」


 と、和子が、マミさんに、聞く…


 「…ハイ…」


 と、マミさんが、答える…


 「…だったら、例えば、トヨタを例にすれば、いいわ…」


 と、和子。


 「…トヨタですか?…」


 と、マミさん。


 「…そう…五井は、身内だから、その価値に、気付きにくいから…」


 と、和子。


 「…トヨタの会長…豊田章男会長…あのひとを、例に取れば、わかる…」


 と、和子。


 「…なにが、わかるの? 叔母様?…」


 と、マミさん。


 「…あの豊田章男さん…あのひとに、例えば、誰かが、五井記念病院で、働いていた、長谷川センセイという外科医のセンセイが、いらっしゃるんですが、苗字は、違うけれど、ボクも豊田一族なんですよと、言っていたけれども、そうなんですかと、聞いたと、する…」


 「…」


 「…そしたら、あの章男さんが、ハイ、そうですと、答える…そしたら、あの長谷川センセイも、豊田一族なんだと、聞いたひとは、思うでしょ? それと、同じ…」


 「…それと、同じ?…」


 と、マミさん。


 「…つまりは、自分も、五井一族だと、堂々と言える…そうなれば、どこでも、話題になりやすいし、注目される…そして、人脈も得やすい…」


 と、和子。


 「…人脈?…」


 と、マミさん。


 「…アナタも、五井一族だから、自覚は、ないでしょうけれども、他人から見たら、五井一族のメリットは、大きい…」


 「…メリット?…」


 と、マミさん。


 「…要するに有名人よ…どこにいっても、有名人…有名な政治家や、芸能人のようになる…と、なれば、ひとも寄ってくるし、例えば、自分で、事業を起こしたいと思っても、有利…あの五井一族なら、と、簡単にお金を貸してくれるし、私や、伸明に連絡をとって、ホントに、あの長谷川センセイは、五井一族なんですかと、聞かれて、そうですと、答えるだけで、信用が、得られる…世間の信頼が、得られる…あの長谷川センセイが、狙っていたのは、それ…」


 と、和子が、説明した…


 非常に、わかりやすく、説明した…


 たしかに、言われてみれば、わかる…


 実に、わかる(苦笑)…


 あの長谷川センセイは、上昇志向が、強い…


 そして、先祖が、五井西家に繋がる…


 ならば、それを、利用したい…


 是が非でも、利用したい…


 そう、思うのが、人情…


 人情だ…


 だから、それを、見抜いた、この和子は、それを、与えた…


 あの長谷川センセイに与えた…


 その結果、五井北東家の団郁馬と組んでいた長谷川センセイは、寝返った…


 本家側に寝返った…


そういうことだ…


しかし、まさか、長谷川センセイの狙いが、それとは?


考えも、しなかった…


気付きも、しなかった…


 だが、この和子は、気付いた…


 容易に、気付いた…


 長谷川センセイが、なにを欲しているのか?


 容易に、気付いた…


 それは、私と比べて、私の母親以上の年齢だから、当たり前と言えば、当たり前かも、しれないが、やはり、五井の女帝…


 五井の頂点に立つ、女…


 簡単に、相手が、なにを欲しているのか、わかるのだろう…


 そして、そんなことが、簡単に、わかるように、なるまでの、苦労をしているのだろう…


 それなりの苦労をしているのだろう…


 そうでなければ、わからない…


 簡単には、わからない…


 ただ、ぼんやりと、生きていては、わからない…


 そういうことだ…


 そして、私が、そんなことを、考えていると、和子が、


 「…もうすぐ、幕が、下りる…」


 と、言った…


 「…幕? なんのことだい?…」


 と、和子が、聞く。


 「…今度の騒動の幕…」


 と、和子。


 「…私が、倒れたことに、端を発した、今回の騒動の幕…」


 と、和子が、言った…


 穏やかに、言った…


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