寿綾乃という女 第4部 196
あのユリコが、黒幕…
今回の黒幕…
この和子の言葉で、知った…
今、知った…
が、
驚きは、ない…
まったくない(苦笑)…
何度も、言うが、あのユリコは、そういう女…
決して、自分が、受けた屈辱を忘れない女だからだ…
受けた、屈辱は、倍返しどころか、3倍、4倍にして、返さないと、気が済まない女…
それほど、プライドが、高い…
そして、同時に、能力も、ある…
頭も、いい…
だから、余計に、頭に来る…
自分を、コケにした、この和子に頭に来るのだろう…
プライドの高い、人間を敵に、回せば、そうなることの事例だ…
もちろん、和子は、悪くない…
なにも、悪くない…
だが、ユリコにとっては、頭に来る…
自分の思い通りにならなかったから、頭に来る…
そういうことだ…
和子にとっては、理不尽極まりない話だが、世の中に、こういうことは、ありふれている…
自分は、悪くない…
誰に、聞いて、もらっても、悪くは、ないが、相手に、とっては、
…コイツさえ、いなければ!…
と、思ってしまう…
そういうことだ…
そして、この和子の発言で、繋がった…
今回の一連の出来事が、すべて、繋がったと、思った…
すでに、ユリコの主催する、セミナーに、団郁馬の名前はあった…
同時に、あのユリコが、長谷川センセイと、いっしょにいる姿も、見た…
しかしながら、ユリコが、黒幕とは、思わなかった…
あのユリコが、今回の一件に、関係していたのは、わかる…
しかしながら、黒幕とは、思わなかった…
黒幕=今回の一件を主導しているとは、思わなかった…
夢にも、思わなかった…
そして、私が、そう、思っていると、和子が、私を見ていることに、気付いた…
ベッドの上の和子が、ジッと、私を、凝視していることに、気付いた…
そして、言った…
「…寿さんも、大変ね…」
と、言った…
しみじみとした口調で言った…
「…大変? …なにが、大変なの? 和子?…」
と、昭子が、聞く。
「…今、言った、ユリコさん、この寿さんの天敵なの?…」
と、和子。
「…天敵?…」
と、昭子が、大きな声を上げた…
「…そうよね? 寿さん?…」
と、和子が、言った…
笑いながら、言った…
私は、どう答えていいか、わからなかった…
たしかに、その通りだが、それを、認めることは、できない…
この場で、認めることは、できないからだ…
私が、そう、思っていると、和子が、
「…あのユリコさん、私を敵視して、今回の件を仕組んだと、思うけれども、それでも、今回、こんなことを、仕掛けたのは、寿さんが、いるから…」
と、断言した…
「…寿さんが、いるからとは、どうしてだい? 和子?…」
と、昭子さんが、聞く…
「…私と敵対するということは、伸明に、敵対すること…そして、伸明に敵対するということは、この寿さんに、敵対すること…」
と、和子。
「…どうして、伸明に敵対することが、寿さんに、敵対することになるんだい? 和子?…」
と、昭子。
すると、和子は、昭子を見て、
「…だって、姉さんだって、伸明が、寿さんに、気があることぐらい、知っているでしょ?…」
「…それは、知っているけれど…」
「…要するに、条件が、整った…」
「…条件? なんの条件だい?…」
「…あのユリコさんが、私や、寿さんに、復讐する条件…」
「…復讐?…」
と、昭子。
「…あの手の女は、一度、屈辱を受けたら、それを、忘れることがない…絶対、ない!…」
と、和子が、力強く断言した…
そして、その言葉で、わかった…
この和子が、あのユリコに、終始、目を光らせていたことが、わかった…
おそらく、ひとに命じて、あのユリコの動静を逐一探らせていたに、違いない…
いつかは、自分に牙を剥く…
自分に、敵対する…
それが、わかっているからこそ、動静を探る…
常に、動静を探る…
いつ、襲い掛かってくるか、わからない…
いつ、牙を剥いて、自分に、立ち向かってくるか、わからないからだ…
おそらく、この和子は、あのユリコに、限らず、自分の敵になりそうな人間すべてに、同じような対策を取っているのだろう…
それで、五井を守ってきたのだろう…
私は、思った…
あらためて、思った…
そして、私が、そう、思っていると、マミさんが、
「…伸明さんが、北東病院に…」
と、呟いた…
それを見た、和子が、
「…マミさんは、北東病院をご存じ?…」
と、聞いた…
「…知りませんでした…」
と、マミさんが、答える…
それを、見て、和子が、笑った…
楽しそうに、笑った…
「…知らなくて、当然…」
と、笑った…
「…五井北東家が、病院まで、経営しているなんて、知らなくて、当然…」
と、言って、笑った…
「…私は、立場上、知っていたけれども、マミさんは、知らなくて、当然…」
と、和子。
「…立場上って、言うのは、どういう意味だい?…」
と、昭子。
「…姉さんも、知っているように、私は、五井を仕切る立場…他の五井の分家が、なにをしているか、知らなければ、ならない立場…」
と、和子が、言う…
「…ホントは、こんなこと、知らなくても、どうでもいい…五井は、連合体…本家を中心に、一族が、五井を作っているけれども、他の分家が、同時に、なにをしようと構わないという文化が、五井には、ある…だから、マミさんのように、知らなくても、構わない…でも、私は、立場上、それを、知らなければ、ならない…他の分家が、なにをしているのか、常に目を光らせていなければ、ならない…」
和子が、言う…
私は、それを、聞いて、考えた…
その言葉の意味を考えた…
いや、
意味ではない…
その言葉の裏を考えた…
つまりは、一言で言えば、五井は、団結していない…
そういうことだ…
それゆえ、常に、目を光らせていなければ、ならない…
他の分家が、なにをしているか、目を光らせて、いなければ、ならない…
他の分家が、なにをするか、わからないからだ…
いつ、本家に牙を、剥くか、わからないからだ…
あるいは、五井の団結を乱すような真似をするか、わからないからだ…
つまりは、それほど、結束が、弱いことの裏返し…
結束が、弱いからこそ、五井の一族は、原則、一族同士で、結婚を奨励する…
五井の歴史は、四百年…
五井十三家といっても、一族同士の血の繋がりは、薄い…
もはや、他人と言っていいほど、薄い…
それゆえ、一族の団結を深めるためにも、一族同士の結婚を奨励する…
五井一族と言っても、もはや、他人に近いぐらい、血の繋がりが、薄くては、団結のしようがないと言っては、なんだが、やはり、血の繋がりが、近ければ、団結しやすいものだからだ…
その証拠に、伸明の父の先代当主、建造は、五井東家の昭子と結婚した…
本当は、別の女性と結婚したかったにも、かかわらず、この昭子と結婚した…
そして、建造が、結婚したかった女性こそ、私の叔母だった…
私そっくりのルックスの叔母だった…
私の母の妹だった…
それゆえ、建造は、動揺した…
初めて、私を見て、動揺した…
自分の娘ではないかと、思って動揺した…
そして、ほどなく、私が、自分の娘ではないと、わかっても、私に優しかった…
まるで、自分の溺愛する娘に、接するように、私に優しかった…
そして、その結果ではないが、伸明が、私を好きになった…
血が繋がっていないにも、かかわらず、血が繋がった実の息子の秀樹を差し置いて、自分を後継者に指名してくれた、建造に恩義を感じていたためだ…
私を伸明の妻にすれば、伸明は、建造の恩に、報いることになる…
それが、伸明が、私を好きになった、最初の動機だった…
私は、今、それを、思い出した…
あらためて、思い出した…
そして、それを、思い出したことで、あらためて、伸明のことを、考えた…
伸明は、今、北東病院にいるという…
あの団郁馬が、経営する、五井北東家の経営する、北東病院に入院しているという…
一体、なんのために?
なんのために、北東病院に入院しているのか?
わからない…
目的が、わからない…
さっぱり、わからない…
団郁馬と伸明の対決は、伸明の圧勝だった…
すでに、決着はついている…
にもかかわらず、なぜ、北東病院に入院しているのか?
わからない…
謎が、ある…
しかも、この和子は、それを、刑事に告げたと言った…
あのハルカを連れて、伸明に会いにやって来た、刑事二人に、告げたと言った…
これは、一体、どういう意味があるんだろうか?
考えた…
わかることと言えば、あの北東病院には、ハルカの兄の長谷川センセイが、いることだけ…
ハルカの義理の兄の長谷川センセイが、いるだけ…
ハルカと血が繋がっていない、長谷川センセイが、いることだけだからだ…
それとも、もしかして?
もしかして、あのハルカが、伸明を襲ったことに、なにか、関係がある?
もしかして、ある?
私は、思った…
私は、考えた…
そして、私が、そんなことを、考えていると、和子が、笑った…
意味深に、笑った…
「…この後、北東病院で、面白いことが、起こるわよ…」
と、笑った…




