寿綾乃という女 第4部 195
たしかに、言われてみれば、当たり前…
当たり前のことだった…
なにより、今日、ここにやって来たのは、伸明を見舞うため…
あのハルカに、襲われて、傷を負った伸明を見舞うためだった…
そのために、私は、今日、この五井記念病院にやって来た…
この五井記念病院にナオキといっしょに、やって来たのだ…
それが、見舞いにやって来れば、そこにいたのは、伸明ではなく、和子…
五井の女帝だった…
この五井の女帝から、これまで、謎だった、これまでのいきさつが、語られて、それは、それで、良かったが、肝心の伸明の行方が、わからない…
それを、今、ナオキが、言った…
ナオキが、追及した…
だから、驚いたが、言われて、みれば、当たり前…
当たり前だった…
が、
誰もが、すぐに、口を開かなかった…
マミさんも、和子も、昭子も、口を開かなかった…
その中で、真っ先に、口を開いたのは、マミさんだった…
「…私は、知らない…」
と、真っ先に、言った…
「…和子叔母様が、入院していたのは、知っていたけれども、伸明さんのことは、知らない…」
マミさんが、言った…
私を見て、言った…
後は、和子と昭子だった…
どっちが、先に口を開くか?
それとも、口を開かないか、考えた…
いや、
見た…
これは、刑事の尋問でも、なんでもない…
言いたくなければ、言わなければ、いいし、
「…知らない…」
と、とぼけても、いい…
私が、そう、思っていると、昭子が、
「…和子は、さっき、刑事さんが、あのハルカさんを連れて来たときに、刑事さんに、伸明が、どこにいるか、教えたの? 私は、あのとき、席を外していたから、わからなかったけれども…なにしろ、同じ顔が、二つ、あれば、刑事さんたちも、驚くだろうから…」
と、説明する…
要するに、
…自分は、知らない…
と、言いたいのだろう…
だから、わざと、言った…
そういうことだろう…
和子は、そう、思ったか、どうか、わからないが、私は、そう、見た…
私は、そう、睨んだ…
昭子の発言を受けて、和子は、今、発言した、昭子を見た…
そして、言った…
「…姉さんは、伸明が、今、どこにいるか、知っているでしょ?…」
と、言った…
笑いながら、言った…
「…和子…どうして、私が、知っているの?…」
と、昭子。
「…だって、伸明は、今、北東病院に入院しているでしょ?…」
和子が、言うと、昭子は、驚いた表情に、なった…
明らかに、ビックリした表情で、和子を見た…
自分の双子の妹を見た…
「…よく、わかったわね…和子…」
と、言って、和子を見た…
「…その程度の情報は、入るのよ…」
と、和子が、笑った…
ベッドの上の和子が、笑った…
「…姉さん、私が、五井を仕切っていることを、忘れたの?…」
和子が、笑って言う…
「…五井の女帝の名は、伊達じゃないの…」
和子が、断言する…
私は、それを、見て、やはり、五井は、この和子が、仕切っている…
あらためて、それを、感じた…
ひしひしと感じた…
それを、聞いた昭子は、
「…だったら、和子は、それを、さっき、やって来た、刑事さんたちに、告げたわけ…」
「…ええ、教えたわ…」
そう、言ってから、
「…伸明の方も、その方が、都合が、いいでしょうから…」
と、付け加えた…
「…都合が、いい? どう、都合が、いいの?…」
と、昭子。
「…直接、伸明が、団郁馬と、会った方が、都合がいいでしょ?…」
「…」
「…それに、北東病院には、長谷川センセイもいる…」
「…なにを、言いたいの? 和子? さっき、言ったように、団と伸明の争いは、団が、伸明に詫びを入れて、終わったはずだよ…」
昭子が、怒鳴る…
「…姉さん、知らないの?…」
と、和子。
「…私が、なにを、知らないって言うの? 和子…」
と、昭子。
「…今回の黒幕…」
「…黒幕? なに、それ?…」
和子は、それには、答えず、ナオキを見た…
ベッドの上から、和子を囲むように、周りに立ち続ける、私たち4人から、ナオキを選んで見た…
それから、言った…
「…FK興産の株…半分は、五井が、持っている…でも、残りの半分を藤原さんが、全部、持っているかと、言えば、違うでしょ?…」
和子が、意味深に言った…
実に、意味深に言った…
そして、その答えは、すぐに、わかった…
私には、すぐに、わかった…
同時に、ナオキにも、わかった…
私とナオキは、思わず、顔を見合わせた…
驚いて、顔を見合わせた…
そして、言った…
「…ユリコ…」
と、ナオキが言った…
ナオキの前の妻の名前を言った…
FK興産を、創業した当時は、ナオキは、ユリコと結婚していた…
それゆえ、ユリコも、FK興産の株を持っている…
何%か、忘れたが、株を持っている…
FK興産の名前の由来は、FK興産のFは、藤原ナオキのF…
FK興産のKは、寿綾乃のK…
誰にも、言っていないが、それが、FK興産の名前の由来…
しかしながら、会社が、その名前にする前から、会社は、あったし、会社の名前をFK興産に、改名したときも、まだ、ナオキは、ユリコと、結婚していた…
その後、ユリコは、失踪したが、FK興産の株を持ち続けていることは、今も、変わらない…
私と、ナオキは、それを、思い出した…
「…長谷川センセイと、団郁馬を焚きつけたのが、あのユリコさん…」
と、和子が、言った…
和子が、断言した…
そして、私は、この和子と、あのユリコの因縁を思い出した…
あのユリコは、以前、この五井一族の株を買い占めた…
具体的には、五井十三家の下位の八家の中から、株を買い取った…
五井一族のみが保有する、五井グループの持ち株会社、五井ホールディングスの株を買い取った…
それを、この和子に、高値で、買い戻させようとした…
たしか、買ったときの4倍の価格で、買い戻させようとした…
が、
和子は、それを、拒否…
2倍で、買い取った…
和子は、事前に、ユリコが、誰から、金を借りたか、掴んでいたのだ…
ユリコが、金を借りた人間は、あろうことか、暴力団だった…
高尾組という、経済ヤクザだった…
経済ヤクザと言っても、ヤクザであることに、変わりはない…
和子は、事前に、ユリコが借りた金の返済期限を調べていた…
つまりは、その返済期限まで、ユリコは、借りた金を返さなければ、ならない…
それが、ユリコの弱点…
和子は、外部に流出した五井ホールディングスの株を是が非でも、買い戻さなければ、ならないが、急いではない…
それに比べて、ユリコは、急いでいる…
返済期限が、近付いて、急いでいる…
勝負の結果は、火を見るよりも明らかだった…
ユリコは、和子の言い値で、株を売るしか、なかった…
そして、それは、ユリコにとっては、屈辱の経験だった…
プライドの高いユリコにとっては、忘れることのできない、屈辱の体験だったに違いない…
それゆえ、復讐の機会を、窺っていたに、違いない…
今か今かと、窺っていたに、違いなかった…
なぜなら、ユリコは、そういう人間だからだ…
あの藤原ユリコは、そういう女だからだ…
それゆえ、あのユリコは、私を、敵視している…
かつて、この藤原ナオキと、夫婦だった、ユリコは、結果的に、私に、ナオキを盗られた…
寝取られたと言っても、いい…
その屈辱を、あのユリコは、忘れない…
決して、忘れない…
本音を言えば、ただ、このナオキは、あのユリコより、私の方が、気が合うだけ…
あのユリコといるより、私、寿綾乃といる方が、気が合うだけ…
それだけだ…
そして、それは、単に、順番…
出会った順番に過ぎない…
私より、早く、ユリコが、ナオキに、出会ったに過ぎない…
ただ、それだけに、過ぎない…
私の方が、早く、ナオキと出会っていれば、ナオキは、ユリコに、振り向きも、しないだろう…
もっとも、私は、ナオキより、年下…
十歳近く、年下だ…
だから、もし、ナオキが、ユリコと出会ったときに、私と出会ったとしても、その当時は、私は、小学生…
小学生の子供だ…
小学生のガキンチョだ…
ナオキが、私を選ぶわけはない…
ナオキが、ロリコンでない限り、私を選ぶわけはない(爆笑)…
なにより、ナオキは、ロリコンでも、なんでもない…
よって、 私を選ぶわけはない…
当時、子供の私を選ぶわけはない…
私は、そんなことを、考えた…
そんなバカなことを、考えた…
もっとも、私の場合は、子供だったが、これが、大人であれば、よくあること…
世間に、ありふれていることだ…
要するに、出会った順番…
普通に、男女が、出会って、結婚する…
結婚して、子供を作っても、作らなくてもいい…
家庭を持つ…
でも、男女どちらでも、その後、自分のパートナーよりも、気が合う異性に出会った経験は、誰にも、あるからだ…
仮に、その出会った時期が、すでに、結婚してしまった時期と、たいして、変わらない場合は、悩む…
あっちの方が、良かったと、悩む…
そんな経験は、誰にも、ある…
男女ともに、ある…
ただ、その後、どうするか?
気の合った、ひとと、男女の関係になるか?
それとも、例えば、相手が職場の同僚ならば、職場の同僚のままでいるか?
それだけの違いだ…
私は、思った…
私は、考えた…
つい、話が、脱線して、そんなバカなことを、考えた…
そんな余計なことを、考えた…
そして、私が、そんなバカなことを、考えていると、和子が、
「…あのユリコさんが、今回の黒幕…」
と、言った…
断言した…




