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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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193/225

寿綾乃という女 第4部 193

 と、同時に、仰天した…

 

 私は、仰天した…


 実に、仰天した…


 色々なことが、わかってきた…


 これまで、わからないことが、色々、わかってきた…


 が、


 わからないことは、まだ、ある…


 まだまだ、いっぱい、ある…


 伸明のことも、そうだが、ふと、思ったのは、長谷川センセイのこと…


 長谷川センセイが、この五井記念病院を辞め、北東病院に勤務していることだ…


 長谷川センセイは、この五井記念病院と、あの団郁馬の経営する、北東病院の二つに、勤務していた…


 それゆえ、どちらかを辞めても、おかしくはない…


 あるいは、両方、辞めても、おかしくはない…


 どこか、別の病院に勤務すれば、いいだけだからだ…


 長谷川センセイは、勤務医…


 勤務医は、会社に勤めるサラリーマンと、違って、勤務する病院が、頻繁に変わるものも、多いからだ…


 ある意味、究極のフリーランスとも、言える…


 が、


 それは、さておき、長谷川センセイは、この和子と、密約を交わしたと言った…


 団郁馬ではなく、和子を選んだ…


 五井北東家ではなく、五井本家を選んだ…


 にもかかわらず、五井記念病院を退職して、北東病院に勤務している…


 これは、一体、どういうことか?


 私は、思った…


 私は、考えた…


 そして、そんな私の様子に、気付いたのだろう…


 和子が、


 「…寿さん、なにを、考えているの?…」


 と、聞いてきた…


 私は、躊躇わずに、


 「…ひとつ、お聞きして、いいですか?…」


 と、言った…


 「…いいわよ…なにを、聞きたいの?…」


 「…長谷川センセイのことです…」


 「…長谷川センセイのことって、なに?…」


 「…今、お聞きしたお話ですと、長谷川センセイは、団郁馬の側についていたのが、和子さんについたことになりますよね?…」


 「…そうね…」


 「…だったら、どうして、この五井記念病院を退職したんですか? 北東病院に、勤務しているんですか?…」


 「…ああ、そのこと…」


 和子は、あっさりと、言った…


 「…長谷川センセイが、私に、寝返ったと、団郁馬に、わかると、都合が、悪いでしょ? だから、真逆に、五井記念病院を退職して、もらったの? その方が、五井と縁が切れたと、団郁馬に、思わせるために…」


 「…そうだったんですか?…」


 「…そうだったのよ…」


 和子に、言われて、みれば、わかった…


 たしかに、長谷川センセイが、団郁馬を裏切り、和子の側についたと、団郁馬に悟られるのは、マズい…


 だから、真逆に、五井記念病院を退職して、北東病院一本に専念すれば、長谷川センセイは、むしろ、五井と縁が、切れたと、思うだろう…


 長谷川センセイの悲願は、五井家に認めてもらうことだからだ…


 五井の一族と認めてもらうことだからだ…


 それが、五井記念病院を退職したとなると、当然、長谷川センセイは、五井と縁が切れたと、考える…


 誰もが、考える…


 そういうことだ…


 そして、私が、そう、考えていると、マミさんが、


 「…叔母様…」


 と、和子に、声をかけた…


 「…あら、マミさん、なにかしら?…」


 「…団郁馬の野望って、なんだったんですか?…」


 ストレートで、聞いた…


 これまで、誰もが、思っていたことを、聞いた…


 私も、思っていたが、部外者の私が、口にできないことを、聞いた…


 「…ああ、それね…」


 和子は、穏やかに、言った…


 「…株の配分よ…」


 「…株の配分?…」


 と、マミさん。


 「…マミさんも、知っているように、五井一族の力の源泉は、五井グループの持ち株会社、五井ホールディングスの株を一族が、所有しているから…その配分は、本家が、30%、東西南北の分家が、それぞれ、10%、その主要な5家で、全体の70%の株を閉めている…そして、残りの30%を、五井の8家の分家が、分け合っている…」


 「…」


 「…そして、五井北東家もまた、残りの30%を、分け合う中にいる…言葉は、悪いけれども、五井の分家の中では、下位のグループに属する…」


 「…」


 「…それを、あの団郁馬は、変えたかったのよ…」


 「…変えたかって、どういうふうに、変えたかったんですか? 叔母様?…」


 と、マミさん。


 「…自分の取り分を増やしたかったの…」


 「…取り分を増やしたかった? どう増やしたかったんですか?…」


 と、マミさん。


 「…それは、本家や東西南北の分家が、持っている株を、北東家に譲るしか、ないでしょ?…」


 「…ウソ! ありえない!…」


 マミさんが、叫んだ…


 突発的に叫んだ…


 それを、聞いて、和子は、笑った…


 ニッコリと、笑った…


 「…たしかに、ありえないわ…マミさん…」


 と、言って、笑った…


 「…でも、五井北東家の立場から、すれば、自分の株を増やすには、誰かから、株を譲って、もらうしかない…違う?…」


 そう言われると、マミさんは、


 「…」


 と、なにも、言えなかった…


 「…」


 と、無言だった…


 私は、それを、聞いて、


 「…建造さんが、ご存命だったときに、団郁馬と争っていた理由は、それだったんですね?…」


 と、口を出した…


 つい、口を出した…


 それを、聞いた和子は、頷いた…


 すぐに、頷いた…


 「…当然、そんな要求は、聞けないと、建造さんは、突っぱねた…五井家の当主としては、当然の対応よね…でも、団郁馬は、引かなかった…東都新聞、東都テレビ、東都ラジオを擁しているから、引かなかった…態度が、でかかった…」


 「…」


 「…でも、今、建造さんが、亡くなり、北東家の持っているメディアも、オールドメディアと、揶揄され、力も、衰えて来た…おまけに、建造さんが、亡くなり、伸明の代に変わった…これは、団郁馬にとっては、千載一遇のチャンス…これ以上、待っていては、北東家の持っている、メディアの力が、ますます、落ちる…だから、伸明に、迫った…株を譲ってくれるように、迫った…」


 和子が、淡々と説明する…


 これまでの事情を説明する…


 「…でも、建造さんは、すでに、対策を打っていた…生前に、団郁馬に対する策を打っていた…それが、五井グループの情報関連企業を集めて、合併して、巨大なネット関連企業を作ること…準備に色々手間取っていたのと、それを、伸明に手伝わせることで、なにか、あったときに、団郁馬を牽制することが、できると、考えていた…」


 「…」


 「…おまけに、東都新聞ではなく、西都新聞を五井が、バックアップすると…最悪のときは、その体制まで、整えていた…」


 和子が、言った…


 誰も、なにも、言わなかった…


 黙って、和子の話を聞いていた…


 和子は、続ける…


 「…そして、今、その最悪のときが、来た…だから、伸明は、建造さんに言われた通り、そのことを、団郁馬に告げた…五井の当主として、告げた…そして、その結果は、御覧の通り…団郁馬は、白旗を上げざるを得なかった…伸明に白旗を上げざるを得なかった…でしょ、姉さん?…」


 と、和子は、昭子に語りかけた…


 自信の双子の姉であり、伸明の産みの親である、昭子に語りかけた…


 「…姉さんは、伸明が、心配で、心配で、仕方がなかった…それで、団郁馬に接触していたわけでしょ? 姉さんは、昔から、団郁馬と仲が、良かったから…」


 そう、妹に、言われると、昭子は、なにも、言えなかった…


 いつもは、強気な昭子もなにも言えなかった…


 「…まあ、団郁馬もバカじゃないから、姉さんの目的には、気付いていたでしょうけれども…」


 和子が、言うと、昭子が、笑った…


 楽しそうに、笑った…


 「…それは、気付いているわよ…団は、団で、私を利用して、伸明を懐柔してくれと、言いたかったに違いないから…」


 と、言い、実に楽しそうに、笑った…


 それを聞いた和子もまた、楽しそうだった…


 「…で、団郁馬は、姉さんに、頼んだの?…」


 と、聞いた…


 昭子は、無言で、首を横に振った…


 「…もちろん、頼まないわ…そんなこと、口にするほど、団は、野暮じゃないし、バカでもないわ…」


 昭子が、笑う…


 「…お互い、相手が、どうして、会いに来たか、わかるし、相手が、なにを、求めているのかも、わかる…でも、それを、口にするのは、野暮じゃない?…」


 そう、言って笑った…


 実に、楽しそうに、笑った…


 たしかに、その通り…


 その通りだ…


 お互いが、なにを、考えているか、わかる…


 言わずとも、わかる…


 が、


 それを、あえて、口にするのは、野暮…


 野暮の極み…


 同時に、がっかりする…


 仮に、私なら、がっかりする…


 言わずとも、よいことを、相手が、口にするからだ…


 それゆえ、それを、口にした相手に、落胆する…


 昭子と、団郁馬の関係も、そうなんだろう…


 互いに、気が合い、あえて、言わずとも、以心伝心で、相手の心が、わかる…


 相手が、なにを、求めているか、わかる…


 そういうことだろう…


 そして、私が、そんなことを、考えていると、和子が、ナオキを見た…


 ナオキの顔を凝視した…


 それから、


 「…藤原さんも、大変ね…」


 と、ナオキに、声をかけた…


 「…いえ、大変じゃなく、今度の件で、藤原さんを、巻き込んでしまった…ごめんなさい…」


 と、和子が、ナオキに、頭を下げた…


 これには、私も、驚いた…


 文字通り、驚いた…


 なにより、どうして、和子が、ナオキに、頭を下げたのか、わからなかったからだ…


 ナオキは、慌てて、


 「…やめてください…」


 と、声を上げた…


 「…迷惑なんて、かけてませんよ…」


 と、慌てて、否定した…


 「…いえ、かけてます…」


 和子が、きっぱりと、断言した…


 「…どうして、かけてるんですか? 叔母様?…」


 マミさんが、口を出した…


 それに、対して、


 「…忘れた? マミさん?…」


 と、和子が、穏やかに、マミさんに、言う…


 「…忘れた? なにをですか?…」


 「…この藤原さんが、五井北東家の伊豆の別荘に軟禁されていたことを…」


 言われて、見て、思い出した…


 そうだ!


 このナオキは、一時期、伊豆の別荘に幽閉された…


 伊豆の別荘に招かれ、ケータイを、取り上げられ、おまけに、クルマもなく、外に出られない…


 若い女のコが、何人もいて、バーベキューや、釣りをして、楽しく過ごしていたと、言ったが、事実上の幽閉状態…


 監禁されたも、同然だった…


 それを、思い出した…

 そして、私が、それを、思い出していると、和子が、


 「…あの時期、伸明が、団郁馬に対抗すべく、五井グループの情報関連企業を数社、合併させて、それに、藤原さんのFK興産を合流させて、藤原さんを社長に、据える計画だった…それを、察した団郁馬が、藤原さんを、伊豆に監禁した…そうすれば、藤原さんと、相談できない…団郁馬は、それを、狙ったわけね…」


 和子は、言った…


 仰天の事実を言った…


 なぜ、あのとき、ナオキが。伊豆の別荘に幽閉されたか?


 その内幕を暴露した…


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