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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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190/225

寿綾乃という女 第4部 190

 私は、マミさんの顔色が、変わったのは、わかったが、


 「…どうしたんですか?…」


 とは、聞かなかった…


 あえて、聞かなかった…


 それは、なぜか?


 私にそんな余裕がないからだった…


 たった今、めまいが、したばかり…


 お世辞にも、体調が、よくない…


 だから、自分のことで、精一杯…


 他人のことに、どうこう言える状態では、なかった…


 マミさんは、


 「…わかった…行きましょう…」


 と、言ったが、その声は、心なしか、小さかった…


 現に、この後、エレベーターで、最上階の下の階に、向かったが、そこでも、マミさんの表情は、変わらなかった…


 私たち三人は、目的の階に、辿り着いて、エレベーターを降りた…


 その階のフロアは、たしかに、異様だった…


 異様というのは、部屋数が、少ないのだ…


 いや、少なすぎるのだ…


 私も、この病院に入院していたから、わかる…


 いわゆる、部屋の数…


 部屋の出入り口の数が、一目見て、少ない…


 おそらくは、VIP専用…


 VIP専用=特別室なのだろう…


 つまり、一部屋、一部屋を、他の部屋より、大きく取っている…


 それで、他の部屋より、プライバシーを重視している…


 それゆえ、入院費も、他の部屋と違って、目の玉が、飛び出るほど、高いに違いない…


 貧乏人の私は、思った…


 貧乏人の私は、こんなときに、真っ先に、お金の勘定をする…


 …いったい、いくら、するんだろ?…


 と、まずは、お金の話を考える(苦笑)…


 今は、億ションに住み、日々の生活の金など、心配する身分では、まったくないにも、かかわらず、まず、金のことを、考える…


 変わらない…


 お金がある身分になっても、お金がない時代と、変わらない…


 母とふたりきりで、過ごした、貧乏な時代と、まったく、変わらない…


 つくづく、人間は、変わらないと、思った…


 お金が、あっても、お金がない時代と、同じ金銭感覚…


 それが、変わらない…


 歳をとっても、まったく、変わらない…


 これは、自分でも、笑えるが、おそらくは、皆、そう…


 皆、同じだ…


 歴史上の偉人も、皆、同じだ…


 貧乏だったものが、金持ちになっても、根底にある、金銭感覚は、同じ…


 これは、おそらく、一生、変わらない…


 派手にお金を使っても、心の底では、


 …こんなこと、しちゃ、ダメ!…


 という、もう一人の自分が、いる…


 金銭感覚が、貧乏だった頃の自分がいる…


 大抵が、そんなものだ…


 ほぼ、例外は、ないに違いない…


 私は、そんなことを、考えながら、マミさんの後について、病室に向かった…


 伸明のいる、病室に、向かった…


 「…ここよ…藤原さん、寿さん…」


 と、マミさんが、ある病室の前で、立ち止まった…


 私とナオキも、マミさん同様、その病室の前で、立ち止まった…


 それから、マミさんに、従って、病室に入った…


 「…失礼します…」


 と、マミさんが、言い、私とナオキが、その後に、ついて、入った…


 マミさんと同じく、


 「…失礼します…」


 と、言ってから、入った…


 病室は、想像通り、広かった…


 いや、想像した以上に、広かった…


 なにしろ、個室だ…


 ベッドは、一つだけ…


 にも、かかわらず、部屋が、広い…


 異常に、広い…


 そして、部屋の傍らには、来客用の椅子とテーブルが、ある…


 この部屋は、貴賓席…


 VIP席だ…


 だから、入院する人間も、高名だから、来客も、多い…


 本来、多い…


 そのためだろう…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 そして、そんな椅子とテーブルを横目に見ながら、ベッドに近寄った…


 が、


 そこにいたのは、伸明では、なかった…


 和子だった…


 いや、


 昭子だった…


 が、


 どっちだか、わからない…


 ホントは、どっちだか、わからない…


 なにしろ、外見は、瓜二つ…


 双子だから、瓜二つ…そっくりだからだ…


 ベッドに寝ていた和子、いや、昭子は、私たちを見て、ニッコリと、笑った…


 そして、私たちの隣にいた、マミさんに、


 「…ご苦労様…」


 と、告げた…


 が、


 マミさんは、戸惑ったように、


 「…叔母様…」


 と、声をかけた…


 その顔は、今にも、泣きそうだった…


 今にも、涙が、溢れてきそうだった…


 私は、それを、見て、


 「…失礼ですが、昭子さんですか? それとも、和子さんですか?…」


 と、聞いた…


 聞かざるを得なかった…


 「…和子よ、寿さん…」


 あっさりと、和子が、言った…


 「…和子さん?…」


 私が、繰り返す…


 「…入院したのは、私なの…」


 「…えっ? 昭子さんじゃ、なかったんですか? たしか、このマミさんから、そう伺ってましたが…」


 「…それは、私が、マミさんに、頼んだの…」


 「…えっ? ウソ?…」


 「…ホント、五井の女帝が、倒れたとあっては、色々、困るでしょ? だから、対外的には、姉の昭子が、倒れたけれど、姉は、五井を追放された身…だから、私になりすまして、この五井記念病院で、治療を受けていると、言うことにしたの…」


 その言葉を受けて、しばし、考え込んだ…


 以前、昭子と会ったことを、思い出していた…


 以前、私が、軽い脳梗塞で、倒れた後、散歩が、カラダにいいと聞き、市役所の近くまで、散歩して、自宅に帰るつもりだった…


 その日のことを、思い出した…


 別に、目指すのは、市役所でも、なんでも、よかったが、散歩をするには、目的地が、必要だった…


 ただ、ぶらぶらするのは、嫌…


 それゆえ、目的地が、必要だった…


 市役所は、自宅から、行って、戻って来るまで、一時間ぐらい…


 散歩をするには、打ってつけだと、思ったのだ…


 その途中で、昭子にあった…


 伸明の生母の昭子にあった…


 私は、その後、このマミさんから、実は、昭子は、体調を崩して、この五井記念病院に入院していたと、聞いた…


 しかしながら、昭子は、この和子から、五井を追放された身…


 五井一族とは、いえ、五井記念病院に入院することは、できない…


 もちろん、一般人としては、入院しても、構わないかも、しれないが、五井一族の人間としては、できない…


 だから、双子の妹の和子の名前で、入院した…


 そう、マミさんから、聞いて、それを、私は、信じた…


 そして、あの散歩のときに、私に会ったことも、体調が、回復して、病院を抜け出したんだと、思っていた…


 勝手に、思っていた…


 それは、マミさんの説明を信じていたから…


 心の底から、信じていたからに、他ならない…


 まったく、疑わなかったからに、他ならない…


 が、


 冷静に考えれば、おかしい…


 なにが、おかしいか?


 あのとき、会った昭子は、調子が、悪そうには、見えなかった…


 直前まで、入院していたようには、見えなかった…


 後で、聞いたマミさんの説明を疑いなく、信じた私は、体調が、良くなったから、あのとき、病院を抜け出したのだと、勝手に、思っていた…


 が、


 それは、誤りだった…


 まったくの誤りだった…


 だから、気付くべきだった…


 マミさんのウソに気付くべきだった…


 私が、マミさんを見ると、マミさんは、バツの悪そうな顔をしていた…


 実に、嫌そうな顔をしていた…


 そして、


 「…寿さん、ごめんね…」


 と、私に謝った…


 私は、正直、頭に来たが、マミさんを責めることは、なかった…


 マミさんには、マミさんの立場がある…


 マミさんは、間違いなく、この和子に頼まれたのだろう…


 この五井の女帝に頼まれて、私に、そう、言ったのだろう…


 それぐらい、誰にでも、わかる…


 私にも、わかる…


 だから、マミさんを責めるつもりは、なかった…


 まったく、なかった…


 私は、代わりに、和子に、


 「…お加減は、どうですか?…」


 と、聞いた…


 なにしろ、見舞いに来たのだ…


 見舞い相手は、伸明ではなく、和子だったが、見舞いに、来たのは、変わらない…


 ベッドに寝ている見舞い相手が、伸明か、和子かの違いだけだった…


 それゆえ、


 「…お加減は、どうですか?…」


 と、聞くのが、当たり前だった…


 私の言葉を聞いた、和子は、


 「…大丈夫、全然、大丈夫よ…」


 と、あっさりと、言った…


 その言葉通り、和子の調子は、良さそうだった…


 顔色が、良かったのだ…


 だからだろう…


 「…私は、大丈夫だけれども、寿さんこそ、顔色が、悪いけれど、大丈夫?…」


 と、真逆に、和子に、心配された…


 「…随分、顔が青白い…寿さん、色が白いけれど、そこまで、白くはないわ…私が、言うのも、なんだけれども、寿さんこそ、病人みたい…」


 と、続けた…


 私は、その通りかも、思ったが、まさか、


 「…その通りです…」


 と、答えるわけには、いかない…


 だから、私は、黙った…


 なにも、言わなかった…


 その代わりに、傍らのナオキが、


 「…実は、今、ここへ来るときに、綾乃さんが、めまいがして、倒れそうだったんです…」


 と、私の病状を告げた…


 「…寿さんが?…」


 和子が、驚いた…


 「…綾乃さんは、脳梗塞の後遺症というか…薬の副作用と言ってました…」


 ナオキが、私の病状を、性格に、報告する…


 ナオキの言葉に、和子は、私を見た…


 心配そうに、見た…


 「…こんなこと、言うのも、おかしいかも、しれないけれども、奇遇ね…」


 と、私に言った…


 「…奇遇…ですか?…」


 と、私。


 「…私も、寿さん同様、脳梗塞で、この病院に入院したの…」


 和子が、告げた…


 自分の入院した理由を、告げた…


 が、


 それを、聞いた、マミさんが、なぜか、表情をしかめた…


 なぜか、わからないが、表情をしかめた…


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