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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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189/225

寿綾乃という女 第4部 189

 私は、ビックリした…


 文字通り、ビックリした…


 自分で、自分に、ビックリした…


 自分のカラダに、ビックリした…


 まさか、こんなところで、めまいがするとは、思わなかった…


 まさか、病院の玄関近くで、めまいがするとは、思わなかった…


 が、


 同時に、気付いた…


 ここは、病院の玄関…


 五井記念病院の玄関近くだ…


 ここでなら、倒れても、いい…


 ここでなら、倒れても、問題ない…


 そう、気付いた…


 なにより、傍らには、ナオキがいる…


 私のパートナーのナオキが、いる…


 私の身になにかが、起これば、今すぐ、私を抱いて、五井記念病院内に運び込んでくれるだろう…


 そう、思いながらも、頭がふらふらするのが、止まらなかった…


 めまいが、止まらなかった…


 それを、見た、ナオキが、


 「…綾乃さん、大丈夫?…」


 と、声をかけた…


 私は、


 「…大丈夫…大丈夫よ…」


 と、言いながらも、めまいが、止まらなかった…


 めまいが、ずっと、続いていた…


 「…ただ、今、ちょっと、めまいが、するだけ…きっと、もうすぐ、収まるわ…」


 と、言いながら、めまいが、収まるのを、待った…


 立ち止まって、待った…


 時間にして、おそらく、一分も、しないだろう…


 しかし、私にとっては、その一分が長かった…


 無限と呼べるほど、長かった…


 これは、例えれば、地震と同じ…


 やがて、収まると、誰もが、思っていても、地震の最中は、いつ、収まるのかと、気が気で、仕方がない…


 それと、同じだ…


 いつ、収まるのか?


 私は、心配しながら、収まるの、待った…


 ひたすら、待った…


 おそらく、一分近くで、ようやく、収まった…


 めまいが、収まった…


 それゆえ、


 「…収まった…」


 と、私が、告げて、ナオキを見ると、ナオキの心配した顔が、あった…


 めまいが、している最中は、ナオキの顔を見ることも、できなかった…


 そんな余裕は、まるで、なかった…


 自分のことで、精一杯…


 それが、現実だった…


 ウソ偽りのない現実だった…


 そして、そんなことを、考えると、これは、もしかしたら、ナオキも、同じ…


 同じだと、気付いた…


 今、伸明に会うナオキも、同じ…


 私が、めまいをしたのと、同じ…


 同じくらい、重大な岐路に立っている…


 人生の岐路に立っている…


 会社が、売られるか、どうかの人生の岐路に、立っている…


 FK興産は、ナオキが、心血を注いで、作った会社…


 いわば、血と汗と涙が詰まった会社だ…


 藤原ナオキの人生そのものと、言ってもいい…


 それが、今、売られるか、どうか、決まる…


 いや、


 今では、ないかも、しれないが、もうすぐ決まる…


 FK興産の運命が、決まる…


 それゆえ、緊張する…


 緊張するのだ…


 だから、


 「…同じね…」


 と、思わず、呟いた…


 「…同じ? なにが、同じなの? 綾乃さん?…」


 「…私のめまいと同じ…私のカラダと同じ…」


 「…綾乃さんのカラダと同じ?…」


 「…だって、ナオキは、この後、会社の運命が、決まるかもと、思っているでしょ? 私のカラダも、同じ…どうなるか、わからない…」


 私が、言うと、ナオキの顔色が、変わった…


 見る見る、変わった…


 「…綾乃さん、ふざけちゃ、困る!…」


 と、真剣な表情で、怒鳴った…


 「…会社は、売っても、売らなくても、どっちでも、いい…命まで、とられるわけじゃない!…」


 と、怒鳴った…


 「…でも、綾乃さんのカラダは、ひとつ…命には、代えられないよ…」


 ナオキが、言った…


 普段、あまり、私に対して、見せない、怒った顔で、言った…


 私は、その顔を見て、思わず、


 「…ごめんなさい…」


 と、詫びた…


 が、


 ナオキは、それには、答えず、


 「…そんなことより、諏訪野さんの見舞いは、やめて、綾乃さんの症状を、診てもらうのが、先決じゃ…」


 と、言った…


 私は、その考えに、同意した…


 激しく、同意した…


 が、


 たしか、午後は、診察は、やっていない…


 だから、見舞いがある…


 私は、それを、思い出した…


 それゆえ、


 「…残念だけれど、ナオキ、午後は、診察は、やっていないわ…」


 と、告げた…


 「…だったら、綾乃さん、他の病院に…」


 「…ナオキ、なにをバカなことを、言っているの? 病院を、目の前にして、どうして、他の病院に行くの?…」


 私が、言うと、ナオキが、苦笑した…


 「…そりゃ、そうだ…」


 と、言って、苦笑した…


 「…このめまいは、脳梗塞の後遺症…たぶん、飲んでいる、薬のせい…ときどき、なるの…」


 「…ときどき?…だったら…」


 「…お医者様に言っても、仕方がない…なるようにしか、ならない…」


 私が、早口で言うと、ナオキが、感嘆した…


 「…やっぱり、綾乃さんだ…」


 と、言って、感嘆した…


 「…なにが、綾乃さんなの?…」


 「…肝が据わっているというか、ちょっとや、そっとで、動じないというか、へこたれないと、いうか…」


 「…ちょっと、ナオキ、それ、なに?…私を褒めているの? それとも、けなしているの?…」


 「…それは、もちろん、褒めているのさ…」


 「…ホント?…」


 「…ホント…」


 こんな、いつもの漫才のような会話を続けていると、平常運転になった…


 いつもの、私になった…


 いつもの、寿綾乃になった…


 だから、思わず、笑みが、浮かんだ…


 自分の顔に、笑みが、浮かんだ…


 それを見て、ナオキが、


 「…どうしたの? 綾乃さん? どうして、笑っているの?…」


 と、聞いた…


 当たり前だった…


 「…やっと、調子が、戻ってきた…平常運転になった…」


 「…平常運転って?…」


 「…こうやって、ナオキと、いつものように、漫才のような会話を続けること…」


 「…漫才のような会話って?…」


 ナオキが、絶句する…


 私は、そんなナオキの腕を組んで、


 「…さあ、急ぎましょう…」


 と、言った…


 「…伸明さんに、会わなきゃ…」


 言いながら、今さらだが、伸明が、どこの病室に入院しているか、知らなかったことに、気付いた…


 私は、隣のナオキに、


 「…伸明さんの、病室は、どこか、ナオキ、知っている?…」


 と、聞いた…


 ナオキは、あっさりと、


 「…知らない…」


 と、返した…


 私は、思わず、


 「…えっ?…」


 と、言ってしまった…


 またも、うっかり…


 うっかりだ…


 伸明の見舞いに、来たのに、肝心の伸明が、どこの病室に、入院しているのか、知らないなんて…


 うっかりにも、ほどがある…


 まさに、ほどがある…


 ひょっとして、


 …これは、脳梗塞の後遺症かも…


 とも、思った…


 いくらなんでも、うっかり過ぎる…


 あまりにも、うっかり過ぎるからだ…


 だから、思った…


 真剣に、思った…


 そして、そう考えていると、


 「…だったら、マミさんに、聞けばいい…」


 と、ナオキが、言った…


 「…マミさんに?…」


 「…だって、今日、諏訪野さんのお見舞いを、誘ったのは、彼女だろう? いや、それより、ロビーに行けば、マミさんに会えるかも、しれない…彼女が、先に、待っているかも、しれない…」


 「…もし、待っていなかったら?…」


 「…そのときは、ロビーで、椅子にでも、座って、待っていれば、彼女も、すぐに、やって来るだろう…彼女は、時間を厳守する…経営者としての基本を、忠実に守っている…」


 ナオキが、自信たっぷりに、言う…


 自信たっぷりに、マミさんを褒める…


 私は、そういうものかと、思った…


 あらためて、思った…


 たしかに、マミさんなら、約束を破らない…


 約束を守る…


 それゆえ、今、ナオキが、言うように、五井記念病院のロビーで、待っていれば、マミさんに、会えるに違いない…


 きっと、会えるに、違いない…


 現に、この直後に、五井記念病院の玄関に、入って、すぐに、先に来ていた、マミさんが、私とナオキの姿を見つけて、


 「…藤原さん…寿さん…」


 と、言って、小走りで、私たちの元に、走って来た…


 「…藤原さん、お久しぶり…寿さんも…」


 「…ナオキは、ともかく、私は、お久しぶりじゃ、ないですよ…この前も、会ってますし…」


 「…そうだった…寿さんとは、この前、会ったばかりだった…」


 マミさんが、笑う…


 実に、楽しそうに、笑う…


 私は、このマミさんの笑顔に癒される…


 心底、癒される…


 率直に言って、このマミさんと、会うと、ホッとする…


 やはり、疲れているのだろうか?


 心身ともに、疲れているのだろうか?


 なにしろ、今さっき、めまいがして、危うく、この場に倒れそうに、なったぐらいだ…


 この場に、立っていられなくなったぐらいいだ…


 いや、


 疲れているわけではない…


 調子が、悪いだけだ…


 カラダの調子が、悪いだけだ…


 そして、マミさんが、私の顔を見て、


 「…寿さん、どうしたの? 顔が、青白いわ…」


 と、言った…


 それを、聞いたナオキが、


 「…実は、つい今さっき、綾乃さんが、めまいをして、この病院の玄関入り口で、倒れそうになって…」


 と、説明した…


 「…倒れそうって?…」


 マミさんが、絶句する…


 「…そんな…たいしたことじゃないですよ…ただ、めまいがして、立っていられなかっただけで…」


 「…それが、たいしたことなの!…」


 マミさんが、怒鳴った…


 が、


 私も負けじと、


 「…いえ、たいしたことじゃないです!…」


 と、怒鳴り返した…


 小さく、怒鳴り返した…


 「…薬の影響です…脳梗塞を予防する、薬の副作用です…」


 「…薬の副作用?…」


 「…そうです…」


 私は、断言した…


 力強く、断言した…


 事実、その通りだった…


 私のめまいは、薬の影響だった…


 そして、マミさんも、私の説明に、納得した様子だった…


 「…寿さんが、そう言うなら…」


 と、納得した様子だった…


 それゆえ、私は、


 「…さあ、伸明さんのお見舞いに行きましょう…」


 と、言った…


 いつまでも、ここで、私の病状について、語っていても、仕方がないと、思ったのだ…


 が、


 この言葉が、マミさんの顔色を変えた…


 なぜか、変えた…


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