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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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188/225

寿綾乃という女 第4部 188

 私は、驚いたが、それは、傍らのナオキも、同じだった…


 「…ハルカさん?…」


 と、傍らのナオキが、小さく、呟いた…


 もしかしたら、その声が、聞こえたのかも、しれない…


 ハルカが、ナオキを見た…


 驚いて、見た…


 が、


 見るだけで、なにも、できなかった…


 ハルカの両隣には、屈強なカラダ付きをした、男が、二人いた…


 背広を着た、男が、二人いた…


 そして、ハルカをよく見ると、手のあたりが、不自然だった…


 両手のあたりに、布を巻いている…


 それが、すぐに、手錠だと、わかった…


 その布の下に、手錠が、あることが、わかった…


 その手錠を隠すために、服のような布を巻いているのだろう…


 それゆえ、ハルカの両隣の男ふたりは、刑事だろうと、察しが、ついた…


 刑事が、ハルカを連れて、伸明に会いに、来たのだろう…


 もしかしたら、伸明に、裏取りというか…


 容疑者のハルカと、伸明を直接、会わせて、なにかを、聞きたかったのかも、しれない…


 私は、そう、見た…


 私は、そう、考えた…


 そして、そう、考えながら、ふと、ナオキを見ると、ナオキが、実に、感慨深い顔というか…


 なんとも言えない表情で、ハルカを見ているのが、わかった…


 だから、


 「…どうしたの? ナオキ…そんな顔をして?…」


 と、聞いた…


 ナオキが、そんな、感慨深い表情をしているのが、不思議だったからだ…


 ナオキは、ポツリと、


 「…ボクは、彼女と結婚するはずだったんだ…」


 と、漏らした…


 これには、仰天した…


 「…結婚? ナオキが? あのハルカさんと?…」


 「…忘れていた? 綾乃さん、ボクは、あのハルカさんと、テレビで、結婚会見をしただろ?…」


 すっかり、忘れていた…


 たった今、このナオキに、言われるまで、すっかり、忘れていた…


 このナオキは、たしかに、あのハルカと、結婚会見をした…


 それは、あのハルカが、長谷川センセイの妹だから…


 兄の長谷川センセイは、五井西家に、取り込まれている…


 あるいは、五井北東家の団郁馬に、取り込まれている…


 それゆえ、わざと、あのハルカと、ナオキが、結婚会見を行った…


 伸明の頼みで、ナオキは、結婚会見を行った…


 つまり、その真意は、ハルカは、五井本家と繋がっていると、アピールしたかったのだ…


 あるいは、五井西家でも、五井北東家でも、これまでは、繋がっていたかも、しれないが、そうじゃないよと、アピールしたかったのだ…


 そして、今さらながら、考えたときに、どうして、あのハルカは、伸明から、頼まれて、そんなウソの結婚会見を開いたのかと、問われれば、顔なじみだったから…


 それは、以前から、二人が、互いに、知っていたと、言うのが、大きいのではないか?


 今さらながら、気付いた…


 ようやく、気付いた…


 それは、このナオキ同様、すでに、伸明と知り合いでなければ、頼まれても、なかなか、引き受けづらい…


 頼まれても、なかなか、やりますとは、言えない…


 なにしろ、ウソの会見だ…


 ウソの会見を堂々とするのだ…


 頼むほうも、頼まれるほうも、やりづらい(苦笑)…


 だが、これが、知り合いだと、やりやすくなる…


 頼むほうも、頼まれるほうも、やりやすくなる…


 現に、このナオキは、伸明に頼まれたから、引き受けた…


 そういうことだ…


 相変わらず、とろい…


 私は、とろい…


 そう、思った…


 私以外の者なら、きっと、この謎をいとも、簡単に解いた可能性がある…


 名探偵コナンではないが、簡単に解いた可能性がある…


 少し勘の鋭いものなら、簡単に、見破れることだからだ…


 あらためて、思った…


 あのハルカと、このナオキを見ながら、思った…


 思ったのだ…


 そして、これも、今さらだが、このナオキは、どうしたのだろう?


 と、思った…


 どうしたのだろう?  


 というのは、ナオキは、あのハルカと、結婚会見をした…


 その後、ハルカが、伸明を襲ったのだ…


 当然、FK興産の社内の人間のみならず、マスコミからも、問い合わせが、殺到しただろう…


 それを、忘れていた…


 すっかり、忘れていた…


 長年、会社で、ナオキの社長秘書をしていたにも、かかわらず、忘れていた…


 それゆえ、ナオキに、


 「…ナオキ、アナタ、あのハルカさんが、伸明さんを、襲ったことが、ニュースで流れたときに、マスコミから、取材が、殺到したでしょ? いえ、マスコミだけじゃない、社内からも…」


 と、聞くと、ナオキが、渋い顔になった…


 「…それは、殺到したさ…社内も、社外も…」


 「…で、どうしたの?…」


 「…社内には、いち早く、結婚は、白紙になったと声明を出し、社外も同じ…結婚が、白紙になったから、ボクは、関係ないと、強引に押し切ったよ…」


 「…それで、収まったの?…」


 「…収まるわけはないさ…結局、会社から、出て、一刻は、ホテルに身を隠したよ…」


 ナオキが、言った…


 私は、それを、聞いて、納得した…


 さもありなんと、納得した…


 たしかに、結婚は、白紙になったと、言うのは、うまい弁明だ…


 最初から、偽の結婚会見だが、それを、知っているのは、ごく少数の人間だけ…


 世間では、皆、本当だと、思っている…


 しかしながら、ハルカが、このような事件を起こせば、結婚が、白紙になっても、おかしくはない…


 むしろ、当たり前のこと…


 当たり前のことだ…


 むしろ、怪我の功名というか…


 ナオキにとっては、チャンス…


 この上ない、チャンスだったに違いない…


 ホントは、おそらく世間が忘れた頃に、結婚が白紙になったと、世間に公表するつもりだったに違いない…


 が、


 ハルカが、事件を起こしたことで、簡単に、結婚を白紙にする口実ができた…


 だから、怪我の功名…


 功名なのだ…


 そして、そう思いながら、考えたのは、実際に、怪我をした伸明…


 伸明の怪我の具合は、どうなのかと、考えた…


 今、あのハルカと、会ったぐらいだ…


 きっと、あのハルカは、伸明と会ったに違いない…


 ということは、どうだ?


 案外、伸明は、たいした怪我をしていないのでは、ないか?


 そう、思った…


 仮に、重症ならば、ハルカに会えるわけはないからだ…


 だから、そう、思った…


 そう、考えた…

 

 そして、そう、考えて、ナオキを見た…


 あらためて、見た…


 ナオキは、渋い顔をしていた…


 実に、渋い顔をしていた…


 …どうして、そんな顔をしているの?…


 と、思わず、聞きたくなる、渋い顔だった…


 それゆえ、


 「…ナオキ、なんていう顔をしているの?…」


 と、聞いた…


 …なんて、渋い顔をしているの?…


 と、聞くより、よっぽど、いいと、思ったからだ…


 親しき中にも礼儀あり…


 やはり、思っていても、なかなか、ストレートに、聞くのは、難しい…


 いくら、親しくても、相手が、嫌がる可能性が、高いからだ…


 それゆえ、わざと言った…


 わざと、遠回しに、言った…


 が、


 その答えは、意外なものだった…


 今、私の隣にいる、FK興産社長の藤原ナオキの答えは、意外なものだった…


 「…それは、そうだよ…」


 と、ナオキは、言ってから、


 「…ボクの運命は、これから、決まるんだから…」


 と、言った…


 思っても、みないことを、言った…


 それゆえ、


 「…どういうこと?…」


 と、聞いた…


 聞かざるを得なかった…


 「…どうして、ナオキの運命が?…」


 「…だって、諏訪野さんは、五井の当主だろ? 五井グループの持ち株会社、五井ホールディングスの社長だろ?…」


 「…それは、そうでしょうけど…」


 「…FK興産が、完全に、五井の傘下に入るか、否かは、諏訪野さんが、決める…五井の当主が、決める…」


 思っても、みないことを、言った…


 考えてみれば、当たり前のことを、言った…


 それゆえ、覚悟が、違う…


 私とは、覚悟が、違う…


 たかだか、伸明の見舞いに、行くにも、覚悟が違う…


 私は、思った…


 あらためて、思った…


 そして、そんなことは、思いもしなかった私は、相変わらず、とろい…


 実に、とろい…


 そう、思った…


 そう、思ったのだ…


 そして、そんな私を見て、ナオキが、


 「…どうしたの? 綾乃さん?…」


 と、聞いた…


 私を心配して、聞いてきた…


 が、


 さすがに、答えるわけには、いかない…


 ホントのことを、答えるわけには、いかない…


 ナオキが、心配するからだ…


 ナオキが、私を心配する可能性が、高いからだ…


 …綾乃さん、そんなことも、わからなかったの?…


 と、心配する可能性が、高いからだ…


 だから、


 「…なんでもない…なんでもないわ…」


 と、言った…


 なんでもない、を、二回、繰り返した…


 ナオキは、私の顔を見て、


 「…綾乃さん、なんでもない顔をしていないよ…」


 と、言ってきた…


 私は、


 …ウソ!…


 と、思った…


 そんな私の考えが、顔に出るものだろうか?


 私は、考えた…


 それゆえ、


 「…ナオキ、私の顔がどうかしたの?…」


 と、聞いた…


 ナオキは、すぐに、


 「…青白い、顔色が、悪い…」


 と、返した…


 その瞬間だった…


 私の頭が、急に、ふらふらした…


 その場に、立って、いられないくらい、ふらふらした…


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