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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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187/225

寿綾乃という女 第4部 187

 「…どうしたの? 綾乃さん、驚かないの?…」


 ナオキが、聞く…


 「…驚かないわ…」


 「…どうして、驚かないの?…」


 「…今日、昼間、マミさんから、電話があったの…」


 「…マミさんから、電話?…」


 「…そう、そして、今、ナオキが、言ったことと、同じことを、言った…」


 「…マミさんが?…」


 「…要するに、最初にナオキに連絡をとって、ナオキの都合を聞いてから、私に、電話してきた…」


 私が、言い終わると、ビックリした顔をしたが、すぐに、


 「…なるほどね…」


 と、言って、笑った…


 「…なにが、なるほどなの?…」


 「…マミさんのこと…やることが、すばやい…やることが、はしっこい…」


 「…はしっこい?…」


 「…知っている? 綾乃さん?…」


 「…なにを、知っているの?…」


 「…マミさんは、小柄だろ?…」


 「…それが、どうかしたの?…」


 「…小柄な女性は、動きが、すばしっこい…カラダが、軽いからね…会社でも、若くて、小柄な女性は、用事を言いつけられれば、席から立ち上がって、飛び跳ねるように、動く…マミさんが、小柄だから、行動も、思考も、すばしっこい…」


 「…だったら、大柄な女性は?…」


 「…滅多に、走らない…カラダが、重いからだろう…まあ、大柄な女性が、走れば、ヒールを含めれば、180㎝にもなるひとも、多い…それが、全力で、会社の中を走られたら、見ものと言うか、壮観だ…」


 ナオキが、笑う…


 「…さすが、女好き…よく、女を見ているわ…」


 私が、褒めると、ナオキが、苦笑した…


 「…まあ、たしかに、マミさんは、芸能人で、言えば、AKBの高橋みなみさんに、似ている…小柄で、頭の回転もよく、仕事も早い…」


 私が、言うと、ナオキが、頷いた…


 「…まさに、綾乃さんの言う通り…」


 と、頷いた…


 そして、そんなおしゃべりを続けていると、まだ、ナオキが、会社から、帰ってきたばかりだということに、今さらながら、気付いた…


 ナオキは、私と同じく、会社から、帰ると、まずは、お風呂に入って、それから、晩酌をするのが、いつものルーティン…


 それを、すっかり、忘れていた…


 だから、


 「…ごめんなさい、ナオキ…つい、長話に夢中になって…お風呂に入る用意をするわ…」


 と、謝った…


 が、


 ナオキは、それを、全然、気にした様子は、なかった…


 「…綾乃さん、一刻も早く、知りたいことだよ…なにも、風呂から出てから、知らされるよりも、よっぽどいい…」


 ナオキが、助け舟を出す…


 ホントか、どうかは、わからない…


 本心か、どうかは、わからない…


 ただ、私に寄り添った言葉を出す…


 私は、それが、嬉しくもあり、じれったくもあった…


 それは、なぜか?


 それが、ナオキの本心か、どうかは、わからないからだ…


 このナオキとは、何度も言うが、十五年の付き合い…


 知り合って、十五年経つ…


 が、

 

 ナオキのことが。すべて、わかっているかと、言われれば、そんなことはない…


 やはり、わからないこともある…


 当たり前だ…


 だから、今の会話だって、本心かどうかは、わからない…


 私の言葉を優先してくれるのは、嬉しいが、本心が、わからない…


 ホントは、なんと、考えていたのか、わからない…


 まあ、これは、家族だって同じ…


 血の通った家族だって、同じく、自分以外の人間が、なにを考えているのかは、正確には、わからない…


 ただ、アイツだったら、こんなとき、こういうだろう…


 とか、思うだけだ…


 ホントのところは、わからない…


 ただ、推測するだけだからだ…

 


 そして、あっという間に、週末になった…


 待望の週末になった…


 待ちかねた週末になった…


 私とナオキは、ナオキの運転するクルマに乗り、五井記念病院に向かった…


 ナオキの運転するBMWに乗って、五井記念病院に向かった…


 その車内で、考えた…


 ナオキの運転するBMWに乗りながら、考えた…


 ずっと、以前も、こんなことが、あったと、考えた…


 ナオキといっしょに、ナオキの運転するBMWで、五井に、向かう…


 病院ではない、五井に向かう…


 五井の関連施設に、向かう…


 アレは、いつだったろうか?


 考えた…


 アレは、昨年のことだった…


 五井の迎賓館に、向かったのだ…


 このナオキといっしょに、向かったのだ…


 そして、あのときは、建造が、私たちを、出迎えた…


 五井の前当主の建造が、私とナオキを出向かえた…


 それを、思い出した…


 あのとき、建造は、私たちに優しかった…


 驚くほど、優しかった…


 ナオキではなく、私に優しかった…


 そして、当時は、なぜ、建造が、私に優しかったのか、わからなかった…


 が、


 後で、わかった…


 私が、叔母とそっくりだからと、気付いた…


 叔母は、私そっくりの美人…


 外見は、私と瓜二つだった…


 私の外見は、母ではなく、叔母に似ていた…


 それゆえ、建造は、気付いたのだろう…


 私が、叔母の娘ではなくとも、叔母の血縁者だと、気付いたのだろう…


 叔母は、若き日の建造が、愛した女性だった…


 建造と建造の弟の義春が、愛した女性だった…


 憧れた女性だった…


 それゆえ、私を可愛がった…


 私を優遇した…


 そのときは、わからなかった…


 なぜ、建造が、私を可愛がるのか、わからなかった…


 まるで、娘のように、扱うのか、わからなかった…


 そして、それは、建造の死後に、わかった…


 なにより、謎だったのが、私が、カワイイタイプの女ではないことだった…


 男が、かわいがったり、面倒をみたくなる女は、基本、可愛い系…


 決して、美人系ではない…


 美人は、恋人や奥さんにするには、憧れるが、可愛いはない…


 それは、可愛くないからだ…


 むしろ、下心…


 私と建造は、父子ほど、歳が、違うが、下心が、建造にあったのなら、納得できた…


 私を可愛がる理由が、納得できた…


 しかしながら、建造には。下心がなかった…


 私に対する下心がなかった…


 それは、当事者である、私自身が、誰よりも、わかっていることだ…


 自分自身が、下心=性的な対象として、見られているか、否かは、誰しも、簡単に、わかるものだからだ…


 建造には、誰が、見ても、下心がなかった…


 私に対する下心がなかった…


 ただ、まるで、娘のように、私を扱った…


 まるで、溺愛する、自分の娘のように、扱った…


 そして、そのときに言ったのが、


 「…秀樹には、気をつけろ!…」


 と、いうものだった…


 自分の血が繋がった、実の息子の秀樹には、気をつけろと、言うものだった…


 私は、ただ、それを、聞いていた…


 当時は、ただ、無言で、聞いていた…


 建造は、


 「…秀樹は、野心家で、ずる賢い…秀樹には、五井の当主は、務まらない…」


 とも、言った…


 本気で言った…


 建造は、伸明に、五井の当主の座を譲りたかった…


 自分の血が繋がった秀樹ではなく、血の繋がらない伸明に譲りたかった…


 それが、建造の偽らざる本音だった…


 私は、それをあらためて、思い出したのは、伸明が、以前、私に漏らしたこと…


 伸明が、五井の当主になり、当主の重責に苦しんだときに、


 「…こんなに、大変だったのなら、もしかしたら、父の建造は、自分と血が繋がった秀樹には、こんな辛い思いは、させたくなかった…だから、後継者に、ボクを選んだのでは、ないか?…」


 と、言ったことだ…


 つまりは、伸明が、誤解した…


 建造の真意を誤解した…


 建造が、伸明を後継者に指名したのは、秀樹に五井の当主の重責を担わせたくないのでは、なかったのでは、ないか?…


 そう、誤解した…


 ホントは、建造は、ただ、純粋に、秀樹では、当主は、務まらないと、見ていただけだ…


 しかしながら、いざ、当主となって、当主の重責に苦しんだ、伸明は、誤解した…


 建造の意図を誤解した…


 そして、もし、誤解したままの伸明の行動

が、今回の件に、なんらかのかかわりが、あったとしたら?


 私は、そこまで、考えて、震撼した…


 あるいは、恐れた…


 なにが、あったのか、恐れた…


 

 まもなく、病院に着いた…


 五井記念病院に着いた…


 正直、懐かしい…


 昨年は、この病院に入院していた…


 ジュン君の運転するクルマにはねられて、入院していた…


 しかしながら、それからも、何度も、お世話になった…


 昨今では、軽い脳梗塞で、この五井記念病院に運ばれたし、あの和子の見舞いにも、訪れた…


 和子と面会は、できなかったが、訪れた…


 結局、入院していたのは、和子ではなく、姉の昭子だったが、私が、お見舞いに、やって来たことに、変わりはない…


 だが、懐かしくは、なかった…


 今、感じたように、懐かしくは、なかった…


 この差は、どうしてだろう?


 考えた…


 それは、今、傍らに、ナオキが、いるからだと、気付いた…


 私が、脳梗塞で、運ばれたときや、和子の見舞いに、訪れたときは、当然のことながら、私一人だった…


 だから、懐かしさよりも、義務感というか…


 この病院に、行かなければ、ならないという気持ちが強かった…


 それは、考えてみれば、余裕…


 余裕が、なかったのかも、しれない…


 しかし、今は、余裕がある…


 ナオキといることで、余裕がある…


 そういうことかも、しれない…


 やはり、一人より、二人…


 二人で、いることで、心強くなったのかも、しれない…


 私は、駐車場で、クルマから、降り、ナオキといっしょに、五井記念病院の建物に、向かって、歩きながら、そう、考えた…


 そう、思った…


 そして、そう、思いながら、建物の入り口に、向かって歩いているときに、ふと、見覚えのある、顔に、出会った…


 ありえない顔に出会った…


 ありえないと、言うのは、今、ここで会うことのない、顔だったからだ…


 すでに、警察に、連れていかれたはずの人物の顔だったからだ…


 その顔は、ハルカ…


 長谷川ハルカ…


 伸明を刺した、女だった…


 今、見舞いに行く、諏訪野伸明を刺した、女だった…


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