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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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186/225

寿綾乃という女 第4部 186

 そして、そんなことを、考えながらも、電話は、続いていた…


 「…どう? 寿さん…それでいい?…」


 と、マミさんが、電話の向こう側から、言って来た…


 私は、すぐに、


 「…私は、それでも、いいですが、ナオキは、ちょっと…ナオキの予定は、わかりません…」


 と、答えた…


 正直に、答えた…


 これは、FK興産で、ナオキの秘書だったから…


 その経験で、つい、ナオキの週末の予定も、すべて、知っている…


 まあ、これは、私が、事実上の、ナオキのパートナーだったことも、大きい…


 会社では、社長秘書…


 家では、パートナー…


 だったのが、大きい…


 つまり、公私にわたって、ナオキの行動を監視していたとも、言える(笑)…


 だから、おそらく、ナオキは、それが、嫌で、私とジュン君が、住む家から、出て行った…


 私に私生活を束縛されるのが、嫌で、出て行った…


 その側面もあるだろう…


 私やジュン君が済む、このマンションから、出て、一人で、住んだのは、なにも、自宅に、女を呼ぶためだけではない…


 私の束縛から、抜け出したかったのだろう…


 今さらながら、気付いた…


 今さらながら、思った…


 そして、そう、考えていると、


 「…藤原さんの予定は、すでに、聞いたから…」


 と、マミさんが、あっさり、言った…


 「…えっ? 聞いた?…」


 「…今、寿さんに、電話をする前に、藤原さんにも、同じ電話をしたの…それで、OKを、もらったわ…」


 その言葉を聞いて、唖然としたが、同時に、マミさんらしいと、思った…


 無駄がないというか…


 やることが、早い(苦笑)…


 普通なら、私が、ナオキに週末の予定を聞いて、それから、マミさんに、電話する…


 行けるか、行けないか、電話する…


 が、


 その必要がない…


 あらかじめ、手を打っている…


 あらためて、思った…


 あらためて、考えた…


 「…じゃ、寿さん、そういうことで…週末の五井記念病院で、会いましょう…そうそう、どこの病院も、そうだけれど、面会は、午後の一時から…まあ、寿さんは、五井記念病院に入院していたから、今さら、言うことでもないか?…」


 そう、言いながら、マミさんは、電話を切った…


 呆気なく、電話を切った…


 こちらが、拍子抜けするほど、呆気なく、電話を切った…


 が、


 これが、マミさん…


 マミさんだった…


 まるで、つむじ風のように、突然、やって来て、呆気なく去る…


 が、


 全然、嫌ではない…


 むしろ、好き…


 好感が持てる…


 それは、なぜか?


 それは、ただ単に、私と気が合うからだろう…


 それに尽きる…


 なにを、どうしようと、嫌なひとは嫌…


 それと、同じだ…


 そして、思いながら、考えたのは、私の能力…


 私の能力が、衰えているのでは?


 と、気付いた…


 矢代綾子の名を捨て、寿綾乃として、生きてきた…


 その反動で、私の半生は、いつも、どこか、緊張感があった…


 もしや、バレるのではと、思う気持ちが、どこかにあり、安心できなかった…


 それゆえ、ハリネズミのように、いつも、ハリを出して、緊張して、過ごした…


 言葉を変えれば、怯えて、生きた…


 はた目からは、わからないだろうが、私の心の中では、いつも、そうだった…


 それが、周囲に、私が、ホントは、矢代綾子という女であることが、バレ、おまけに、病気になった…


 それゆえ、以前のように、ハリを出して生きて、ゆけなくなった…


 常に、緊張して、生きてゆけなくなった…


 あるいは、常に、緊張して、生きてゆく必要が、なくなった…


 だからだろうか?


 能力が、衰えた…


 警戒心がなくなったゆえに、能力が、衰えた…


 それゆえ、まだ、一皮も二皮も謎があるかもしれない謎が解けない…


 きっと依然の私なら、解けたはずだ…


 謎が、解けたはずだ…


 私は、そう、思った…


 私は、強く、そう、思った…



 夜になって、会社から、ナオキが、帰って来た…


 「…おかえりなさい…ナオキ…」


 「…綾乃さん、ただいま…」


 まるで、新婚の夫婦のように、ナオキを迎える…


 恥ずかしくもなく、迎える…


 そして、ナオキを迎えながら、実は、新鮮…


 新鮮だった…


 なぜなら、私とナオキの間には、いつも、ジュン君がいた…


 ユリコの産んだジュン君がいた…


 そのユリコが、突然、失踪して、私は、当時、ユリコの後釜として、ナオキの家庭に入った…


 まだ、幼いジュン君の面倒を見るために、家庭に入った…


 一介の女子高生に過ぎない私が、入った…


 だから、ままごと…


 大げさに、言えば、ままごとに近い家庭だったのかも、しれない…


 だって、そうだろう…


 ナオキは、すでに、大学を卒業して、何年も経つが、ジュン君は、3歳ぐらいで、その中に、高校生の私が、ジュン君の母親としても、家庭に入る…


 これが、ままごとでなくて、なんだろうか?


 今、考えれば、自分でも、自分に笑ってしまう…


 当時の自分に笑ってしまう…


 が、


 ここで、言いたいのは、そういうことではない…


 私とナオキの間には、いつも、ジュン君が、いたということだ…


 いつも、三人だったことだ…


 そして、当時、ジュン君が、ひとりで、自立できる年齢になった中学生の時期に、ナオキは、家を出た…


 すでに、成功したナオキは、家庭に、留まるのが、嫌だったのだろう…


 もっと、女遊びが、したかったのだろう(笑)…


 家にいては、気軽に、女を呼べない…


 それが、ナオキが、家を出た理由だった…


 そして、残された私とジュン君は、このマンションで、いっしょに、暮らした…


 つまりは、二人きりだったことはない…


 私とナオキが、二人きりで、暮らしたことはない…


 それを、言いたかったのだ…


 ナオキが、今、私と暮らしているのは、ナオキの温情…


 病に倒れた私の身を心配して、いっしょに、いてくれている…


 いっしょに暮してくれている…


 だから、新鮮…


 新鮮だった…


 四十を過ぎた男と、三十を過ぎた女が、いまさら、いっしょに住んだに、過ぎないが、それでも、新鮮だった…


 考えて、みれば、新婚生活…


 傍から見れば、理想の新婚生活を過ごしているように、見える…


 億ションに住み、功なり、名を成した、オーナー社長と、その秘書だった女…


 二人とも、ルックスがいい…


 自分で、言うのも、おかしいが、いい…


 それゆえ、理想の新婚生活…


 おそらくは、ナオキと出会って、十五年だから、十五年遅れの、新婚生活を送っていると、考えた…


 そう、考えれば、新鮮…


 遅ればせながら、新鮮だった…


 そして、そんな思いが、私の表情に、出たのだろう…


 「…なにを、笑っているの、綾乃さん?…」


 と、ナオキが、声をかけてきた…


 「…随分、楽しそうだけれど…」


 私は、それを、聞いて、間髪入れずに、


 「…そう、見える?…」


 と、ナオキに、聞き直した…


 「…うん、見える…」


 「…だったら、その通り…私、今、楽しいのよ…」


 「…えっ? 楽しい? どうして、楽しいの?…」


 「…だって、今、ナオキと私、二人きりでしょ? ジュン君もいない…まるで、遅い新婚生活を、送っているみたいで…」


 私が、告白すると、ナオキは、呆れ果てたようだ…


 それから、笑った…


 実に、楽しそうに、笑った…


 「…ポジティブ…実に、ポジティブだ…」


 と、言って、笑った…


 私は、その言葉に、


 「…そういうナオキだって、同じよ…」


 と、返した…


 「…同じ? なにが、同じなの?…」


 「…ナオキ、アナタも、私と同じ楽天家…」


 「…ボクが楽天家? どうして、楽天家なの?…」


 「…だって、楽天家じゃなければ、会社を創業しないでしょ? 普通に会社員だったり、公務員だったり、どこかに、勤めるでしょ?

 成功するか、どうか、わからないことに、人生をかけられないでしょ?…」


 私が、言うと、ナオキが、苦笑した…


 「…そりゃ、そうだ…」


 と、言って、苦笑した…


 「…でも、それは、若かったからだよ…今は、もう…」


 「…もう…なに?…」


 「…オジサンだ…夢も希望もないオジサンだ…」


 「…だったら、ナオキ…これから、ベッドに行って、まだまだ、オジサンじゃないことを、証明して、見せる?…」


 私が、言うと、ナオキが、


 「…ぷっ!…」


 と、吹き出した…


 「…正気? 綾乃さん?…」


 と、笑いながら、言って、吹き出した…


 「…正気よ…これから、ベッドの上で、子作りする?…」


 言いながら、自分でも、吹き出しそうになった(爆笑)…


 自分でも、自分の言葉に、吹き出しそうになった…


 が、


 今さら、引けない…


 一度発した言葉は、引けなかった…


 綸言汗のごとしだ(苦笑)…


 私は、偉くも、なんともなかったが、美人だから、引けなかった…


 今さら、引けなかった…


 そして、ナオキは、あっさりと、私の誘いを断った…


 「…子作りより、諏訪野さんの話をしよう…」


 と、断った…


 ナオキが、本題に入った…


 いきなり、本題に入った…


 私が、わざと、話をそらそうとした、本題に入った…


 「…今日、マミさんから、電話があった…」


 と、本題に入った…


 「…今度の週末、諏訪野さんの、見舞いに行こう…」


 ナオキが、言った…


 いずれ、話すことになることについて、言った…


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