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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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184/225

寿綾乃という女 第4部 184

 まして、伸明は、子供の頃から、五井北東家の団郁馬を知っていると、たしか、マミさんが、言っていた…


 つまりは、顔なじみ…


 幼い頃からの顔なじみだ…


 ひらたく、言えば、子供の頃から、知っている、親戚のオジサンだ…


 そのオジサンを、伸明が、切ろうとした…


 おおげさでなく、五井家から、追放しようとした…


 これは、ショック…


 二人の関係を知っているものから、すれば、大きなショックだろう…


 伸明の立場から、すれば、子供の頃から、知っている、親戚のオジサンを、事実上、リストラしようとするのと、同じ…


 それを知った一族のものたちは、ショックを受けるだろう…


 二人は、親しい関係と、周囲の人間は、見ているからだ…


 そのオジサンを、五井家から、追放しようとした伸明は、まさに、血も涙もない人間なのだが、当主としては、合格…


 冷徹な当主と、見ることができる…


 団郁馬は、五井の秩序を乱そうとした、極悪人…


 それを、成敗したからだ…


 五井家内部で、伸明の評価は、上がったに、違いない…


 と、ここまで、考えて、気付いた…


 いや、


 思い出した…


 たしか、あの昭子は、団郁馬と、仲がいいと、マミさんは、言っていた…


 昭子は、奔放というレッテルを、貼られている…


 五井家内部で、貼られている…


 そして、それは、団郁馬も、同じ…


 同じだ…


 五井家内部で、変わり者と、言われていると、言っていた…


 それゆえか、二人は、仲がいい…


 気が合うのかも、しれない…


 お互い、既存の枠にとらわれないから、気が合うのかも、しれない…


 変人同士だから、気が合うのかも、しれない(苦笑)…


 いや、


 もしかしたら、それならば、今回の件…


 もしかしたら、昭子が、動いた…


 なんらかの形で、動いた…


 そう、気付いた…


 遅ればせながら、気付いた…


 そして、そんな妄想が、次から、次へと、浮かんだ…


 考えたくもないのに、浮かんだ…


 ホントは、もう寝たいのに、次から次へと、浮かんで、考えたくもないのに、考え込んだ…


 そして、いつのまにか、寝入った…


 すやすやと、寝入った…


 

 翌朝は、不調…


 不調だった…


 いつのまにか、寝入ったが、寝不足…


 いつまで、寝なかったのか、わからない…


 いつ、寝入ったのか、さっぱりわからない…


 それは、ナオキも、同様だった…


 明らかに、寝ぼけまなこで、起きて来た…


 昨夜、よく寝ていないのは、明らかだった…


 誰の目にも、明らかだった…


 私は、ナオキを一目見て、


 「…昨夜、寝れなかったようね…」


 と、突っ込んだが、それは、ナオキも、同じ…


 「…綾乃さんこそ、寝れなかったんでしょ?…」


 と、真逆に言い返された…


 私は、当然のことながら、ナオキより、早く起きて、朝食の準備をしている…

 

 すでに、顔も、洗った…


 が、


 その程度では、寝ぼけまなこの顔は、隠せない…


 顔を洗った程度では、隠せるわけは、なかった…


 「…まあ、昨夜は、色々あったから…」


 私は、曖昧に、話して、それ以上は、言わなかった…


 このナオキにしてみれば、FK興産の株をすべて、五井に売り、創業社長の身から、雇われ社長の身になる…


 それが、ショック…


 大きなショックだったに違いない…


 だから、飲んだ…


 先に、私が、寝室に消えても、一人で、飲んだ…


 一人で、酒を飲んで、酔っ払った…


 それが、顔に出ていた…


 昨夜の深酒が、顔に出ていた…


 それゆえ、


 「…ナオキ…アナタも、早く、顔を洗ったら? 顔が、むくんでいるわよ…せっかくのイケメンが、台無しよ…」


 と、笑いながら、言った…


 すると、


 「…美人の綾乃さんに、ボク程度の男が、イケメンと呼ばれるのは、皮肉だよ…」


 と、こちらも、笑った…


 笑いながら、顔を洗うために、私の前から、消えた…


 そして、しばらくして、さっぱりした顔で、私の前に、戻ってきた…


 私は、それを見て、


 「…ナオキ…水でも、飲む?…」


 と、聞いた…


 「…ああ、お願いするよ…」


 と、ナオキが、答えたから、私は、冷蔵庫から、冷えたペットボトルを取り出した…


 そして、ペットボトルの中に入った水を、グラスに注いだ…


 それを、ナオキに、渡した…


 ナオキは、受け取って、すぐに、一気に、グラスの中の水を、飲み干した…


 それを、見た、私は、


 「…もう一杯飲む?…」


 と、聞いた…


 「…頼むよ…」


 と、ナオキが、答える…


 私は、空になったグラスに、再び、冷えたペットボトルの水をグラス一杯に、注いだ…


 ナオキは、グラスを掴むと、再び、一気に飲み干した…


 私は、それを、見て、


 「…もう、一杯、飲む?…」


 と、笑いながら、聞いた…


 「…いや、もう、いいよ…」


 ナオキが、苦笑する…


 「…冷たくて、美味い…二日酔いには、最適だ…」


 「…でしょ?…」


 私は、ナオキに、相槌を打った…


 「…ちなみに、どこの銘柄?…」


 「…銘柄? そんなものは、ないわ…」


 「…ない? どういうこと?…」


 「…前に買った、オレンジジュースが入ったペットボトルが、空になったから、代わりに、水道の水を入れて、冷蔵庫で、冷やしているだけ…」


 私が、言うと、ナオキが、苦笑した…


 それから、


 「…さすが、綾乃さんだ…こんな、億ションに住むような贅沢な暮らしが、できるように、なっても、昔と、変わらない…生活は、質素…質素のまま…」


 「…ナオキ、それって、私を褒めてるの? 

それとも、けなしてるの?…」


 「…もちろん、褒めているのさ…」


 ナオキが、笑った…


 「…お金があるからって、生活レベルをあげれば、下げるのが、大変だから…」


 「…よく、知っているわね?…」


 「…以前、ITバブルで、一時的に成功した、昔の知り合いが、会社に訪ねてきたことが、あったんだ…そのときに、そいつが、言って…」


 「…そんなことが、あったの? 知らなかった…私が、会社で、社長秘書をしていたのに…」


 「…実は、綾乃さんに、内緒で、会ったんだ…」


 「…どうして、私に内緒で、会ったの?…」


 「…言葉は、悪いけれど、そいつは、落ちぶれてね…」


 「…落ちぶれた? どうして、落ちぶれたの?…」


 「…会社が、倒産して、落ちぶれた…」


 「…で、どうして、会社で、会ったわけ? 相手が、お金でも、借りに、来たの?…」


 「…いや、新しく、立ち上げる会社の事業計画を、ボクに、見せて、融資を頼んだんだ…だから、会社で会うのが、いいと思って…」


 「…で、どうしたの?…」


 「…話を聞いただけ…」


 「…えっ? 聞いただけ?…どうして?…」


 「…会社の事業内容が、浅かったし、成功するとは、思えなかった…それに…」


 「…それに、なに?…」


 「…疑いたくはないけれど、ボクから、金だけ、引き出して、実際は、会社を作らない可能性も、考えて…」


 「…それって、詐欺ってこと?…」


 「…疑いたくはないけれど、その可能性を、捨てきれなかった…」


 「…でも、ナオキ…会ったということは、当然、そのひとの人柄は、知っていたでしょ?…」


 「…それは、当然、知っているさ…」


 「…だったら、どうして、そんなことを?…」


 「…貧すれば鈍する…人間、誰しも、追い込まれれば、性格も、変わるよ…」


 「…」


 「…結局、そのときを最後に、そいつとは、会っていないし、現在、なにをしているのかも、わからない…」


 「…だったら、なぜ、私に内緒で、会社で、会ったの?…」


 「…会えば、綾乃さんが、反対すると、思ったんだ…」


 「…どうして、私が、反対するの?…」


 「…落ちぶれた人間に、今さら会っても、仕方ないと、言われると、思って…」


 「…」


 「…まあ、綾乃さんは、わからないけれど、女の人は、男より、シビアというか、現実家が、多いから…」


 「…どういう意味?…」


 「…そんなひと、今さら会っても、仕方がないでしょ? 下手をすれば、金を、無心されるだけよ、とかね…」


 「…」


 「…まあ、そんなことは、なくて、まったくの杞憂だったけれども、そう言われるのは、わかるし、ボクも、それを、否定しない…」


 「…だったら、どうして、会ったの?…」


 「…仲間だったからさ…」


 「…仲間?…」


 「…会社を作った頃の仲間…」


 「…もしかして、創業メンバーのひと?…」


 「…いや、違う…仲間といっても、同じ頃に、会社を立ち上げた仲間…いわゆる、起業家仲間…」


 「…起業家仲間?…」


 「…あの頃は、会社を興す人間が、多かった…でも、大半は、失敗して、消えた…残った、大物は、ソフトバンクの孫だったり、楽天の三木谷だったり、ごく一部だけ…まあ、ボクも、傍から、見れば、成功者の端くれかも、しれないけれども、孫や三木谷から、比べれば、比較にも、ならない…」


 ナオキが、苦笑した…


 「…でも、まあ、成功者の端くれになれたのは、嬉しかったけれど…」


 ナオキが、まとめた…


 今の話をまとめた…


 私は、その話を聞きながら、つくづく、運…


 運に恵まれたと、思った…


 運に、恵まれて、成功したと、思った…


 このナオキの会った、元の起業家仲間…


 ナオキが、わざわざ、会うほどの人間だから、真面目で、頭が、良かったに違いない…


 それでも、成功しない…


 失敗した…


 それゆえ、成功したナオキと、そのひとの差は、なに?


 一体、なに?


 考えれば、運ぐらいのものだろう…


 頭が良くても、成功しない…


 もちろん、最初は、成功しただろう…


 小さな成功は、しただろう…


 だが、おそらく、最初だけ…


 最初の数年だけで、後は、失敗する…


 それが、普通だからだ…


 そして、私は、たまたま、その成功したナオキの傍にいた…


 事実上の妻として、傍にいた…


 それも、運…


 ただ、運が、良かったに、過ぎない…


 つくづく、思った…


 私の運の強さを思った…


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