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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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180/225

寿綾乃という女 第4部 180

たしかに、そう、考えれば、納得する…


そう、考えて、伸明の立場に、立てば、納得する…


納得するのだ…


自分は、形だけ…


形だけの当主…


それゆえ、落ち込む…


落ち込むに、違いないからだ…


と、私が、考えていると、ナオキが、


「…でも、綾乃さん…」


と、いきなり、言った…


「…なに? ナオキ?…」


「…諏訪野さんが、落ち込んでいるのは、それだけではないよ…」


「…えっ? どういう意味?…」


「…昭子さん、諏訪野さんの産みの母親…」


「…昭子さんが、どうかしたの?…」


「…昭子さんは、和子さんの名前で、五井記念病院に、入院したけれども、手術が、終わって、たびたび病院を抜け出したことが、あったらしい…」


「…病院を抜け出した? ウソ?…」


「…ホント…」


「…どうして、抜け出したって、わかるの?…」


「…昭子さんの行動は、事前に、マークされている…」


「…えっ? マークされている?…」


「…ひとを雇って、昭子さんが、病院を抜け出しても、構わないように、準備していたってこと…」


「…ウソ?…」


そう、言いながら、それは、ウソではない…


ホントのことだろうと、自分自身に突っ込んだ…


なにしろ、あの昭子は、奔放…


実に、奔放だ(笑)…


周囲の人間が、手を焼くほど、奔放だ(爆笑)…


仮に、手術が、成功したら、体力が、回復したと、自分で、判断すれば、勝手に、退院しかねない…


現に、私は、散歩中に、昭子に会った…

 

偶然、会った…


が、


あれが、偶然のわけはない…


偶然、会うわけはない…


きっと、事前に、私の行動を、見張っていた…


ひとを、使って、見張っていたに、違いない…


それゆえ、偶然を装って、私に会った…


そういうことだろう…


あくまで、偶然…


偶然を装っていたに、過ぎない…


そして、なぜ、病院を抜け出してまで、昭子は、あんな、行動を、取ったのか?


それは、間違いなく、伸明のため…


自分の産んだ、息子のために、他ならない…


伸明が、私を好きであることを、知っているから、気になった…


私が、どうしているか、気になった…


それゆえ、会いに来た…


偶然を装って、会いに来た…


そういうことだろう…


私は、思った…

 

私は、考えた…


そして、そこまで、考えて、気付いた…


あるいは、伸明が、そのことを、知ったのでは、ないかと、気付いた…


今さらながら、気付いた…


そして、もし、私が、伸明の立場なら、落ち込む…


やはり、落ち込む…


入院している、自分の母親が、病院を抜け出して、私に会いに来た…


私が、気になって、会いに来た…


それも、これも、私が、伸明のお気に入りだから…


だから、私が、どうなっているか、気になって、会いに来た…


私が、どんな様子で、いるか、気になって、会いに来た…


それを、知れば、誰でも、落ち込む…


いや、


心配になる(苦笑)…


自分が、体調が、悪いにも、かかわらず、自分の息子が、好きな女に、会いに行った…


それが、わかれば、自分の母親が、そこまで、したのかと、考え込む…


考え込むのだ…


それゆえ、伸明は、落ち込んだのでは、ないか?


私は、そう、思った…


私は、そう、考えた…


同時に、肝心なことに、気付いた…


伸明が、あのハルカに刺されたこと…


なぜ、伸明が、ハルカに刺されたのか?


肝心のことを、忘れていた…


すっかり、忘れていた…


私が、そんなことを、考えていると、ナオキが、


「…夜は、長い…もう、一本、ビールを飲もう…」


と、言った…


すでに、缶ビールは、飲み干した…


その証拠に、私に向かって、缶ビールを振って、見せた…


空になった、缶ビールを振って、見せた…


私は、立ち上がり、冷蔵庫から、缶ビールを、もう一本取って来て、ナオキの前に置いた…


「…綾乃さん、ありがとう…」


ナオキが、礼を言う…


私は、


「…どういたしまして…」


と、答えた…


これも、いつものこと…

 

いつものことだ…


私は、まるで、姉さん女房のように、威張って、ナオキに接しているが、やることは、やっている…


ナオキに、気を使っている…


こうして、二人きりで、飲んでいるときも、基本、私が、動く…


いつも、動く…


それゆえ、ナオキは、私に、感謝しているとまでは、言わないが、納得しているのだろう…


これが、いつでも、どこでも、私が、上なら、納得しない…


女王様ではないが、いつでも、どこでも、私が、上では、納得しない…


会社の上司と部下ではないが、そんな関係が、いつまでも、続くのならば、男も女も、大抵の人間が、うんざりするからだ…


そう言いながらも、思ったのは、実際に、私とナオキの関係は、会社の上司と部下の関係だったと、いうこと…


ナオキは、FK興産の社長で、私は、社長秘書だった…


にも、かかわらず、家庭では、立場が、逆転していた…


家庭では、私が、主人で、ナオキが、部下だった(笑)…


だが、まあ、世の中、そんなものかも、しれない…


会社では、部長で、いつも、威張っている男が、家では、妻に、頭が、上がらない…


そんな人間は、世の中に、ありふれているからだ(爆笑)…


だから、驚くものでも、なんでもないのかも、しれない…


私は、思った…


私は、考えた…


そして、私が、そう、考えている間に、ナオキは、プシューと、缶ビールを、開けて、二本目のビールを飲み出した…


美味しそうに、飲み出した…


それを、見て、私も、ビールを飲みたいと思ったが、まさか、飲むことは、できない…

 

今日の昼間、病院に行ってきたばかりだ…


脳梗塞には、なっていないが、脳梗塞になる可能性は、非常に、高い…


それゆえ、普段の生活に、気をつけること…


アルコールは、原則禁止…


状態が、安定していると、思えるまで、飲まないこと…


そう、昼間、センセイに、言われたばかりだ…


いくらなんでも、医者のセンセイに、そう言われて、半日も、経たないで、アルコールを、口にするほど、私は、勇者ではない(苦笑)…


仮に、そんなことをするものが、いれば、単なるバカか、自暴自棄になって、飲むかの、いずれかだろう…


そして、今の時代、人生に行き詰って、自暴自棄になり、こんな状態でも。アルコールを飲む人間も、いるかも、しれないが、私は、まだ、そこまで、追い詰められてはいない…


 これは、運…


 一重に、私の運が、いいからに、他ならない…


 私は、思った…


 真剣に、思った…


 そして、思いながら、私は、ナオキに、負けじと、オレンジジュースを飲んだ…


 冷蔵庫から、取り出して、飲んだ…


 自分で、言うのも、おかしいが、こんなときも、つい、ナオキに対抗してしまう…


 ナオキに、負けまいと、つい、対抗してしまう…


 これって、どうなんだろ?


 私は、ホントは、ナオキを愛していないのだろうか?


 それとも、ただ、気が強いだけ?


 ナオキに、負けたくないだけ?


 だから、張り合っている?


 ナオキのビールに、対抗して、オレンジジュースで、張り合っている?


 私は、思った…


 私は、考えた…


 そして、そんなことを、思っていると、ナオキが、


 「…明日、早速、諏訪野さんの見舞いに行こう…」


 と、ナオキが、突然、言った…


 「…明日、見舞いに?…」


 「…そう…」


 「…でも、明日、もう、見舞いに、行けるのかしら? まだ、警察の取り調べも、終わっているのか、どうか、わからないのに…」


 そう、言うと、ナオキが、沈黙した…


 「…」


 と、沈黙した…


 「…それより、マミさんに、聞いて、面会が、可能に、なったら、見舞いに、行きましょう…いっしょに、見舞いに、行きましょう…」


 私は、言った…


 私は、断言した…


 そういうと、ナオキは、なにも、言わなかった…


 黙ったままだった…


 私は、なぜか、そのほうが、不気味だった…


 なぜ、黙っているのか、そのほうが、不気味だった…


 あるいは、不思議だった…


 そして、今さらだが、さっき、このナオキが、家に、戻ってきたときに、


 「…別れよう…」


 と、言ったことを、思い出した…


 突然、思い出した…


 だから、私は、その話題に、触れることにした…


 だから、私は、ナオキに、その話題を振ることにした…


 「…ナオキ、話は、変わるけれども、さっき、帰ってきたときに、別れようと、言ったけれども、アレは、どうして、言ったの?…」


 と、聞いた…


 直球で、聞いた…


 ナオキのカラダが、一瞬、ピクッとした…


 明らかに、硬直した…


 私は、驚いたが、それ以上に、驚いたのは、ナオキの顔色が、変わったことだ…


 明らかに、怒ったように、怒気色に、変わった…


 私は、それを、見て、なんで、こんなにも、怒ったような、顔をしたんだろ?


 と、思った…


 内心、思った…


 が、


 それは、すぐに、わかった…


 ナオキが、私に、向かって、


 「…今日、ボクが、会社にいるときに、正式に、五井から、連絡があったんだ…FK興産を軸に、五井グループの情報関連企業を数社集めて、会社を再編する…ついては、ボクに、社長に、なってくれないかとね…」


 と、言った…


 淡々と、言った…


 が、


 その声は、淡々としていたが、その顔は、激怒していた…


 明らかに、顔色が、変わっていた…


 怒気色に、変わっていた…


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