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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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175/225

寿綾乃という女 第4部 175

 「…伸明さんの、見舞いって?…」


 私は、素っ頓狂な声を出した…


 なにしろ、早過ぎる…


 たった今、テレビで、伸明が、襲われたニュースを見たばかり…


 見たばかりだ…


 それなのに、もう、お見舞いなんて…


 わけが、わからなかった…


 さっぱり、わからなかった…


 それを、察したのだろう…


 ナオキが、察したのだろう…


 「…マミさんが…」


 と、私に言った…


 「…マミさんが、どうしたの?…」


 「…マミさんが、お見舞いについて、ボクに、言ったから…」


 「…えっ? マミさんが?…」


 ということは、軽い?…


 怪我は、軽い?


 そう、思った…


 そう、考えた…


 考えてみれば、伸明は、長身…


 ナオキと、同じ長身だ…


 身長も、180㎝近くは、あるだろう…


 片や、ナオキを襲ったとされる、あのハルカは、小柄とまでは、言わないが、私と同じくらい…


 身長、160㎝超の私と同じくらいだ…


 つまりは、高くは、ない…


 決して、低くは、ないが、高くはない…


 そんな160㎝程度の身長の女が、180㎝近くの男を襲うのは、無理がある…


 それは、例えば、いきなり、刃物で、刺すことは、あるかも、しれない…


 私とナオキが、そうだが、いつも、親密にしていて、その私が、いきなり、ナオキを包丁か、なにかで、刺せば、ナオキは、避けることは、できないだろう…


 もしかしたら、殺すことも、できるかも、しれない…


 ナオキより、20㎝も、小柄な私でも、大柄なナオキを殺すことも、できるかも、しれない…


 と、


 そこまで、考えて、気付いた…


 と、いうことは、もしかしたら、親密?


 伸明とハルカは、親密な関係なのだろうか?


 私とナオキのように、近くで、話す間柄なのだろうか?


 そうも、思った…


 そうも、気付いた…


 そう、考えれば、納得する…


 例え、小柄なハルカでも、長身の伸明に、近付ける…


 相手が、警戒することなく、近付ける…


 その結果、伸明を殺害することも、できる…


 そう、思った…


 そう、思ったのだ…


 そして、私が、そう、思っていると、ナオキが、


 「…それは、まだ、仮定の話だ…」


 と、付け加えた…


 私は、思わず、


 「…えっ?…」


 と、絶句した…


 「…マミさんも、まだ、詳しいことは、なにも、聞いてないらしい…」


 「…だったら、どうして、お見舞いなんて…」


 「…マミさんが、諏訪野さんと、親しくないからだろう…」


 「…えっ? 親しくない? だって、兄妹よ…」


 「…でも、血は繋がっていないでしょ?…」


 「…それは…」


 「…いっしょに、暮らしたことも、ないと、諏訪野さんも、言っていた…それならば、赤の他人といっしょ…誰が、どう考えても、親しいわけはない…」


 ナオキが、断言した…


 これまで、あまり、考えたことのない、二人の関係を、断言した…


 たしかに、そう、言われれば、わかる…


 そう、言われれば、納得する…


 マミさんは、五井家先代当主の建造が、外に作った子供…


 愛人の子供だ…


 そして、伸明も、また、建造の子供ではない…


 血が繋がった、子供ではない…


 伸明は、伸明の母の昭子が、建造とは、違う男との間にできた息子…


 戸籍上は、親子だが、現実は、違う…


 だから、二人とも、いっしょに、暮らしたこともない…


 愛人の子供である、マミさんが、本家で、暮らすことは、ありえないからだ…


 それゆえ、冷静に考えれば、二人の関係は、微妙…


 微妙に違いない…


 なにより、二人が、


 「…マミさん…」


 「…伸明さん…」


 と、さん付で、呼び合うのが、二人の距離感を示しているのでは、ないか?


 そう、思った…


 そう、思ったのだ…


 そして、そう、思ってから、考えた…


 なぜ、ナオキが、ケータイではなく、家の固定電話に、電話をかけてきたのか、考えた…


 だから、聞いた…


 「…ナオキ…話は、変わるけれども、今、どうして、家の固定電話にかけてきたの? 私のケータイじゃないの?…」


 と、聞いた…


 「…どうしてって…」


 と、ナオキが、戸惑う…


 ナオキが、一瞬、間を置いてから、


 「…だって、綾乃さんのケータイ、電源が、切られているだろ…」


 と、言った…


 「…えっ?…」


 「…最初に、電話したら、電源が、切られているか、電波の届かない場所に、いるって、メッセージが流れて、それで…」


 言われてみて、気付いた…


 私は、すでに、家に帰ってきた…


 だから、ケータイの電源は、切ってある…


 なにしろ、私は、今、無職…


 働いていない…


 それゆえ、基本、誰からも、電話がかかって来ない…


 無職の私に、プライベートで、電話をするものは、少ない…


 数えるほど、しかいない…


 片手で、数える数のひとしか、いない…


 だから、外出するときは、ケータイは、持ち歩くが、基本、電源を切ってある…


 なにしろ、私に電話をかけて来るものが、いないのだ…


 それゆえ、ケータイの電源を入れていても、仕方がないからだ…


 会社を辞めた当初は、そうでは、なかった…


 家にいるときも、含めて、基本、ケータイの電源を入れっぱなしにしていた…


 これは、会社員時代の習慣が抜けなかったから…


 だから、つい、一日中、ケータイの電源を入れっぱなしに、していた…


 が、


 当然のことながら、会社を辞めれば、会社の関係者からは、電話は来ない…


 会社員時代の同僚も、会社を辞めれば、関係は、一瞬で、切れるのが、大半…


 これは、私だけでなく、大抵の人間が、同じ…


 同じだ…


 どんなに、親しくても、会社員時代の繋がりは、一瞬で切れる…


 それが、わかったから、最初は、一日中、ケータイの電源を入れていた私も、いつのまにか、ケータイの電源を切るようにした…


 ケータイの電源を入れて、電話を待っていても、誰からも、電話が来ないからだ…


 だから、電源を切ることにした…


 そして、今は、外出するときですら、基本、電源は、入れない…


 外出していても、誰からも、電話が、来ない…


 だから、なにか、用事が、できたときに、使うから、持ち歩くだけ…


 それだけだからだ…


 そして、私が、そんなことを、考えていると、


 「…じゃ、綾乃さん、これで、切るから…」


 と、突然、ナオキが、言って来た…


 「…えっ? 切る?…」


 「…だって、これ以上、電話をしても、仕方がないでしょ? 仕事中だし、また、なにか、あったら、連絡する…いや、家に戻ったら、話す…」


 ナオキは、慌てて、言って、電話を切った…


 私は、置いてきぼりでは、ないが、呆然として、その場に立ち尽くした…


 たしかに、ナオキは、仕事中…


 私は、暇…


 なにも、仕事を、していないから、暇だ…


 それは、わかっているが、実感がない…


 会社員時代の実感がない…


 だから、相手の事情も、呑み込めず、つい、長話をしてしまう…


 つい、相手も、自分と同じように、暇だと、考えてしまう…


 つい、自分と同じだと、思ってしまう…


 要するに、主婦になっている…


 専業主婦の感覚に、なっている…


 私は、思った…


 今さらながら、思った…


 そして、そんなことを、思いながらも、私は、主婦…


 事実上の主婦…


 ナオキの妻=主婦に他ならないと、気付いた…


 つまり、主婦であることが、間違っていない…


 なにしろ、今日も、ナオキは、この家に帰って来る…


 また、この家から、会社に出勤する…


 これで、私が、主婦でないはずはない…


 ナオキの妻でない、はずはない…


 が、


 これは、一時的…


 一時的だ…


 なにしろ、ナオキは、別に、自宅を持っているからだ…


 私が、今、病気で、大変だから、家に来ただけ…


 本来は、いっしょに、暮らしていない…


 が、


 そこまで、考えると、もしかして、愛人?…


 私の立場は、愛人かもと、気付いた…


 もちろん、私は、これっぽちも、そんなことは、考えたことはない…


 今、初めて、考えた…


 が、


 それは、私が、そう、思うだけ…


 それは、私が、そう、考えるだけ…


 他人の目から、見れば、間違いなく、愛人だろう…


 いや、


 これは、会社員時代も、そう、だった…


 会社員時代も、同じだった…


 社長秘書の私は、周囲から、社長の愛人と見られていた…


 社長のナオキの愛人と見られていた…


 しかしながら、私が、それを、まったく、気にしないのは、私が、ナオキに、優位に立っているから…


 要するに、力関係…


 恋人関係、


 夫婦関係も、同じだが、男女対等はない…


 大抵が、どっちかが、優位に立っている…

 

 相手をリードしている…


 だから、私は、ナオキの愛人と周囲から、見られていても、まったく、気にしていなかった…


 それは、私が、優位に立っているから…


 大げさに言えば、ナオキを従えているからだ(笑)…


 だから、気にしなかった…


 これが、一般的な愛人ならば、どうしても、卑屈になる…


 どうしても、下手に出る…


 当たり前だ…


 相手から、金をもらっているからだ…


 だから、社長と、従業員のような関係になる…


 私の場合も、ハタから、見れば、それと、同じだが、私の場合は、ナオキよりも、いつも、優位に立っている…


 私の方が、いつも、威張っている(苦笑)…


 それゆえ、自覚がない…


 私が、ナオキに養ってもらっている自覚が、ない…


 それに、尽きる…


 尽きるのだ…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 そして、考えながら、ふと、思った…


 もしかしたら、あのハルカと、伸明…


 あの二人も、同じかも?


 そう、思った…


 そう、思ったのだ…


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