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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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174/225

寿綾乃という女 第4部 174

 私は、驚いた…


 思わず、プッと、吹き出すほど、驚いた…


 口の中に、含んだビールを、吹き出しかねないほど、驚いた…


 同時に考えた…


 今、なぜ、伸明が、テレビに映っているのか、考えた…


 それは、やはり、FK興産の買収だろうか?


 FK興産を、正式に、買収して、五井グループに組み込み、五井の情報関連会社数社と、合併して、ナオキを、社長に置く…


 その発表だろうか?


 私は、そう、見た…


 私は、そう、思った…


 が、


 違った…


 全然、違った…


 伸明が、テレビに映ったのは、けがをしたから…


 正確には、襲われたからだった…


 そして、その襲った犯人の顔が、映った…


 見覚えのある、顔が、映った…


 その顔は、ハルカ…


 あのハルカだった…


 伸明の見合い相手のハルカだった…


 そして、今、現在、ナオキと、結婚すると、先日、発表した、ハルカだった…


 あの、長谷川センセイの妹のハルカだった…


 五井西家の血を継ぐ、長谷川センセイの妹のハルカだった…


 これには、驚いた…


 文字通り、仰天した…


 驚天動地の出来事と、言っても、いい…


 文字通り、驚天動地の出来事にふさわしい…


 しかし、なぜ、ハルカが?


 ハルカが、伸明を襲ったのだろうか?


 わけが、わからなかった…


 さっぱり、わからなかった…


 誤報?


 もしかしたら、これは、誤報かも、しれない…


 そんな思いが、頭をかすめた…


 文字通り、頭の中をよぎった…


 なぜなら、こんなことを、信じることは、できないからだ…


 絶対、できないからだ…


 だから、誤報かも、と、思った…


 その方が、納得する…


 自分が、納得するからだ…


 だが、訂正は、なかった…


 テレビの中で、訂正はなかった…


 私は、慌てて、パソコンを立ち上げて、ネットで、検索してみようかと、考えた…


 今、見ているテレビは、スマートテレビでも、なんでもない…


 まったくの普通のテレビ…


 だから、ネットに、繋がらないからだ…


 それゆえ、慌てて、パソコンを立ち上げて、検索をしようかと、思った…


 伸明のことを、検索しようかと、思った…


 が、


 止めた…


 それは、なぜか?


 それは、今、パソコンを立ち上げて、ネットに繋いでも、テレビで、見たことと、同じ情報しか、載ってないと、思ったからだ…


 だったら、このまま、テレビを見続ける方が、いい…


 もし、今のニュースが、間違っていれば、続報が、入る…


 だから、このまま、待った方が、いい…


 缶ビールを、飲みながら、待った方が、いい(苦笑)…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 が、


 いくら、待っても、続報は、なかった…


 その変わりと、言っては、なんだが、私の飲む缶ビールの本数だけ、増えた(爆笑)…


 1本が、2本になり、3本になった(爆笑)…


 しかしながら、飲んでいるのは、350㎖の缶ビール…


 たいした、量ではない…


 そう、自分に言い聞かせた…


 その一方で、先日、初めて、脳梗塞で、倒れたときに、


 「…寿さん、なるべく、お酒を控えて下さい…アルコールを控えて、下さい…」


 と、いう医者の言葉を思い出した…


 今さらだが、思い出した…


 正直、忘れていない…


 常に、頭の片隅にある…


 にもかかわらず、守らなかった…


 つい、飲んでしまった…


 これは、自分に甘い証拠…


 まさに、自分に甘い証拠だった…


 やはり、後遺症がないのが、大きい…


 私は、何度も言うように、32歳…


 七十代や八十代のお爺ちゃん、お祖母ちゃんとは、違う…


 だから、病気を甘く見る…


 脳梗塞を甘く見る…


 そういうことだろう…


 後遺症があったりすれば、話は別…


 例えば、歩けなくなったり、歩くのが、しんどくなって、杖を使うようになれば、話は、別だ…


 それが、ないから、甘く見る…


 そういうことだ…


 私は、思った…


 今さらながら、思った…


 そして、そう思いながらも、その一方で、テレビのニュースに、ずっと、見ていた…


 ぼんやりと、見ていた…


 いつ、伸明のことを、やるか、わからないからだ…


 だから、一刻も、気が抜けない…


 片手で、ビールを飲みながらも、気が抜けなかった(笑)…


 そんなときだった…


 自宅の電話が鳴った…


 ケータイでは、ない…


 自宅の電話だった…


 自宅の固定電話だった…


 率直に言って、自宅の固定電話が鳴るのは、珍しい…


 稀…


 実に、稀だ…


 あるのは、大抵が、迷惑電話…


 どうでもいい、電話だ…

 

 後で、電話があった電話番号をネットで検索してみると、迷惑電話と書いてあるようなものばかりだ…


 だから、今も、そうだろう…


 そう、思った…


 だから、放っておいた…


 そのままにした…


 固定電話は、いつも、留守電にしてある…


 それゆえ、用事があれば、相手が、メッセージを入れるからだ…


 しかしながら、電話の大半は、メッセージを入れない…


 迷惑電話だからだ…


 あるいは、詐欺電話だからだ…


 「…このままでは、電話が、繋がらなくなります…至急、こちらへ、返信してください…」


 と、いうような詐欺電話だからだ…


 そして、そこに連絡したら、どうなるか、わからない(苦笑)…


 わかるのは、おそらく犯罪に巻き込まれることだけ…


 それだけだ…


 私は、テレビのニュースを見ながら、その一方で、電話に耳を傾けていた…


 どんなメッセージが、吹き込まれるのか、否か、耳を澄ませていた…


 が、


 私の予想に反して、メッセージには、


 「…綾乃さん、ボクだ…ナオキだ…藤原ナオキだ…」


 と、いうものだった…


 私は、慌てて、家の固定電話の元に、走って、電話の受話器を取った…


 「…ナオキ…私、綾乃です…」


 と、言って、電話を取った…


 「…綾乃さん、大変なことが、起こった…諏訪野さんが…」


 と、ナオキが、言っていると、


 「…知っているわ…伸明さんが、襲われたんでしょ?…」


 と、返した…

  

 ナオキの話が、終わらない間に、返した…


 「…綾乃さん、どこで、それを、知ったの?…」


 「…テレビよ…さっき、病院から、帰って来て、家で、テレビをつけたら、伸明さんが、映っていて…」


 「…諏訪野さんが?…」


 「…そう…」


 短く言った…


 それで、ナオキも納得できたのだろう…


 電話の向こう側にいるナオキも、納得できたのだろう…


 一瞬、間ができた…


 私の言葉に、納得ができたからだろう…


 「…なにが、なんだか、わからない…」


 と、ナオキが、電話の向こう側から、絞り出すように、言った…


 「…なにが、なんだか、さっぱり、わからない…」


 ナオキが、続ける…


 「…なぜ、諏訪野さんが、襲われたのか、わからない…しかも、その相手が、あのハルカさんだって…」


 文字通り、絶句した様子だった…


 これは、わかる…


 私にも、わかる…


 伸明が、襲われたのも、驚きだが、それ以上に、襲った相手が、あのハルカだと、言うのも、驚きだった…


 まさに、驚天動地の出来事だった…


 まさに、言葉も、出ない、驚天動地の出来事だった…


 私が、なにを、言って、いいか、悩んでいると、


 「…綾乃さんは、諏訪野さんが、襲われたことを、テレビで、知ったんだ…」


 と、確認するように、私に、聞いた…


 「…そうよ…ナオキは、どこから、聞いたの?…」


 「…マミさんから…」


 「…えっ? マミさん?…」


 「…彼女も、電話で、知ったらしい…なにしろ、あのマミさんは、諏訪野さんの妹だ…血は、繋がってないけれど、妹だ…だから、諏訪野さんの関係者から、連絡が、来たらしい…」


 …そうなんだ!…


 内心、思った…


 あの諏訪野伸明の家族で、今、健在なのは、母と、あのマミさん…


 伸明の産みの母の昭子は、今日の昼間、会ったばかり…


 五井記念病院で、会ったばかりだ…


 私は、それを、思った…


 あの昭子は、伸明の、そんなニュースを聞いて、どう思っただろう…


 取るものも、とりあえず、五井記念病院に向かったのだろうか?


 そして、五井記念病院は、果たして、あの昭子を受け入れるのだろうか?


 考えた…


 あの昭子は、五井家を追放された身…


 五井一族から、追放された身だ…


 昼間、昭子が、あの五井記念病院で、会ったのは、和子になりすましたから…


 だから、会えたと、思った…


 あの五井記念病院にいたと、思った…


 が、


 そこまで、考えて、気付いた…


 あの昭子が、仮に、双子の妹の和子になりすまして、私に会ったとする?


 が、


 仮に、和子が、入院していれば、あのお芝居は、できない…


 なぜなら、和子は、まだ、あの五井記念病院に入院しているからだ…


 入院している和子が、勝手に、すでに、退院したように、振る舞うことは、できない…


 となると、和子は、すでに、退院している…


 すでに、あの五井記念病院を退院している…


 私は、思った…


 今さらながら、思った…


 そして、私が、そんなことを、考えていると、ナオキが、電話の向こう側から、


 「…綾乃さんは、どうする?…」


 と、聞いてきた…


 いきなり、私は、


 「…綾乃さんは、どうする?…」


 と、言われても、意味が、わからなかった…


 なにを、どうするのか、意味が、わからなかった…


 だから、


 「…どうするって、なにを、どうするの?…」


 と、聞いた…


 当たり前だった…


 すると、間髪入れずに、


 「…諏訪野さんの見舞い…」


 と、答えた…


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