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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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170/225

寿綾乃という女 第4部 170

 私は、


 「…ハイ…」


 と、返事をした…


 返事をせざるを得なかった…


 和子は、まっすぐに、私を見つめて、


 「…伸明のことを、どう思う?…」


 と、聞いた…


 今さらながら、聞いた…


 私は、


 「…それは…」


 と、言いながら、戸惑った…


 どう答えていいか、わからなかった…


 どう、返していいか、わからなかった…


 が、


 和子が、求めていたのは、それではなかった…


 和子が、求めていたのは、


 「…伸明のやり口よ…拙速すぎない?…」


 と、いうものだった…


 「…拙速…ですか?…」


 「…そう…団郁馬もぼやいていたわ…いきなり、自分に会いに来て、今回、五井グループは、西都新聞を大々的に、応援することにした…五井北東家が、これまで、同様、本家に歯向かうなら、これを、実行すると、団郁馬を、脅迫したらしい…」


 「…伸明さんが、ですか?…」


 「…そう…伸明は、基本、おとなしい…おとなしい人間は、キレると、なにをするか、わからない…その典型ね…」


 「…」


 「…団郁馬は、五井一族の中で、浮いていた…一族内での序列は、低いのに、東都新聞を支配している…メディアを支配している…それゆえ、序列が、低いのが、許せない…それが、態度に出ていた…」


 「…」


 「…それで、建造さんは、ずっと前から、手を打っていた…」


 「…手を打っていた? どんなふうに、ですか?…」


 「…東都新聞のライバルの西都新聞に接近して、いざというときには、五井グループ内の東都新聞を捨てて、西都新聞を応援すると言って、人間関係を作っていた…」


 「…人間関係…」


 「…どんなに偉い人間だって、昨日、今日、知り合ったひとは、誰もが、信用できないでしょ? どんな人間か、わからないもの…」


 「…」


 「…それが、建造さんは、わかっているから、若いときから、さまざまな、ひとたちと、交流した…五井ともなれば、どんな会社も、将来偉くなるひとを紹介してくれる…それで、建造さんは、人間関係を作った…長い時間をかけて、作った…」


 「…」


 「…それを、背景に、伸明は、団郁馬を脅したの…」


 「…脅した? 失礼ですが、どうして、それを、ご存じなのですか?…」


 「…姉よ…昭子よ…」


 「…昭子さん? 伸明さんのお母様の?…」


 「…姉は、昔から、団郁馬と、仲がいいのよ…」


 「…エーッ! 仲がいい?…でも、伸明さんの敵じゃ…」


 「…だから、団郁馬も油断した…」


 「…えっ? 油断した?…」


 「…まさか、仲がいい、姉の息子の伸明が、自分を脅すような態度を取るとは、微塵も、思ってなかったんでしょ? 伸明も、子供の頃から、団郁馬を知っているから…」


 なるほど、そういうことか?


 だから、団郁馬は、調子に乗っていたんだ…


 伸明を子供の頃から、知っている…


 それゆえ、伸明を甘く見ていたに、違いない…


 誰もが、子供の頃から、知っていれば、甘く見る…


 自分の中では、相手は、いつまでも、子供のままだからだ…


 団郁馬にしても、それは、同じだったろう…


 伸明は、すでに、40歳にも、なるのにも、かかわらず、団郁馬の中では、子供…


 永遠に子供だったのだろう…


 私は、思った…


 思ったのだ…


 そして、これは、誰もが、同じ…


 同じだ…


 昔、なにかで、読んだ記憶が、あるが、三十を過ぎた男が、正月に、親戚を訪れたときに、その親戚のオバサンが、お年玉をくれようとして、仰天したと、告白したのを、思い出した…


 つまりは、その親戚のオバサンから、見れば、その三十を過ぎた男は、子供だったのだろう…


 ピーターパンではないが、永遠の子供だったのだろう…


 それと、同じだ…


 今、聞いた、伸明と、団郁馬の関係も、それと、同じだ…


 そして、そこまで、考えたときに、今度は、昭子のことを、考えた…


 今、この病院に入院している、伸明の実母の昭子のことを、考えた…


 なにより、あの昭子は、この和子の手によって、五井を追放されたのでは、なかったのか?


 そう、思ったのだ…


 あの昭子は、私の目の前で、この和子の手によって、五井を追放された…


 双子の妹の手によって、追放された…


 それが、今、五井記念病院に入院しているとは?


 一体、なぜ?


 なぜなのか?


 疑問だった…


 実に。疑問だった…


 そして、それが、私の顔に出たのだろう…


 「…寿さん、なにか、私に聞きたいことが、おありのようね…」


 と、和子が、言ってきた…


 私は、言おうか、言うまいか、悩んだが、やはり素直に、聞くことにした…


 それゆえ、


 「…ハイ…ひとつ、お聞きしていいですか?」


 と、言った…


 「…どうぞ…なんでも、聞いて…」


 「…失礼ですが、どうして、昭子さんが、この病院に入院しているんですか? 昭子さんは、五井を追放されたんじゃ…」


 私が、言うと、和子は、笑った…


 実に、楽しそうに、笑った…


 「…あの場は、ああ言うしか、なかったのよ…」


 と、笑った…


 「…いくら、実の姉でも、好き勝手をされちゃ、一族に示しが、つかないでしょ?…」


 「…それは…」


 「…だから、あの場は、ああ言うしか、なかったの…」


 和子が、あっさり言った…

 

 あっさりと、告白した…


 「…それに、私と、姉は、二人でも、一人のようなもの…」


 「…どういう意味ですか?…」


 「…要するに、代役よ…」


 「…代役?…」


 「…私と姉は、双子…一卵性の双子…だから、外見は、そっくり…若いときは、入れ替わって、お互いのボーイフレンドと、デートしたことも、あったわ…」


 「…エーッ!…」


 「…いつ、気付くか、試したの?…」


 「…試した?…」


 「…そう…」


 「…それで、どうだったんですか?…」


 「…最後まで、わからなかったわ…」


 和子が、楽しそうに、言う…


 「…でも、当然、コツがあるの…」


 「…コツ?…」


 「…お互い、しゃべり過ぎないこと…」


 「…しゃべり過ぎないこと?…」


 「…付き合っていれば、二人だけしか、知らないことがあるでしょ? それは、二人しか、わからない…恋人同士でしか、わからない…だから、しゃべらない…あまり、しゃべらない…」


 「…」


 「…それと、やはり、口調ね…いくら、私と姉が、外見が、そっくりでも、話し方が、微妙に違う…だから、長く、おしゃべりをしたら、バレる…」


 和子が、楽しそうに、言う…


 私は、それを、聞いて、


 「…失礼ですが、あの昭子さんは、入院しているはずの和子さんの、身代わりとして、この病院に入院していたんですか?…」


 と、言った…


 私は、言った…


 私の言葉に、和子は、文字通り、絶句した…


 文字通り、驚いた表情になった…


 「…和子さんは、入院していることに、なっている…だから、仮に、誰かが、訪ねて来たら、困る…それで、姉の昭子さんに、代わりに、いてもらった…違いますか?…」


 私が、言うと、和子は、笑った…


 実に、楽しそうに、笑った…


 「…寿さん、相変わらず、勘が鋭いわね…」


 と、言って、笑った…


 私は、それを、聞いて、


 「…ヒントを頂いたので…」


 と、答えた…


 「…ヒント?…」


 「…そうです…だって、今、若い頃に、当時、付き合っていた、ボーイフレンドと、姉妹で、入れ替わって、デートしたとおっしゃったのは、私が、昭子さんを、そのために、呼んだと、気付くか、試したんでしょ?…」


 私が、言うと、和子は、一瞬、驚いたフリをした後に、実に楽しそうに、笑った…


 「…そこまで、気付くとは、さずがね…」


 と、言って、笑った…


 「…でも、ホントは、姉を呼ぶ必要は、なかったかも、しれない…」


 「…どうして、なかったんですか?…」


 「…姉を見舞った一族は、想像以上に少なかった…なにしろ、面会謝絶にしていたから、当然と言えば、当然ね…だから、姉も退屈していたみたい…」


 …それでか?…


 私は、気付いた…


 それで、あの昭子は、この病院を抜け出して、私に会いに、来たのだと、気付いた…


 散歩中の私に、会いに来たのだと、悟った…


 が、


 当然、昭子は、私の動静を知らない…


 知るはずもない…


 だから、誰かに、教えてもらうしかない…


 教えて、もらうと言うのは、五井一族ではなく、探偵…


 私の行動を見張る探偵からだ…


 そうでなければ、あのとき、偶然、私に会うわけはない…


 それは、あのときも、わかっていたが、そもそも、なぜ、あのとき、昭子が、現れたのか?


 それが、わからなかった…


 これで、ひとつの謎が解けた…


 そう、思った…


 そして、私が、そう思っていると、配膳ロボットが、私と和子のいる席にやって来た…


 それを見た、和子が、驚いた…


 「…テレビで、見たことは、あるけれども、実物を見るのは、初めて…」


 と、驚いた…


 私も、和子に、


 「…私も同じです…」


 と、答えた…


 「…寿さんも、同じ?…」


 「…昨日、マミさんと、ここへ来て、初めて、見ました…私も普段は、ファミレスに行くことは、あまりないので…」


 と、付け足した…


 それを、聞いた和子が、


 「…寿さん、ファミレスに行かないの?…」


 と、私に聞いた…


 「…まったく行かないわけでも、ありませんが、頻繁に行くことは…」


 と、答えた…


 「…そう…」


 和子が、頷く…


 「…それよりも、早く、食べましょう…お腹が、空いているわ…」


 和子に促されて、私は、配膳ロボットから、運ばれてきた料理をテーブルに取った…


 そして、和子は、テーブルに並べたサンドイッチに、むしゃぶりついた…


 よほど、お腹が、空いていたのだろう…


 さっきは、軽食で、いいと、言ったが、ホントは、丼物でも、よいような、むしゃぶりかただった…


 そして、その姿を見て、なんとなく、違和感を感じた…


 私の中で、違和感を感じた…


 私は、和子をジッと、見た…


 まだ、自分は、食べないで、ジッと、見た…


 そんな私の姿を見た、和子が、


 「…寿さん、どうしたの? 食べないの?…」


 と、聞いた…


 私は、返事をしなかった…


 ただ、


 「…そんなに、伸明さんが、心配だったんですか?…」


 と、聞いた…


 私の言葉を聞いた和子が、食べるのを、止めて、私を見た…


 私を凝視した…


 私は、発言を続けた…


 「…そんなに、ご心配だったんですか? 御自分が、産んだ子供が…」


 と、言った…


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