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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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寿綾乃という女 第4部 17

 母は、おとなしいが、強いひとだった…


 なにより、無口だった…


 びっくりするほど、口数が、少ない…


 だが、芯が強い…


 たぶん、私以上に、芯が強い…


 おそらく、そんな母だから、シングルマザ―として、私を育てることが、できたのだろう…


 弱ければ、女一人で、子供を育てることなど、できない…


 当たり前だった…


 だから、強い…


 母は、強い…


 あらためて、そう、気付いた…


 あるいは、今の私では、母の真似はできないかも、しれない…


 女一人で、私を育てた母の真似は、できないかも、しれない…


 なぜなら、私は、恵まれ過ぎている…


 成功したナオキといっしょに、過ごしたことで、金銭的に恵まれ過ぎている…


 だから、母の真似は、できない…


 今の私では。母の真似は、できない…


 生活は、質素だが、億ションに住むような恵まれた生活をしている私には、母の真似はできないに違いない…


 よく世間で、言われるのは、生活レベルを、落とすのが、いかに、難しいか?


 これは、おそらく、経験したものでないと、わからない…


 私自身、生活は、質素だが、今の億ションから、ワンルームの賃貸マンションぐらいに、なるのだったら、まだ、我慢できるが、安アパートでは、無理…


 我慢できない…


 そういうことだ…


 自分が、普段、食べるものや、着るものは、贅沢は、していないが、住むところまで、落ちるのは、嫌…


 母と二人暮らしだったときは、そんな生活じゃなかったのかと、言われるが、嫌なものは、嫌だ…


 そして、それこそが、生活レベルを、落とすということ…


 それが、できない…


 なかなか、自分からは、できない…


 しかしながら、外部の圧力というか、実際、お金がなければ、今の億ションも引き払うしかなくなるから、安アパートに引っ越さざるを得ないかも、しれない…


 しかしながら、それは、結果…


 にっちもさっちも、いかなくなった結果だ…


 今、それなりに、お金があるにも、かかわらず、自発的に、そんな安アパートに住むことは、できない…


 元々、矢代綾子は、そんな生活をしていたにも、かかわらず、できない…


 そして、それは、この矢代綾子に限らず、誰でも、同じだろう…


 昔、猿岩石で、ブレイクした芸人の有吉さんが、


 「…生活レベルは、上げると、落とすのが、難しいから…」


 と、週刊誌のインタビューで、答えていた記事を見たが、さもありなん…


 猿岩石で、一度ブレイクしたものの、その後、人気は、低迷…


 その間に、自分でも、知らず知らずの間に、生活レベルが、上がってしまったのだろう…


 再ブレイクをして、週刊誌のインタビューで、そう告白した記事を読んだことを、覚えている…


 そして、これは、有吉さんに限らず、誰もが、同じ…


 同じだ…


 結果として、それまでのような生活ができなくなるのは、仕方がないが、自分が、お金があるにも、かかわらず、意図的に生活レベルを落とすことは、できない…


 もし、落とすとしたら、なにか、別に理由がある場合だろう…


 それが、なんの理由かは、わからないが、そういうことだと、思う…


 母の話題から、少々逸れたが、いつものことだ(苦笑)…



 私は、お風呂に入って、湯船に浸かった…


 一体、いつ以来だろう?


 考えた…


 それほど、久しぶり…


 およそ、一か月ぶりぐらいだろうか?


 湯船に浸かると、気持ちが、落ち着く…


 実に、ゆったりとした気分になる…


 が、


 いつまでも、湯船に浸かっては、いられない…


 なにしろ、退院したばかりだ…


 すばやく、カラダを洗って、お風呂から、出ることにした…


 長風呂をして、気分が、悪くなりでも、したら、元も子もない…


 せっかく、五井記念病院を退院したばかりなのに、救急車で、再び、五井記念病院に入院でもしたら、もはや、コントだ…


 コント=お笑いだ…


 私は、思った…


 それゆえ、早々に、お風呂から、出た…


 そして、バスタオルで、カラダを拭きながら、なんとか、一人で、お風呂に入ることが、できたと、ホッとした…


 何度も、言うように、お風呂に入るのには、体力が、必要…


 それが、今、お風呂に入れたのだから、私も、お風呂に入ることができるくらい、体調が、戻ったと、いうことだからだ…


 だから、嬉しかった…


 実に、嬉しかった…


 ホントは、お風呂上りに、ビールを飲むのが、私の定番だが、さすがに、それは、できなかった…


 だが、なにか、見つけて、飲まなければ、やはり、嫌だ…


 お風呂から、上がって、火照ったカラダを冷やすには、なにか、冷たいものを、飲まなければ、嫌だ…


 それゆえ、冷蔵庫を開け、なにか、飲むものが、ないか、探った…


 そうすると、冷蔵庫の奥に、ずっと、前に買ったノンアルコールビールが、見つかった…


 正直、いつ、買ったか、覚えていない…


 それほど、前に買った…


 私は、ノンアルコールビールは、めったに、飲まない…


 飲むのは、いわゆる、第3の安いビールか、アルコール度数9パーセントのチューハイだ…


 その方が、安くて、酔えるからだ(笑)…


 そして、そんなことを、考えれば、ここにも、私の貧乏性が現れている…


 そう、思った…


 億ションに住みながらも、飲むのは、安いビールと、アルコール度の高いチューハイ…


 いかに、お金をかけないで、飲むか?


 いかに、お金をかけないで、酔えるか?


 私の生活レベルが、わかる…


 実に、わかる(爆笑)…


 私は、冷蔵庫の中を漁って、見つけたノンアルコールビールの日付を見た…


 まだ、なんとか、賞味期限が、切れていない…


 賞味期限が、切れたものでも、味が、保証されないだけで、飲めるし、食べられると、聞いたことが、あるが、それを、今して、また救急車で、病院に搬送されれば、もはや、笑えない事態になる…


 だから、きっちりと、賞味期限を、確認して、なんとか、賞味期限内だから、飲むことにした…


 一口飲むと、ビールではないが、ビールの味がした…


 実に、久しぶりだった…


 ノンアルコールビールとはいえ、ビールを飲んだのは、久しぶりだった…


 今さらだが、ビールって、こんな味がするんだと、思った…


 実感した…


 それから、見るとはなしに、テレビの電源を入れた…


 別に、見たいものが、あるのでも、なんでもなかったが、風呂上がりで、ノンアルコールビールを飲みながらでも、なにも、しないのは、退屈だった…


 だから、テレビのスイッチを入れた…


 テレビの番組を作る製作者には、悪いが、こんなふうに、テレビを見るものが、多い…


 ハッキリ言えば、暇つぶし…


 他に、やることがないから、見るだけ…


 そんな人間が、多い…


 今の私が、まさに、それ…


 そして、そんなときは、ニュースが、いい…


 ドラマは、途中から、見ても、よくわからないし、私は、バラエティー番組は、基本、見ないからだ…


 だから、ニュースがいい…


 単純に、その日、なにが、あったか、わかるからだ…


 私は、ノンアルコールビー―を口にしながら、のんびりと、テレビのニュース番組を見た…


 なんとなく、見た…


 別に食い入るように、見ていたわけでは、ない…


 が、


 突然、そのニュース番組で、ナオキの名前が出た…


 私の事実上の夫であった、藤原ナオキの名前が出た…


 ナオキの顔写真とともに、出た…


 「…FK興産の社長である、藤原ナオキ氏が、今日、午前中に、五井家の方と、結婚されたと、いう情報が、今、入ってきました…」


 と、言って、出た…


 私は、飲んでいたノンアルコールビールを危うく、吹き出す寸前だった…


 自分でも、ありえない情報が、飛び込んで来たと、思った…


 危うく、吹き出す寸前だったが、なんとか、吹き出さずに済んだ…


 実に、危ないところだった(苦笑)…


 まあ、自分の家だから、吹き出しても、いい…


 が、


 これが、他人様の家だったら、困る…


 自分の家だったら、汚しても、いいが、他人様の家なら、汚すことは、できないからだ…


 だから、困る…


 実に、困る…


 内心、そんなバカなことを、考えながも、もう一方で、興味津々で、ナオキのニュースを見た…


 目を皿のようにして、見た…


 一方、耳でも、また一言も、聞き逃すまいと、した…


 つまりは、ニュースを見るのに、全神経を集中させたわけだ…


 が、


 そのニュースの続きは、なかった…


 それは、あくまで、速報として、入って来たからだった…


 ニュースを読むキャスターが、


 「…今、ニュースが飛び込んできました…」


 と、言って、ナオキの結婚のニュースを読んだからだ…


 そして、ニュースを読み終えて、しばらくして、他のニュースを読んでから、


 「…さきほどのFK興産の社長の藤原ナオキ氏ですが、藤原氏が、五井の関係者と、結婚したと、いうニュースをお知らせしましたが、確認が取れません…もしかしたら、誤報かも、しれません…」


 と、訂正した…


 「…えっ? 誤報って?…」


 思わず、口に出した…


 ノンアルコールビールを右手に持ちながら、口に出した…


 お風呂から出て、裸同然の格好をして、口に出した…


 これは、傍から、見れば、笑えるに違いない…


 FK興産時代、美人の社長秘書と呼ばれた女の姿が、コレだ…


 まるで、オヤジ…


 中年オヤジそのものだ…


 だから、笑える…


 実に、笑える…


 私が、内心、そう思っていると、さらに、そのキャスターが、


 「…さっき言った、FK興産の藤原ナオキ氏の結婚ですが、やはり、確認が、取れていません…情報が、錯綜しています…ですから、今、この番組を見ている、視聴者の方にも、もしかしたら、藤原ナオキ氏の結婚について、間違った情報を、お伝えした可能性があります…それゆえ、もし、間違った情報をお伝えしたのでしたら、ここで、お詫びします…また、この情報の続報が、入り次第、この番組で、お知らせするつもりです…」


 と、続けた…


 私は、それを、聞き、当然のことながら、そのニュース番組を最後まで、見た…


 最後まで、聞いた…


 が、


 その続報は、なかった…


 最後まで、なかった…


 その番組が、終わると、他のテレビ局のニュース番組も、見たが、藤原ナオキに関する、ニュースは、なかった…


 それゆえ、私は、テレビを消し、パソコンを開くことにした…


 スマホでは、検索しづらいと、思ったからだ…


 だから、私は、右手に持った、ノンアルコールビールを、一気にあおって飲んだ…


 中身を、慌てて、飲み干した…


 それから、気合を入れて、パソコンで、藤原ナオキを検索した…


 藤原ナオキの結婚について、検索した…


 女、32歳…


 病院から、退院して、真っ先にしたのが、この検索…


 自分の夫同様と思っている男が、突然、結婚したと、いうニュースを知り、動揺して、ネットで、検索する…


 しかも、その検索する姿は、お風呂上がりで、裸同然…


 まさに、他人様から、見れば、笑える…


 実に、笑える姿だった…


 もしかしたら、ナオキに捨てられた?


 そんな思いで、必死になって、パソコンで、ナオキの結婚の情報を検索した…


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