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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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168/225

寿綾乃という女 第4部 168

  が、


 わからない…


 ホントのことは、わからない…


 なにより、こんなことを、考える私…


 こんなことを、考え続ける私は、逃げている…


 自分自身から、逃げている…


 そう、思った…


 自分自身の病気から、逃げていると、思った…


 実に、思った…


 自分のことより、他人のことを、考える…


 それで、自分の悩みを忘れることが、できる…


 一刻とは、いえ、自分の悩みから、目をそらすことが、できるからだ…


 無意識に、目をそらすことが、できるからだ…


 だから、つい、考えてしまう…


 五井一族のゴタゴタを考えてしまう…


 ホントは、そんなことは、どうでも、いい…


 大切なのは、自分…


 自分のカラダだ…


 自分自身の体調だ…


 あらためて、思った…


 あらためて、自分自身を、納得させた…


 とにかく、五井記念病院に行こう…


 五井記念病院の脳神経外科に行こうと、思った…



 朝、家を出て、電車を乗り継いで、五井記念病院に向かった…


 ホントなら、地元の病院に、向かうはず…


 その方が、近いからだ…


 その方が、楽だからだ…


 わざわざ、電車を乗り継いで、遠くの病院に行くものは、いない…


 普通は、いない…


 いると、すれば、たとえ、遠くの病院で、あっても、自分の病状を診るのに、高名なセンセイが、いたりする場合…


 あるいは、地元の病院では、高度に専門な知識を持つ、専門医が、いなかったりする場合だ…


 私の場合は、いずれも、当てはまらない…


 ただ、以前、ジュン君の運転するクルマに、私が、はねられたときに、五井記念病院に運び込まれた…


 それ以来の縁だ…


 また、私自身が、五井記念病院を運営する、五井一族の人間と知り合ったことも、大きい…


 だから、今も通っている…


 なにかあると、通っている…


 以前、脳梗塞で、倒れたときは、なにか、あったら、五井記念病院に運んでもらうように、事前に手配していた…


 だから、あのときも、五井記念病院に、運ばれた…


 常に、五井記念病院…


 私の病気は、五井記念病院に繋がっている…


 私は、思った…


 今さらながら、思った…



 五井記念病院に着き、カウンターで、脳外科を予約しようとした…


 そのときだった…


 「…寿さん?…」


 という声が、かかった…


 突然、声が、かかった…


 「…ひょっとして、寿さん?…」


 と、声が、繰り返した…


 私は、急いで、振り返った…


 と、そこには、思いもかけない人物がいた…


 五井の女帝がいた…


 五井の女帝、諏訪野和子がいた…


 私は、仰天した…


 文字通り、声が、出なかった…


 仰天して、声が、出なかった…


 呆気に取られたのだ…


 呆気に取られて、声も出なかったのだ…


 が、


 それは、一瞬…


 一瞬だった…


 十秒、あるいは、二十秒の一瞬だった…


 その一瞬が過ぎると、私は、慌てて、


 「…ご無沙汰しています…」


 と、腰を折って、挨拶した…


 深々と、腰を折って、挨拶した…


 それから、つい、


 「…失礼ですが、和子さんは、この病院に入院されていたんじゃ…」


 と、聞いた…


 聞かざるを得なかった…


 「…それは、昭子…姉さんよ…」


 仰天の事実を、言った…


 「…昭子さん? 伸明さんのお母様の…」


 「…そう…」


 「…でも、和子さんも、入院していたんじゃ…」


 「…それは、検査入院…たしかに、体調を崩したけれども、たいしたことじゃないわ…」


 「…えっ? たいしたことじゃない?…」


 「…そうよ…この通り、ピンピンしているでしょ?…」


 和子が、笑った…


 私は、どう、対応していいか、わかなかった…


 なんしろ、意外過ぎる…


 この和子が、すでに退院したことは、わかる…


 とっくに、退院していたことは、想定内…


 事前に予想できたことだった…


 しかしながら、この場で、和子に、声をかけられるとは、思わなかった…


 すでに、退院した和子に、声をかけられるとは、思わなかった…


 夢にも、思わなかった…


 だから、絶句して、言葉が、出なかった…


 挨拶以外、絶句して、言葉が、出なかった…


 それを、見た、和子が、


 「…寿さん、驚いたようね?…」


 と、笑った…


 笑って、言った…


 私は、どう答えていいか、わからなかった…


 とっさに、どう、答えていいか、わからなかった…


 ただ、絶句していた…


 なんと言って、いいか、言葉が、見つからなかった…


 すると、それを、見た、和子が、


 「…そういう寿さんこそ、今日は、どういう用件で、ここに来たの?…」


 と、聞いた…


 当たり前のことを、聞いた…


 私は、


 「…いえ、私自身の用事で…」


 と、曖昧に、答えた…


 「…寿さん、自身の用事って、なに?…」


 「…実は、昨日、家で、軽い脳梗塞で、倒れたんです…それで、この病院で、検査して、もらおうと、思って…」


 私が、言うと、今度は、和子が、驚いた…


 「…その若さで、脳梗塞…」


 と、驚いた…


 次いで、


 「…で、寿さん、予約は?…」


 と、聞かれた…


 …しまった!…


 …予約するのを、忘れた!…


 遅まきながら、気付いた…


 イマドキ、大抵の病院は、予約が、なければ、受け付けて、もらえない…


 予約がなくて、受け付けてもらえるのは、救急車で、運ばれたときなど、緊急のときだけ…


 いきなり、病院にやって来て、すぐに、診てもらえるはずはない…


 すっかり、忘れていた!…


 あまりにも、基本を忘れていた!…


 基本のきを忘れていた!…


 これは、やはり、昨日、倒れたことで、混乱したからだろう…


 私自身、意識していないが、頭の中が、混乱したからだ…


 私は、思った…


 あらためて、思った…


 すると、和子が、カウンターに、歩み寄り、


 「…この寿さんを、今すぐ、脳神経外科で、診てあげて、下さい…」


 と、言った…


 仰天のことを、言った…


 私は、一体、なぜ、和子が、そう言ったのか、わからなかった…


 いかに、五井一族の人間でも、ここでは、一般の患者のひとりに過ぎないと、思ったからだ…


 それが、なぜ?


 私が、考えていると、


 「…わかりました…理事長…」


 と、受付の女性が、答えた…


 私は、文字通り、呆気に取られた…


 思わず、


 「…理事長?…」


 と、声を漏らした…


 間の抜けた声を漏らした…


 和子は、笑いながら、


 「…ホントは、名誉理事長なの…」


 と、言った…


 「…でも、名誉理事長は、長いでしょ? だから、理事長…」


 和子が、笑いながら、説明した…


 そして、和子と、立ち話をしている最中にも、すぐに、受けつけの女性が、


 「…寿さん、脳神経外科に行って下さい…すぐに、診るそうです…」


 と、私に告げた…


 私は、


 「…わかりました…」


 と、答えた…


 和子も、


 「…寿さん、すぐに、行って、センセイに診てもらいなさい…」


 と、私の背中を、推した…


 私は、言葉通りにした…


 脳神経外科に、行き、名前を、告げた…


 「…寿綾乃です…今、一階のカウンターで、受付の女性に、すぐに、行くように、指示されたんですが…」


 と、言うと、


 「…お待ちしていました…」


 と、看護師の女性が、答え、ありえないほど、スムースに、診断に繋がった…


 センセイは、馴染みのない、若いセンセイだった…


 私のカルテを見て、すぐに、病状を聞いた…


 「…どうされました?…」


 と、聞いた…


 「…実は、昨日、家で、倒れて…」


 と、包み隠さず、昨日、自分の身に起こったことを、打ち明けた…


 センセイは、私の話を聞き終えると、


 「…まずは、MRIで、診断しましょう…」


 と、言って、私は、別の部屋に、移動した…


 以前、行ったことのある部屋だった…


 MRIのある部屋だった…


 私は、そこで、MRIの機械で、診断された…


 そこで、二十分ぐらい、MRIの機械の中に入って、診断された…


 とにかく、うるさい…


 事前に耳栓を、ヘッドホンまで、つけた…


 それでも、うるさい…


 MRIの機械の中で、太鼓を叩いているように、うるさかった(涙)…


 そして、再び、脳神経外科に戻った…


 さっきの若いセンセイが、待っていた…


 そこで、センセイが、開口一番、言ったことは、


 「…たぶん、この部分の血管が詰まったんですよ…」


 というものだった…


 レントゲンの写真のような、診断図を見て、教えてくれた…


 「…とりあえずは、まずは、薬を増やしましょう…これまでの薬では、少な過ぎたのかも、しれない…」


 と、言って、処方箋を書いてくれた…


 その間、一時間ちょっと…


 あまりにも、早い展開だった…


 これは、紛れもない、和子の力…


 この五井記念病院の名誉理事長の、諏訪野和子の力だった…


 前回、救急車で、この病院に運び込まれたときも、これほどスピーディーに、診てもらえなかった…


 それが、当たり前…


 当たり前だった…


 しかしながら、今は、それとは、段違いに、スピーディー…


 スピーディーに、診察してもらった…


 あらためて、和子の力を思い知った…


 五井の女帝の力を思い知った…


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