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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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166/225

寿綾乃という女 第4部 166

 私が、そう思っていると、


 「…綾乃さん、大丈夫?…」


 と、ナオキが、心配そうに、聞いた…


 私は、ナオキの声で、ハッと、我に返った…


 「…綾乃さん、顔色が、悪いよ…」


 ナオキが、心配そうに、聞く…


 「…大丈夫?…」


 と、続けた…


 私は、即座に、


 「…大丈夫よ…」


 と、返した…


 が、


 ナオキは、納得しなかった…


 「…綾乃さんの大丈夫は、全然、大丈夫じゃないよ…」


 「…ちょっと、それって、どういう意味?…」


 思わず、聞いた…


 聞かざるを得なかった…


 「…綾乃さんは、いつも、自分で、しょいこむから…」


 「…えっ? しょいこむ?…」


 「…自分で、解決しようとする…他人を頼らない…」


 「…」


 「…綾乃さんに、こう言っちゃ、すまないが、綾乃さんが、他人を信用しないのは、もしかしたら、生まれのせい? 育った家庭環境に、原因が、あるの?…」


 ナオキが、言った…


 真顔で、言った…


 これまで、十五年、付き合ってきたにも、かかわらず、一度も言ったことのないことを、言った…


 私は、絶句した…


 文字通り、絶句して、答えられなかった…


 おそらく、その通り…


 ナオキの言う通りだろう…


 私は、母と、二人っきり…


 シングルマザーの母と、二人っきりで、生きて来た…


 頼るものも、いない…


 それゆえ、いつも、自分で、決めた…


 なにを、するのも、自分で、決めた…


 頼るひともいないからだ…


 唯一、頼るのは、母だったが、母は、私と母自身が、生きるのが、精一杯…


 とても、頼れる状況では、なかった…


 なにより、母に心配をかけたくなかった…


 一ミリも、心配をかけたくなかった…


 その結果、私は、ひとに頼ることなく、自分で、解決した…


 すべて、ひとりで、やった…


 だから、今、考えれば、そのせいで、大人になっても、基本、ひとに頼らない…


 そんな可愛げのない性格になったのかも、しれない(苦笑)…


 しかし、そんなことは、言われたことがなかったから、驚いた…


 実に、驚いた…


 そして、そんな驚いた顔の私を見て、ナオキが、


 「…綾乃さん、具合が、悪いなら、早く寝た方が、いいよ…」


 と、優しく、声をかけた…


 「…顔色が、悪いよ…」


 …ウソ!…


 と、内心、思ったが、言われてみれば、その通り…


 その通りかも、しれなかった…


 なにしろ、昼間、倒れたのだ…


 脳梗塞で、倒れたのだ…


 そして、その後、寝ていた…


 ベッドで、寝ていた…


 そんな私が、顔色が、いいわけはない…


 当たり前だった…


 が、


 それでも、寝たくは、なかった…


 今すぐ、寝たくは、なかった…


 なにしろ、今、起きてきたばかりなのだ…


 寝たくは、なかった…


 が、


 ここにいたくもない…


 正直、今のナオキを見ているのが、痛々しかったからだ…


 こんなに、凹んだナオキを見るのが、痛々しかったからだ…


 それゆえ、


 「…ナオキ…アナタの言う通りに、するわ…」


 と、言って、寝室に、戻った…


 無論、寝たくは、ない…


 まだ、寝たくは、ない…


 さりとて、ナオキの顔を見るのは、辛い…


 それゆえ、逃げるしか、なかった…


 ナオキの前から、逃げるしか、なかった…


 寝室に、戻った私は、一番、最初に、鏡で、自分の顔を見た…


 が、


 ナオキが、言うように、悪くは、なかった…


 そんなに、顔色が、悪くなかった…


 それゆえ、考えた…


 なぜ、ナオキが、私が、顔色が悪いと、言ったのか?


 考えた…


 おそらくは、私が、脳梗塞で、倒れたと、告白したから?


 それだからに違いない…


 なにより、ナオキが、このマンションに、帰って来ていて、私が、ベッドで、横になって寝ていることはない…


 普通はない…


 それゆえ、


 …なにか、あった!…


 と、考えるのが、普通…


 私の場合は、癌持ちでも、あるため、余計に、体調を崩したと、思うのが、普通だ…


 だから、ナオキは、私に言った…


 私の顔色が、さして、悪くなにも、かかわらず、あえて言った…


 私の顔色が悪いと、言った…


 そうすれば、私が、ベッドで、休むと、思ったのだろう…


 そう、考えて、あらためて、ナオキの優しさが、わかった…


 身に染みて、わかった…


 私は、恵まれている…


 実に、恵まれている…


 あらためて、思った…


 心の底から、思った…


 たしかに、カラダは、悪い…


 しかし、人間には、恵まれた…


 男には、恵まれた(爆笑)…


 そう、思った…


 私は、天涯孤独の身…


 ひとりぼっちだ…


 私の身を心配する身内は、誰もいない…


 それにも、かかわらず、赤の他人でも、私の身を心配してくれるものが、いる…


 私の近くにいる…


 これが、幸運でなくて、なんというのか?


 男も女も、星の数ほど、いる…


 仮に、夫婦になっても、別れる数もまた、星の数ほど、いる…


 その中にあって、自分の身を、本気になって、心配してくれるものが、どれだけ、いるだろうか?


 血が繋がっていないにも、かかわらず、心配する人間が、どれだけ、いるだろうか?


 なにしろ、夫婦で、子供もいても、あっさり、別れるものが、星の数ほど、いる時代だ…


 それが、ただ、いっしょに、暮らしているだけ…


 もはや、夫婦といっても、倦怠期に近い関係の私とナオキ…


 にもかかわらず、私の身を心配してくれる…


 心の底から、心配してくれる…


 そんな男と、巡りあった私の幸運を思った…


 心の底から、思った…


 

 翌朝、ナオキより早く起きて、その後、遅く起きた、寝起きのナオキにあった…


 「…ナオキ…おはよう…今朝は、早いわね…」


 朝、起きてきたばかりのナオキに、そう声を、かけた…


 「…綾乃さん、おはよう…」


 ナオキが、寝ぼけた顔で、言う…


 「…昨夜は、飲み過ぎた…」


 「…でしょうね?…顔が、むくんでいるわよ…」


 「…ウソ!…」


 ナオキは、慌てて、鏡を見に、その場から、離れた…


 そして、すぐに、戻ってきて、


 「…ひどいな…綾乃さん、ボクの顔、そんなに、むくんでなかったよ…」


 と、ぼやいた…


 私は、それを、聞いて、


 「…昨夜の仕返しよ…」


 と、答えた…


 「…仕返し? 昨夜、ボク、綾乃さんに、なにか、したっけ?…」


 「…したわよ…忘れたの?…」


 「…ボクが、なにをしたの?…」


 「…私の顔色が、悪いって、言ったじゃない!…」


 私が、ぶっきらぼうに、言うと、


 「…アレは、綾乃さんを、心配して…」


 と、ナオキは、慌てて、言い訳をした…


 私は、それを、聞いて、


 「…なんと、言い訳しようと、ウソは、ウソ…反省しなさい!…」


 と、言うと、ナオキが、苦笑した…


 「…やっぱり、綾乃さんだ!…」


 と、言って、苦笑した…


 「…いつもの、綾乃さんだ…良かった…」


 と、喜んだ…


 私は、そんなナオキを見て、


 「…ナオキ、アナタ、マゾじゃない? 叱られて、喜ぶなんて…」


 と、怒った…


 が、


 効き目が、なにも、なかった…


 「…よかった…いつもの綾乃さんに、戻った…」


 と、ナオキが、喜んだだけだった…


 私は、呆れたが、これも、いつものことだ…


 「…ナオキ…さっさと、顔を洗っていらっしゃい…ご飯にするわよ…」


 私の一言で、


 「…ハイ…」


 と、答えて、その場を離れた…


 私は、結局、昨夜、あまり、眠れなかった…


 昼間、寝すぎたせいだろう…


 夜になっても、なかなか、寝付けなかった…


 だから、なんとなく、寝たか、寝ないか、よくわからない感じで、朝になった…


 それゆえ、いつもより、少しばかり、早く、起きた…


 寝られないのに、いつまでも、ベッドに横になっていても、仕方がないからだ…


 イライラするだけだからだ…


 だから、いつもより、早く起きた…


 早く起きて、朝食の用意をした…


 と、いっても、たいしたことは、していない…


 すでに、いったように、私は、料理が苦手…


 不器用だからだ…


 だから、苦手…


 それでも、今朝は、少しばかり、早く起きたから、いつもよりは、料理に力を入れた…


 フライパンを使って、料理をした…


 それを、見た、ナオキが、


 「…綾乃さん、今朝は、随分、張り切ったね…」


 と、笑った…


 私は、それを、聞いて、


 「…からかわないで…ナオキ…」


 と、怒った…


 なにしろ、冷蔵庫の中のありあわせの総菜に、少しばかり、手を加えたに、過ぎないからだ…


 張り切ったと言われるのが、恥ずかしい…


 下手をすれば、皮肉だ…

 

 私は、その恥ずかしさを、押し殺すために、わざと、怒った声で、


 「…さっさと、席に座って、食べなさい!…」


 と、言った…


 もちろん、照れ隠しだ…


 それが、ナオキにも、わかったらしい…


 急いで、席に着いて、朝食を食べ始めた…


 私は、それを、見て、


 「…昨夜、飲み過ぎたんじゃない?…」


 と、聞いた…


 酒を飲み過ぎたなら、そんなに食べられないからだ…


 「…事前に、酔い止めの薬を飲んだからね…」


 ナオキが、あっさりと、告白した…


 「…薬?…」


 「…酔っ払いたかったから、事前にね…」


 それを、聞いて、あらためて、このナオキは、理系だと、思った…


 何事も、計算して、事前に対策を立てる…


 ただ、酒を飲んで、酔っ払うだけじゃない…


 あらかじめ、酔い過ぎないように、対策を立てる…


 もっとも、それゆえに、経営者かも、しれない…


 自分の体調を、第一に考えるから、経営者として、適格かも、しれないと、思った…


 そして、朝食を食べ始めたナオキは、私に、


 「…綾乃さん…今日は、早速、病院に行った方が、いいよ…」


 と、念を押した…


 「…そんなこと、わかっているわよ…」


 私が、言うと、


 「…なんらな、今日、送迎用のクルマが、来たら、ボクが、会社に行く代わりに、綾乃さんが、病院まで、乗っていっても、いいよ…」


 と、仰天の提案をした…


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