寿綾乃という女 第4部 164
私は、そう、見た…
私は、そう、睨んだ…
が、
しかしながら、ナオキの意見は、違った…
私の意見とは、違った…
「…たぶん、ボクを伊豆に幽閉したのは、諏訪野さんと、団さんの権力闘争が、最終局面を、迎えた頃だと、思う…」
「…どうして、そう、思うの?…」
「…団さんは、その頃に、諏訪野さんの目論見に、気付いたんだと、思う…」
「…目論見? なんの目論見?…」
「…さっきも言った、FK興産を、五井の情報関連企業数社と、合併させようとしたこと…それに、気付いたんだと、思う…」
「…だから、ナオキを幽閉した…」
「…そう、ボクがいては、その合併の話を進められたら、困ると、思ったんだろう…だから、手っ取り早く、ボクを幽閉した…ボクを伊豆の別荘に招き、そこから、出られないようにした…たぶん、それが、真実…」
「…」
「…そして、それを、考えれば、五井の女帝…諏訪野和子さんの入院…アレも、怪しい…」
「…怪しいって、どういうこと?…」
「…ホントに、入院したのかも、怪しい…」
「…えっ?…」
「…だって、ボクも綾乃さんも、諏訪野和子さんが、入院した姿を見ていないんだから…」
言われてみれば、その通り…
その通りだった…
私も、ナオキも、諏訪野和子が、入院した姿を見ていない…
そして、今日の昼間、あのマミさんも、私と、五井記念病院で、出会って、すでに、和子は、退院したと、言っていた…
つまり、誰も、和子が、入院した姿を、見ていない…
ただ、聞いただけだ…
ただ、聞いただけで、誰も、見ていない…
だから、そう、考えれば、疑われる…
和子が、ホントに、五井記念病院に入院していたのか、疑われる…
そして、私が、そんなことを、思っていると、ナオキが、
「…最初の話に、戻るけれど、そもそも、諏訪野さんが、見合いをした話も、疑わしい…」
「…どうして、疑わしいの?…」
「…だって、綾乃さんから、聞いた、諏訪野さんの縁談、出席者が、少な過ぎでしょ? …あらかじめ、一族の中で、仲の良いひとに、頼んで、お芝居をして、もらったのかも…」
「…どうして、お芝居を?…」
「…団さんを、欺くためさ…」
「…欺くため?…」
「…一族の重しの五井の女帝は、いなくなった…そのタイミングで、諏訪野さんが、一族の女性と見合いをする…なにか、できすぎていると、思わないかな…」
「…そんな…」
「…もっとも、これは、ボクの推測…確証は、ない…証拠もない…でも、疑えば、疑える…諏訪野さんの行動を疑えば、疑える…切りがないほど、疑える…」
ナオキが、力説する…
そして、そんなナオキの姿を見るにつけ、このナオキにとって、会社が、大事…
つくづく、大事なんだと、思った…
自分が創業したFK興産が、つくづく、大事なんだと、思った…
普段は、気付かない…
自分が、そんなに大事に思っていたことに、気付かない…
自分のことなのに、気付かない…
でも、今回のように、ホントに、自分の手元を離れるかも、しれないと、考えると、気付く…
いかに、自分にとって、大切なんだと、気付く…
これは、誰でも、同じ…
同じだ…
典型的なのは、家族や恋人…
亡くなったり、別れたりして、気付く…
いかに、自分にとって、大切な存在だったと、気付く…
それと、同じだ…
私は、ナオキの姿を見て、そう、思った…
そう、思ったのだ…
そして、私が、そう、思っていると、ナオキが、
「…ボクにとっては、会社と同じく、綾乃さんも、大事だ…」
と、漏らした…
力を込めて、漏らした…
そして、言った…
「…以前、あのハルカさんと、諏訪野さんが、見合いをしたときに、あのハルカさんは、強い女に、見えたと言ったね…」
と、言った…
「…ええ、言ったわ…」
「…でも、ボクも、偽の結婚会見をするのに、彼女とあったけれど、全然、強くなかった…普通だった…」
「…えっ?…」
「…綾乃さんも、言ってたよね…見合いのときに会った彼女と、次に会った彼女は、別人だったと…」
「…」
「…つまり、彼女は、誰かに頼まれて、見合いの席では、強い女を演じたと、思うのが、普通だろう…」
「…誰に頼まれたの?…」
「…それは、わからない…諏訪野さんかも、しれないし、団さんかも、しれないし、その見合いに出席した、五井西家のひとかも、しれないし、または、別の誰かかも、しれない…」
「…別の誰かって?…」
「…だって、あのハルカさん、綾乃さんの、五井記念病院の担当医の妹さんだろ? そのお兄さんに、頼まれた可能性もある…」
たしかに、言われてみれば、その通り…
その通り…
その可能性が高い…
そして、その長谷川センセイ…
五井記念病院を退職した…
このタイミングで、退職した…
普通に、考えれば、なにか、ある…
このタイミングで、五井記念病院を退職した理由がある…
しかも、退職していったのは、北東病院…
おそらくは、五井北東家の支配下にある、北東病院だ…
いや、
長谷川センセイは、退職以前に、北東病院に勤務していた…
五井記念病院と並行して、勤務していた…
だから、繋がっていた…
おそらく、団郁馬と繋がっていた…
そして、団郁馬と、伸明の勝負は、ついた…
伸明の圧勝だった…
それゆえ、退職した…
長谷川センセイは、退職した…
それは、長谷川センセイの意志?
それとも、伸明の意志?
伸明の指示で、五井記念病院をクビになった?
それとも、団郁馬の指示?
伸明に負けた団郁馬の指示?
もはや、長谷川センセイは、五井記念病院を去らねばならなかった…
団郁馬の指示で、動いて、伸明と敵対した…
団郁馬の指示で、妹のハルカを、伸明と、見合いをさせた…
それが、不発に、終わったから、用無しになった?
いや、だったら、なぜ、ハルカとこのナオキを結婚させようとする?
もしや、寝返った?
ハルカが、寝返った?
最初は、兄の長谷川センセイの指示で、動いて、途中から、伸明の指示で、動くようになった?
そうも、考えられる…
あるいは、そうすることで、長谷川センセイを救おうとした…
敗北した団郁馬の側についた、兄の長谷川センセイを救おうとした?
そうも、考えられる…
そして、あのユリコ…
この、目の前にいる、ナオキの前妻であり、私の宿敵のユリコ…
あのユリコは、以前、長谷川センセイといっしょにいるところを、見た…
スーパーで、二人で、買い物をしている、姿を見た…
仲睦まじく、二人で、いる姿を見た…
そして、さらに言えば、あのユリコは、団郁馬とも、接点がある…
ユリコの開く、講習で、団郁馬の名前があった…
これは、一体、どういうことか?
ただ、わかっていることは、ある…
共通していることは、ある…
それは、あのユリコが、接した人物は、皆、北東家と関係がある…
団郁馬の北東家と関係がある…
それゆえ、皆、共通するのは、敗者…
皆、負け組だということだ…
皆、伸明に負けたということだ…
勝ち組は、伸明…
そして、私や、ナオキ…
伸明と親しい、私や、ナオキ…
伸明の側にいる、私やナオキだ…
が、
その勝ち組のナオキは、会社を売り、五井に身売りを迫られている…
勝ち組の伸明の側にいるにも、かかわらず、だ?
これは、一体、どういうこと?
わからない…
さっぱり、わからない…
が、
いずれにしても、伸明に会えば、わかる…
このナオキが、言ったように、伸明は、私に会いたがっている…
なぜ、会いたがっているのかは、わからない…
もしかして、私を利用したから?
団郁馬との対決で、私を利用したから?
そうも、考えられる…
そして、もし、そう考えれば、納得する…
なにに、納得するのか?
それは、団郁馬が、偶然を装って、私に会ったこと…
コンビニで、私に会ったことだ…
私は、それまで、団郁馬と面識が、なかった…
あのとき、初めて、会った…
しかも、そのときは、団郁馬だとは、気付かなかった…
団郁馬の顔を知らなかったからだ…
この後、マミさんに、教えてもらって、初めて知った…
いずれにしろ、あのとき、団郁馬と、会ったのが、初めて…
初めてだった…
そして、なぜ、会ったのか、考えた…
団郁馬の気持ちになって、考えた…
それは、おそらく、自身の敗北が、決まったから…
伸明に敗北したのが、決定的になったからでは、ないだろうか?
違うだろうか?
私は、考えた…
まあ、いずれに、しても、答えは出る…
伸明に会えば、答えが出る…
そう、思った…
そして、私が、そう思っていると、ナオキが、
「…そう言えば、綾乃さん、今日は、昼間から、寝ていたけれど、なにか、あったの?…」
と、聞いた…
私が、忘れていたことを、聞いた…
私は、ビックリしたが、すぐに、
「…昼間、倒れたのよ…」
と、正直に、言った…
「…倒れた? どこで?…」
「…自宅で…今日、昼間、五井記念病院に行って、マミさんと、会ったの…それで、自宅に帰って来たら、突然、カラダが、動かなくなって…」
「…どうして、綾乃さん、五井記念病院に行ったの?…」
「…諏訪野和子さん、彼女が、本当に、五井記念病院に入院しているか、どうか、知りたかったの? 連絡したって、外部の人間には、教えてくれないでしょ? だから、長谷川センセイに会って、長谷川センセイに、本当に、和子さんが、五井記念病院に入院しているか、確かめたかったのよ…長谷川センセイは、関係者だから、調べられると、思って…」
「…なるほど…」
「…それで、行ったら、長谷川センセイは、退職していて、私と同じく、和子さんをお見舞いにきた、マミさんと会ったわけ…」
「…そうなんだ…」
「…そうよ…」
言いながら、違和感を感じた…
もしかして、私が、和子さんの見合いに行ったから、マミさんは、私に会った?
ホントは、あの五井の女帝が、入院していないのを、知っていた?
だから、私に会いに行かれたら、困る?
それゆえ、偶然を装って、私に会った?
あるいは、ホントは、今も入院していて、私に和子さんと、合わせたくなかった?
さまざまな、思いが、私に中に浮かんだ…
心の中を駆け巡った…




