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寿綾乃という女 第4部  作者: トモサン


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163/225

寿綾乃という女 第4部 163

 しかし、それは、伸明が、したのだろうか?


 伸明が、すべて、決断したのだろうか?


 謎が、残る…


 思いっきり、謎が、残る…


 それゆえ、私は、


 「…それは、伸明さんが、ひとりで、したの?…」


 と、ナオキに、聞いた…


 ずばり、聞いた…


 ナオキは。即座に、


 「…それは、ないだろう…」


 と、答えた…


 「…当然、諏訪野さんの周りには、ブレーンが、大勢いるだろう…それに、今、五井記念病院に入院している、五井の女帝を筆頭に、一族の中でも、諏訪野さんを支える人間が、いるはずだ…」


 「…でも、伸明さんに、そんな親しい一族のひとは、妹のマミさんを除けば、いないと、思うわ…」


 「…どうして、綾乃さんに、わかるの?…」


 「…だって、ナオキも知っているように、私は、伸明さんの見合いの席に、招かれたけれど、伸明さんの身内は、マミさん以外、いなかったわ…」


 「…それは、きっと、見せないだけだよ…」


 「…見せないだけ?…」


 「…ポーカーじゃないけれども、自分の手の内を、相手に見せるバカは、いないでしょ?…」


 「…」


 「…諏訪野さんだって、ボクや、綾乃さんに、見せていないことは、いっぱいあると、思う…」


 「…でも、伸明さんの縁談に出席した、伸明さんと、親しいのは、私と、マミさんだけで…」


 「…綾乃さんに、そう見せたかっただけなんじゃ…」


 「…私に、そう、見せたかった?…」


 「…だって、そんな大事な席に、マミさんと、綾乃さんだけ、招かれるのは、変でしょ? だから、そう、見せかけただけ…」


 「…」


 「…でしょ?…」


 ナオキに、そう言われると、ぐうの音も出なかった…


 たしかに、そう言われれば、おかし過ぎる…


 あの縁談に招かれた人数が、少なすぎる…


 「…もしかしたら、その縁談自体が、お芝居だったのかも?…」


 「…えっ? お芝居?…」


 「…綾乃さんを騙すお芝居だったのかも…」


 ナオキが、言った…


 これまで、考えたことのないことを、言った…


 これまで、私が、思っても、みないことを、言った…


 私は、唖然とすると共に、混乱した…


 文字通り、混乱した…


 それならば、これまで、私が見た、伸明は、なに?


 これまで、私が、接してきた、伸明は、なに?


 そう、思った…


 心の底から、そう、思った…


 そして、気付いた…


 遅まきながら、気付いた…


 以前、このナオキが、五井一族の娘と結婚するという情報が、流れた…


 同時に、伸明もまた、五井一族の娘と結婚するという情報が、流れた…


 東都テレビで、流れた…


 私は、あのとき、あの情報は、団郁馬が、仕掛けたと、思っていた…


 五井北東家の団郁馬が、自ら、所有する、東都テレビを使って、二人の結婚の情報を流したと、思っていた…


 だが、違うとしたら?


 その情報を流したのは、伸明本人だとしたら?


 これまで、考えたことのないことを、考えた…


 そして、そう、考えると、納得する…


 なにに、納得するのか?


 それは、このナオキが、あのハルカと、結婚会見をしたこと…


 アレは、伸明に頼まれ、わざと、団郁馬の仕掛けた罠に乗ったように、見せかけたと、思っていた…


 団郁馬が流した、このナオキが、五井一族の娘と、結婚したという情報…


 その報道に、乗ったように、見せかけたと、思った…


 団郁馬を騙すために、その報道に、乗ったように、見せかけたと、思った…


 それゆえ、ウソをホントに、見せかけたと、思った…


 が、


 それは、すべて、ウソ…


 それを、仕掛けたのは、伸明としたら?


 五井家の当主だとしたら?


 納得する…


 実に、納得する…


 考えたくはないが、辻褄が合う…


 それが、一番、辻褄が合う…


 だが、だとしたら、あの見合いは、一体?


 私を騙すため?


 団郁馬を騙すため?


 そうかも、しれない…


 そう、考えるのが、自然かも、しれない…


 だが、だとしたら、マミさんは?

 

 マミさんは、どこまで、知っているのだろうか?


 伸明の仕掛けた、このお芝居を、どこまで、知っているのだろうか?


 疑問が、残る…


 実に、疑問が、残る…


 マミさんも、共犯者?


 その可能性が、高い…


 私は、マミさんと、仲がいい…


 マミさんと、気が合う…


 しかしながら、マミさんは、五井一族…


 仮に、私と五井一族のどっちを取るかと、言われれば、迷いなく、五井一族を取るだろう…


 当たり前のことだ…


 私に味方は、しないだろう…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 そして、伸明の狙いは?


 もしかしたら、伸明は、本気で、あのハルカと、このナオキを結婚させたいのかも、しれない…


 伸明と、このナオキは、仲がいい…


 だから、このナオキが、あのハルカと、結婚すれば、このナオキも、五井一族となる…


 五井一族のはしくれとなる…


 あるいは、そうすることで、このナオキを取り込める…


 さっき、このナオキは、言った…


 FK興産と五井グループ傘下の情報関連企業、数社を合わせて、合併させる…


 そして、その社長に、このナオキを就任させると、言った…


 そのために、このナオキを、あのハルカと、結婚させる…


 そうすることで、このナオキを、言葉は、悪いが、手なずけることが、できる…


 篭絡できるからだ…


 私は、そう、思った…


 私は、そう、考えた…


 そして、そう、考えて、目の前のナオキを見た…


 ナオキも、また、深刻な表情で、悩んでいた…


 実に、深刻な表情で、悩んでいた…


 私は、それに、気付いた…


 遅まきながら、気付いた…


 「…どうしたの? ナオキ?…」


 あらためて、聞いた…


 ナオキは、悩むのは、わかるが、深刻すぎる気が、したのだ…


 私が、そう、思っていると、


 「…諏訪野さんの、狙いは、もしかしたら、綾乃さんなのかも?…」


 と、ナオキが、言った…


 実に、思いがけないことを、言った…


 実に、これまで、考えたことのないことを、言った…


 私は、それを、聞いて、思わず、吹き出した…


 あまりにも、バカげているからだ…


 だから、


 「…ナオキ…なにを、バカなことを、言っているの?…」


 と、ナオキに言った…


 ナオキを叱った…


 「…なにを、バカなことを、言っているの!…」


 と、叱った…


 が、


 ナオキは、反応しなかった…


 「…バカなことじゃないよ…綾乃さん…」


 とでも、いつもは、言いところだが、言わなかった…


 黙ったまま、缶ビールを握りしめていた…


 そして、ナオキが、意外な話をした…


 意外な話というのは、伊豆に軟禁されていたときのことを、語り出したからだ…


 「…綾乃さん、ボクが、伊豆に、幽閉されていたときのことを、覚えている?…」


 「…もちろん、覚えているわ…忘れるわけ、ないじゃない…」


 「…あのとき、ボクが、なにを、考えていたか、わかる?…」


 「…それは、わからないわ…私は、ナオキじゃ、ないもの…」


 「…あのとき、ボクが、思ったのは、ただ、ひとつ…」


 「…なにが、ただ、ひとつなの?…」


 「…巻き込まれたってこと…」


 「…巻き込まれた? なんに、巻き込まれたの?…」


 「…どこかの、争い…どこかの、権力争い…」


 「…どうして、そう思うの?…」


 「…FK興産に、そこまでの争いは、ない…派閥はあるけれど、そこまでの、権力争いは、ない…」


 「…」


 「…だから、巻き込まれたと、思った…五井の権力争いに、巻き込まれたと、思った…」


 「…どうして、五井の権力争いだと、わかるの? FK興産内部の権力争いかも、しれないじゃない…」


 「…FK興産で、そこまでする人間は、いないよ…」


 「…」


 「…それに、ボクが、幽閉された場所は、伊豆の別荘…しかも、伊豆の奥深い場所…あんなところに、豪華な別荘を構えるなんて、普通に考えれば、昔からの金持ちしか、考えられない…今、成り上がった新興の金持ちは、もっと、見栄を張る…」


 「…見栄を張る? どう、張るの?…」


 「…もっと、目立つ場所に、別荘を構える…一般のひとに、見せたくて…まあ、成り上がりものの見栄だね…」


 「…」


 「…だけど、あの別荘は、全然、そんな感じじゃ、なかったし、なにしろ、建物が古かった…」


 「…別荘が、古かったってこと…」


 「…そうだ…」


 「…で、それが、どうして、五井のだと、わかったの?…」


 「…他に、金持ちは、知らないからだよ…」


 「…」


 「…あんな伊豆の山奥に、別荘を持っている…しかも、古い、歴史がある…昨日、今日、建てたものじゃない…」


 「…でも、いくら、古くても、持ち主が、五井だとは、限らないでしょ? それは、昔は、五井の別荘だったけれども、今は、別のひとの手に渡ったかも、しれないじゃない…」


 「…それは、ないよ…」


 「…どうして、そう、言い切れるの?…」


 「…今も言ったように、今の新興の金持ちは、あんな山奥の別荘は、買わない…目立てないからね…」


 「…」


 「…だから、ボクは、幽閉されて、考えた…この別荘の持ち主は、たぶん、昔からの金持ちだとね…」


 「…それで、五井の一族の誰かだと、気付いたんだ?…」


 「…そう…綾乃さんの言う通りだ…」


 ナオキが、言った…


 これまで、私が、聞いたことのないことを、聞いた…


 そして、そう、考えると、納得する…


 ナオキの説明が、納得する…


 FK興産の社長を幽閉した…


 しかし、幽閉と言っても、それは、形だけ…


 それは、言葉だけ…


 ナオキは、伊豆の山奥の別荘に、軟禁されたと、言っても、普通に接待の女のコたちと、釣りやバーベキューをして、楽しんでいたと、言った…


 ただ、ケータイを取り上げられ、外部と連絡を取れないようにしただけ…


 クルマも、ケータイもない…


 だから、そこに、閉じ込められただけ…


 ケータイの電波も届かない地域だと、言っていたが、もし、万が一、ケータイが、繋がったら、困るから、ケータイを取り上げたのだろう…


 そして、ナオキを外界から、遮断した…


 その陰で、おそらく、権力闘争が、始まった…


 五井本家の伸明と、五井北東家の団郁馬の権力争いが、始まった…


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