寿綾乃という女 第4部 158
しかし、
まさか?
まさか、ありえなさすぎる…
あのハルカが、まったくの他人…
まったくの他人のハルカを、あの長谷川センセイは、自分の妹として、西家夫妻に、紹介した?
いくらなんでも、ありえなさすぎる…
そう、思った…
そう、思ったのだ…
そして、私が、そう思っていると、
「…あの長谷川センセイが、団郁馬と、繋がっていたとしたら、団郁馬の指示で、長谷川センセイは、西家の叔父様に、自分には、妹がいるって、言ったのかも、しれない…」
と、意味深に言った…
「…どういうことですか?…」
「…だって、寿さん、もし、あのハルカさんが、長谷川センセイの妹でも、なんでもないとしたら、それは、いくらなんでも、西家の叔父様に、長谷川センセイも、そんなウソ、言えないでしょ?…」
「…」
「…でも、団郁馬の指示なら、あり得る…誰かに、こうしろと、指示されたのなら、ありえる…」
「…」
「…私が、こんなことを、言うのも、なんだけれど、あの西家の叔父様は、子供のときから、知っているのよ…」
「…えっ? 知っている?…」
「…そう、知っている…でも、団郁馬のことは、知らない…っていうか、詳しくは、ない…」
「…どうして、ですか?…」
「…要するに、一族よ…五井一族…」
「…一族…」
「…五井は、本家と、東西南北の四つの分家が、主流…なにしろ、株の配分が、違う…本家が、30%、他の四つの分家が、それぞれ、10%…それで、全体の70%…五井グループの持ち株会社、五井ホールディングスの株の70%を所有している…他の分家は、30%…五井十三家といっても、残りの8家は、30%の株を8家で、分け合っているに過ぎない…だから、格差がある…」
「…」
「…だから、立場の違いも、あって、東西南北の4家のひとたちとは、昔から、定期的に会う機会が、あったけれど、他の8家との交流は、ほとんどない…あるのは、一族の法事とか…」
「…法事?…」
「…もちろん、法事といっても、先祖の法事が、主流…あとは、一族の誰それが、亡くなったとか…結婚したとか…そんなときにしか、会わない…」
「…」
「…だから、西家の叔父様は、どんなひとか、知っているけれども、団郁馬のことは、詳しくは、知らない…」
「…知らない…だったら、マミさんは、どうして、団郁馬さんと、父の建造さんの確執を知っていたんですか?…」
「…それは、身内よ…」
「…身内?…」
「…私にも、仲がいい、一族の身内がいるから…」
マミさんが、さらりと、言った…
…そういうことか!…
あらためて、思った…
このマミさんは、あの西家夫妻を、子供の頃から、知っている…
だから、あの夫妻が、伸明を騙すはずはない…
あのハルカを、西家の血を引く娘でも、なんでもないのに、ウソを言って、伸明と見合いをさせるわけはない…
そう、信じていると、いうことだ…
その一方で、団郁馬のことは、油断のならない人物だと、思っている…
それは、周囲の評価…
マミさんと親しい、周囲の評価が、そうだからだ…
私は、そう、見た…
私は、そう、考えた…
そして、マミさんが、
「…いずれにしても、団郁馬は、伸明さんに、白旗を上げた…東都新聞の株の20%を本家に譲った…」
と、告げた…
「…だから、もう、戦いは、終わったのかも、しれない…」
「…」
「…でも、謎が、残っている…どうして、団郁馬が、伸明さんに、屈したのかも、そうだけれども、ハルカさんのことも、そう…ハルカさんが、ホントに、長谷川センセイの妹なのか? その謎も残っている…」
マミさんが、まとめた…
謎をまとめた…
解き明かされない謎をまとめた…
そして、マミさんが、
「…そんなことより、アイスコーヒーを飲もう…長話が過ぎて、すっかり、氷が、溶けちゃった…」
と、笑った…
たしかに、マミさんの言う通り…
長話が、過ぎて、すっかり、アイスコーヒーの中の氷が、溶けてしまった…
私は、それを、見て、
「…でも、これで、氷が、溶けるのを、待つ必要が、なくなりましたよ…」
と、笑った…
「…この方が、手間が省けて、よかったです…」
と、私が、言うと、マミさんが、
「…寿さんって、ホント、ポジティブ…」
と、笑った…
「…どんなときも、受け入れる…前向きに捉える…」
私は、どう答えて、いいか、わからなかったので、なにも、言わなかった…
ただ、ニコニコと、笑って、ごまかした…
結局、マミさんと、食事をして、それだけで、家に、戻った…
マミさんは、当然のことながら、クルマで、来ていた…
愛車の真っ赤なフェラーリで、来ていた…
愛車を直接、見ては、いないが、たぶん、来ていた…
それは、マミさんが、
「…帰ろう…」
と、言って、レストランを出たときに、私を送ると言って、フェラーリのキーを見せたから、わかった…
「…寿さん、家まで、送るわ…」
と、マミさんは、提案したが、私は、遠慮した…
マミさんが、実は、他に用事があるようなことを、さっきの会話で、ほのめかしたからだ…
だから、
「…大丈夫です…」
と、私は、答えた…
「…歩いて、返ります…電車で、帰ります…」
「…でも、寿さんの家まで、遠いんじゃ…」
「…足が、ありますよ…健康のためには、自分の足で、歩いた方が、いいんです…」
私が、笑いながら、言うと、マミさんが、
「…そう…」
と、答えて、それ以上は、言わなかった…
それゆえ、私とマミさんは、五井記念病院の玄関の出入り口まで、いっしょに、歩いたが、出入り口を出た時点で、別れた…
マミさんは、
「…じゃ、寿さん、また…」
と、言い、私は、
「…ハイ…今日は、ありがとうございました…」
と、言って、別れた…
歩いて帰る私と、駐車場に向かう、マミさんは、行く場所が、違うからだ…
そして、私は、ふと、考えた…
なぜ、マミさんは、この病院に来るのに、わざわざ、フェラーリで、来たのか、考えた…
マミさんは、見栄っ張りでも、なんでもない…
それが、なぜ、フェラーリで、やって来たのか、考えた…
それは、たぶん、五井一族であることを、アピールする狙いだろうと、気付いた…
マミさんは、愛人の子供…
五井家先代当主の建造が、外に作った娘…
それゆえ、正式に、五井で、認められていない…
だから、自分も、五井一族であることを、アピールするため…
そのために、わざと、病院にフェラーリで、やって来た…
裏返せば、これは、マミさんのコンプレックス…
コンプレックスの裏返しに他ならない…
私は、思った…
私は、考えた…
それゆえ、マミさんも、大変だなと、思った…
知らないひとは、マミさんの乗る、真っ赤なフェラーリを見て、
「…凄いな…お金持ちだな…」
と、思うのが、普通だが、そのお金持ちにも、悩みがある…
あるいは、コンプレックスがある…
マミさんを、見れば、それが、わかる…
また、マミさんは、会社を経営しているが、それは、マミさんが、婚外子だったから…
五井の先代当主、建造が、外で、作った子供だから…
それゆえ、もし、マミさんを、五井グループで、雇えば、噂になりかねない…
アレは、五井ホールディングスの社長の隠し子だと、噂になりかねない…
だから、あえて、五井グループで、面倒を見なかった…
五井グループに、就職させなかった…
ひとの口に、戸は立てられない…
もし、マミさんが、五井グループのどこかの企業に、就職して、マミさんが、建造の隠し子であることが、バレれば、マミさんが、傷付くからだ…
だから、あえて、五井グループの会社に、就職させなかった…
そして、マミさん、自身の性格…
マミさんは、独立独歩というか…
ひとの下に、ついて、会社に、務めるより、自分で、事業をしたほうが、性格的に、合う…
それが、わかっているから、建造は、マミさんに、資金を与え、会社を作らせた…
自分の好きなことを、やれと、言って、会社を作らせた…
その方が、マミさんに、合うからだ…
マミさんは、小柄だが、リーダーシップがある…
それゆえ、会社に勤めるより、自分で、会社を興す方が、性に合う…
マミさんは、芸能人で、言えば、高橋みなみさんに、近い…
小柄だが、エネルギッシュ…
誰よりも、エネルギッシュだ…
そして、そんなことを、思うと、マミさんの父である、建造を思い出した…
五井家先代当主の建造を思い出した…
今、思えば、建造は、マミさんに、似ていた…
なにが、似ていたのか?
それは、カラダの大きさ…
建造も、カラダは、大きくなかった…
滅茶苦茶、小さくは、ないが、どちらかと言えば、小柄な方だった…
そして、伸明…
現五井家当主の伸明…
伸明は、長身…
長身のイケメンだった…
また、伸明の弟の秀樹は、建造と似た小柄な男だった…
それゆえ、冷静に考えれば、伸明は、建造の子供と、言っても、怪しい…
傍から、見れば、血が繋がっていないことが、見え見えだ…
それを、伸明は、気付かなかったのだろうか?
ふと、思った…
いや、
父だけでは、ない…
母も、いる…
伸明の母も、いる…
伸明の母の昭子も、いる…
昭子は、小柄でも、大柄でも、なかった…
まったくの平均的な身長…
たぶん、160㎝ぐらいだろうか?
私と同じくらい…
だからだろうか?
だから、伸明は、自分が、父の建造と血が繋がってないことに、気付かなかったのだろうか?
父親が、小柄でも、母親が、平均的な身長なら、背は、高くても、おかしくはない…
なにより、身長も、そうだが、外見は、誰もが、遺伝による…
両親が、小柄でも、父方や、母方の祖父母が、大きかったり、あるいは、親戚のおじさんや、おばさんが、大きかったりすれば、自分が、父に、似ていなくても、驚かない…
親戚に、やはり、自分と同じように、背の高い、ひとが、いるからだ…
そう、考えれば、伸明が、建造と自分が、似ていないことに、疑問を抱かなかったことに、納得がいく…
実に、納得が、いくのだ…
今、別れたばかりのマミさんのことから、マミさんの実父の建造を思い出し、それから、さらに、伸明のことを、思った…
まるで、植物連鎖のように、思った(笑)…




